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2013年5月14日火曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 セミナー初回の内容をもう少し詳しくした


なかなか時間が取れなくて非常にアレなのだが, 大体話したいことはピックアップした. Twitter で この辺 から適当に呟いたのは下にまとめる.

その他, あとで動画にもする予定で, そこではさらに詳しく話す予定なので, それに合わせて今から詳しい内容も作っておきたい. 特に特殊関数周りの具体例を色々あげておきたいと思っている. 今すぐに見たいという向きもあろうから, 参考文献を軽くあげておこう.

全体的な話として, まだ買っていないのだが「直交多項式入門」がかなり気になっている.


とりあえず触れようと思っているのは, Legendre 多項式, Legendre 陪関数, Hermite 多項式, Laguerre 多項式, Fourier 級数のあたりだ. ちなみに今はじめて知ったのだが, Chebyshev 多項式は この PDF によると, 計算機の中での応用があるらしい.

Legendre や球 Bessel については この PDF が参考になるかと思う. 自分が知っている話, ということで物理への応用について話す予定で, 正にそういう話だ. Laguerre は例えば この PDF を検討している. 上記多項式もそうだが, Hermite についても手元にある本含め, まだ資料をあさっている.

今すぐ参考文献を知りたい向きは, 基本的には偏微分方程式を解くところで使うので, その辺で探すといい. 「物理数学 Legendre 多項式」などで探せば色々出てくる.

Fourier は熱方程式, 波動方程式, 電磁気学あたりで探すといいだろう, 数学の本ではあるが, 逆問題を通じた応用的な色彩が強い本として, 波動方程式への応用については下記の本の前者を, 熱方程式への応用については後者を参考にすると楽しいだろう.


物理への応用に関してよい参考書は今探しているところだ. 波動の本でもいいが, 電磁気 (電磁波) からの話が個人的に気に入っているというか感覚が掴みやすかったので, その辺で探すといい. もちろん, 自分の専門に近いところ, 自分にとって分かりやすいところで探すのが一番いい. いいのがあったら教えてほしい.

多項式から話題を変えるが, 例えば変分というのがある. 変分原理として物理の各所で現われるが, 量子力学で基底エネルギーを出すのに使うこともある. 実係数の微分方程式への数学的応用ということでは Brezis の本が定評がある. もちろんかっちりとした数学の本だ. Hilbert 空間を中心に議論されている. 最近演習問題も追加された英語版も出版されたので, 買うならそちらを買った方がいいかもしれない. 東大の微分方程式系の研究室での学部 4 年のセミナーでも使われることがあるようなので, そのくらいきちんとした本だ.


また, 何度も紹介しているが, 解析力学というか幾何学での変分ということで次の本が比較的分かりやすく, しかも面白い.


読んだことはないのだが, 物理での変分原理については次のような本もある.


これまでの微分方程式の話とは大分変わるが, 作用素論につなげるので, 量子力学とスペクトルの話もしたいと思っている. これについては日合-柳本はもちろんのこと, 数理物理としては新井先生の本がいい.

   
量子力学での変分に関する数学的に精密な話も書いてある. 他には, 作用素の関数やユニタリ表現に関する話も大事だ. 作用素の関数については先日ワヘイヘイオフで詳しい話を聞かせろ, という要望を受けたので, 別途早めにまとめようと思っている.

