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2014年6月12日木曜日

谷村省吾さんが代数的量子論の本を出すとか聞いたので

谷村さんが代数的量子論の本を出すとか聞いたので.



Perfect_Insider さんのツイートも引いておこう.


作用素環というか表現論というか, そういうのを基本にしたときのメリット,
無限自由度にしたときの話しか知らないので,
量子論一般でのメリットとかそういう部分は知りたい.

2014年6月8日日曜日

作用素環周辺の数学・物理・数理物理の話:表現論とか何とか

久々に物理に近いところの話をしたので.


\(p\) 進大好き bot と.



純粋状態って言うと, 「物理の純粋状態」と「物理の純粋状態 2 つの pairing で表される作用素環の純粋状態」のどっちのことか分からんな.
両者は違うものだよね?


@non_archimedean よくわかっていないのですが後者, 必ず作用素環的な純粋状態になるのでしょうか.
「物理の純粋状態」の定義も気になるところですが


@phasetr 物理の方は物理量を表現する作用素が作用しているヒルベルト空間の正規ケットベクトルのつもりでした.
それのコピーの (と書き忘れました) 2 つのブラケットで表される作用素環の純粋状態とどう対応するのか,
という話ですが, 冷静に考えて GNS 構成がありましたね.


@phasetr 暗に「物理のヒルベルト空間は可分である」ことを課して書きました.
非可分なときも純粋状態が正規ケットベクトルだと思っていいのかよく知りません.


@non_archimedean 適切な回答になっているかよくわからないのですが考えをブログにまとめておきました
http://phasetr.blogspot.jp/2014/05/p-bot.html


@phasetr どうもありがとうございます!
また言葉足らずだったのですが, 僕が作用素環論と比較したのは,
物理量が有界な領域でしか値を持たない状況のみを考えていたからでした.
つまりここで対応する作用素環は物理量が表現する有界作用素が生成する最小の C*環の意味でした.


@phasetr 量子論的には非有界な物理量のほうが自然だと思われますが,
非有界物理量を集めても作用素環にはならないため作用素環的な純粋状態が定義できるかよく分からなかったです.


@non_archimedean 代数的場の量子論の物理サイドの定式化からすると,
実際には有界な範囲でしか観測できないのでその現実を取り入れた理論, と言う言い方をします.
数学的実対応としては \(e^{itA}\) とかレゾルベントを考えることで非有界 (自己共役) 作用素を有界にします


@non_archimedean レゾルベントの方は数年前に Bucholz が少しやり始めましたがやっている人はほぼいません.
指数に載せる方を Weyl 代数といって, いわば代数解析にもある Weyl 代数の無限変数版です.
表現論的に微妙な問題があって同じとは言いづらいですが


@non_archimedean あまり多くはないですが,
定義域などを適当に制御した非有界作用素がなす環それ自体を研究している人もいます
http://kaken.nii.ac.jp/d/r/00161795.ja.html


@phasetr 定義域を制限する定式化もあるのですね!
レゾルベントで非有界作用素を見るのは古典的なボレル関数解析がそうなので結構歴史が深そうですね.
Weyl 代数というのは初めて聞きました.


@non_archimedean 定義域の制限は, 量子力学で言うなら \(C_c^{\infty}\) が大体の作用素の共通の定義域に取れることをイメージしつつ,
場の理論でもある程度そういう風にできる話はあるからそれを使ってやってみようという感じです


@phasetr 「大体の」というところがどことなく深いですね.
物理量はおおよそ可微分緩増加関数や微分作用素の組み合わせになるといった感じの経験則がありそうですね.
(フラクタルのように各点微分不可能な関数に対応するような物理量があっても面白そうですが)


@non_archimedean クーロンポテンシャル \(1/r\) とかレナード=ジョーンズ・ポテンシャル \(r^{-12}-r^{-6}\),
2 体系のクーロン相互作用 \(1/|r_1 - r_2|\) などがあるので微分可能性が必ずしも期待できず適当な特異性を持つことはよくあります


@phasetr あ, それくらいの特異性についてはあまり気にしていませんでした.
実は最近, スピン構造付きリーマン多様体 (≒重力場 + スピン場) を量子化して \(Z_p\) が得られる的な論文を読んでいて,
そこでは可微分関数に類するものがないので物理量が激しくガタガタ動く感じだったので.


