まず 26 分くらいで「超弦理論の余計な 6 次元は素粒子模型の構造の起源. 6 次元空間は複雑で距離さえ測れない.数学者でも無理」という発言があった. これで何を言っているのかが気になる.
「数学者でも無理」ということは物理的な測定法という話ではないと思うのだが, そうなると何の話をしているのだろう. 6 次元というのは複素 3 次元の Calabi-Yau 多様体の話をしているのだと思っているのだが, これは Kahler (a にはウムラウトがつく) なので一応は計量がある. 現象を説明するのに適切な計量の存在または選択みたいな問題かと思ったが,その辺は良く分からない.
大栗さんからは次のようなお返事を頂いた.
@phasetr コンパクトなカラビ‐ヤウ多様対については、 計量テンソルが存在することは証明されているが、 その具体的な形がわかっていないということを噛み砕いて述べたものです。
Calabi-Yau 多様体はWikipedia をご覧頂きたい. どうでもいいといえばどうでもいいが,「しかし、他にも同値ではない多くの同様な定義がある」という記述にびっくりした. 同値な定義ならもちろん色々あるのは普通だが,非同値なのを挙げるというのも凄い. 「コンパクトなケーラー多様体が単連結であれば、上記の弱い定義と強い定義は一致する」ということなので, それでもいいと思う気持は分からないでもないが.
それはそれとして,いくつか説明を追記しておく. Calabi-Yau の定義は省略するが,まずコンパクトと計量テンソルを説明する.
コンパクトというのは「有界閉集合」のことだ. 有界というのは「無限には大きくない」または「必ず有限な大きさの球体に含まれる」という意味だ. Calabi-Yau が超弦理論で出てくる文脈では「小さい」と言っていいのかもしれないが, コンパクトだからといって「小さい」と言っていいわけではない. 「無限には大きくない」と言っておけば(今の文脈で)間違いはない. ちなみにここ「有界閉集合」といったのは Riemann 幾何の基本定理,Hopf-Rinow の定理を前提にしている. 本当は多様体の連結性を仮定しなければいけないはずだが,細かくなりすぎるのでやめておこう.
計量テンソルというのは多様体の曲がり具合を表す. 講演でも話があったし,一般相対論なりなんなりで「時空が曲がっている」という話があるが, この曲がり具合を指定するのが計量テンソルになる.
ここで大栗さんから「存在は証明されている」というコメントがついているが, その存在証明をしたのが Calabi-Yau の名前にある Yau だ. この業績で Fields 賞を受賞している. その元の問題であるCalabi 予想についてはここを参考にしてほしい. 大栗さんのコメントは,懸案だった大事な計量の存在自体は示されたが(一般に)具体的にどんな形かが分かっていないということだろう. 具体的な Calabi-Yau 多様体に対しては分かっているものはあるはずだが, 物理で出てくる全ての Calabi-Yau に対して分かっているというわけではないのだろう.
【追記】n 次方程式で例えるとこうなる:「代数学の基本定理から n 次方程式に n 個の解があることは分かっているが, 具体的に解の値が何かというのはこの定理だけでは分からない」. こういう感じで適切な曲がり具合が何かあることは分かっているが, 具体的な曲がり具合が分かっていない.
【追記】
ちなみに Yau の証明そのままかは知らないのだが,予想の証明自体は下記の本に書いてあると思う. 詳しくないので間違っているかもしれないが,それはご容赦願いたい.
また,この辺の問題は Einstein-Kahler (Kahler の a にはウムラウトがつく)計量の問題として今でもまだ色々な議論があるようだ. 中島啓さんの次の本にある程度まとまっている(と思う).
そういえば,中島啓さんも Twitter にいる. 最近は上記の本で議論されているような問題からは離れて代数的な表現論関連の話を研究されているようだが, 詳しくは知らない. 興味がある向きは詳しい人は Twitter 上にも色々いるので,そういった方々を掴まえて聞いて頂きたい.
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