では以下, Twitter での発言を抜き出しておく.
Hilbert 空間から始めるよく分からない数学のセミナー的なアレの原稿, いい加減作ろう. イントロでずっと固まっているが, そろそろ具体化したい. イントロだけはもう少し線型代数全般について話をしたい 
まず超大雑把に言って教養でやる線型代数らしい線型代数と, 微分方程式方面と関わる方面の話と, 関数解析または作用素論的な抽象論みたいな感じの話がある的な話をする 
加群への展開とか, Lie 群への展開とか数学として取り逃すところは色々出てくるが, この辺は私の数学力的に手に負えないところが出てくるので色々ある, とだけ言って逃げる. ただ表現論とFourierと, みたいなところと量子力学とかは少し触れたい 
Hilbert 空間の抽象論と作用素論的な展開と量子力学との関係的なアレはあとで詳しくやるから, 軽くこなす. まずは有限次元の方か 
有限次元と言ったところで専門に近い所で見ても色々あるし困る. とりあえずハバードだとか, 直接的に研究に結び付くくらいやばい, という話はしよう 
あとは数値計算でも使う的な話は入れよう. 微積分との絡みで平衡点近傍の安定性とかそんな話もしよう 
脱線するが, 平衡点近傍の話, 多分力学系とかそういうところでも使う. あまりきちんと勉強していないが, 山本義隆の解析力学にも解説あるし, ゆきみさんいわく常微分方程式と解析力学にも解説あるらしい 
これは適当な線型化から系の性質を調べるとかいう話で, 微分積分や力学とも深い関係がある. 機械工学とかその辺でも確か出てくるはずとかそんな話をしたい
あと標準的なコースの重要性はきちんと言わないといけない. 行列式と固有値, 固有ベクトルあたりは何をネタにしよう. 物理の各所で出てくるが. 固体物理というか連成振動とかその辺か. あと統計学での主成分分析とかそういう話か. この辺, 具体例を仕入れる必要がある 
固有値, 固有ベクトルは量子力学とかその他物理でも色々展開があるという話はしよう. 物理の話ばかりしているのもどうかという気はするが, 応用はそれしか知らない無学な市民だった 
Googleのページランクみたいな話もしよう. 確率との関係とかエルゴードとか言っておくと響く向きには響くだろう. これ, 数値計算とも関係するかなりクールな話なので盛り込みたい 
とりあえず有限次元はこんなものか. 無限次元というか微分積分への接続として平衡点近傍の話をもってくる方がいいか. あとは微分作用素と積分作用素の線型性は必ず触れる. 我が魂 
@aki_room 毎回2時間くらいのを4回くらいの予定です. ヒルベルト空間とその上の作用素論を3回でスペクトル分解までやろうという無茶な企画. まともに回るか分かりませんが,とにかく一度やってみようという無茶企画です 
http://tinyurl.com/d6ggdkr 【phasetr 【参考】 http://www.ulis.ac.jp/~hiraga.yuzurugf/LA/matlab/gallery.shtml】 
@JosephYoiko ありがとうございます. 例を作って図示まで自分でやるのは結構手間なので助かります 
関数解析的な意味での無限次元の線型代数, 何を話そう. 時間があるから適当に抜粋するが, ネタとしては色々書いてためておこう. まずはブログの方にも書いたTaylorと微分作用素の関数と並進とかその辺か 
あと微分作用素の固有値展開からのFourierか. Fourierは高校でやった三角の積分が直交関係を表す的な話は入れないといけないだろう 
今回, 個別の話をやっている余裕はなかろうがLegendreやらBesselやら, 量子力学とか電磁気周りでの微分方程式を解くときにも出てくるという話も盛り込みたい 
これは個別の関数の相手もそれはそれで大事なのだが, 理屈としては線型空間論で一括処理できるのだ, という認識を持つことで数学的, 精神的な負担を減らすことを目的に, 必ず触れるようにしたい 
あとアレだ, モノによっては多重極展開とか応用上の意味があったりもするから, 単なる数学ではない部分もある的なアレ. 変分とか無限次元の微分とかいう話はすると楽しいかよくわからないが, ネタとして書いておこう 
イントロはこんなものか. ネタ多すぎるので確実に削るが, 他にもどこかで話すなり, 最終的に動画にするときには盛り込むからいいか. あとスペクトルの話はきちんと触れ直そう 
関係ないが, 今日の math-phys の arXiv に非可換調和振動子に関する廣島先生と佐々木さんの論文が出ていた. これはこの間の埼玉大のセミナーでも少し話したが, 若山先生が最近やっているやつで数論というかゼータと関係があるやつ
考えてみれば, Hubbard や Google のページランクについては動画を作ったのだった. それも紹介しておこう.

