相転移P @phasetr のブログ.ニコニコやYoutubeに投稿した動画の紹介をしたり,Twitterでのまとめをしたり.専門は数学・数理物理:構成的場の量子論,厳密統計力学.
2013年5月31日金曜日
東大の古田幹雄先生による『大学院で幾何の勉強を目指す学部生の方たちへ』という PDF を発見したので共有しておきたい
東大の古田幹雄先生による『大学院で幾何の勉強を目指す学部生の方たちへ』という PDF を発見したので共有しておきたい. これ だ. 色々なところで再三言っているように, 幾何がさっぱりなのは恥ずかしい限りなので, 私も参考にしたい.
他にも Tychonoff の定理の二つの直接証明, Bernsteinの定理, Zornの補題, 濃度の演算, 正規、パラコンパクトHausdorff、1の分割 なども PDF があった. 興味がある向きは読んでみるといい.
ちなみに東大数理の教官というご多分に漏れず, 古田先生も (業績的な意味で) 凶悪な教官だ. 4 次元多様体での 11/8 予想 というのがあるのだが, そこでも非常に顕著な仕事をしているようだ. ここ で紹介されているが, 10/8 不等式というのがある. 正直私は評価能力ないのだが, 『数学の50年』で松本先生が滑らかな 4 次元多様体での 3 大定理の 1 つと言っている.
11/8 予想は今の 4 次元トポロジーでの 2 大問題とのこと. そこに関して現在最強の結果を持つのが古田先生だ. その他にもゲージ理論に関していい仕事がたくさんあると聞いている.
2013年5月30日木曜日
作用素環と作用素論:スペクトル解析への応用
Evabow さんとちょっとしたやりとりをしたのでせっかくなので記録しておく. 私のツイートは これ だ.
@Evabow1 @bread_crust http://arxiv.org/abs/0911.5126 など, Schrodingerのスペクトル解析に作用素環を使うというような話はあります. 微分方程式でも調和解析でもなく作用素論の方面なので大分ずれはしますけれどもはじまる部分はもっとあとの方だが, 面白い内容なので 元ツイート からはじめる.
本ゼミの前提知識に作用素環も増えた。
@Evabow1 ヤバいのでは・・・
@Evabow1 !?!?
@Manaka0501 理解を深めるには必要になった。まだ初歩的なとこしか使わないが
@bread_crust Banach*環のいい本教えてください!!
@Evabow1 頑張ってください!
@Evabow1 何が知りたいの?
@bread_crust Banach*環、C*環と表現論つながりのことが知りたいです。
@Evabow1 それは群C*環の表現のことを言ってるの?
@bread_crust そうです。
@Evabow1 微分方程式でそんなん使うのか…
@bread_crust 微分方程式←調和解析↔表現論↔作用素環 みたいな感じだと思っています。
@Evabow1 ちなみに、それは一般論を知りたいの?有限群を知りたいの?Lie群を知りたいの?無限次元Lie群を知りたいの?
@Evabow1 えーっと他にもあるのかな…
@Evabow1 なんつーか群C*環で俺が知ってるのって、今読んでるDavidsonしかないんだけど(本当はもっとある)、 それって本当に今必要なのかなって感じはある。 もちろんC*のことをある程度知ってるなら十分に読める。
@Evabow1 そして非有界作用素のことを言ってるなら竹崎でも読めばいいんじゃないかと思うんだけど、それこそ本当に必要なの?
@Evabow1 というわけでDavidsonと竹崎を読んで俺に教えてください
@bread_crust 3時前に寝てしまって返信が遅れました。 C*環まわりの表現論の一般論と非有界作用素が知りたいです。 作用素環が本当に必要なのかどうか現時点ではよく分かりませんが、 微分方程式を別の角度から見ようと思ったときにどこかで使うと思うので
@bread_crust 何かと忙しい院はなく学部のうちに手がつけられる所はやっておきたいなと思っています。 いろいろ助言をしてくださってありがとうございました。
@Evabow1 ごめん、C*環のまわりの表現論の一般論ってなにを指してるのかがわからないんだけど、 単に作用素解析とかGNSを指してるわけではなくて、群の(ユニタリとかの)表現のことでいいんだよね?
@bread_crust 群の表現です、すみません。
@Evabow1 @bread_crust http://arxiv.org/abs/0911.5126 など,Schrodingerのスペクトル解析に作用素環を使うというような話はあります. 微分方程式でも調和解析でもなく作用素論の方面なので大分ずれはしますけれども
@phasetr ありがとうございます!数理物理方面も少し興味があるので、挑戦してみたいと思います。作用素環専攻だったのに普通の作用素環の常識的なところも知らない自分, かなりまずいという意識だけはある. 最近だとどんな本で勉強するのだろう. 最近も何も, 数理物理に特化した本しか読んだことないので, 昔の本もろくに知らないが.
2013年5月29日水曜日
東大数理の小林先生があまりに格好よかったのでついでにいくつか話題を紹介する
小林俊行先生に関するスーパー格好いい紹介記事が Twitter で流れてきて深い感銘を受けた. ツイート自体は これ だ.
まずここからして格好いい.
あと, こういうのこそ大学がするべきで, しかもおそらく大学にしかできない国際関係の構築だと思う. 他の国でもあるのだろうが, 例えばドイツでは留学生には自分の国を好きになってもらうことを第一にして, とにかくおもてなしをする, と聞いたことがある. 留学生は基本的にその国のエリートだろう. エリートに良く思ってもらえれば当然それだけの見返りがある. 味方を増やすのは大事だ.
ちなみに小林先生は学生時代から頭角を表していた大概な化け物であり, しかも教育熱心でもあったことは『数学まなびはじめ 第 2 集』から分かる.
凄まじい記述を 1 つ抜き出しておこう. 学部 4 年のときのセミナーの様子だ. 以下に出る大島先生は大島利雄先生で, 小林先生の指導教官である.
また, 小林先生が数学会の章を取ったときの大島先生の業績紹介の文章だったような気がするが, 小林先生の仕事は非常に斬新で, はじめは理解できる者が非常に少ないらしい. しかしいったん理解されるとすごい勢いで広まっていく, みたいなことが書いてあった記憶がある. 小林先生レベルに明快に議論できる人ですらうまく伝わりきらない斬新さ, 恐ろしい.
あとこれも誰かに聞いたのだが, 事務的な能力も極めて高いらしい. 小林先生, 今の所属は東大だが, しばらく京都の RIMS にいた. そのとき, 毎週だか毎月のように東京に出張してきて学会関連の仕事などを精力的にこなしていたと聞いた. 超人だと思う.
あと, 大島先生の逸話も折角なので紹介しておこう. 大島先生, 業績についてはもちろん申し分ないのだが, 講義はあまりうまくないようだ. 東大の人に聞いたところによると, 同じく東大に息子さんがいたようなのだが, この息子さんもまた優秀でしかも非常に明快な説明ができるらしい. 「~君 (息子さんの名前:名前忘れた), お父様と講義代わってほしい」と言っていたのを思い出す.
あと無茶苦茶な話として次のような話も聞いた. 大島先生は東大数理の研究科長をしていたのだが, 研究科長というのはもちろん忙しく, 色々な仕事が増えるわけで, 普通は数学の仕事量 (とりあえず論文数) が減るだろう. ただ, 大島先生は研究科長のときにむしろ論文数増えたらしい. 大島先生から直接聞いたわけではないのだが, その理由が凄まじかった:時間がなくなったのでライブラリを作らなくなって, その分速くなった.
大島先生は TeX の dviout を開発しているくらいなので, プログラミングもできる. 研究するときにはまずライブラリを作るらしいのだが, 時間がないのでこれを省いたそうだ. その分速く結果が出るようになって, 論文数が増えたとのこと. 聞いた話なので多少誇張があるのかもしれないが, 事実の部分があるのは間違いない.
師弟揃って凄まじい.
あと, これ によるとどうやらこのサルマさんによる本が出るらしい. 買うしかない.
「心に残る最高の先生」 http://faculty.ms.u-tokyo.ac.jp/~surinews/news2006-2.html#essay小林先生の紹介記事自体は これ だ. 文章がバングラディッシュの悲惨な様子から始まるためそこで精神的にくるものがあるが, とりあえずそれはおいておこう.
まずここからして格好いい.
そこで今度は数学科の事務室へ連れていってもらい、そこにいた男性に声をかけた。 その人はピンク色のシャツを着た若い男性で、大学 4 年生あたりか、その事務室の新米スタッフのように思われた。 夫はおとなしく 待っていた。 しばらくすると若い男性が笑顔で夫の方を向き、英語で「どんなご用件ですか?」と話しかけてくれた。 私の夫は、数学科の先生に会いたい旨を伝えた。 するとなんとその若い男性が「オーケー。私でよかったらお話ください」といったので、 私の夫は驚き、「あなたが先生?」と尋ねた。 彼は「はい。小林俊行と申します。」と答えた。 夫はそのとき、自分はからかわれているんじゃないかと思って心配になり、体が震えてきてしまったそうである。 しかし私の夫はなんとか落ち着きはらって、小林先生に自己紹介をし、何のために東大に来たかを告げた。 すると先生は、当然のように然るべき手続きをはじめられ、私を東大の修士課程に留学できるようにしてくださったのである。何でこんなに格好いいのか.
講義中の小林先生は、たとえば問題の解き方にしても、説明にしても、 数学の問題を出すのでも、それこそ何をやっても素晴らしくて、 その素晴らしさがまた、ほかのどの教授とも似ていなかった。 小林先生は、心底学生を信じていてくださっていた。 先生の異常なまでの忍耐づよさと、学生に対する海のような懐の深さを私は決して忘れないと思う。 先生はどんな学生のためにも、その学生が必要なだけ時間をさくようにされ、 学生が数学の問題に悩んでいると、解けるまで一緒に考えてくださった。 私は先生が学生にプレッシャーを与えたり、自分の大学院生に問題を解くよう強制したりするのを見たことがない。 先生は学生にいつもこうおっしゃった。 「数学の問題を解くためには「ゆっくり」「しっかりと」「おちついて」が大事です。」と。 そして「数学の問題を解いたり、考えるのに決して急いではいけない」とも。 先生の教えはシンプルそのものだけれど、私には普遍的なことに思われた。 数学のほかにも先生から学んだことはたくさんある。 時がすぎたら、私の記憶の中の先生の姿も薄れることがあるのかもしれない。 しかし私の心の中にいつも輝いている先生の言葉がある。それは「正直なのが一番」。 研究生活でも私生活でも常に実践するように、先生が私に授けてくださった言葉である。私も小林先生の講義を受けたことがあるが, 何も持たずに教室に現れ, 非常に明快な講義をしていた. 質問への応答も素晴らしく, 講義が終わると颯爽と去っていく. あれは真似したいと思ったものだ.
あと, こういうのこそ大学がするべきで, しかもおそらく大学にしかできない国際関係の構築だと思う. 他の国でもあるのだろうが, 例えばドイツでは留学生には自分の国を好きになってもらうことを第一にして, とにかくおもてなしをする, と聞いたことがある. 留学生は基本的にその国のエリートだろう. エリートに良く思ってもらえれば当然それだけの見返りがある. 味方を増やすのは大事だ.
ちなみに小林先生は学生時代から頭角を表していた大概な化け物であり, しかも教育熱心でもあったことは『数学まなびはじめ 第 2 集』から分かる.
凄まじい記述を 1 つ抜き出しておこう. 学部 4 年のときのセミナーの様子だ. 以下に出る大島先生は大島利雄先生で, 小林先生の指導教官である.
秋の第 1 回目のセミナーでは, ゲルファント流の積分幾何について, それまでに勉強したことを私なりにまとめて発表することにしました. 私が話をはじめてしばらくすると, 大島先生は「ちょっと待って」とおっしゃって部屋を出られ, 研究室からノートを持ってこられました. そして, 私の話をノートに取りながらきいてくださったのです. このとき私はとても感激し, 「よぉし, 頑張ろう」という気持になりました.学部 4 年の時点で大島先生がノートを取るようなセミナーができるとか, 化け物以外の何者でもない. 教官にノートを取らせるレベルのセミナーができる, というのは実際に指導教官にセミナーを見てもらったことがある者ならどれだけ凄いことか分かるはずだ.
また, 小林先生が数学会の章を取ったときの大島先生の業績紹介の文章だったような気がするが, 小林先生の仕事は非常に斬新で, はじめは理解できる者が非常に少ないらしい. しかしいったん理解されるとすごい勢いで広まっていく, みたいなことが書いてあった記憶がある. 小林先生レベルに明快に議論できる人ですらうまく伝わりきらない斬新さ, 恐ろしい.
あとこれも誰かに聞いたのだが, 事務的な能力も極めて高いらしい. 小林先生, 今の所属は東大だが, しばらく京都の RIMS にいた. そのとき, 毎週だか毎月のように東京に出張してきて学会関連の仕事などを精力的にこなしていたと聞いた. 超人だと思う.
あと, 大島先生の逸話も折角なので紹介しておこう. 大島先生, 業績についてはもちろん申し分ないのだが, 講義はあまりうまくないようだ. 東大の人に聞いたところによると, 同じく東大に息子さんがいたようなのだが, この息子さんもまた優秀でしかも非常に明快な説明ができるらしい. 「~君 (息子さんの名前:名前忘れた), お父様と講義代わってほしい」と言っていたのを思い出す.
あと無茶苦茶な話として次のような話も聞いた. 大島先生は東大数理の研究科長をしていたのだが, 研究科長というのはもちろん忙しく, 色々な仕事が増えるわけで, 普通は数学の仕事量 (とりあえず論文数) が減るだろう. ただ, 大島先生は研究科長のときにむしろ論文数増えたらしい. 大島先生から直接聞いたわけではないのだが, その理由が凄まじかった:時間がなくなったのでライブラリを作らなくなって, その分速くなった.
大島先生は TeX の dviout を開発しているくらいなので, プログラミングもできる. 研究するときにはまずライブラリを作るらしいのだが, 時間がないのでこれを省いたそうだ. その分速く結果が出るようになって, 論文数が増えたとのこと. 聞いた話なので多少誇張があるのかもしれないが, 事実の部分があるのは間違いない.
師弟揃って凄まじい.
あと, これ によるとどうやらこのサルマさんによる本が出るらしい. 買うしかない.
[2F] 7月発売予定 『日本で数学の博士をとるまで』ナスリン・サルマ 1800円(丸善出版) 科学者への道(特に数学研究)を志す全ての人に勇気と元気を与える本。 数学課で博士をとるまでのノウハウ、心得も知ることができる。
2013年5月28日火曜日
数学の院試での試問がどんな感じか知りたい向きへ:阪大の架空口頭試問が公開されていたので
阪大の情報基礎数学専攻が架空口頭試問を公開していた. 試みが面白かったので紹介しておこう. PDF は ここ (直接リンク) だ.