@non_archimedean 私の分野だと非有界作用素のさらに無限和 (粒子が無限個あるのでクーロンだとしてもその無限和が出てくる)
とかそういう部分の制御で手一杯で, そこまで突っ込んだことができていません.
あまり面白い方向の話に乗れず申し訳ないのですが


@phasetr さらに無限和ですか・・かなりハードな解析ですね.
それでもとても参考になりました.
ありがとうございます.


あなちゃんと.



そういえば Entanglement Entropy って C^*環の言葉で定義されてるの


@anairetta 調べといて教えてね


@ad_s_c 数学的にも面白そうな気がしますよね. とうことでよろしくお願いします.


@anairetta @ad_s_c http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1859-05.pdf
量子スピン系くらいなら一応あるにはあるらしいですが,
物理で期待されるレベルの理論が展開できているかはかなり怪しいのではないでしょうか.
いつもの話ですが


あなちゃんその 2.



え, 難しいんですか. . .


@anairetta かなり雑ですが少し書いておきました
http://phasetr.blogspot.jp/2014/05/p-bot.html
難しいと言うより物理の定義をきちんとうまく吸い上げられる純粋状態の数学的な定義がよくわからないと言う感じなのではないかと


@anairetta 最近, 田崎さんも論文を書いていたりしますが,
量子統計で純粋な平衡状態とかあるのでそういうのもきちんと勉強しないとアレっぽいと思いつつ全く出来ていないのでうまく説明出来ないのですが


@phasetr 量子統計の方では, 考える環を「マクロ物理量のなす環」に制限すると熱平衡状態が純粋状態として表せる,
という話があると聞き及んでいますが, その時の純粋状態というのはヒルベルト空間の元に対応するもののことをいっているはずで, (つづく)


@phasetr このときは 環が小さすぎるせいで熱平衡状態と区別できない純粋状態を構成できてしまう, ということですね.


@phasetr 数学的にどうなっているのかよくわかりませんが,
たぶん環 \(A\) の \(B (H)\) への表現をとってきたときに,
等価なものの間で \(A\) の純粋状態が \(H\) のベクトル一つでかけたりかけなかったりする, ということだと思います.
たしかに一般の \(A\) にここらへん状況を調べるのは難しいでしょう.


@phasetr 僕が気にしていたのはたぶん環が \(B (H)\) そのものである場合なんだと思います.
その場合には by def な気がするのであのような発言をしてしまいました.


@anairetta ありがとうございます.
量子力学の場合だと環が \(B (H)\) 全体と思ってやってもある程度どうにかなる部分はあるらしいのですが,
場の理論だとそれがまずいとか言う話で, いまだに (私が) あまりきちんとわかっていないと言う状態です


@anairetta 私はあまり一般の環には興味なくて,
具体例に対する環というか表現と言うかもっと強く作用素論に興味があるのですが,
まず最低限必要な基底状態・平衡状態きちんとありますかレベルの研究なので,
そんな詳しい所まで研究進んでいないと言うイメージです


@phasetr 場の量子論だと赤外紫外の正則化がいるので, 簡単にいかないことは想像がつきます.
エンタングルメントエントロピーのほう, 資料ありがとうございます.
こちらは場の量子論の場合は物理レベルでも満足の行く定義がない状態なので数学としてはどうしようもないだろうと.


いろいろ思うところはあるが結局これなのだ.



数論方面と言うか他の分野の数学, 格好いい話がいろいろ出てくるようで羨ましい.
それでも一番知りたい, やりたいのはあくまでも今やっている死ぬほど地味なことだが.
一度気になってしまったらもう駄目なのだ.
そういうものらしいのだ

2014年5月11日日曜日

「はるか彼方からの光芒を信じ, 膨大な計算を遂行し尽したときに初めて地平が見えてくるようなハードな解析は解析学の真骨頂であろう」

格好いい.



ここで高橋陽一郎氏によるクッソかっこいいメッセージをお読みください
http://mathsoc.jp/publication/tushin/1204/takahashi12-4.pdf


遥かなるハードアナリシスに対する憧憬を謳っている.
皆, とにかく上記 PDF を読むように.
いくつかウルトラ格好いい文章を引用しておこう.