2013年4月16日火曜日

役に立つ数学という話, いい加減うんざりだ

新入生向けということで次のようなツイート があった.
この春、大学に入学した人:一般教養の数学の線形代数は、一生に一度の機会だと思って真面目に勉強しよう。 数学専攻以外でも機械学習/制御理論/信号処理などなどでも必要。 将来30,40歳になって機械学習について知りたくてPRMLを読みたいと思っても線形代数勉強してないと辛いよ。
この辺に関してタイムラインでいくつか反応があった. そしていつも言っていることではあるが, いい機会なので簡単に見解をまとめておきたい. Twitter の呟きとしては この辺 からはじまる.
https://twitter.com/tmiya_/status/19965623822192641 線型代数も知らないのに研究しようとか頭おかしいとしか思えない 
線型代数は役に立つし私の専門だが、私は役に立たない 
https://twitter.com/zusanzusan/staus/321114419142733824 工学での便利さは使っている当人たちが一番良くわかるというか、 むしろ当人たちにしか分からないから自分たちで何とかしてくれ感ある。 物理と関わるところでの話なら分かるが触れたところない部分ではどうにもならない 
あと役に立つからとか便利だから、とかいうのもういい加減どうにかして欲しい。 何の役に立つ、と言われたからこんな役に立つ、と返したら、自分はそんなの関係ないと言われるの、もううんざりだ
まず工学で何の役に立つ, という話だが, これはやはりやっている当人達から情報を出してもらうしかない. もっというなら, 自分達で学生を教育してもらうしかない. 学問ごとにどんな数学をどう使うかは大きく違うからだ. 例えば, 建築や土木, 機械工学などでは微積分で大事なのは実際の色々な計算だろう. ただ, 情報では \(\varepsilon-\delta\) 論法のような論理的な側面の方が大事だと聞いた. 同じ微積分であっても学問によって強調したい部分が変わってくるようなのだ. これは各専門内できっちりやってもらうしかない.

また, 上記の機械学習だと大事なのはむしろ統計学ではないのか. 統計学の中で使うから線型代数が大事なのだと思うのだが, 実際にどうなのかはやはりやっている人しか分からない. こういう感じで門外漢にはやはり見えない部分がある. また, 数学の人間にカバーさせるのには限界がある理由として, 多分本を読んでも線型代数を使っている場所が良く分からないだろう, というのもある. わざわざ線型代数に一章を割いていたりすれば使われていること, そしてそれを強調したいということは分かるが, 大抵は色々なところでちょこちょこ使われているという感じだろう. こういうときにその学問での線型代数の使われ方をうまくピックアップするのは不可能に近い. いちいち講義を担当する学科に合わせて色々な本を読み込んで講義しろ, というのは簡単だがどう考えても色々な意味で無理だ. また, 将来全く使わないとしても, 一度は数学科の数学に触れてもらいたいと思う数学科の教員なら, やはり応用が大事と言われても数学としての線型代数を伝えたいと思うだろう. その辺のバランス取りや調整は難しく, 各専門課程できっちりと教育する方が速い.

ちなみに, 物理や関係する諸工学での線型代数なら私でもある程度カバーできる. 物理学科だったので物理の中でどう使うか分かるからだ. その辺をやろうというのが今色々考えている「Hilbert 空間から始めるよく分からない数学」だ.

そしてもう一点, 根本的に「数学が役に立つ」という話, やめにしてほしい. 例えば実例として, 以前 Twitter で「数学が何の役に立つ」と言っていた浪人生がいた. 彼/彼女に, それこそ線型代数が Google 検索技術としてページランクに使われているという話をしたら, 「自分は Google のページなんて使わない」と返ってきて唖然とした. ちなみにその後に「頭のいい人達はもっと社会を何とかしろ」みたいなことを言っていた. その頭のいい人達が数学を色々使って役に立つをしていることもある, という話だったのだが.

「数学が何の役に立つ」「こんなところで役に立ちます」「そんなのは私には関係ない」というやりとり, 実は頻出だ. 理由は何だか知らないが, やりたくないというなら素直にそう言ってほしい. そうすればこちらも「ああそうですか. 大変ですね」とさらりと華麗にスルーできる. 役に立つかどうかとかいうどうでもいい話をしたり吹っ掛けてくるの, ただただ不愉快だからやめてほしい. そういうのは実際に役に立てている人達, 特に数理工学やら応用数学の人達に聞きに行ってほしい.

あと, ページランクの話は前に動画を作った. これ だ. 興味のある向きはご覧頂きたい. 私は読んでいないが, 次のような本もあるので, 紹介だけはしておこう.





追記

後で見たらこんなの もあった.
この春、大学に入学した人:一般教養の数学の解析は、一生に一度の機会だと思って真面目に勉強しよう。 数学専攻じゃないのにε-δ論法とか何の役に立つかと思ってるかもしれないけど、 ここで∃とか∀とかの使い方を理解しないと将来Coqとかで証明付きプログラムの開発をするとき苦労するよ。
Coq 使う人どれだけいるの, という感じだが, 使う人は使うしまあいいだろう.