Twitter で見つけたので, そちらも紹介しておく. 公開の背景が分かる. これ だ.
非数学科の学生の場合「数学の本の読み方」がわかってない場合がある。 数学科以外から院試を受ける人も最近は多く、優秀な学生も少なくないが、 定義を理解した上で、定理の証明をしっかり追う訓練ができてない場合は、 修士でたいへん苦労する。 筆記はできても口頭試問がボロボロになることが多い。
@Paul_Painleve 数学科の学生ならできてるのかと問われると定かではないが、 さすがに3年の演習や4年セミナーである程度は訓練される。 数学系大学院の院試口頭試問の雰囲気を知らない人には厳しいと思って http://www.ist.osaka-u.ac.jp/japanese/mat/koutoushimon.pdf まで用意してある。
@cocycle 実は、架空と言うより過去問に近いのですが… 過去の質問をずらずら並べたら聞くことがなくなるという意見と、 このさい「質問リスト」みたいなのをどっさり並べて勉強してもらおう、という意見もあります。私も非数学科 (物理学科) だったが, 試問にはこう色々な思い出がある. 折角だから紹介しておこう. まず試問の始めに全微分の定義を聞かれた. 試験問題で全微分の問題があり, それの出来があまりにひどかったので, 教官陣が怒って全受験生に確認したらしいとかいう話を入学後に聞いた.
解析学専攻だったので, 関数解析で基本的な定理を挙げられるだけ挙げろ, というのもあったが, 思い出深いのはやはり Riemann-Lebesgue の定理の証明だ. 言明は一応言えたのだが「では証明できますか」と言われ, 少しやってぱっとは思いつかなかったので, 「すぐには分かりません」と正直に答えたところ「もう少し頑張ってみてください」と言われたため, 頑張って最後まで示した. (実際には証明は難しくない. ) その最中, 証明を試行錯誤していて駄目かと思って黒板を消したときに指導教官 (になる予定の教官) から「ああ……」みたいな声が出て, ああこれでいいのか, と思った. 大して時間は経っていないと思ったのだが, 終わったときに時計を見たら 1 時間経っていた. 証明以外の試問内容もあったとはいえ, おそらく証明に一番時間がかかっていたと思う. 体感的にはあっという間だったのだが.
終わったときには汗びっしょりだったので苦闘であったことが偲ばれる. よく試問は 5 分くらいで簡単に終わったという話があるが, 多分内部生で既に優秀であると分かっている学生はすぐ終わるのだろうと推測している. 試問で長時間かかったからと言って落ちるわけでもないので気にしすぎないでいい. どちらかというと, (外部受験で内部の事情がよく分からない場合) 入れてしまったた後に, レベルの違いに苦労することがあるかもしれないので, そちらを心配した方がいい.
私の場合は基本的な数学, 特に代数と幾何をほぼ全く知らなかった (今でも駄目) だったので, その辺で非常に苦労した. 研究では使わないから問題ないが, 日常会話や講義で知らないことがぽんと出てきて困る感じ.
1 回教科書を通して読んだだけ, というのが多いので結構まずい所が色々ある. 例えば 1 変数多項式の代数や Galois 理論は 1 度やっただけで全く身についていない. Galois は学部の頃, 自分の大学の数学科の講義にもぐって勉強もしたが, 使わないので結局身につかなかった. 作用素環でも Jones の理論は非可換 Galois 理論と言われることがあり, やはり基礎教養だ.
幾何に関しても一応多様体論の教科書は松本先生の本を 1 冊読んだが, 身についている気はしない.
困ったものだ.
2013年5月27日月曜日
竹崎先生の論文 Non-Commutative Integration を読んでみた
何回か非可換積分論に言及してきたが, 竹崎先生が論文を書いていた. この Non-Commutative Integration という論文だ. 竹崎先生から見てどう映っているのか気になったので軽く眺めてみた. 私の感想とともに内容を外観してみよう.
まずここでの「積分」が何かをきちんと考え直す必要がある. 積分は関数に対して適当な数を返す汎関数と思える. 作用素に対して適当な数を返す汎関数も積分と思って研究してみよう, というところが出発点だ.
「積分」を考えるのは正値関数 (作用素) だけとしている. 関数の場合と同じように作用素も正値作用素への分解があるので, それを前提とする. その上で次のような問題を考えよう:同じ積分値を返す 2 つの正値作用素はどういう関係にあるか.
可換な場合はほとんど何も言えず面白くないが, 非可換な場合, つまり作用素環上での議論にすると深い議論ができるようになる. 上記のような 2 つ作用素はお互いに同型な正値作用素列の可算和に分解できてしまう. はじめて知ったのでよく分からないが, これは非可換にいってはじめて積分の真の意味が分かる, と解釈するようだ. あともう 1 つ「可算和」で表現できることも大事. 非可算だと濃度まわりで解析的に話が面倒になり, ほとんど何もできなくなる. ふと竹崎先生が集中講義でポーランド空間まわりで「加算性のご利益」みたいなことを言っていたことを思い出したりもした.
2 節では weight の flow を復習する. weight は竹崎先生の集中講義で聞いたが, それ以外で扱ったことがない. 冨田-竹崎理論は von Neumann 環に必ず存在する weight に対して議論するのが一番一般的だが, 数理物理への応用上, \(\sigma\) -finite の場合だけで十分で, いつも私が使っているのはこちら. ただ最近は場の理論で赤外発散があるときの散乱理論で weight を使うことがあるようなので, これからは weight の場合の完全な理論も大事になっていく可能性はある. Weight と散乱ついてに興味がある向きは Buchholz-Summers の Scattering in Relativistic Quantum Field Theory: Fundamental Concepts and Tools を読んでみよう. こことの絡みで非可換積分論を見直すのも面白いかもしれない.
話がそれたので論文に戻ろう. 可換な場合から証明つきで議論してくれているようなので助かる. 証明の終わりの記号がハートマークなのが無駄にかわいい.
非可換な方に入ると早速非可換 \(L^p\) が出てくる. あまり勉強していないのではじめて知る話が多いのだが, \(L^2(\mathcal{M})\) の前双対が \(\mathcal{M}\) の標準形というのはちょっと驚き. ここで論文とは \(\mathcal{M}\) の字体を論文と変えているが, これは論文での字体は (竹崎先生の文章で) 良く見るのだが, 具体的にどのコマンドで出すのか分からなかったので上記の字体にした. 論文を読むときには注意してほしい.
3 節で積分の比較に入る. 相対モジュラーで考える, かなり本格的な話をする. 相対モジュラーの議論は相対エントロピーでも当然出てくるし, 数理物理としても平衡状態の摂動論でツールとして駆使するので結構大事なのだ. 平衡状態の摂動論に興味がある向きは J. Derezinski, V. Jaksic, and A. Pillet, PERTURBATION THEORY OF \(W^*\)-DYNAMICS, LIOUVILLEANS AND KMS-STATES, Rev. Math. Phys, 15, (2003), 447-489. を読んでみよう. 参考文献ページで簡単な論評もしておいたので参考にされたい.
本文に戻ろう. 3 節では汎関数の同値性やユニタリ共役の議論をする. \(\mathrm{Int} \mathcal{M}\) は von Neumann 環の分類理論でもよく出てくる馴染みの対象だ. 因子環の場合の Lemma 3.3 とかなかなか強烈:次のような命題だ.
定理 3.6 が本題の定理だ. 汎関数のノルムの比較と分解に関する性質の同値性が示される.
続く定理 3.7 と注意 3.8 がまた飛ばしている. 超忠実性という性質が定義される. 驚くのはこういう汎関数がある場合, \(\mathcal{M}\) が \(\mathrm{III}_1\) になることだ. ちなみに \(\mathrm{III}_1\) 型の環は物理でも大事な環なので, やはりそこへの応用もありそう.
4 節では可換な場合を議論する. 系 4.2 は普通に考えていたのではちょっと出てこないような感じの定理で, これは面白い. 長いのでここでは書かないが, 興味がある向きは論文を参照してほしい. 可換な場合で直接やるにはどう示せばいいのだろう. 結構面白い練習問題になる気がする.
5 節では汎関数の可換性というテーマになる. これもはじめて見たのであまりピンときていない.
6 節でまとめが入る. Kadison-Pedersen の結果との比較がされているが, やはり III 型環の議論ができるこの論文の議論はかなり強い結果のようだ. 超忠実な状態の存在問題は未解決なので, ちょっと皆やっておけ, という宿題が出て終わる.
やはり Lemma 3.3 が強烈なのだろう. ぱっと見でも驚く. 可換に落とした場合の系 4.2 も面白い. 結果を眺めただけでまだ証明はきちんと読んでいないので, 何とか時間を作って証明まで読み切りたい.
まずここでの「積分」が何かをきちんと考え直す必要がある. 積分は関数に対して適当な数を返す汎関数と思える. 作用素に対して適当な数を返す汎関数も積分と思って研究してみよう, というところが出発点だ.
「積分」を考えるのは正値関数 (作用素) だけとしている. 関数の場合と同じように作用素も正値作用素への分解があるので, それを前提とする. その上で次のような問題を考えよう:同じ積分値を返す 2 つの正値作用素はどういう関係にあるか.
可換な場合はほとんど何も言えず面白くないが, 非可換な場合, つまり作用素環上での議論にすると深い議論ができるようになる. 上記のような 2 つ作用素はお互いに同型な正値作用素列の可算和に分解できてしまう. はじめて知ったのでよく分からないが, これは非可換にいってはじめて積分の真の意味が分かる, と解釈するようだ. あともう 1 つ「可算和」で表現できることも大事. 非可算だと濃度まわりで解析的に話が面倒になり, ほとんど何もできなくなる. ふと竹崎先生が集中講義でポーランド空間まわりで「加算性のご利益」みたいなことを言っていたことを思い出したりもした.
2 節では weight の flow を復習する. weight は竹崎先生の集中講義で聞いたが, それ以外で扱ったことがない. 冨田-竹崎理論は von Neumann 環に必ず存在する weight に対して議論するのが一番一般的だが, 数理物理への応用上, \(\sigma\) -finite の場合だけで十分で, いつも私が使っているのはこちら. ただ最近は場の理論で赤外発散があるときの散乱理論で weight を使うことがあるようなので, これからは weight の場合の完全な理論も大事になっていく可能性はある. Weight と散乱ついてに興味がある向きは Buchholz-Summers の Scattering in Relativistic Quantum Field Theory: Fundamental Concepts and Tools を読んでみよう. こことの絡みで非可換積分論を見直すのも面白いかもしれない.
話がそれたので論文に戻ろう. 可換な場合から証明つきで議論してくれているようなので助かる. 証明の終わりの記号がハートマークなのが無駄にかわいい.
非可換な方に入ると早速非可換 \(L^p\) が出てくる. あまり勉強していないのではじめて知る話が多いのだが, \(L^2(\mathcal{M})\) の前双対が \(\mathcal{M}\) の標準形というのはちょっと驚き. ここで論文とは \(\mathcal{M}\) の字体を論文と変えているが, これは論文での字体は (竹崎先生の文章で) 良く見るのだが, 具体的にどのコマンドで出すのか分からなかったので上記の字体にした. 論文を読むときには注意してほしい.
3 節で積分の比較に入る. 相対モジュラーで考える, かなり本格的な話をする. 相対モジュラーの議論は相対エントロピーでも当然出てくるし, 数理物理としても平衡状態の摂動論でツールとして駆使するので結構大事なのだ. 平衡状態の摂動論に興味がある向きは J. Derezinski, V. Jaksic, and A. Pillet, PERTURBATION THEORY OF \(W^*\)-DYNAMICS, LIOUVILLEANS AND KMS-STATES, Rev. Math. Phys, 15, (2003), 447-489. を読んでみよう. 参考文献ページで簡単な論評もしておいたので参考にされたい.
本文に戻ろう. 3 節では汎関数の同値性やユニタリ共役の議論をする. \(\mathrm{Int} \mathcal{M}\) は von Neumann 環の分類理論でもよく出てくる馴染みの対象だ. 因子環の場合の Lemma 3.3 とかなかなか強烈:次のような命題だ.
\(\mathcal{M}\) を因子環とする. 0 でない正規正値汎関数のペア \(\psi\), \(\phi\) が次のようなペア \(\psi_1\), \(\phi_1\) を持つとする: \begin{align} 0 \neq \phi_1 \leq \phi, \quad 0 \neq \psi_1 \leq \psi, \quad \phi_1 \sim \psi_1. \end{align} 全ての 0 でない非忠実な正値汎関数 \(\omega\) がある 0 でない非忠実な正値汎関数 \(\omega_1\) を上からおさえるなら, 上の \(\phi_1\) と \(\psi_1\) はユニタリ共役に選べる. つまり \begin{align} \phi_1 \equiv \psi_1 \quad \mathrm{mod} \quad \mathrm{Int} (\mathcal{M}). \end{align}因子環というだけで全ての型で成り立つのはちょっとすごい.
定理 3.6 が本題の定理だ. 汎関数のノルムの比較と分解に関する性質の同値性が示される.
続く定理 3.7 と注意 3.8 がまた飛ばしている. 超忠実性という性質が定義される. 驚くのはこういう汎関数がある場合, \(\mathcal{M}\) が \(\mathrm{III}_1\) になることだ. ちなみに \(\mathrm{III}_1\) 型の環は物理でも大事な環なので, やはりそこへの応用もありそう.
4 節では可換な場合を議論する. 系 4.2 は普通に考えていたのではちょっと出てこないような感じの定理で, これは面白い. 長いのでここでは書かないが, 興味がある向きは論文を参照してほしい. 可換な場合で直接やるにはどう示せばいいのだろう. 結構面白い練習問題になる気がする.
5 節では汎関数の可換性というテーマになる. これもはじめて見たのであまりピンときていない.
6 節でまとめが入る. Kadison-Pedersen の結果との比較がされているが, やはり III 型環の議論ができるこの論文の議論はかなり強い結果のようだ. 超忠実な状態の存在問題は未解決なので, ちょっと皆やっておけ, という宿題が出て終わる.
やはり Lemma 3.3 が強烈なのだろう. ぱっと見でも驚く. 可換に落とした場合の系 4.2 も面白い. 結果を眺めただけでまだ証明はきちんと読んでいないので, 何とか時間を作って証明まで読み切りたい.
2013年5月26日日曜日
宇宙論のモデルの解の存在:諸科学・工学への数学の応用
詳しく聞かなかったのが失敗なのだが, 宇宙論をやっていた友人が次のようなことを言っていた.
この間, 先輩に読んでる論文について質問したら, 「その論文で出てるモデル, 解がないことが示されてるから読んでも意味ないよ」って言われて, 頑張って読んで損した.解が存在しない, というのがどういう意味で言っているのか, 解の非存在についてどういう議論をしているのかを聞きそびれたのだが, 何にしろ, 物理でも方程式というかモデルを立てたあと, そのモデルの価値について解の存在という観点から議論をすることがあるというのを聞いてちょっと驚いた.