はるか彼方からの光芒を信じ,
膨大な計算を遂行し尽したときに初めて地平が見えてくるようなハードな解析は解析学の真骨頂であろう.
ハード・アナライザーたちの数ヶ月からときには数年に及び,
岩に穴を穿つような計算を続行するその強靱な精神力と体力には畏敬の念を覚える.
不幸にしてその途上で力尽き果てた人もいた.
畏敬とともに深い哀悼の念を表する.



しかし, 例えば, モーメントの評価や相関関数の評価などのようなわずかな手掛りを頼りに必ず道が拓けるとの信念のもと,
恐ろしいほどのハードな計算を遂行し切って, 数学に新たな地平を切り拓くハードな解析はやはり解析学の真骨頂である.


どれだけハードアナリシス格好いいの, という感じ.


ここで出てくる T. Hara は九大の腹隆さんで,
田崎さんの共同研究者というか知人というか大学時代の友人的なアレだ.
田崎さん, 原さんともに私が所属している分野,
厳密統計力学・構成的場の量子論の先達だ.


この間ブログにもまとめたが, 原さんは 2013 年の Summer School 数理物理で講師になっていて,
そのときの話で提出した D 論は 500 ページ, 証明の細部まで書いた分は 2000 ページになったと言っていた.


今の私としては, ハードでもソフトでも何でもいいから,
とにかくきちんと論文を書いていくことを目標にしたい.

2014年5月9日金曜日

RIMS での「量子場の数理とその周辺」という研究会, 超行きたい

量子場の数理とその周辺という研究会があるという.



量子場の数理とその周辺
部屋:111 期間:2014-10-06~2014-10-08
代表者:新井 朝雄 (北海道大学理学研究院 )


超行きたい.
参加したことないからわからないのだが, こういうの参加登録とかいるのだろうか.
新井先生に相談してみるか.
あといい加減計算というか研究を進めたい.

2014年5月5日月曜日

物理の純粋状態と作用素環の純粋状態: $p$ 進大好き bot とのやり取り

長くなりそうなので返答というか考えをブログにまとめる方の市民.
次の \(p\) 進大好き bot とのやりとりなのだが.



純粋状態って言うと, 「物理の純粋状態」と「物理の純粋状態 2 つの
pairing で表される作用素環の純粋状態」のどっちのことか分からんな.
両者は違うものだよね?


@non_archimedean よくわかっていないのですが後者, 必ず作用素環的な純粋状態になるのでしょうか.
「物理の純粋状態」の定義も気になるところですが


@phasetr 物理の方は物理量を表現する作用素が作用しているヒルベルト空間の正規ケットベクトルのつもりでした.
それのコピーの (と書き忘れました) 2 つのブラケットで表される作用素環の純粋状態とどう対応するのか,
という話ですが, 冷静に考えて GNS 構成がありましたね.


@phasetr 暗に「物理のヒルベルト空間は可分である」ことを課して書きました.
非可分なときも純粋状態が正規ケットベクトルだと思っていいのかよく知りません.


私が知っている \(\mathbb{C}\) 係数の作用素環では基礎となる
Hilbert 空間に可分性を課すのでここでもそれを仮定しよう.
むしろそこでしか考えたことがないので, 外れたときに起きる現象は全くわからない.


その上で, 一般的には両者は違うはずだが,
ではどう違うのかというのが (私は) 全くわかっていないという話をこれからする.
特に後者は言明「物理の純粋状態 2 つの pairing で表される作用素環の純粋状態」自体が
正しいのかもよくわかっていない.


それでまず作用素環の純粋状態だが, 作用素環を指定した上でその状態空間の端点という定義なので,
作用素環自体を指定しないと始まらない.
物理の純粋状態, この意味だと数学的な定義は不明といっていい.
ある Hilbert 空間でのケットが「純粋状態」 (線型結合でない 1 つのベクトルとして書ける) だからといって,
それが別の Hilbert 空間で「純粋状態」になっているとは限らない.