2013年4月9日火曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学のリアルセミナーをやりたいので東大数理各位にご協力頂きたい

この間 TL で新入生が線型代数何ぞ的なこと言っていたのもあるので, 新入生向けに線型代数の世界を見せたい. 私が話せるのは解析学周辺しかないが, ないよりはましだろう, ということで. 大体, Hilbert 空間と線型作用素を基本に話す予定. モチベーションを高めることを目的に概論的な話で 4-5 回くらいに収めたい. というわけで, 東大数理の学生で, 話すための部屋確保に協力して頂ける方を募集している.

  
やる予定の内容を書いておきたい. 基本的には抽象論をやる. 作用素論方面の話に行ってスペクトル定理くらいまでやりたい. 作用素環などで大事になる方向だ. 非可換幾何への展開でまた \(L^2\) などとの関係が返ってくる. あと, \(L^2\) のような話は具体的な話はもちろん大事だが, これはイントロで少し触れるだけにする.

まずイントロでする予定の話. 線型代数は (数学内部または少なくとも物理と物理に近い工学で) 役に立つという話はされるだろうが, あまり具体的な話はされない (時間がない) だろうから, その辺の話から入る. 新入生向けなので, まず Hilbert 空間は何ぞというところを話す. 高校でもやった三角関数の積分が実は Hilbert 空間で意味を持つというところ, 微分積分と線型代数の交点というか親玉みたいな話としての関数解析で大事な空間という話をする. また, 物理でそれなりに色々な数学が出てくるが, 線型代数という視点でクリアで統一的な理解ができるから大事だよ, 的な話をする. 微分作用素, 積分作用素の線型性とかも話す必要がある.

物理または工学上大事な数学的道具立てとして大事な微分方程式があるが, 初等的な方程式なら具体的に解ける. 「線型の微分方程式」という中で既に線型性が出ているので, そういうところで解析と線型代数の関わりみたいな話がしたい. これを解く中で現われる直交多項式の話の「直交」も線型代数由来の話で, これが Hilbert 空間の話という感じで. 量子力学の数学的構造 I の 1 章の演習問題にいくつか書いてあるので, 一応参考文献として挙げておこう.
  
また, Taylor 展開と作用素論ということで \(e^{ipx}\) の話もしよう. 簡単に説明しておくとこんな感じ. \(f(x)\) を原点周りで Taylor 展開するとこうなる: \begin{align} f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \left( \frac{d}{dx} \right)^n f(0). \end{align} どうでもいいが, 量子力学っぽく \(p = -i d/dx\) と書こう: \begin{align} f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} \left( i p \right)^n f(0). \end{align} ここで指数関数の Taylor 展開は \begin{align} e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} x^n \end{align} となる. ここで Taylor 展開の \(\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} \left( i p \right)^n\) は \(x\) に \(ip\) を代入したものと同じ形をしていることに注意して次のように書き換えてみる. \begin{align} f(x) = \left( e^{ipx}f \right) (0). \end{align} 指数関数に微分作用素を叩き込むという荒技を披露したが, 作用素論を使ってこれが正当化できます, みたいなことも言いたい. また, 作用素の指数関数 \(e^{ipx}\) は Taylor 展開で定義してしまうと解析関数に対してしか定義できないが, \(x\) だけずらす作用素と思えば一般の関数に対して定義できる. ここでユニタリ作用素とかそういう話になる. あと \(x\) だけずらす作用素 \(e^{ipx}\) の無限小生成子としての運動量という所から, 解析力学と量子力学の関係がどうの, みたいな話もちょろっと触れたい.

以上大体イントロで話す予定のこと. 2 回目から実際にもう少し踏み込んだ話をしていく. まずは Hilbert 空間自体の話をする. 「ヒルベルト空間と線型作用素」には Banach 空間の話もあるが, 時間的に多分カットだろう. 演習問題になっている定理にも少し触れたい. 完備性の話などもあるので, 証明もポイントをおさえて触れていきたい.

引き続き 2, 3 章を力づくでやっていく. 非有界作用素はゴツ過ぎて触れられないが, スペクトル定理はやりたい. スペクトル定理は無限次元版の対角化だ. スペクトル測度や解析関数カルキュラスとか出てきてやばいのだが, むしろ色々な数学との関係を話す機会として採り上げたい. Stone の定理と量子力学の話とかも一応入れる予定.