これについて, 例えば下記のような本を書いていて, 東大での産業数学に関する取り組みで中心的な役割を果たしている山本先生などの話を思い出す. 儀我先生も同じような話をしていた.
その話というのは, 自然科学や工学の人達と数学が共同研究するときに解の存在の議論をする意味についてだ. 解の振る舞いを調べることが仕事という状況で, そもそも解が存在しないようなモデルは考えても意味がない. もっというなら解がないようなモデルはモデルの立て方自体が悪いと思える. 一旦モデルを立てたら, そのあとは基本的には数学の仕事になる. モデルの正当性について, 解の存在という観点からの研究も大事なのだ, という話をしていた.
私もその通りだと思うのだが, この考えはなかなか受け入れられないようだ. ただ, 儀我先生の話だったが Allen-Cahn 方程式で有名な Cahn (だったと思う) は工学者なのだが, 例外的にこうしたことについて非常に理解が深く, 数学の利用法として解の存在証明は決定的に大事だと擁護してくれていたという話を聞いた.
宇宙論の友人の話をふと思い出してこのようなこともついでに思い出した. Twitter でも TL に宇宙論とかその近辺の人がいるから今度聞いてみよう. あと, この辺の数学の話は関西すうがく徒のつどいでも話したい.
2013年5月25日土曜日
小澤先生のアロハ装の真相についての当人の発言動画を紹介しておきたい
先日, 京都の RIMS にいる小澤先生のアロハ装について TL の一部で話題になっていた. 当人がそれについて語っている動画があるので, それを紹介しておきたい.
東大数理ビデオアーカイブス というのがあるのだが, その中に動画がある. 具体的にはここ, ビデオゲストブック, 2009年度のビデオの3:40くらいからご自身で理由を語っている.
小澤先生自体がこう色々と見た目的に特殊なキャラ立ちをしているので, 興味がある向きは動画で実際に確認されたい.
ちなみに冬でも本当にアロハ一枚で動いている. 最近は時々ジャンパー一枚くらいはおるようだが, それでも基本的にアロハ一枚で本当に過ごしている. 歩くのがめちゃくちゃ速いのだが, 何故かを周囲の人に聞いたところ, 「寒いから速く動いて体温を上げようとしていると言っていた」という情報を得たことがある.
2013年5月24日金曜日
『伊藤清の数学』がほしい:舟木先生による『伊藤清の数学』の書評
この間ネットをさまよっていたら, 舟木先生による『伊藤清の数学』の書評があった. これ だ. 今度買おうと思うが, とりあえず舟木先生の書評で期待値を高めておきたい.
個人的に特筆すべきは冒頭部の次の記述だ.
ガウス賞は「数学の応用」を対象に ICM2006 において創設された賞であるが, 先生の受賞理由として「確率解析・確率微分方程式の理論の創始, その後の数理ファイナン スや数理生物学への応用」が挙げられている. その最後の部分を引用しておく: 『stochastic analysis is a rich, important and fruitful branch of mathematics with a formidable impact to “technology, business, or simply people’s everyday lives”』 ただし, ここで言う応用は, 先生ご自身の研究という訳ではない. 先生は, むしろ「私が想像もしなかった「金融の世界」において「伊藤理論が使われることが常識化した」 という報せを受けたときには, 喜びより, むしろ大きな不安に捉えられました.」([1], p.135) あるいは「私はこれまでの人生において, 株やデリバティヴはおろか, 銀行預金も, 定期預金は面倒なので, 普通預金しか利用したことがない「非金融国民」なのです.」 ([1], p.137) と述べられ, 応用は必ずしも本意でなかったことを表明されている.人伝に聞いたことはあったのだが, 実際の文章が殘っているとのことなので, これだけでも本がほしくなる. 私が聞いたのは「経済戦争の道具にされて悲しい」という言葉だが, その辺を確認してみたい.
また次のような記述もあるので, 今度その文献も読んでみよう. 楽しみだ.
先生は, 数理解析研究所講究録に 3 篇執筆されている. それらは本書には収録されていないが, 現在では同研究所のウェブから簡単にダウンロードできる. 特に [2] は若い 方々に一読を勧めたい. また, 先生の追悼号として, [3] をあげておく.
2013年5月23日木曜日
どらねこ&なるみーたカフェなる勉強会があるらしいので宣伝していきたい
どらねこ&なるみーたカフェなる勉強会があるらしい. これだ.
【どらねこ&なるみーたカフェ】 ◆日時:6月9日(日)14:00~17:00(13:30開場) ◆参加費:500円(高校生以上) ◆定員:50名http://atnd.org/event/doramaonarumita #勉強会をしようネパールからだと遠いので参加しようかどうしようか迷っている. あまりよく知らない話題なので結構気になるところではある. どらねこさんはお話を伺ったことがあるし, 堀成美さんも Twitter を見る限り信頼できる人のようなので, 参加したいとは思っているのだが.
2013年5月22日水曜日
解析力学は一般論・抽象論を組み上げる必要があって難しいという話
Twitter で hisen_kei さんと ゆきみさんが解析力学のセミナーをするとかいう話があったので, 思ったことを書いておく. 物理が非専門の人が読むのにいい本を全く知らないので, ハイパー困るのだが, とりあえず私が読んだ本は山本-中村だ.
物理として学ぶ段階ですでに一般性が必要になってつらいので, 特に非専門家が勉強するときには, まず自分の知っているところ・使うところに特化して勉強し, そこを突破口にして学ぶのがいい. 力学系の議論は機械工学でも使うようだが, 数学的にそこに特化した本としては次のような本がある. 読んだことはないので, 質については保証できないが, (数学として) 何が問題かというところは把握できると思う.
ここではむしろ, 本を紹介するよりも, 解析力学の特徴を紹介することで学習の一助としたい. ちなみに『力学と微分方程式』の書評に次のような記述があって面白かった.
タイトルで解析力学で一般性が大事だと言っているが, それを説明していこう. 例えば 3 次元の Laplacian を自然な直交座標系と極座標系で書いてみると次のようになる. \begin{align} \triangle_{\mathrm{o}} &= \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}, \\ \triangle_{\mathrm{p}} &= \frac{\partial^2}{\partial r^2} + \frac{2}{r} \frac{\partial^2}{\partial \theta^2} + \frac{\cos \theta}{r^2 \sin \theta} \frac{\partial}{\partial \theta} + \frac{1}{r^2 \sin^2 \theta} \frac{\partial^2}{\partial \phi^2}. \end{align} 何も知らずに見たとき, この 2 つが同じ演算子 (作用素) だと思うのはまず無理だろう. こうした見た目に左右されずに本質的な部分を見抜く必要がある. そのためには本質的な部分が何か, もっというなら本質とは何かということをきちんと意識する必要がある. 大事な部分を抜き出し一般化し, 議論をクリアにするために必要があれば抽象化までかける. 抽象化して議論自体はクリアになっても, 今度はクリア過ぎて何がなんだかさっぱり分からなくなる. そこを埋めるために適切な具体例をいくつも知っている必要がある. 物理に使うにはこの具体と一般・抽象を両方きちんと知っておかねばならないため, 負担がどんどん大きくなる.
このあたりをもう少し具体的にしてみよう. 物理で大事な概念として保存量というのがある. 具体的に運動量を考える. Lagrangian を 1 つ取ろう:\(L = - p^2/2m\) でも想像してくれればいい. これに対して空間並進群 \(\mathrm{R}^3\) の作用を考えると, この作用に対して Lagrangian は不変になるとする. このとき空間並進群に対する保存量が定義され, それが運動量になる.
これが次に一般化される. 任意の Lagrangian \(L\) を取り, 任意の群 \(G\) を取る. \(L\) が \(G\) の作用で不変なとき, 一般に \(G\) に対応する保存量が定義できる, となる. ここで考えられる限り最大に一般な Lagrangian と群を取る必要がある. なぜなら, 新たな理論を構築したりする場合, どんな Lagrangian, どんな群が出てくるか分からない. そうした場合にも使えなければいけないからだ. 非相対論のときにしか使えないとかいうのでは話にならない. 群も非相対論の状況では Poincare 群や Lorenz 群は視野に入らないが, こういう群作用がある場合にだって使えなければ意味がない. まだ見ぬ場合も含めていつでも使えるようにするため, できる限りの一般性を担保する必要がある.
また結果は普通の力学だけでなく, 適当な場の理論にも使えると嬉しい. 実際電磁場の Lagrangian なども考えられる. 場に対しても使っていきたい. 特に場の量子論を場合を考えると電荷に由来する \(U(1)\) ゲージ不変性も出てくる. 既知の保存量であっても, それに対応する対称性は何か, という議論だってしたくなる.
逆にいうと, 解析力学にはここまでの射程距離があるのだが, この射程距離を持つにはそれだけの頑張りが必要になる. それが解析力学がつらい理由だ. 当然一気に, 頭から本格的な本を読もうとするとつらい. そこで冒頭に戻る:自分が使うところから徐々にやっていき, 突破口を作っておいて必要がある範囲をまずおさえる. その後必要があるごとに勉強していく感じでやるのがいいだろう. 物理学科なら, カリキュラム的な都合もあるし, 学科の特性もあるのである程度はじめからきちんとやらなければいけないが, それは専門なので当然だ.
何に限らず (大学で) 学ぶ内容が簡単ということは全くないのでどこかしらで頑張る必要はある. ただ, 特に非専門家が勉強するときに困る部分というのは専門でやる場合と違う可能性があるので, そこはどうしたらいいか分からず惱むところ. 困るな, というところで歯切れ悪く記事を終える.
物理として学ぶ段階ですでに一般性が必要になってつらいので, 特に非専門家が勉強するときには, まず自分の知っているところ・使うところに特化して勉強し, そこを突破口にして学ぶのがいい. 力学系の議論は機械工学でも使うようだが, 数学的にそこに特化した本としては次のような本がある. 読んだことはないので, 質については保証できないが, (数学として) 何が問題かというところは把握できると思う.
ここではむしろ, 本を紹介するよりも, 解析力学の特徴を紹介することで学習の一助としたい. ちなみに『力学と微分方程式』の書評に次のような記述があって面白かった.
力学系の本は本書の他にもいくつか出版されていますが、 これほど読みやすく、分かりやすいものはないでしょう。 初学者がつまずきそうな点には、しっかりフォローが入っています。練習問題の解答もついていますし、入門書として適当だと思います。
ただし、本書は数学者が書いていることもあって数学的で、 物理学的な色はあまり濃くありません。 ですから、物理大好き☆物理命☆みたいな人にはあまり向かないかもしれません。 (この点は他の本もある程度共通していますが…。)
しかし、逆に言うと、「ほとんど物理を勉強したことがないけども力学系の知識は必要。 困ったなぁ…。」と密かに悩んでいる経済学や生物学などを専攻する人には、 間違いなく最高の本です。 経済理論や生物学の本などにも、 巻末の付録に力学系の申し訳程度の解説が付いていたりしますが、 今後の動向を考えると、 やはり本書のようなものを読んでおいたほうが良いでしょう。 教養・アイデアの種として、物理学の知識も得られますし。数学の本は物理的な感覚が使いづらくハードルが高いという印象があった. だが, 逆に物理をあまり知らなくても読める (自分の専門に引きつけて解釈をつける) と思えば, かえっていい場合もあるのかと. 数学的にやばすぎると別のハードルが上がりまくるので, きちんと選ぶ必要はあるが.
タイトルで解析力学で一般性が大事だと言っているが, それを説明していこう. 例えば 3 次元の Laplacian を自然な直交座標系と極座標系で書いてみると次のようになる. \begin{align} \triangle_{\mathrm{o}} &= \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}, \\ \triangle_{\mathrm{p}} &= \frac{\partial^2}{\partial r^2} + \frac{2}{r} \frac{\partial^2}{\partial \theta^2} + \frac{\cos \theta}{r^2 \sin \theta} \frac{\partial}{\partial \theta} + \frac{1}{r^2 \sin^2 \theta} \frac{\partial^2}{\partial \phi^2}. \end{align} 何も知らずに見たとき, この 2 つが同じ演算子 (作用素) だと思うのはまず無理だろう. こうした見た目に左右されずに本質的な部分を見抜く必要がある. そのためには本質的な部分が何か, もっというなら本質とは何かということをきちんと意識する必要がある. 大事な部分を抜き出し一般化し, 議論をクリアにするために必要があれば抽象化までかける. 抽象化して議論自体はクリアになっても, 今度はクリア過ぎて何がなんだかさっぱり分からなくなる. そこを埋めるために適切な具体例をいくつも知っている必要がある. 物理に使うにはこの具体と一般・抽象を両方きちんと知っておかねばならないため, 負担がどんどん大きくなる.
このあたりをもう少し具体的にしてみよう. 物理で大事な概念として保存量というのがある. 具体的に運動量を考える. Lagrangian を 1 つ取ろう:\(L = - p^2/2m\) でも想像してくれればいい. これに対して空間並進群 \(\mathrm{R}^3\) の作用を考えると, この作用に対して Lagrangian は不変になるとする. このとき空間並進群に対する保存量が定義され, それが運動量になる.
これが次に一般化される. 任意の Lagrangian \(L\) を取り, 任意の群 \(G\) を取る. \(L\) が \(G\) の作用で不変なとき, 一般に \(G\) に対応する保存量が定義できる, となる. ここで考えられる限り最大に一般な Lagrangian と群を取る必要がある. なぜなら, 新たな理論を構築したりする場合, どんな Lagrangian, どんな群が出てくるか分からない. そうした場合にも使えなければいけないからだ. 非相対論のときにしか使えないとかいうのでは話にならない. 群も非相対論の状況では Poincare 群や Lorenz 群は視野に入らないが, こういう群作用がある場合にだって使えなければ意味がない. まだ見ぬ場合も含めていつでも使えるようにするため, できる限りの一般性を担保する必要がある.
また結果は普通の力学だけでなく, 適当な場の理論にも使えると嬉しい. 実際電磁場の Lagrangian なども考えられる. 場に対しても使っていきたい. 特に場の量子論を場合を考えると電荷に由来する \(U(1)\) ゲージ不変性も出てくる. 既知の保存量であっても, それに対応する対称性は何か, という議論だってしたくなる.
逆にいうと, 解析力学にはここまでの射程距離があるのだが, この射程距離を持つにはそれだけの頑張りが必要になる. それが解析力学がつらい理由だ. 当然一気に, 頭から本格的な本を読もうとするとつらい. そこで冒頭に戻る:自分が使うところから徐々にやっていき, 突破口を作っておいて必要がある範囲をまずおさえる. その後必要があるごとに勉強していく感じでやるのがいいだろう. 物理学科なら, カリキュラム的な都合もあるし, 学科の特性もあるのである程度はじめからきちんとやらなければいけないが, それは専門なので当然だ.
