「心に残る最高の先生」 http://faculty.ms.u-tokyo.ac.jp/~surinews/news2006-2.html#essay小林先生の紹介記事自体は これ だ. 文章がバングラディッシュの悲惨な様子から始まるためそこで精神的にくるものがあるが, とりあえずそれはおいておこう.
まずここからして格好いい.
そこで今度は数学科の事務室へ連れていってもらい、そこにいた男性に声をかけた。 その人はピンク色のシャツを着た若い男性で、大学 4 年生あたりか、その事務室の新米スタッフのように思われた。 夫はおとなしく 待っていた。 しばらくすると若い男性が笑顔で夫の方を向き、英語で「どんなご用件ですか?」と話しかけてくれた。 私の夫は、数学科の先生に会いたい旨を伝えた。 するとなんとその若い男性が「オーケー。私でよかったらお話ください」といったので、 私の夫は驚き、「あなたが先生?」と尋ねた。 彼は「はい。小林俊行と申します。」と答えた。 夫はそのとき、自分はからかわれているんじゃないかと思って心配になり、体が震えてきてしまったそうである。 しかし私の夫はなんとか落ち着きはらって、小林先生に自己紹介をし、何のために東大に来たかを告げた。 すると先生は、当然のように然るべき手続きをはじめられ、私を東大の修士課程に留学できるようにしてくださったのである。何でこんなに格好いいのか.
講義中の小林先生は、たとえば問題の解き方にしても、説明にしても、 数学の問題を出すのでも、それこそ何をやっても素晴らしくて、 その素晴らしさがまた、ほかのどの教授とも似ていなかった。 小林先生は、心底学生を信じていてくださっていた。 先生の異常なまでの忍耐づよさと、学生に対する海のような懐の深さを私は決して忘れないと思う。 先生はどんな学生のためにも、その学生が必要なだけ時間をさくようにされ、 学生が数学の問題に悩んでいると、解けるまで一緒に考えてくださった。 私は先生が学生にプレッシャーを与えたり、自分の大学院生に問題を解くよう強制したりするのを見たことがない。 先生は学生にいつもこうおっしゃった。 「数学の問題を解くためには「ゆっくり」「しっかりと」「おちついて」が大事です。」と。 そして「数学の問題を解いたり、考えるのに決して急いではいけない」とも。 先生の教えはシンプルそのものだけれど、私には普遍的なことに思われた。 数学のほかにも先生から学んだことはたくさんある。 時がすぎたら、私の記憶の中の先生の姿も薄れることがあるのかもしれない。 しかし私の心の中にいつも輝いている先生の言葉がある。それは「正直なのが一番」。 研究生活でも私生活でも常に実践するように、先生が私に授けてくださった言葉である。私も小林先生の講義を受けたことがあるが, 何も持たずに教室に現れ, 非常に明快な講義をしていた. 質問への応答も素晴らしく, 講義が終わると颯爽と去っていく. あれは真似したいと思ったものだ.
あと, こういうのこそ大学がするべきで, しかもおそらく大学にしかできない国際関係の構築だと思う. 他の国でもあるのだろうが, 例えばドイツでは留学生には自分の国を好きになってもらうことを第一にして, とにかくおもてなしをする, と聞いたことがある. 留学生は基本的にその国のエリートだろう. エリートに良く思ってもらえれば当然それだけの見返りがある. 味方を増やすのは大事だ.
ちなみに小林先生は学生時代から頭角を表していた大概な化け物であり, しかも教育熱心でもあったことは『数学まなびはじめ 第 2 集』から分かる.
凄まじい記述を 1 つ抜き出しておこう. 学部 4 年のときのセミナーの様子だ. 以下に出る大島先生は大島利雄先生で, 小林先生の指導教官である.
秋の第 1 回目のセミナーでは, ゲルファント流の積分幾何について, それまでに勉強したことを私なりにまとめて発表することにしました. 私が話をはじめてしばらくすると, 大島先生は「ちょっと待って」とおっしゃって部屋を出られ, 研究室からノートを持ってこられました. そして, 私の話をノートに取りながらきいてくださったのです. このとき私はとても感激し, 「よぉし, 頑張ろう」という気持になりました.学部 4 年の時点で大島先生がノートを取るようなセミナーができるとか, 化け物以外の何者でもない. 教官にノートを取らせるレベルのセミナーができる, というのは実際に指導教官にセミナーを見てもらったことがある者ならどれだけ凄いことか分かるはずだ.
また, 小林先生が数学会の章を取ったときの大島先生の業績紹介の文章だったような気がするが, 小林先生の仕事は非常に斬新で, はじめは理解できる者が非常に少ないらしい. しかしいったん理解されるとすごい勢いで広まっていく, みたいなことが書いてあった記憶がある. 小林先生レベルに明快に議論できる人ですらうまく伝わりきらない斬新さ, 恐ろしい.
あとこれも誰かに聞いたのだが, 事務的な能力も極めて高いらしい. 小林先生, 今の所属は東大だが, しばらく京都の RIMS にいた. そのとき, 毎週だか毎月のように東京に出張してきて学会関連の仕事などを精力的にこなしていたと聞いた. 超人だと思う.
あと, 大島先生の逸話も折角なので紹介しておこう. 大島先生, 業績についてはもちろん申し分ないのだが, 講義はあまりうまくないようだ. 東大の人に聞いたところによると, 同じく東大に息子さんがいたようなのだが, この息子さんもまた優秀でしかも非常に明快な説明ができるらしい. 「~君 (息子さんの名前:名前忘れた), お父様と講義代わってほしい」と言っていたのを思い出す.
あと無茶苦茶な話として次のような話も聞いた. 大島先生は東大数理の研究科長をしていたのだが, 研究科長というのはもちろん忙しく, 色々な仕事が増えるわけで, 普通は数学の仕事量 (とりあえず論文数) が減るだろう. ただ, 大島先生は研究科長のときにむしろ論文数増えたらしい. 大島先生から直接聞いたわけではないのだが, その理由が凄まじかった:時間がなくなったのでライブラリを作らなくなって, その分速くなった.
大島先生は TeX の dviout を開発しているくらいなので, プログラミングもできる. 研究するときにはまずライブラリを作るらしいのだが, 時間がないのでこれを省いたそうだ. その分速く結果が出るようになって, 論文数が増えたとのこと. 聞いた話なので多少誇張があるのかもしれないが, 事実の部分があるのは間違いない.
師弟揃って凄まじい.
あと, これ によるとどうやらこのサルマさんによる本が出るらしい. 買うしかない.
[2F] 7月発売予定 『日本で数学の博士をとるまで』ナスリン・サルマ 1800円(丸善出版) 科学者への道(特に数学研究)を志す全ての人に勇気と元気を与える本。 数学課で博士をとるまでのノウハウ、心得も知ることができる。
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