参考文献をまとめておこう. 1 つの展開としての作用素環方面, 特に (非可換) 幾何方面ということで, 数学会で PDF が公開されている 夏目-森吉 の「作用素環と幾何学」も紹介しておこう.

   

触れる予定はないが, 微分方程式関係と共に関数解析をやろうという感じの本も紹介だけはしておこう. こういう具体的な方から学ぶのが好きな人は頑張ってアタックしてみてほしい. また, こちらに興味があるという人は声をかけてほしい. トークしろと言われると困る部分はあるが, 一緒に勉強しようというなら時間さえ合えば付き合いたい. そしてプロデュースしたい.

  

2013年4月8日月曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学で悩むこと

定義だらけで退屈になるということだ. それはこの間, 次の本を読んでいて強く思った.



この間つどいでも反例関係の話をしたし, その他 Twitter でも位相空間の反例本に関する話もしたので, 折角だからちょっと読んでみようと思って買ったのだが, はじめが定義ばかりで閉口した. そこで翻って Hilbert 空間から始めるよく分からない数学での展開を思って反省した.

普通の数学のようにすると, 目的の定理や定義に向かってきちんと議論するためにはこういう定義や定理が必要で, そう思うとまずここから始めないと, という構成になる. それがまずいと思ってああいうタイトルで話をしようと思ったのに, 同じことをしていたら世話はない.

何かもう少し考えないといけない. どうせ試しにやっていることなので, 色々やってみたい.

2013年4月2日火曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 4 Cauchy-Schwarz の不等式


今回は Cauchy-Schwarz の不等式の証明をする. この段階でいきなり一般的にこの不等式の証明をつけるのはどうしようかと思ったのだが, それでもつけることに意味があると思ったのは次の理由による. これから Legendre 多項式や Laguarre 多項式といった直交多項式と Hilbert 空間の関係を紹介していくが, そのときに前回紹介したのとはまた少し違う内積を使う. 少し違う場合であっても, 内積の公理を満たすのであればいつでも成り立つということを伝えたいからだ. Cauchy-Schwarz の不等式は内積の公理から直接証明できることであって, 内積の具体的な取り方にはよらないということは, 証明を見ればはっきりするから.

あとで使うということもあって, Cauchy-Schwarz の不等式の証明の前にいくつか概念や予備定理を準備しよう. 有限次元と同じことだが, 念の為きちんと定義しておきたい.

以下, \(\mathcal{H}\) を Hilbert 空間とする.

定義:規格化.

零でない任意のベクトル \(\Psi \in \mathcal{H}\) に対して次の単位ベクトル \(\tilde{\Psi}\) を作る手続きを規格化という. \begin{align} \tilde{\Psi} := \frac{\Psi}{\Vert \Psi \Vert}. \end{align}

定義:ベクトルの直交.

ベクトル \(\Psi\), \(\Phi \in \mathcal{H}\) が \(\langle \Psi, \Phi \rangle = 0\) を満たすとき, \(\Psi\) と \(\Phi\) は直交するといい, \(\Psi \perp \Phi\) と書く.

定理. (Pythagoras の定理)

\(\Psi\), \(\Phi \in \mathcal{H}\) が直交するならば \begin{align} \Vert \Psi + \Phi \Vert^2 = \Vert \Psi \Vert^2 + \Vert \Phi \Vert^{2}. \end{align}

(証明) 定義に従って左辺を直接計算すればいい. \begin{align} \Vert \Psi + \Phi \Vert^2 = \Vert \Psi \Vert^2 + 2 \Re \langle \Psi, \Phi \rangle+ \Vert \Phi \Vert^2 = \Vert \Psi \Vert^2 + \Vert \Phi \Vert^{2}. \end{align} ここで \(\Re z\) は複素数 \(z\) の実部を表す. \(\blacksquare\)

もちろん, これはいわゆる「三平方の定理」だ. Pythagoras の定理も内積の公理から直接出てくることが分かる. こういう感じで Cauchy-Schwarz の不等式も証明できる.

定理. (Cauchy-Schwarz の不等式)

任意の \(\Psi\), \(\Phi \in \mathcal{H}\) に対して \begin{align} | \langle \Psi, \Phi \rangle | \leq \Vert \Psi \Vert \, \Vert \Phi \Vert. \end{align} 上式で等号が成り立つのは \(\Psi\) と \(\Phi\) が一次従属のときに限る.