何に限らず (大学で) 学ぶ内容が簡単ということは全くないのでどこかしらで頑張る必要はある. ただ, 特に非専門家が勉強するときに困る部分というのは専門でやる場合と違う可能性があるので, そこはどうしたらいいか分からず惱むところ. 困るな, というところで歯切れ悪く記事を終える.
2013年5月21日火曜日
Lieb-Yngvason による The entropy concept for non-equilibrium states が arXiv に出たので読んでみた
Lieb-Yngvason のプレプリントが出たのだが, 普通の理論物理の人が「ちょっと衝撃的?」と言っていたので眺めてみた. The entropy concept for non-equilibrium states だ. Lieb-Yngvason がまた何か面白いことをしたようだ.
余計な話もいくつか書くが, 論文紹介というよりも私がこれを読んで思ったことの読書メモみたいな感じで読んで頂ければ, と思う. それなりに専門的に勉強した人間が何を考えながらどう読む (反応する) のか, というのを見てみたい向きには面白いのではないかと期待して.
まずアブストラクトを見る. 引用部の訳は意訳の上に適当なので, きちんと原論文にあたってほしい.
P1.
以前の Lieb-Yngvason が論じてきた枠組みで非平衡のエントロピーが特徴付けられた. 今回, 同じ枠組みで, 物理的に望むべき性質を持つ一意的なエントロピーの存在が言えないことが示された. ただし, 一意性がないだけでそれらしき関数が 2 つ定義できる.平衡系の熱力学の論文は, 例えば The Physics and Mathematics of the Second Law of Thermodynamics だ. 一意性がないだけで, とりあえずエントロピーは定義できるらしい. とりあえず本文に入っていこう.
P1.
エントロピーは時間とともに増えていくとされている. エントロピーは平衡状態では何の問題もなく定義できているが, 宇宙の中にある物質の状態の多くは平衡状態にはない. 非平衡状態に対するエントロピーが何なのか分からければ, その増大というのもきちんと定量化できない. 非平衡状態のエントロピーの定義もあるが, 色々な問題がある.当たり前の現状認識から入る. 別件だが, Jaksic-Pillet あたりが非平衡定常状態に対して, エントロピー生成を証明したという話があった覚えがあるが, あれは具体的にどういう設定下で何をしたのかよく知らない. あれと今回の結果, どういう関係にあるのだろう.
P2.
状態の比較時, 化学的な組成は同じ状態を考える. 今回の議論では状態の断熱比較性 (以下比較性という) が大事. 一般には非平衡状態のエントロピーは一意に決まらないが, \(S_{\pm}\) という 2 つの両極端なエントロピー関数がある. 比較性が成り立つときにはこの 2 つは一致する. 当然非平衡状態での比較性が成立することは極めて非自明であって, しかも一般には期待できない.\(S_{\pm}\) が恐ろしく非自明で凄まじい. あと, 化学的な組成が同じ状態に対する比較性を考えるというの, ここではさらりとしか書いていないがかなり重要だろう. 化学反応が起きる場合, さらに修羅のような状況になるのは簡単に想像がつくし, そのときは \(S_{\pm}\) のような量が consistent に定義できるのかすら怪しいという印象. あくまでただの印象だが. そもそもエントロピーを定義する意味があるか, という問題もあるけれども.
とりあえず 2 章に進む. これは以前の論文の復習なのでとりあえずさらりと. 興味がある向きで自分できちんと上記平衡系の論文を読もう.
全然関係ないが, 非平衡状態での多体系のエネルギーは相加性を見たすのだろうか. 基底状態に関する相加性については, やはり Lieb が主導している物質の安定性の数理物理でのメイントピックだし, 恐ろしく非自明. 物質の安定性, 関西ぶつりがく徒のつどいとかで話したいがまず勉強が必要な人生だった. 数学の人に話すには量子力学と熱力学の上に物理に興味があるかという部分まで要求することになるので無理っぽい. 基底状態に関する限り, 物質の安定性は (量子) 統計力学というより量子多体系の話なので, 統計力学に頼るという話ではない. ただ, ミクロなモデルには頼るので今回の話とは別途切り分けるべき話ではある.
また, 相転移を考えなければいけないために起きる, 熱力学の数学的な処理の面倒さと, 面倒さそれ自身が持つ物理的な意味と重要性 (要は相転移) についても書いた方がいい気がしている.
3 章に進む.
P9.
平衡状態と違い, エントロピーで全てが決まるわけではないので非平衡状態のエントロピーを考えても平衡状態ほどの意味はない. ただし, 平衡状態のエントロピーが持つよい性質を保ちながら, 非平衡状態に対してどのくらいよいエントロピーが定義できるかを考えるのには意味がある.状態空間に reproducible という条件をつけるようだが, 後で出てくるのだろうか.
非平衡状態の空間は, 全ての非平衡状態を含む必要はないことを強調しておく. これは, 爆弾の爆発のような状況を考えるときにそもそも状態の関数としてエントロピーを考える意味があるか, といった物理的な設定を反映させている.
非平衡状態は時間依存, または環境と完全に切り離せないことにも注意する.
3.1 節に進む.
P10.
拡大状態空間でも順序の物理的意味は平衡状態と同じとする.これは物理的に妥当なのかよく分からない. 純粋に数学として議論を進める上では関係ないが, 最後きちんと物理にするためには決定的に重要なところ. とりあえず先に進む.
N1 で A6 (Stability) を仮定しているが, 非平衡でも成り立つと思っていいのだろうか. 他はとりあえず仮定しておいていいとは思うのだが. 平衡状態に近いところ (非平衡状態の空間をそのくらいに小さめに取る) なら仮定してもよさそうな気はするが, 遠平衡状態 (と私が仮に名付ける) ではどうなのか.
どうでもいいことだが, 数論幾何で遠 Abel 幾何というのがある. 名前しか知らないが Grothendieck が提唱したということだけ知っている.
ふと思ったのでメモしておくと, 公理的場の量子論や代数的場の量子論での「公理」はここで言う「仮定」の意味だ. 「ある仮定のもとで何がどこまで言えるのか」を確かめようという取り組みが公理的場の量子論と言える.
何故こんなことをするかというと, 少なくとも 1950 年代は特に場の理論の散乱がうまく扱えず, 何をどうしたらいいのか全く分かっていなかったという背景がある. しかも場当たり的な仮定をつけて, その場ではうまくいくが, 別の場合には全く使えないというひどい状況だった. まずは「この程度は成り立つと思っていいだろう」というラインを決めておいて, そこから導かれる結果を吟味し, どんな仮定ならば適切かを判断する材料にしようという試みなのだ.
なので, とりあえず仮定しておいて何が出るかを調べよう, という姿勢なら (数学的には) 条件をつけておいても構わない.
P10.
N2:全ての (考察下の) 非平衡状態 \(X\) に対し, 2 つの平衡状態 \(X'\), \(X''\) があって, \(X' \prec X \prec X''\) が成り立つ.初見では適当に読み飛ばしてしまったが, これはかなり強い意味を持っていた. 物理としては自然な仮定かとは思う. 詳しくは P10 の N2 直下の文参照.
N2 の意味の説明:訳は省略.
P10.
非平衡状態の空間上で定義される関数で, 平衡状態の空間上, 平衡状態のエントロピーと一致する関数を探そう, というのが基本的な問題となる.P11 の命題 1 に基本的な性質がまとまっている. あまりきちんと落っていないが, 証明もそれほど難しくなく追えるレベル.
(14), (15) で定義される関数 \(S_{\pm}\) がこう色々と大事. 物理的な意味もある.
P12 の定理 4 では非平衡エントロピーの一意性に関する同値条件がまとまっている.
3.2 節では温度 \(T_0\) の熱浴を仮定して最大仕事と, 最大仕事からのエントロピーの定義について考えている.
3.3 節に進む.
P15.
定理 4 と非平衡状態空間上の比較原理, つまりエントロピーの一意性は, 全ての非平衡状態はある平衡状態と断熱的同値性と同値になる. 平衡状態に近いところであってもまず期待できない性質であることを見ていく.P16, 4 章でまとめに入る.
あまり証明をまじめに追っていないが, 数学的には問題ないだろう. 問題は物理への適用だ. 設定した公理 (仮定) がどこまで物理的に真っ当かという議論もある. 統計力学の設定で「追試」するというのも面白そう.
2013年5月20日月曜日
よく分からない数学「色々な反例で遊ぼう」のプレゼントページ(予定)
DVD を作って Amazon に出す,という話をしているが詳しい人に相談したところ,適当なタイミングでプレゼントをあげるとよい,という話を伺った.そのプレゼント用のページとしてこれから随時していく.
プレゼントでやるかはともかく,こんな内容の話をしてほしいとかいうのがあれば色々コメント頂きたい.何も言われなくても自分が中高生の頃に聞いたら楽しいと思ったであろうことをどんどんやっていく.目標はかっこかわいい女子数学徒を大量生産することだ.
Baez-Segal-Zhou の教科書, Introduction to Algebraic and Constructive Quantum Field Theory が無料公開されていた
Baez-Segal-Zhou の有名な本が ここ で無料で配布されていたので, 一応共有しておこう. 『Introduction to Algebraic and Constructive Quantum Field Theory』という本だ. 時々論文にも引用されるので, 見てみたいとは思っていた.
ただ, 画像取り込みのようになっていて中で傾いているのでかなり見づらい. 検索が効くように配慮されているのは助かるけれども.
前半部分は大体 (場の理論の) どの本にも書いてある内容のようだが, 後半が少し珍しい. 特に最後の非線型場の話は最近の本にあまり書いていないように思う.
場の量子論の数学についてちょっと知りたいが, 本を買うほどの興味はないという向きは, 落としてみて眺めてみるといいかもしれない.
ただ, 画像取り込みのようになっていて中で傾いているのでかなり見づらい. 検索が効くように配慮されているのは助かるけれども.
前半部分は大体 (場の理論の) どの本にも書いてある内容のようだが, 後半が少し珍しい. 特に最後の非線型場の話は最近の本にあまり書いていないように思う.
場の量子論の数学についてちょっと知りたいが, 本を買うほどの興味はないという向きは, 落としてみて眺めてみるといいかもしれない.
2013年5月19日日曜日
ブログの参考文献を充実させた
ブログの参考文献ページを充実させた. メニューにもあるが, ここ だ.
具体的にはこれまで紹介してきた本や論文をまとめたものになっている. 整理の仕方の問題などもあるが, とりあえず. あとで自分が何に言及したかを見直すのにも使いたいので, 取り急ぎまとめた形だ.
基本的には目を通していて, 面白い, 役に立つと思った本や論文を挙げているので参考にしてほしい.
2013年5月18日土曜日
作用素環と構成的場の量子論:場の量子論の超関数論
作用素環を使う場の量子論となると, 最近本を出した小嶋先生 (と岡村和弥さん) や河東先生がやっているような, 代数的場の量子論の方が有名な気がするが, 私がやっているのは構成的場の量子論なので, そちらの話をする. 後者の本は以前河東先生に教えてもらった本だ.
小嶋先生と岡村さんの本『無限量子系の物理と数理』についてちょっとした裏話をこの間の竹崎先生 80 歳記念ワークショップで聞いてきたがこれは秘密だが, 大した話ではない. あと, 近いうちに小嶋-岡村本の簡単な紹介もしたい.
むしろ緒方芳子や九大の松井先生や荒木先生がやっている量子統計の方が有名かもしれないが, そちらはそちらで一応私の守備範囲でもあるが, 一応別件としよう. ただ, 後で少し触れはする.
それはそれとして, 作用素環と構成的場の量子論だ. 構成的場の量子論の初期では実際に作用素環を使った議論が中心だったそうだが, その内, Ising モデルと \(\phi^4\) モデルの関係を使い, 確率論と経路積分を駆使した議論が中心になっていったと聞いている. ここではその古い形を紹介する形になる. ただ, 古いとは言っても非常に基本的なフレームワークでしかも特に量子統計では現役で動いている. 構成的場の量子論の文脈で一時期あまり使われなくなったというだけの話.
はじめに簡単に概要を言っておくと, 場の量子論で (Schwartz 流の) 超関数論をやろう, という話になる. 簡単に超関数論を復習し, それから本題に入ることにする.
やや別件だが, 佐藤超関数論の方が通常の超関数論としてはより自然という話があるが, 佐藤超関数の場の量子論版みたいな話, 今のところあまり想像できない. 何か面白く役に立つ話があれば面白いとは思っているのだが.
(Schwartz の) 超関数論だが, 適当な関数空間を作っておき, その位相的双対空間として超関数の空間を定義する. 具体的にはコンパクト台を持つ無限回微分可能な関数の空間 \(C_{\mathrm{c}}^{\infty}\) や急減少関数の空間 \(\mathcal{S}\) の双対空間とする. 特に \(\mathcal{S}\) の双対となる超関数の空間の元は緩増加超関数と言われる.
場の量子論への応用という面で大事なのは適当な関数の極限が超関数になってしまう現象の理解だ. 熱核 \(f_t (x) = e^{-x^2/2t} / \sqrt{2 \pi t}\) を取る. これは無限回微分可能どころか解析的な関数だ. しかし, \(t \to 0\) の極限で Dirac の \(\delta\) に収束する. この極限をつかまえるには考える集合を大きく取る必要がある. この大きな集合が双対空間になる, というのを発見したのが Schwartz の偉いところになる.
ここで場の量子論に戻ろう. 場の量子論は数学的な特異性が強いので, 生の形 (物理的にあるべき形) で数学的な議論をいきなり始めるのは難しい. そこで一旦適当に扱いやすくする処理をする. 非相対論的な文脈ではそれを赤外正則化とか赤外切断と呼ぶ. 切断つきで議論をしておき, 最後に切断を外す極限を取って物理的にあるべき理論とする. ここでちょうど上の熱核の \(t \to 0\) と同じ現象が起きる. 特に基底状態について考えるが, 赤外切断つきのモデルでの基底状態を \(\Psi_{\kappa}\) とする. \(\kappa \to 0\) の極限を取ると, これが元の Hilbert 空間からいなくなってしまう. 正確には任意の部分列を取っても \(\Psi_{\kappa}\) が 0 に弱収束してしまう (ことがある). 熱核 \(f_t\) の極限が \(L^2\) では 0 になってしまうのと同じことだ. これを 0 にしないためにはどうするか, 大きな空間をどう準備するか. ここで作用素環を使う. 確率論 (経路積分, 汎関数積分) を使う議論は私の手に負えないのでここでは省略する.
大きな空間についてはこう考える. 場の量子論にしても Hilbert 空間を使っているので, そこを基本にする. 基底状態の極限を考えることにしているので, まず Hilbert 空間のベクトル \(\Psi\) を取る. ここから \(\psi (A) := \langle \Psi, A \Psi \rangle\), \(A \in \mathcal{B} (\mathfrak{H})\) として, 汎関数を取る. ここで \(\mathfrak{H}\) は場の量子論の Hilbert 空間であり, \(\mathcal{B} (\mathfrak{H})\) は, \(\mathfrak{H}\) 上の有界線型作用素全体を指す. これはもちろん \(C^*\) 環だ. 普通の超関数と違って元の Hilbert 空間を線型に含んでいるわけではないが, 形式的に含んでいるとみなせるような線型空間が作用素環上の汎関数として構成できた. 実際にこの作用素環上の汎関数としての汎弱収束で意味のある極限を取り出すことが作用素環を使った議論の魂となる.
本当はここからの GNS 構成定理による表現論までセットにして考えることが大事で, しかも量子統計的にも決定的に大事なのだが, それは置いておこう. ちなみに私の修論もこれで書いたので, 本当に大事. 今書いている修論の有限温度の発展版も GNS でさらに Araki-Woods 表現を持ち込むというところをやっている.
代数的場の量子論だと作用素環的にもっと難しく, そして作用素環的にももっと意味のある議論をしている. 今の構成的場の量子論では作用素環に貢献することはあまりできなさそうだが, 議論の核としてなくてはならない存在ということはできる. 構成的場の量子論に作用素環を使うのは, 確率論を使った議論よりも数学的な予備知識がいらず, かなり速いタイミングで研究を始められるのがいい. 作用素論の基礎もいるが, それは確率論を使った議論でも同じなので.
正直, 代数的場の量子論と違い人にお勧めできるような分野ではないし大勢で取り組むような分野でもなく, さらに地味で派手な結果が出るような分野でもないが, 細く長く続けていくべき分野であると思ってもいる.
2013年5月17日金曜日
ブルブルエンジン兄貴の「選択公理は直感に反さないだろいい加減にしろ!」という記事の紹介:Banach-Tarski の定理
Twitter でブルブルエンジン兄貴が 次のようなツイート をしていた.
https://twitter.com/hounavi_tweet/status/333470628592107520 ツイッターのニュースってなんだよいい加減にしろ!ブルブルエンジン兄貴のブログ記事, 選択公理は直感に反さないだろいい加減にしろ! へのリンクが張られている. コメント欄に社会の悲しみが現出しているが, それは置いておこう.
これはもちろん, ブルブルエンジン兄貴の真骨頂である選択公理の話だ. 選択公理と直観という意味不明な話が時々出てくるが, そこでよく, 選択公理から Banach-Tarski の逆理など変なのが出てきて嫌ね, という話がされる. そんなことはなく, 選択公理を認めないとひどい現象が起きる. 逆に選択公理から非常に自然でこれを認めないことには何もできない, という定理も色々あるので認めないでどうするの, という話をしている. ちなみに第 3 回の関西すうがく徒のつどいでのブルブルエンジン兄貴の話は関数の連続性まわりでそうした話をしていた.
そしてブログでは Banach-Tarski だ. 詳しくはブログを見てほしいが, Banach-Tarski でいう有限分割は現実には実行不可能な恐ろしい分割も含んでいる. そうした無茶な分割をした上で「直観に反する」結果が出てくる, という話なので, むしろ直観的に捉えきれない分割の方にこそ異常性を感じるべきで, 選択公理に責を押し付けるべきではない, という主張を展開している.
これもブログで触れられているが, 証明中, 選択公理はある一箇所で使われているだけだ. 証明中大事なのはむしろ自由群の性質であって, 選択公理ではない.
数学としてはむしろ, 図形の分割と体積の話をしているのにそれを制御しているのが自由群という群の性質である, という部分に思いを馳せるべきだ. これこそ直観を越えた緻密な論証のなせる技であり, 途方もなく豪快で自由な数学の姿と言える. とてもとても楽しい.
証明は本もあるし, ネット上に色々文献も落ちている. 色々探してみてほしい. そして証明をきちんと味わってほしい.
2013年5月16日木曜日
竹崎先生の 80 歳記念のワークショップに行ってきて, 広義諸先輩方と久し振りに会ってきてハイパー楽しかった
先日 竹崎先生の 80 歳記念のワークショップ があった. 時間があったので 2 日目だけ参加してきた. 河東先生をはじめ, 広義諸先輩方に久し振りにお会いしてきた. やはり数学者と話するの超楽しい.
下記動画でしているのと同じ格好をして行ったら小澤先生に「出家したの?」と言われた他, 海老蔵に似ている, という心無い罵倒を受けてきて深い悲しみに包まれた.
2 日目の話を一応抜き出しておこう. 基本的に作用素論・作用素環の量子統計, 場の量子論への応用というところで勉強していたので, 作用素環の基礎知識がほとんど無く, 正直ほとんど全く分からなかったが, ハイパー楽しかった.
| Yoshiko Ogata | Normal states of type III factors |
| Reiji Tomatsu | On product type actions of Gq |
| Toshihiko Masuda | Classification of group actions on von Neumann algebras |
| Yoshimichi Ueda | Free product von Neumann algebras with emphasis on structure theory for type III factors |
| Paul Muhly | Homogeneous C*-algebras and noncommutative function theory (abstract) |
緒方さんの話は非可換中心極限定理に関わる話で, 緒方さんとしてはやはり量子スピン系への応用を考えているとのことだった. 情けないことだが, 物理的背景の説明があったにも関わらずろくに分からず, 勉強不足を痛感した. 竹崎先生が「これはすごく面白い結果だ」と仰っていたのだが, 数学的な意義もよく分からず悲しい思いをした.
増田さんの話は群作用があるときの分類だが, 大事な結果を引用するところで, Jones-Takesaki の結果を引用し忘れて, 竹崎先生から突っ込まれていて場が笑いに包まれた. 「その後の分類証明の方向性を決定づけた大事な仕事です」みたいなコメントをつけていて, 増田さんが講演中に「大失敗した」という感じで恐縮しきっていて笑った.
植田さんも相変わらず楽しそうに講演していて, 聞いているこちらも楽しくなってくる. 楽しそうに話すのは大事だな, と改めて思う. 自分も気をつけたい.
その後パーティがあったのだが, 何の連絡もせずに当日突然参加したので, ご担当の山ノ内先生にはご迷惑をおかけしたようで申し訳ない限りだった.
色々と裏話的なアレも聞いた. もとは特に問題ない行動だったのに面白おかしく尾鰭をつけて話されて困る, という話のあと, 河東先生が「こうして伝説が作られていくのです」とか言っていて爆笑した.
他はどうだか知らないが, 数学では抽象的な説明をされないと分からないというタイプの人がいる. そういう人が指導する側に回ると学生が死ぬ程困る, という例を聞いて爆笑した. 写像をグラフで定義するという荒技を披露したせいで, 学生が有限集合間の写像の問題すら解けない, ということでその人の指導教官含め, 必死の説得に回ったが聞き入れず, 最近海外での講演などを重ねる中でようやく自覚を始めたらしい, とかいうひどい話を聞きしこたま笑ってきた.
パーティの最後, 竹崎先生からの言葉があったが, 作用素環の入口 でも語られていた話をしていた. 簡単にいうと, 修士の学生の頃からたびたび「作用素環は終わった」と言われていたが, そのたびに面白い話題が, それも思わぬところから継続的に出てきて, 驚きの連続の数学人生だったこと, とてもいい分野に出会えて本当に幸せだったこと, 死んだと言われた分野で日本全国で専門家が 10 人くらいしかいない頃から頑張ってきて, 今となって日本中からこんなにもたくさんの専門家が継続的に育っていること, 自分もその育成に携われたなどなど, 実に楽しそうに話していた.
修士の頃の話として, 数学界の様子は全く分からない学生が指導教官からすら「作用素環は終わった」と言われ, どうしようか途方に暮れていたときに出た Kadison の既約性に関する論文の話をしていた. これは「\(C^*\) 観の表現で代数的既約性と位相まで込めた既約性が同値である」という凄まじい結果だ. 作用素環の教科書では始めの方に出てくる基本定理で, ややもするとさらりと通り過ぎてしまう定理だが, もちろん恐ろしく非自明で強烈な定理だ. こんな深い結果が出る分野が死んでいるはずがない, 元気がないのはやっている人達の気持だけで, 分野自体は決して死んでいない, と確信し, 作用素環の研究に邁進しようと決意した, という話. 既に上記文献で読んで知っていた話だが, 当人の口から直接聞くとそれは感慨深いものがある.
数論幾何なども衝撃的な結果が 10 年くらいずつ出てきてとんでもない分野だが, こちらはどちらかと言えば有名な予想が解決された, という形での衝撃性という (非専門から見た私の勝手な) イメージがあるが, 竹崎先生いわく, 作用素環は予想もしないところからの衝撃的な結果が出てくる, という意味での驚きが強く, とても楽しいとのこと. 作用素環に進もうという向きは楽しみにしていていい, ということなのでここでも宣伝しておきたい. 不肖の竹崎先生の孫弟子であった.
2013年5月15日水曜日
「色々な反例で遊ぼう」動画のイントロを YouTube で公開した
関西すうがく徒のつどいでも話した「色々な反例で遊ぼう」について, 以前告知動画を YouTube に挙げたが, そのイントロ部分を公開した. 映像の選択をミスったようで, サムネが間抜けな顔になっていてつらい.
関西すうがく徒のつどいでも話したことだが, 何故この題材を選んだか, これで何をどうしたかったのかということを話した. あとで Amazon で DVD を出すので, 買うかどうかの判断に使ってほしい. 本編で紹介した問題 (反例) は次の通りだ.
- 環から部分環を除いた集合が環になるか.
- 絶対値を取ると関数の滑らかさは下がるか.
- 連続だが至る所微分できない関数が存在するか.
- 有界閉集合 \(\Omega\) 上で連続な関数 \(f\) は一様連続になるか.
- 各点で関数列が収束するなら積分も収束するか.
また, 今のところ DVD は 3,000 円程度で出す予定だが, 中高生だとちょっと高くて手が出ないかもしれない. 買うのはつらいがどうしても見てみたい, という向きも Twitter なりメールアドレスまでご連絡頂きたい. 人数が多いなら何か対処を考える. 適当な手段で動画を見られるようにしたり, またはどこかに場所を借りて, セミナーをするという手もある. 他にも何か手段があるかもしれないが, それは問い合わせ数と内容に応じて考える.
今やっているように YouTube で流すだけなら無料で配れるから上記の中高生向け問題は起きないが, それでもなお Amazon を使うのは, Amazon の流通網を使って今までアプローチできなかった層に アプローチしたいからだ. ただ動画サイトに出すだけなら今まで通りニコニコにでも出しておけばいい. 吉となるか凶となるか全く不明だが, やってみないと分からないのでとりあえずやってみようという所.
2013年5月14日火曜日
Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 セミナー初回の内容をもう少し詳しくした
なかなか時間が取れなくて非常にアレなのだが, 大体話したいことはピックアップした. Twitter で この辺 から適当に呟いたのは下にまとめる.
その他, あとで動画にもする予定で, そこではさらに詳しく話す予定なので, それに合わせて今から詳しい内容も作っておきたい. 特に特殊関数周りの具体例を色々あげておきたいと思っている. 今すぐに見たいという向きもあろうから, 参考文献を軽くあげておこう.
全体的な話として, まだ買っていないのだが「直交多項式入門」がかなり気になっている.
とりあえず触れようと思っているのは, Legendre 多項式, Legendre 陪関数, Hermite 多項式, Laguerre 多項式, Fourier 級数のあたりだ. ちなみに今はじめて知ったのだが, Chebyshev 多項式は この PDF によると, 計算機の中での応用があるらしい.
Legendre や球 Bessel については この PDF が参考になるかと思う. 自分が知っている話, ということで物理への応用について話す予定で, 正にそういう話だ. Laguerre は例えば この PDF を検討している. 上記多項式もそうだが, Hermite についても手元にある本含め, まだ資料をあさっている.
今すぐ参考文献を知りたい向きは, 基本的には偏微分方程式を解くところで使うので, その辺で探すといい. 「物理数学 Legendre 多項式」などで探せば色々出てくる.
Fourier は熱方程式, 波動方程式, 電磁気学あたりで探すといいだろう, 数学の本ではあるが, 逆問題を通じた応用的な色彩が強い本として, 波動方程式への応用については下記の本の前者を, 熱方程式への応用については後者を参考にすると楽しいだろう.
物理への応用に関してよい参考書は今探しているところだ. 波動の本でもいいが, 電磁気 (電磁波) からの話が個人的に気に入っているというか感覚が掴みやすかったので, その辺で探すといい. もちろん, 自分の専門に近いところ, 自分にとって分かりやすいところで探すのが一番いい. いいのがあったら教えてほしい.
多項式から話題を変えるが, 例えば変分というのがある. 変分原理として物理の各所で現われるが, 量子力学で基底エネルギーを出すのに使うこともある. 実係数の微分方程式への数学的応用ということでは Brezis の本が定評がある. もちろんかっちりとした数学の本だ. Hilbert 空間を中心に議論されている. 最近演習問題も追加された英語版も出版されたので, 買うならそちらを買った方がいいかもしれない. 東大の微分方程式系の研究室での学部 4 年のセミナーでも使われることがあるようなので, そのくらいきちんとした本だ.
また, 何度も紹介しているが, 解析力学というか幾何学での変分ということで次の本が比較的分かりやすく, しかも面白い.
読んだことはないのだが, 物理での変分原理については次のような本もある.
これまでの微分方程式の話とは大分変わるが, 作用素論につなげるので, 量子力学とスペクトルの話もしたいと思っている. これについては日合-柳本はもちろんのこと, 数理物理としては新井先生の本がいい.
量子力学での変分に関する数学的に精密な話も書いてある. 他には, 作用素の関数やユニタリ表現に関する話も大事だ. 作用素の関数については先日ワヘイヘイオフで詳しい話を聞かせろ, という要望を受けたので, 別途早めにまとめようと思っている.
では以下, Twitter での発言を抜き出しておく.