(証明) 場合分けして考える. \(\Phi = 0\) のとき, 成立は自明. \(\Phi \neq 0\) のとき, \(\Phi' := \Phi / \Vert \Phi \Vert\) とすると, \begin{align} 0 \leq \Vert \Psi - \langle \Psi, \Phi' \rangle \Phi' \Vert ^2= \Vert \Psi \Vert^{2} - \left| \langle \Psi, \Phi' \rangle \right|^{2}. \end{align} したがって \(\left| \langle \Psi, \Phi' \rangle \right|^{2} \leq \Vert \Psi \Vert^{2}\) となり, \(\Phi'\) を \(\Phi\) に戻して Cauchy-Schwarz の不等式が成り立つ.

等号成立時の条件について考えよう. 等号が成り立つとき, 上の導出から \(\Psi - \langle \Psi, \Phi' \rangle \Phi' = 0\) だから一次従属性が分かる. 逆, つまり一次従属なら等号が成り立つことは明らか. \(\blacksquare\)

このとおり, Cauchy-Schwarz の不等式は内積の性質しか使っていない. ついでに Pythagoras の定理も内積の性質から導けることが分かった. 次回はこの認識に立って色々な \(L^2\) 空間, 内積とそこから出てくる直交多項式を紹介したい. 具体的には色々な線型の偏微分方程式の解法で出てくることを紹介して, それらの背後に Hilbert 空間があること, Hilbert 空間で統一的に数学的な部分を把握できることを紹介する.

2013年3月30日土曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 3 無限次元 Hilbert 空間の例


前回は Hilbert 空間の定義をした.
具体例として $\mathbb{R}^d$ や $\mathbb{C}^d$ があるという話をしたが,
(工学的) 応用上, 無限次元の空間がどうしてもほしい.
次元の定義や実際にそれに則っているかは今はやらない.
次回, 実際どういうところに出てくるかを説明するので, もう少しだけ辛抱してほしい.
先に言葉だけ出しておくと, Legendre 多項式や Laguarre 多項式といった直交多項式, Fourier 解析で出てくる.

早速例を出そう.
2 つ覚えておけばよくて, 普通それで事足りる.

例 1: 数列空間 $\ell^2$.


これはほぼ直接的な無限次元化といっていい.
$f = (f(n))$, $g = (g(n)) \in \ell^2$ とする.
$f(n)$ は $f_n$ と書くと数列っぽくなるが, 次のことを考えて敢えてこう書いた.
和は $n$ 番目同士を足すことで定義する.
普通のベクトルと同じだ.
内積も有限次元と同じ:ただ和を無限級数にすればいい.
一応書いておこう.
\begin{align}
 \langle f, g \rangle
 :=
 \sum_{n=0}^{\infty} \overline{f(n)} g(n).
\end{align}

最後になったが無限級数が収束しないと鬱陶しいので,
収束するための条件として $\ell^2$ の元は全てノルムが有限だとする.
つまり次が成り立つ.
\begin{align}
 \Vert f \Vert
 :=
 \sqrt{\langle f, f \rangle}
 =
 \sqrt{\sum_{n=0}^{\infty} |f(n)|^2} < \infty.
\end{align}

このとき内積も絶対収束する.
それは Cauchy-Schwarz の不等式から分かる.
色々な意味で大事なので, Cauchy-Schwarz は次回証明までつけよう.

次の例を出そう.

例 2: Lebesgue の意味で 2 乗可積分な関数全体.


あとで実際に使うので, $\Omega \subset \mathbb{R}^d$ としておこう.
開集合くらいにした方がいいのだが, うるさいことはひとまずおいておく.
数列では添字を有限から無限に変えたわけだが,
こちらは離散的にぽつぽつと足していたので連続的にべったり足したと思えばいい.

内積もきちんと書いておこう.
\begin{align}
 \langle f, g \rangle
 :=
 \int_{\Omega} \overline{f(x)} g(x) \, dx.
\end{align}

こちらも $\ell^2$ と同じように積分の収束性は仮定する.