Hilbert 空間から始めるよく分からない数学のセミナー的なアレの原稿, いい加減作ろう. イントロでずっと固まっているが, そろそろ具体化したい. イントロだけはもう少し線型代数全般について話をしたい
まず超大雑把に言って教養でやる線型代数らしい線型代数と, 微分方程式方面と関わる方面の話と, 関数解析または作用素論的な抽象論みたいな感じの話がある的な話をする
加群への展開とか, Lie 群への展開とか数学として取り逃すところは色々出てくるが, この辺は私の数学力的に手に負えないところが出てくるので色々ある, とだけ言って逃げる. ただ表現論とFourierと, みたいなところと量子力学とかは少し触れたい
Hilbert 空間の抽象論と作用素論的な展開と量子力学との関係的なアレはあとで詳しくやるから, 軽くこなす. まずは有限次元の方か
有限次元と言ったところで専門に近い所で見ても色々あるし困る. とりあえずハバードだとか, 直接的に研究に結び付くくらいやばい, という話はしよう
あとは数値計算でも使う的な話は入れよう. 微積分との絡みで平衡点近傍の安定性とかそんな話もしよう
脱線するが, 平衡点近傍の話, 多分力学系とかそういうところでも使う. あまりきちんと勉強していないが, 山本義隆の解析力学にも解説あるし, ゆきみさんいわく常微分方程式と解析力学にも解説あるらしい
これは適当な線型化から系の性質を調べるとかいう話で, 微分積分や力学とも深い関係がある. 機械工学とかその辺でも確か出てくるはずとかそんな話をしたい
あと標準的なコースの重要性はきちんと言わないといけない. 行列式と固有値, 固有ベクトルあたりは何をネタにしよう. 物理の各所で出てくるが. 固体物理というか連成振動とかその辺か. あと統計学での主成分分析とかそういう話か. この辺, 具体例を仕入れる必要がある
固有値, 固有ベクトルは量子力学とかその他物理でも色々展開があるという話はしよう. 物理の話ばかりしているのもどうかという気はするが, 応用はそれしか知らない無学な市民だった
Googleのページランクみたいな話もしよう. 確率との関係とかエルゴードとか言っておくと響く向きには響くだろう. これ, 数値計算とも関係するかなりクールな話なので盛り込みたい
とりあえず有限次元はこんなものか. 無限次元というか微分積分への接続として平衡点近傍の話をもってくる方がいいか. あとは微分作用素と積分作用素の線型性は必ず触れる. 我が魂
@aki_room 毎回2時間くらいのを4回くらいの予定です. ヒルベルト空間とその上の作用素論を3回でスペクトル分解までやろうという無茶な企画. まともに回るか分かりませんが,とにかく一度やってみようという無茶企画です
http://tinyurl.com/d6ggdkr 【phasetr 【参考】 http://www.ulis.ac.jp/~hiraga.yuzurugf/LA/matlab/gallery.shtml】
@JosephYoiko ありがとうございます. 例を作って図示まで自分でやるのは結構手間なので助かります
関数解析的な意味での無限次元の線型代数, 何を話そう. 時間があるから適当に抜粋するが, ネタとしては色々書いてためておこう. まずはブログの方にも書いたTaylorと微分作用素の関数と並進とかその辺か
あと微分作用素の固有値展開からのFourierか. Fourierは高校でやった三角の積分が直交関係を表す的な話は入れないといけないだろう
今回, 個別の話をやっている余裕はなかろうがLegendreやらBesselやら, 量子力学とか電磁気周りでの微分方程式を解くときにも出てくるという話も盛り込みたい
これは個別の関数の相手もそれはそれで大事なのだが, 理屈としては線型空間論で一括処理できるのだ, という認識を持つことで数学的, 精神的な負担を減らすことを目的に, 必ず触れるようにしたい
あとアレだ, モノによっては多重極展開とか応用上の意味があったりもするから, 単なる数学ではない部分もある的なアレ. 変分とか無限次元の微分とかいう話はすると楽しいかよくわからないが, ネタとして書いておこう
イントロはこんなものか. ネタ多すぎるので確実に削るが, 他にもどこかで話すなり, 最終的に動画にするときには盛り込むからいいか. あとスペクトルの話はきちんと触れ直そう
関係ないが, 今日の math-phys の arXiv に非可換調和振動子に関する廣島先生と佐々木さんの論文が出ていた. これはこの間の埼玉大のセミナーでも少し話したが, 若山先生が最近やっているやつで数論というかゼータと関係があるやつ
考えてみれば, Hubbard や Google のページランクについては動画を作ったのだった. それも紹介しておこう.
2013年5月13日月曜日
大栗さんの『重力とは何か』がオーディオブックになる
大栗さん自身のツイートにより, 『重力とは何か』がオーディオブックになるという情報を得た. これ だ.
拙著『重力とは何か』がFeBeからオーディオブックになりました。 ⇒ http://www.febe.jp/product/144944 最初の部分は、こちらのYoutubeで試し聞きできます。 http://www.youtube.com/watch?v=wS-5QVg1_DE&feature=player_embedded読もうと思っていてずっと読んでいないというか買っていない.
大栗さんの理研での講演についての記事を前に書いたことがある. 大栗さんの講演「科学者の矜持」が Youtube に上がっていたので見た と 大栗さんの講演「科学者の矜持」での疑問について Twitter で大栗さんに質問して回答を頂いた だ. 動画へのリンクと単なる感想だけでなく, 知り得る限りでのある程度専門的なこともコメントしておいた. 興味がある向きはご覧頂きたい.
2013年5月12日日曜日
『無限量子系の物理と数理』に続き, 小嶋先生が新たに『量子場とミクロ・マクロ双対性』なる本を出すらしい
このツイート によると小嶋先生がまた新しい本を出すらしい.
小嶋泉氏の『無限量子系の物理と数理』読むなら、年内に丸善から出版予定の同著者の本命『量子場とミクロ・マクロ双対性』も要チェック。 サイエンス社のサポートページ参考文献 108 http://www.saiensu.co.jp/?page=support_details&sup_id=348今年は Summer School 数理物理のテーマが (構成的場の理論を中心に) 量子場の数理だし, 小嶋先生の本が 2 冊出るしと, 場の理論づいている. このタイミングに乗じて, ブログの方でもこの分野を宣伝していこう.
ymatz さんが『ある数学者の弁明』のフリー翻訳をはじめるらしいので応援するアレ
このツイート だ.
こんなこと始めてみました。 「数学の目指す創造」というものが語られていて、面白い本だと思います/ ii log » 『ある数学者の弁明』を翻訳してみます http://ymatz.net/blog/?p=231
20 世紀前半のイギリスの数学者 G. H. ハーディ(1877–1947) がその晩年に書いた『ある数学者の弁明』という本があります。 すでに出版されている日本語訳もあるのですが、もう著作権保護期間が終わっているようなので、フリーの翻訳をつくりはじめてみました。数学関係者なら多くの人がこの本を知っているだろう. もちろん, Hardy は数学者として非常に優秀なので, 実績方面で知っている人も多いはずだ. それ以外にも優れた著書があり, それを知っている人も多いだろう. Hardy-Littlewood-Polya の『不等式』などはときどき論文にも引用されているのを見る.
Hardy は Ramanujan を見出した人としても有名だ. 詳しくは Wikipedia を見てみるといいだろう. 日本語版はこれ で, 英語版はこれ だ.
いい機会なので, 『ある数学者の弁明』を読んでみたいと思っている. 積読がたまっていく.
2013年5月11日土曜日
(楕円型) 非線型偏微分方程式という言葉が通じずに衝撃を覚えた記録
ここ で次のようなしょうもないことを呟いたら RT 経由で個人的に衝撃的なリアクションを頂いた.
非線型光学というのがあり, レーザー, 結晶や光ファイバーなども関係があるし, 非線型素子という言葉もあるくらいなので電気の人なら馴染みがあると勝手に思っていたのだが, そうでもないようだ.
別にリプライ先の方が不勉強だとか愚かだとか言いたいのではなく, 他学科における (非線型の裏にある) 線型性に関する認識, 想像以上に低いのでは, という危惧を抱いたからだ. 例えば機械工学周りの人なら流体などで非線型の方程式をがんがんぶん回すので, 同じ感じで線型・非線型という言葉はある範囲の工学系の人にはかなり自由に使ってよさそうと思っていたが, 結構まずそうだ. ある範囲には電気系も入っていると思っていたので想定外である. 電気系と言っても広いと言ってしまえばそれまで, とも言える.
だからどう, というのもあまりないのだが, 何かどこかでやるときの参考になるかもしれないと思い, メモを残しておきたい.
図解雑学 楕円型非線型偏微分方程式リアクションというのは これ だ.
非線形楕円型偏微分方程式とは語順が変えられている上に線型の字も変わっているが, とりあえず次のやり取りをした.
@_handyfox 楕円型の偏微分方程式と非線型偏微分方程式を両方調べて頂ければ良いのですが, とりあえずhttp://www.encyclopediaofmath.org/index.php/Non-linear_partial_differential_equation とか
@phasetr ありがとうございます。 何だかとっても特殊なものかと思ってました^^; 組み合わせなのですね、こんなサイトがあるのも、知りませんでしたヽ(´∀`)
@_handyfox 楕円型はともかく,非線型の「線型」は線型代数の線型なので, 特に難しいことないと思ったのですがそれはともかく,流体のナビエストークスだとか応用上大事な方程式がたくさんあります. 学部くらいで出る方程式は,非線型だと扱うのが大変なので線型化した物を扱うのが主です
@phasetr はい、私ら電気系学科の出身だと、電磁気学で習うような代物だと思います。 非線形は記憶にないだけかもしれませんが、やらなかったような気がいたします。 「楕円形」がよくわかりませんでしたが、式でわかりましたw
@_handyfox 一応書いておくと,楕円型(楕円形だと意味が変わってしまいます.formではなくtypeの意味なので) というのはラプラシアンみたいなものです
@phasetr メモメモφ(∇^ )気を付けます。 ラプラシアンですか、感覚的になんとなくつかめます。正直, ありとあらゆる意味で分かってもらえていないと思っているのだが, それはともかく, 電気系の方に楕円型はともかく「非線型」が通じないというのは衝撃的だった. 楕円型も勝手に字を変えられていること, それはそれで衝撃なのだが.
非線型光学というのがあり, レーザー, 結晶や光ファイバーなども関係があるし, 非線型素子という言葉もあるくらいなので電気の人なら馴染みがあると勝手に思っていたのだが, そうでもないようだ.
別にリプライ先の方が不勉強だとか愚かだとか言いたいのではなく, 他学科における (非線型の裏にある) 線型性に関する認識, 想像以上に低いのでは, という危惧を抱いたからだ. 例えば機械工学周りの人なら流体などで非線型の方程式をがんがんぶん回すので, 同じ感じで線型・非線型という言葉はある範囲の工学系の人にはかなり自由に使ってよさそうと思っていたが, 結構まずそうだ. ある範囲には電気系も入っていると思っていたので想定外である. 電気系と言っても広いと言ってしまえばそれまで, とも言える.
だからどう, というのもあまりないのだが, 何かどこかでやるときの参考になるかもしれないと思い, メモを残しておきたい.
2013年5月10日金曜日
Summer School 数理物理 2013 のスピーカーの 1 人, 九大の廣島先生の Nelson モデルの紫外繰り込み論文を眺めてみた
何度か話題にしている Summer School 数理物理 2013 だが, そのスピーカーの 1 人, 廣島先生の論文が arXiv に出ていたので軽く眺めてみた. Gubinelli-Hiroshima-Lorinczi の Ultraviolet Renormalization of the Nelson Hamiltonian through Functional Integration だ. Lorinczi は汎関数積分による構成的場の量子論で有名な人だ. Gubinelli は知らない人だが, Lorinczi の学生だろうか. 何はともあれこの論文を軽く眺めよう, という話だ. 専門の話題とはいえ, 詳しく読み込んではいないので興味がある向きは自分で追ってみてほしい. 参考文献として Lorinczi-Hiroshima-Betz による本を挙げておこう.
当たった文献を全て細かいところまで読み切れていないので. 実際どうなのか分からないのだが, 時々 1 体だけしか扱わない論文もある中, \(N\) 体系に正面から取り組むようだ. 前, QED の繰り込みでは \(N\) 体を扱うの大変とか見た覚えがあるので, 場合によっては多体系にするのがまだ本質的に難しいこともあるとぼんやり思っている.
扱っている Nelson モデルだが, これはスカラー中性子とボソンの結合系をモデル化していることになっている. スカラー中性子って何だ, という向きがあろうが, とりあえずそういう人工物を扱っていると思ってほしい. こういう人工的な系を考える理由として, 一番は数学的な単純化のためだ, スピンが効かないところだけを見るのだ, と強弁する. もっと積極的には, 今回のように発散処理にだけ集中したいから. 余計な要素があるとそこの処理までしなければいけなくなって, ただでさえきつい話がさらにきつくなる. そして読む方の負担も飛躍的に増える.
実はこの Nelson モデルの Nelson は 2011 年に The Inconsistency of Arithmetic で話題になった Nelson だ. 今は基礎論あたりにいるが, 元々構成的場の量子論にいた人だ, という小ネタをはさんでおこう.
またこのモデルの別の由来も挙げておこう. 例えば, QED でポテンシャルの 2 次を落としたモデルはこれになる. (もちろん正確には電子のスピンを無視している. ) QED の 2 次を落としたモデルは Lamb シフトを摂動ではじめて説明した論文で使われたので, QED からの意味もある. また, 電子-フォノン系と思ってもいい. この観点から Nelson モデルを見る, というのが私の主戦場だ. 正確には連続系は扱わないで格子系, Hubbard を扱っているのだが, それはもちろん相転移が見たいからだ. 念の為に言っておくと, この時点で上に書いた, 物理として QED の近似だというのがかなりつらい話になる. なぜかというと, 電子-フォノン系だと電子間に実効的な引力が発生する場合がある. QED ではこんなことは起きないので, 引力が発生しているとすると, 本来の QED では起きない現象が起きる可能性があって, モデル化がまずいという話になる. もちろん色々な系に適用するためには, 電子-フォノン系での結合定数はある程度一般にしておく必要がある一方で, QED なら結合定数は定数なのでその辺も色々あるが, その辺は純粋な物理の人の方が遥かに詳しいのでそちらに任せる. あと, 実は非平衡統計のモデルとしても使われる. 小さな系と熱浴の相互作用のモデル化に相当する. この線だとよく平衡への回帰 (return to equilibrium) という問題を議論する. 一部物理的にどうなのそれ, という話もあるが, 物理としては QED , 物性, 非平衡が, 数学としては作用素論, 作用素環, 確率論が交錯する面白い分野だ. 物理として問題を少し変えただけで対応する数学を変える必要があったり, 逆に全く違う物理に同じ数学が使えたり, さらには物理として同じ現象が違う数学ではどう見えるかを調べるなど, 数学, 物理, 数理物理としての見方, 研究ができて面白い.
脱線しまくったので本題に戻そう. 1 章ではモデルを定義している. Hamiltonian の定義などは, 比較的物理の人にも見やすい形式的な書き方も出している. 数学的に正確な書き方については新井先生の本の 12-13 章を参照してほしい.
(1.3) で \(\phi\) を実にするのを疑問に思う数学の人がいるかもしれないが, これは汎関数積分を使うときにはよく課す条件だ. こうすると Segal の場の作用素が可換になって色々と扱いやすくなる. 詳しくは上の本なり新井先生の本を読もう.