最後に, 念の為 $L^2$ を考えることに物理的な意味があることも言っておこう.
量子力学でもいいし一般に振動, 波動などでもいいが,
適当な関数の (微分の) 2 乗の積分にはエネルギーという意味がある.
物理としては, $L^2$ の中で議論しようというのはエネルギーが有限な関数だけ考えよう,
というメッセージと思える.
量子力学では波動関数の 2 乗には確率という意味をつけている.
この辺の物理については説明しない.
適当に物理を勉強してほしい.

次回は Cauchy-Schwarz の不等式を証明しよう.

2013年3月29日金曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 2 Hilbert 空間の定義


とりあえず Hilbert 空間自体何か, というのをまず言わないといけない気がしたので, 天下りに定義だけしておこう. 次回以降で物理のどこでどういう風に出てくるか, これがあるとどう嬉しいかというのは説明するので, 今回は辛抱してほしい. 読み飛ばして必要になったら参照, というのでも構わない.

メインターゲットに据えるのは無限次元の Hilbert 空間なのだが, 有限次元も同じくらいに大事だ. 有限次元の Hilbert 空間は実数または複素数係数の Euclid 空間, \(\mathbb{R}^d\) や \(\mathbb{C}^d\) だ. これをもとに無限次元まで含めた定義をしているので, それを頭において次の定義を読んでほしい.

まず内積空間からはじめよう. と思ったが, 念の為に線型空間から定義しておこう.

定義: 線型空間.

\(\mathbb{F}\) を (可換) 体とする. \(\mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\) と思っておけばいい. \(\mathcal{H}\) が次の条件を満たすとき, \(\mathcal{H}\) を \(\mathbb{F}\) 上の線型空間であるという. 以下では \(\Psi, \Phi, \Theta \in \mathcal{H}\), \(\alpha, \beta \in \mathbb{F}\) とする.

(1) (交換則) \(\Psi + \Phi=\Phi + \Psi\).
(2) (結合則) \(\Psi + (\Phi + \Theta)=(\Psi + \Phi) + \Theta\).
(3) すべての \(\Psi \in \mathcal{H}\) に対し, \(\Psi + 0 = \Psi\) が成り立つベクトル 0 がただ一つ存在する.
(4) すべての \(\Psi \in \mathcal{H}\) に対し, \(\Psi + \Psi' = 0\) が成り立つベクトル $Ψ' $ がただ一つ存在する. この \(\Psi'\) を \(- \Psi\) と書く.
(5) \(1\Psi = \Psi\).
(6) \(\alpha (\beta \Psi) = (\alpha \beta )\Psi\).
(7) \(\alpha (\Psi + \Phi) = \alpha \Psi + \alpha \Phi\).
(8) \((\alpha + \beta )\Psi = \alpha \Psi + \beta \Psi\). \(\blacksquare\)

ややこしく色々書いてあるが, いわゆる「足し算とスカラー倍ができる」と思っておけばいい. 私もすぐ忘れる.

では内積空間を定義しよう.

定義:内積空間.

\(\mathbb{F}\) を \(\mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\) とし, \(\mathcal{H}\) を \(\mathbb{F}\) 上の線型空間とする. \(\Psi\), \(\Phi \in \mathcal{H}\) に対し, 次の 4 つの性質を持ち, \(\mathbb{F}\) に値を持つ 2 変数関数 \(\langle \cdot, \cdot \rangle\) を \(\mathcal{H}\) の内積と呼び, \(\mathcal{H}\) を \(\mathbb{F}\) 上の内積空間または前 Hilbert 空間と呼ぶ.

(H.1) (線型性) 任意の \(\Psi, \Phi_1, \Phi_2 \in \mathcal{H}\) と \(\alpha, \beta \in \mathbb{F}\) に対して \begin{align} \langle \Psi, \alpha \Phi_1 + \beta \Phi_2 \rangle = \alpha \langle \Psi, \Phi_1 \rangle + \beta \langle \Psi, \Phi_2 \rangle. \end{align}
(H.2) (対称性) 任意の \(\Psi, \Phi_\in \mathcal{H}\) に対して \begin{align} \langle \Psi, \Phi \rangle = \overline{\langle \Phi, \Psi \rangle}. \end{align} ここで複素数 \(\alpha\) に対し \(\overline{\alpha}\) は複素共役を表す. \(\mathbb{F}\) が実数の場合は複素共役は不要.
(H.3) (正値性) 任意の \(\Psi \in \mathcal{H}\) に対して \(\langle \Psi, \Psi \rangle \geq 0\).
(H.4) (正定値性) \(\langle \Psi, \Psi \rangle = 0\) ならば \(\Psi = 0_{\mathcal{H}}\). ここで \(0_{\mathcal{H}}\) は \(\mathcal{H}\) の零ベクトルを表す. 以下, 面倒なので \(0_{\mathcal{H}}\) も 0 と書く.