今回の論文の目玉は「電荷」分布の \(\phi\) を \(\delta\) 関数にする, つまり点電荷極限を扱うことにあるようだ. これは物理として自然な設定なのだが, 数学的に言うと死ぬ程扱いづらい設定になる. 物理として自然な設定が数学として死ぬ程扱いづらいというのはよくある話で, ここの戦いが数理物理本陣となる. 物理の人は当然数学としては適当に処理するが, かといって数学の人はやるモチベーションがない. そもそも数学的に本当に面白い保証もない. 面白い現象があることを示し数学者を巻き込むには数理物理の人間が実際にそれを示すしかなく, つまり我々の戦いはここからはじまる.
P3 に主結果が (1), (2), (3) としてまとまっている. UV カット (女性用化粧品の話ではない) をどうつけて, それをどう外して紫外発散を制御するか, 繰り込み処理するか, また抽象的な存在問題で終わらせず具体的にどう書くか, というところが問題だ. そこで汎関数積分を使う, というのがこの論文. ちなみに, 赤外発散しかまだやっていないが, 私はここで数学として作用素環を使っている.
論文にあるように, 単なる紫外発散だけなら, 1964 年に既に Nelson が処理している. 紫外発散処理は一応できることが分かっていたので, 赤外発散に集中していた (そして恐しく難しかった) というのが歴史的経緯になる. ここでは数学としては作用素論的に処理している. Nelson は Gross 変換というのを使っているのだが, これは私も修論でお世話になった. そしてこの論文では Gross 変換を使わないらしい. 前, Nelson タイプのモデルの紫外発散に関する [HHS05] の論文では, 作用素論的な手法で Gross 変換を使っていたはずだが, 今回はかなり違うらしい. この論文も読むのつらくて途中で投げた.
P4 (1.6) がこの論文でのキーになる (とはっきり書かれてている). 正確にはこの経路測度表示. 汎関数積分表示の何が大事かというと, 作用素の情報が具体的な関数で書けることにある. 作用素を直接扱うのは骨が折れる:ベクトル (関数) に対する作用しか見れず, その作用にしても作用前後で関数が大きく変わるからだ. 微分を考えると分かるが, 作用前に関数の大小関係が \(f < g\) だったとしても, 微分した後にどうなるかは一切分からない:反転することもあるし, 各点ごとに振る舞いが変わることもある. そういう作用素の特性を調べるのに, 具体的な関数を使えるというのは非常に大きい. ここでは内積の積分表示だが, 作用素そのものを直接積分表示で書く場合もある. 例えば反磁性不等式などが強力になる. 反磁性不等式は単純な作用素論では期待値を取ったあとの関係式になるが, 汎関数積分表示を使うと積分核による各点の評価に持ち込むことができ, 強い評価ができる.
(2) に関しては技術的な話っぽいので省略. 確率積分がどうの, とかそんな話.
(3) が個人的に面白い. 弱結合の極限で湯川ポテンシャルが出てくるという話. 実効ポテンシャルの評価がきちんとできる.
論文全体で 3 次元を仮定しているが, 結果自体はどの次元でも成り立つとのこと. 時々, 3 次元に特化する代わりに最大限シャープな結果を出す, という論文もあるので, こういう部分は注意して読みたい.
2 章に進もう. はじめにポテンシャルに関する制限 (仮定) が出てくる. \(V\) は有界連続とのことで, Coulomb ポテンシャルが含まれない. 特異性があるからやるとしんどいのだろうが, やはりこの拡張はほしい. 定理 2.2 で Hamiltonian を繰り込む. あとは定理の証明に向けてごりごり頑張る, という感じで章が終わる. さらっと書いたが論文の本体で P22 まで続くハードな解析だ.
3 章で実効ポテンシャルの話になる. ここでは分散関係を \(\omega_{\nu} (k) = \sqrt{k^2 + \nu^2}\) と仮定している. ここは既存の結果も使いつつ, 比較的さらりと終わる.
途中で Euclid 場の話も出るが, 付録に簡単な解説がある. 興味がある向きは Lorinczi-Hiroshima-Betz の本か, 新井先生の本を読むといい.
論文の本体はハードアナリシスで私が知らない (そして勉強したいとずっと思っている) 確率解析なので, あまり何もコメントできない. よく分かっていないのだが, 電荷分布を点極限にしているから紫外だけでなく赤外切断も外していると思っていいのだろうか. それならかなり強力な結果と言える. ハードパートを追っていないのでどこで有界連続性が本質的に使われているのか分からないが, これを完全に加藤クラスに持ち上げられると嬉しい. 加藤クラスには当然 Coulomb が入っている.
あと別件というか私がやるべきタスクだが, Hubbard-フォノン系で同じ結果を出したい. これは特に無限体積 Hubbard で確立したい. あとは温度を入れたときの振舞いか. Nelson でも平衡への回帰が大事だが, Hubbard では平衡統計というか物性としての意義がある. というか, 最近研究さっぱりやっていないし, Summer School 数理物理の前に 1 年以上放ったままの論文書き上げたい. 動画も作りたいし, したいことたくさんある.
2013年5月9日木曜日
RIMS の小嶋先生の論文 Derivation of Born Rule from Algebraic and Statistical Axioms を眺めてみた
別冊数理科学で小嶋先生が「無限量子系の物理と数学」というのを出すようだが, その小嶋先生の共著論文である.
Ojima-Okamura-Saigo の Derivation of Born Rule from Algebraic and Statistical Axioms だ. 小嶋先生の論文, モチベーション自体は強く物理に根ざしているが中身は完全に数学で, 読むのは死ぬ程つらい. 院で数学科に進学して, 数学上の専門は作用素環で同じはずの私ですらつらいので, 大抵の物理の人には読めたものではないだろう. 小嶋先生, たいがい滅茶苦茶に一般的な状況を扱うのが特徴だ. イントロで dually とかすぐに出てくるので, またそれか感ある. 12 ページと短かいので, 興味がある向きは直接読まれたい. ここでは私のメモとして残しておく:内容にあまり責任持てないので, 専門家はきちんと自分で読んでほしい.
アブストを読むと, Born ルールが出てくるような新たな作業仮説 (公理系) を提案したというのが主旨だ. いつも通り代数的場の量子論の枠で議論される. セクターと因子状態 (factor state) が大事という話. 因子は中心が自明な (von Neumann) 環のことで, 状態はその上の特殊な線型汎関数だ.
統計的な話を何とかしようというところで, Kolmogorov 流の定式化だと, 確率変数として関数を取らなければならないからうまくない, という話が出てくる. 量子力学ではこう色々と非可換な量を扱いたいから, ということだ.
2 節では代数的場の量子論の基礎となる数学を解説する. 3 節ではセクターが出てくる. セクターは一般化された相を表す概念で, ミクロな構造のマクロな特徴付けを表す量だ. 4 節で測定の話になり, 5 節で Born のルールを導出する.
2 節の題名は量子確率論だ. 数学だと可換だったのを非可換にしたときによく「量子~」と呼んだりする. 相当の濫用だと思うが, 深く気にしてはいけない. 必ずしも物理と関係しているわけではない, ということも強調しておこう. ここでは単位つきの *-環を考える. Twitter ではよく「単位元は甘え」とか言っているが, von Neumann 環なら単位元がなくても中心極大射影を単位元と思ってよくなるので, von Neumann 環の場合は普通単位元の存在を仮定する.
あと状態 (state) の定義だとか代数的確率空間の定義などをする. 代数的確率空間というのは, 単に単位元つきの *-環と状態の組を指している. Riesz-Markov-Kakutani の定理から, 可換な \(C^*\) 環上の状態は確率測度と思える. これの非可換版を考えているというだけだ.
代数的場の量子論でどうやって物理での普通のアプローチ, つまり Hilbert 空間を基礎にした定式化を復元するか, という話が GNS 構成定理・GNS 表現という話になる. これが定理 2.1 だ. von Neumann 環上の正規状態 (normal state) というのが出てくるが, これは Lebesgue の単調収束定理が成り立つような状態だ. 可換な設定ではないので, 状態から本当に積分論が復元できるかが分からない. もちろん復元できた方が色々とアナロジーも使えて便利なので, 復元できるような設定として von Neumann 環では大体正規状態を考える.
3 節でセクターの解説が始まる. quasi-equivalence (準同値) という概念が定義され, これを使って表現が disjointness を定義する. そして因子状態の準同値類としてセクターが定義される. 因子状態は単純にその状態の GNS 表現 (から作る von Neumann 環) が因子であることだ. 因子状態は準同値でないなら disjoint という強烈な定理があるので, それも併用している.
準同値を考えるのは, 代数的場の量子論が表現論を主軸に据える理論だからだ. 普通量子力学だとユニタリ同値で議論するが, 場の理論はこれでは足りない. 表現を取り替えて議論する必要がある. そこで表現をまたぐような概念として準同値が必要になる.
興味がある向きには物理的な議論として高橋先生の本の第 5 章の fixed source model を読んでほしい. ちなみに新井先生の「フォック空間と量子場」の 12 章がこれの数学的な解析で, 物理的に期待されるのと同じ現象を示す. さらについでにいうと, 13 章で議論される Nelson モデルも同じような振舞いをする. これは赤外発散が原因だ.
状態 (またはその GNS 表現) の disjointness はマクロな識別可能性を表すことになっていて, そこでセクターはマクロな分類の指標となっている. 作用素環をフルに使った文脈で相転移を議論するとこの辺が良く分かるのだろうが, 私自身は不勉強で全然分かっていない.
Subcentral measure とか色々出てくるのだが, この辺はさっぱりだ. 慣れで何となく気分的に納得してしまっているのはよくない. 中心が古典的な話に対応しているという話をしたあと, 測定の話が出てくる.
4 節の測定の話は全く分からないのでお手上げという悲しみ.
6 節で上記の「無限量子系の物理と数学」が引用されていた. 日本人以外のアクセス, 死ぬ程悪いな, という印象を受けた. 汎関数積分 (経路積分) の方の構成的場の量子論の論文で, 時々ロシア人 (多分) がロシアの教科書を引用してきたりして悲しみに包まれることがあるが, それを想起した. 何かもうさっぱり分からないが, 先日話題になった小澤先生の測定の文献も参照されていたりしたことだけメモしておこう.
代数的場の量子論で (とりあえず) 有界作用素だけ扱っていればいいのか, とかそういう疑問もあろうが, それは別の機会にやろう. Summer School 数理物理 2013 量子場の数理の予備知識みたいな感じでやれば, タイムリーでいいかもしれない.
2013年5月8日水曜日
アオイゼミなるネット塾を参考に何かしてみたい
アオイゼミ なるネット塾があることを教えてもらった. 時間的余裕がなかったのであまり見られなかったが, ニコ生などもやっているようだ. 普通の中学生向けの塾らしい.
「ライバル」も多いし, 今のところ普通の中高生向けに何かするつもりはないが, 最近この手の大学生が中高生向けにネットで授業を配信するサービスとか増えているので, 参考にして何かしたい. この間, 理研が施設公開のときに理論物理学者の展示をしたというのもあって, それなりに反響があったようなので, そういうピーキーなところを狙っていきたい. 理研とかぶったら勝負にならないので, 理研もやらないようなところでニーズがあるマニアックなところで何かする必要がある. 理研で今後もやっていく, という話はこの辺 で言っていたのでそれも紹介しておこう.
有難うございます.この手法はまだまだ改善の余地がありますが、拡げたいです. RT @TeraKen0510: 大盛況だったとのこと、おめでとうございます! アウトリーチの新領域の開拓ですね! >> 本日の理研の一般公開で「実験」してみた、理論科学者「理論屋」そのものを展示基本的に内容は今までやっていたのと同じ感じだが, 対象にする層を広くする感じでとりあえずやってみたい. ひとまず動画を仕上げよう.
2013年5月7日火曜日
理研で理論物理学者の展示をしたらしいが, 私も何か似たようなことしたい
理研で理論物理学者の展示をしたらしい.
行っていないので詳細は不明だが, Twitter で見る限り評判は良かったようだ. こういう感じのこと, 前からやってみたかったのだが実際に評判が良かったとのことなので, 私の見立ては間違っていなかった. 前に少し先生に相談したこともあり, そのときは色々難しいと言われたのだが, こういう研究所単位でやってくれることがあるようなので, 私としては個人のレベルで何かできることをしよう.
基本的に (子供の頃の) 自分が見たい・触れたいと思ったことに対しては, そこに興味を持つ人が一定以上いるということを大学ではっきり分かったので, そこに向けたことをどんどんやっていきたい.
2013年5月6日月曜日
Twitter まとめ:解析力学, 電磁気学, 相対論と幾何学の関係などを簡単にまとめてみた
ぼんてんぴょんさんと力学, 解析力学まわりで少し話をした. 参考になる向きもあろうかと思うのでまとめておく. この辺 からはじまる.
ふと思いついたが、剛体を考えるとき、質量のあるところだけに質点があるのでなく、 剛体の外側にも質量ゼロの質点が(空間全体に)分布していて、 これらが剛体との位置関係を保ちながら動くと考えれば、「そこに質点があるか」を気にしたくないときに記述しやすくなるのではないだろうか。
@y_bonten 状況良くわかっていないのですが、いわゆる場の理論はその感覚近い気がします。 電荷がなくても電場なりが空間にきちんとあるみたいなそんな感じ
@phasetr ありがとうございます。 確かに、電荷から解説が始まっても、いつの間にか電場のほうが主役に躍り出ていきますよね。あとこの辺.
座標系にまつわる問題が古典力学の理解の大きな壁になっていることは間違いないと思う。 「ある座標系で考えると煩雑になりすぎて実質無理」という状況はともかく、同じ現象をどの座標系で考えたって、 表現が異なるだけで辻褄が合わないといけない。それを確認するのが勉強だと思うのだが(以下略
@y_bonten それ、正に解析力学です。 相対論でも大事で、多様体論の基礎にある思考でもあります
@phasetr なるほど、では同じ心がけでそのあたりの分野も勉強してゆけば良いわけですね。 意を強くしました。
@y_bonten 多様体論自体が解析力学を起源にしています。 シンプレクティックのあたりです。 相対論も座標変換による方程式の変換の問題という面があるので
@phasetr そうなのですか! こういうロードマップを示していただけるのは本当にありがたいです。
@y_bonten その辺をもっと積極的にやろうと思ってブログ始めました。 Twitterでもときどきやっていましたが
@phasetr よく読ませていただいています。 今後も期待しております。こういうと嫌がる数学の人もいるのだが, 解析力学と電磁気学は数学に影響を与えている. 上で書いた通り, 解析力学は多様体論の母体になっている. 電磁気学は物理のゲージ理論の一番簡単な例だが, このゲージ理論は数学のゲージ理論につながっている. またベクトル解析は電磁気学を整備する中で発展した数学で, ベクトル解析は多変数の解析学で大事だが, より強く幾何学でも de Rham 関連でとても大事.
あまりまともに物理の本を読んでいないのであまり詳しく参考書を挙げられないが, 一応知っているものは挙げておこう. 有名なだけで読んでいない本も挙げるので, ご注意頂きたい.
山本義隆の解析力学は物理の本だが, 物理の初学者が読むと間違いなくつらいので, もう少し物理として簡単な本を読んでからにした方がいい. 実際, 学部 2 年時の私にはつらかった. ただ内容が豊富なので面白いのは間違いない. また, 素粒子など幾何学が必要な人が手始めに読む本としてもいいのかもしれない. そちらはよく分からないので何とも言えないが.
深谷先生の本は読んだことがない. 評判はよいのでとりあえず挙げておいた.
太田浩一の電磁気学だけ読んだ. マクスウェルは読んでいない. 電磁気学の方は相対論や量子力学との関係についての話題があり, 色々なつながりが見えて読んでいて楽しい. ベクトル解析や Fourier なども適宜解説されている. 物理の中で数学を学ぶ, という点でもそれなりに使えるだろう. ただ, それなりにハードな本なので読みこなすのはしんどい.
理論電磁気学は計算が丁寧なのがいい. 特に電磁波や散乱周りは計算が物凄い面倒なのだが, そういうところで参考になる. 計算できないなんて軟弱な, と思う向きもあるだろうが, 専門というわけではなく速習が必要だったり, 久し振りに復習するときにさっと計算を確かめたい場合などには重宝するだろう. また, 物理を楽しみたい, という向きで計算も頑張りたいが一人はきつい, という向きもあろう. そういうところにとってもこういう本があるのはいいことだと思う. 実際に色々書いてみると分かるが, 細かいところは面倒なので飛ばしたくなるので, 結構こういうところは適当になりがちだ. 専門書だと計算をきちんと追い切らせることも大事な訓練なので, 余計に省かれる傾向にあるから.
2013年5月5日日曜日
応用数学だとか数理工学だとかの何かアレ
経済とか物理について Twitter で これ とか これ みたいな呟きしていたら, こんなツイート を見つけた.
数学から工学に移ったときは都落ちしたような悲哀を少し感じていたものですが 「工学の問題にどうやって数学を使うか」という問題はやってみると中々面白いです。 ノイズ、精度、計算コストの制約があるので単に数学的に解けば良いわけでもない。 そういう事がわからず、最初はかなり空回りしました。前にも書いたが, 応用数学というべきか数理工学というべきか, 工学での数学というべきかよく分からないが, つどいあたりでこの辺, 紹介してみたいと思っている. 参考にしたいのはこの辺.
あと Google のページランクや符号理論の話とかしてもいいのか, とふと思った. 興味がある向きはページランクは これ とか, 符号理論は これ とか参考にしてほしい. 次のような本もある.
折角だしこの辺もどこかで話そう. 動画も改めて作りたい.
2013年5月4日土曜日
経済や物理で必要な数学についてのやりとりまとめ:微積分と線型代数をきちんとやろう
Twitter で これ とか これ みたいな呟きしたら教官含めいくつか反応があったので, 折角だから記録しておく. まず上の元呟きを転記しておこう.
https://twitter.com/gametheory4/status/324829386643763200 よく分からないのだが経済,本当に数学必要なの
数学関係者, 経済の数学というと無駄に確率微分方程式を押してくるが, そんなのを使っている経済の人, 実は経済学内部では異常者だったりしないの適当にやりとりをまとめておこう.
https://twitter.com/gametheory4/status/324829386643763200 よく分からないのだが経済,本当に数学必要なの
【経済学部生間の数学力格差についてっていう論文かきたい((o(∇^)o))】
@phasetr ゲーム理論とか必要では.
@phasetr 勉強するのにも高校+αの微積分と線形代数は必要なのでは? 後、確率微分方程式とかゲーム理論とか使う分野もありますし。
@functional_yy ゲーム理論の難しさ, 数学の難しさというより現実とすりあわせた仮定を設定する難しさという印象ですが素人なのでよく知らないというアレ. あと皆が皆ゲーム理論必要なのでしょうか. これもよく知らないので
@hymathlogic 統計学ができる程度の能力を持たない大学生は一人残らず射殺すべきという見解です
@hymathlogic 正確には統計学が必要な学部学科,という条件下で
@phasetr 統計学ができる程度の数学力,と書いた方が良かった
@phasetr 分野により使う数学も変わってきますね. 統計, 確率, 微分方程式, ゲーム理論, 認識論理(論理学)など.やりとりその2.
@hymathlogic 統計学ができる程度の能力を持たない大学生は一人残らず射殺すべきという見解です
@phasetr 統計学ができる程度の数学力 #とは
@greengrimghost 教養程度の微分積分と線型代数が使える.「理解」は問わないやりとりその3:教官陣と.
@phasetr なるほどその程度なら
@phasetr https://twitter.com/phasetr/status/324845187148943361 とhttps://twitter.com/phasetr/status/324838051627032576 と見比べると, 相転移Pさんは,物理学も経済学も異常な一部を除けば数学はいらん,という主張(もしくはそういう数学の定義)という理解で良い?
@tetshattori 経済の方は確率微分方程式とか無茶なのばかりよく出てきますがそこまで無茶なことしないと経済できないの,という話です. 物理に関しては微分積分と線型代数の守備範囲なめてんのか,という話です. この辺を極端な形で表現しました
数学以外の数学はとても難しいのです。(^^;; RT @phasetr: @tetshattori 経済の方は確率微分方程式とか無茶なのばかりよく出てきますが そこまで無茶なことしないと経済できないの,という話です
@tetshattori 社会学にとって最低限必要な範囲の統計学が処理できる程度の数学力を持っていない学生は 問答無用で殴り倒すことを前提にしています
@phasetr つまんないこといっちゃうけど,「何が数学か」とか「どのように使ったら使ったと言えるか」とか, その手の問いは(研究においては)してもしゃあない気がします @kyon_math
@tetshattori @kyon_math 一応,背景としては新入生が線型代数は何に使うの, という感じで苦しんでいるのでとりあえず物理(と物理を使う工学)では大事だし, 教養の線型代数と微積分できれば相当範囲の物理できますよ,みたいなことを言っておこう,という感じです
@tetshattori @kyon_math 細かいこといえばきりがないというのはいつもの話で, 細かい話が気になる人たちから突っ込みが来るのは当然として, そういう層に向けたメッセージではないので,今回のような分かっている人からの突っ込みは別途処理ということで
@tetshattori @phasetr 「数学をどのように使ったら」と言うのはとても大切で、そのような視点からの発言です。 誤解のないように。
@phasetr その文脈ならば経済学は,微積線形に凸解析(分離定理)を加えておけばかなり,かと (それでゲームとファイナンスが少しやりやすくなる)余談として これ とか これ も足しておこう.
数学から工学に移ったときは都落ちしたような悲哀を少し感じていたものですが 「工学の問題にどうやって数学を使うか」という問題はやってみると中々面白いです。 ノイズ、精度、計算コストの制約があるので単に数学的に解けば良いわけでもない。 そういう事がわからず、最初はかなり空回りしました。
@各位 Twitterで極端な話をすると教官陣から突っ込みを受けるし現在進行形で私が突っ込みを受けているので, それが怖い向きは十分に注意するように. あとRTで回ることまで念頭に置くように
2013年5月3日金曜日
Twitter まとめ:高校生との対話 物理に必要な数学的なアレ
いつもの通り, 数学がどこで必要なのか分からないとなかなかつらいだろうから, まずは物理をやったら, という話をしてきた. あと, 自分の手持ちでどこまで戦えるか挑戦してみる機会でもある. 人によっては既存の数学で解決できないなら自分で数学を作る必要だってあるから. また, 大学に行くと嫌でも先に数学やらされる羽目になる (こともある) ので, 見られる部分は見ておいたら, というのもある. この辺 からはじまる.
テンソル解析って数学的にはどこに繋がっていくんだろう
@qpnv 多様体上の解析学,微分方程式とかでは
@phasetr そうなのですか。 物理への応用みたいな本をパラパラ見ていただけなので数学的な繋がりがよく分かっていませんでした。
@qpnv 解析力学や一般相対論方面だと正に多様体上の解析学という感じになるでしょう. その辺あまり詳しくないのですが. 流体とか言う方なら単純に(非線型の)偏微分方程式かと思いますけれども
@phasetr 一般相対性理論も興味があるのですが、多様体も学ぶ必要があるのですね。 多様体についても調べてみます。
@qpnv いわゆる曲がった時空というのが擬リーマン多様体という多様体なのですが, 少なくとも入門段階ではその辺の数学的なことはいりません. あまり数学に気を取られずに,必要になったらその都度やって行く方がいいです. 物理に興味があるならまずは物理からやりましょう
@phasetr 必要になったら学ぶ、というスタンスの方がいいのですね。 分かりました。バリバリ物理をやっていきます。
2013年5月2日木曜日
数学が役に立つ状況を真剣に検討したところ深い悲しみに包まれた
数学が何の役に立つかとはよく言われるし, この間も記事にした. 社会とか世間の役に立つか, というのがよくある (下らない) 回答だが, 質問者にとって何の役に立つかという疑問であって的外れでは, という話もよくある. そうなると個々人の状況にもよるので一般には何ともいえないので, 個別に論じる必要がある. その辺を適当に書いてみた. この辺 からはじまる.
数学が何の役に立つかということについて真面目にいうなら, 状況によるとしか言えない. 例えば適当な恋愛対象にモテたいと思ったとしよう. 基本的には数学がモテるのに役に立つかと言われたら, むしろ悪影響しか与えないと思っていい. この辺は加藤先生などを参照してほしい
@phasetr ただし, 何かの間違いで福山雅治のようなアレな人が何かの間違いで物理学科に進学してしまい何かの間違いで真剣に物理を学んでしまい果ては准教授になってしまうなどの不幸が重なったとしよう. そしてさらなる悲劇としてそのような異常者に恋をしてしまったとしよう
@phasetr ガリレオを見ていないので湯川学御大の嗜好は分からないが, 物理とか数学に興味なさそうな人には何の興味も示さなそうな異常者の趣があるので, こういう場合には数学が役に立つ可能性があるが, 今のケースはむしろ物理をやった方がいい
@phasetr とはいえ, 色々な人がいるので物理学科や数学科の人間といえど全員が全員異常者というわけでもなく, 社会性に溢れる人間もいるし, 物理とかやってそうな人はちょっと, と言いそうなのもいる. したがって状況によるとしか言えない
@phasetr 他にも明日にも死にそうな母を助けたい, とかいう状況でKasparovのKK theoryが何の役に立つ, とか言われてもかなり困るし, 結局悲しみしか呼ばないことが分かる今日も社会は悲しい.
2013年5月1日水曜日
実に実に下らない呟きを見かけてげんなりした悲しみを歌う方の市民
何か大分アレな呟きを見かけた:元のアレな呟きは これ.
実力よりも数学力を高く見せるハッタリ力をもっと身に着けなければこれに対して色々呟いたのをまとめておく. この辺 からだ. 意味不明なのを通り越して馬鹿馬鹿しいのを通り越して頭に来る.
https://twitter.com/ranoiaru/statu/324191740963745793 こんなの身につけてどうするのだろう。私なら死ぬ程がっかりする
時々ネタっぼく実はまともな内容をつぶやいているが、 一回そこで変な絡み方をしてきた人に幾つか参考文献と共にコメントをしたらブロックされた覚えがあるが、 いつのどんなのだったか思い出せない
@yukimi_go 元ツイートの意味がよく分からないのですが、 例えば分からないものを分からないと言えないのは知的怠惰であって最低もいいところです。 知識とか理解とかは二の次で気概というか情熱というか、そういうものこそ見せてほしい。 第一、分からないことがあるから研究するのであって
https://twitter.com/ranoiaru/statu/324200352104730624 どこの社会で生きていたいのかよく分からないが、すくなくともそれで理学部、 もっというなら大学にいるの辛いだけでは、という感じ。 できるようになりたい、というならわかるが、実態は違うのにそう見せたいとか本当に分からない
@phasetr いいとか悪いとかではなく、ただただ不思議。 生きるのつらそう。 人のこととか考えない、ろくでなしの理学徒で良かったとつくづくおもう
究極的には、どこかしらで、分からないの、あー楽しいという穀潰し感を興味あるところで発揮したい。 分からなくてもどうでもいいのは世の中掃いて捨てるほどあるし
https://twitter.com/papa_mangiferastatus/324197124810104832 優秀な子、何があろうとも勝手に駆け上ってくるので尊く愛らしい
@__5j 今私がしたいことを考えてもいい評価はしてくれないと本当に困るのでそこは分かりますが、 わざわざしんどそうで価値観合わなそうな可能性の高い数学周りにいない方がいいのでは、という感じでしょうか。 評価されたいなら何か分かりやすい工学とか行った方がいいのでは的な
これも何度だっていうが、学部が物理だったから数学的専門と遠い代数と幾何、 そもそもまともに勉強すらしていなくて本当に知らないのだ。 そして大学生に求めるのは数学が好きか嫌いかとかそんなくだらないことではなく、私が見たことない世界を見せてくれることだ。 私は数学と物理で人にそれを提供する
@phasetr うみさんの生物とか死ぬ程楽しみなのだ。 これはブログにも書いた、学部一年時に化学の人からかけてもらった無条件の信頼が強く私の心に残っているからでもある
一応言うだけ言っておくと、数学嫌いとか言われたら首を締め上げたくなるほどイラっとくることだけはお伝えしていきたい
アレだよ、大学に求めているのは俺より強いやつに会いに行くとか、おめーつえーな、ワクワクすんぞ!という中二病の穀潰しだ。 もっというなら彼らの支援のためにメチャメチャ金儲けしたい。 そのお金で穀潰しをたくさん養いたい
できるできないなんて本当にどうでもよくて、 ただただ対象と殴り合ってタコ殴りにされていて悲嘆にくれるくらいが私の普通であっていつだって涙にくれている何か当人, 名古屋大学に出入りしているらしいが, 名古屋の人間にそういうのが通じるとでも思っているのだろうか. 自分より優秀なのには大概そういう振りは完璧に見抜かれていると思った方がいい. 陰で馬鹿にされているのでは, という気すらする. 私の学生時代の知り合いにこんなのいたら, 馬鹿にするのも時間の無駄なのでそもそも相手にしない. したくないのではなく, そもそもしない. だってつまらない. 理屈ではなく感情の問題だ. 訳が分からないことに必死にくらいつく無様な姿がよい, くらいの感覚を持っている.
はったりで何とかしようという心性, 根本的に知的営為に向かない.
あとオペのコンPに叱責されたひどい呟きがあるので, それは別に特記しておこう. これ だ.
https://twitter.com/phasetr/status/324204397091487745 … ちょっとぼかしすぎたようなのでもう少しはっきり言うと, 例えばもの作る分野にハッタリで評価されようとしている人が来ても実力なかったらバレるし相手にされないですよね という話です.
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