これもいちいち書くと鬱陶しいが, \(\mathbb{C}^d\) の内積を考えて, それが満たす性質だと思えばいい. \(\mathbb{R}^d\) だと複素共役がなくなるだけだ.

ようやくだが Hilbert 空間の定義をしよう.

定義:Hilbert 空間.

内積空間 \(\mathcal{H}\) がその内積から決まる距離に関して完備となるとき, \(\mathcal{H}\) を Hilbert 空間という.

完備というのが出てきたが, とりあえずどうでもいい. 数学的な性質の良さをつけただけだ. 気になる向きは調べてほしいが, 実数の完備性 (連続性) の完備と同じで「任意の Cauchy 列は収束する」ということだ. あと「内積から決まる距離」というのが出てきたが, 一応これも定義しよう. どんどん面倒になっていくが, まずはノルムを定義する.

定義:(内積から決まる) ノルム

\(\Vert \Psi \Vert := \sqrt{\langle \Psi, \Psi \rangle} (\geq 0)\) で定義される関数 \(\Vert \cdot \Vert\) を内積から定まるノルムという.

これは要はベクトルの長さに対応する. 同じ線型空間に対して色々な「長さ」を考えることができるし, またそれを考える必要もあるので, わざわざ長さと言わずノルムと呼ぶ. 当面はあまりご利益を感じられるような話をしない予定なので意味が分からないだろうが, とりあえず言葉自体はよく使うので覚えておいてほしい.

定義:内積から決まる距離.

\(d(\Psi, \Phi) := \Vert \Psi - \Phi \Vert\) で定義される 2 変数関数 \(d(\cdot, \cdot)\) をノルムから定まる距離という. 特にノルムが内積から定まるとき, この距離は内積から定まる距離という.

これも距離空間というのがあって, そこの一般論がきちんと使えますよ, というポーズのために導入しておいた言葉なので, これも今は詳細はどうでもいい.

\(\mathbb{R}^d\) と \(\mathbb{C}^d\) がそれぞれ実または複素係数の Hilbert 空間というのは言ったが, それ以外の例を出さないといけないだろう. 量子力学以外でも Fourier 変換やら電磁気やらでも使うのだが, とりあえず数列空間 (\(\ell^2\) と書く) と Lebesgue の意味で 2 乗可積分な関数の空間 (\(L^2(\mathbb{R}^d)\) と書く) を紹介したい. ただ, もう大分長くなってきたのでこれは次回に回そう.

2013年3月24日日曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 1 導入


Twitter なりなんなりで何かいうとき, 特に初学者相手に何かまとまっているのないかな, と思っていたが, 当然ながら完璧に自分の気に入る教材はない. なのでとりあえず文章でまとめていこう, ということでちょろちょろと気に入る教材的なものをまとめていきたい. 私の数学は Hilbert 空間にはじまるので, やはりここからはじめたい. 関数解析につながるし応用上も大事で, さらに線型代数と微分積分の融合というかほぼ直接の拡張でもある. ひとまず数学, 物理, 物理系の工学関係の人に響く感じにしていきたい. ニコマス P らしく動画でもいいのだが, 動画は作るのがちょっとしんどい. さらっと書ける文章にしておいて, 適当なときに動画にしたい.

いきなり Hilbert 空間に入ってもモチベーションがなくてつらいだろうから, 数回に渡って線型代数と微分積分の関係, 無限次元線型空間の導入と物理的なモチベーションについて書きたい. ここ にまとめられていることをもう少し物理上の応用もまじえながら書く感じで考えている. 量子力学でもいいのだが, もう少し読者対象に幅を持たせたいので電磁気と線型代数あたりでやっていく. (線型の) 偏微分方程式の解法からネタを取ってくるので, 関係する話なら何でもいい. 適当な微分方程式とその解法で考えてくれればいい.

何かこんなところは関係ないの, とかこんなところについて知りたいとかいうのがあれば, コメントなり Twitter でリプライとばしてくるなどされたい.