有名な例がある.
何でもいいが, 可分な Hilbert 空間 \(\mathcal{H}\) 上のトレース \(\mathrm{Tr}\) を考える.
(いわゆる「有限温度での平衡状態」を考えているといってもいい. )
これは Hilbert-Schmidt 作用素の空間 \(C^2 (\mathcal{H})\) では「純粋状態」として書ける.
もちろん GNS だといってもいい.
そして \(\mathrm{Tr}\) は正規直交系の線型結合になっているベクトルから作れるから,
物理の意味 (先程書いた通り数学的に正確な定義はよくわからない) では「純粋状態」ではない.
ただ, GNS で移った先では物理の「純粋状態」から作れる.
こういう場合の処理のため, 作用素環的な純粋状態は環 (正確には表現か?) をきちんと指定することになっている.


あまりきちんと考えたことがないので,
物理の「純粋状態」から作用素環の純粋状態を構成するためのきちんとした条件と,
その具体例をあまりよく知らない.
Bratteli-Robinson の定理 2.3.19 など,
状態が純粋であることとその GNS 表現の既約性が同値であることくらいは知っているが,
具体的な例できちんと調べたことがない.
物理の「純粋状態」は作用素環の指定なしでやっているので,
その辺をどう思うのかがよくわからない.


これも具体的にきちんと調べたことがないのだが,
平衡状態 (正確には KMS 状態) に関する「端点分解」もよくわかっていない.
通常通り考えている von Neumann 環が単位元を持つことを仮定しておくが,
そのとき KMS 状態全体も凸集合で weak*-compact になる.
つまり KMS 状態内で端点分解できる.
Haag の Local Quantum Physics ではこの端点への分解を
pure phase decomposition と呼んでいるが, これの具体例での検証
(どういう現象が起きるか調べる) をやったことがない.


今更ながらだが, 問題としてどう正確に定式化したらいいのかという部分からして
そもそも難しいのかもしれないし, 問題の立て方もどう立てるといいのかがよくわかっていない.
何というか, 「物理×数学」という非可換代数を想起した.

2014年3月30日日曜日

数理物理の魅力と相転移の魅力: 数学と物理と数理物理と

Ask.fm から.
まずは質問.



二つの質問になってしまいますが,
主観的なもので結構ですので,
数理物理の (特に物理や数学それ自身と比較しての) 魅力および相転移現象の魅力がどこにあると感じてらっしゃるのか教えていただけませんか.


今考えるとあまりきちんと回答していない気もするが
とりあえず回答.


数学と物理, 両方好きで両方やりたいという単純な所です.


もちろんどちらか一方でも死ぬほどきついので,
本当に「研究」しようというなら,
どちらも半端な出来損ないになる可能性を視野に入れつつ
それでも踏み込む決意と覚悟が必要ですが.
もうあまり詳しく覚えていませんが,
相転移は大体田崎さんの影響です.


数学的には「特異性の数理」が非常に好きです.
色々あって学部一年の頃から数学的には超関数だとか
ある意味でかなり特異性の強い数学とずっと戦っていて,
結局今でも「場の理論の超関数論」と銘打って研究しているので
三つ子の魂百まで感あります.


話がずれましたが, 興味だけなら代数幾何の特異点論とか,
ブラックホールだとか, 特異性が絡む話は大体何でも興味があります.
極限で特異性が出てくる現象がとても好きで,
熱力学的極限とそこからの相転移がとても気にいっています.
相転移をやるなら人類が最大精度で扱えるのが
磁性関係だから磁石を扱う方向に行ったと言う非常に単純な動機です.


もちろん水が凍るとかもやりたいですが, アレは即死レベルだし,
シュレディンガーで磁性も即死コンボです.


磁性だととりあえずイジングですが, イジングは
(相対論的) 場の量子論の繰り込み処理との関係もあり,
数学的に量子統計と場の理論の相性がいいこともあって,
手始めにやりやすいところから, と思って
場の理論方面の勉強をしていて, 相転移自体とは
大分離れた赤外発散を修士では主に勉強していたのですが,
修論の為のネタ探しで考えたら一応磁性もできるわ,
と言う感じで磁性 + 赤外発散みたいな
特異性に特異性が重なって死ぬほど面倒臭い代わりに
趣味ばっちりな所を見つけたのでそこで今も
色々やっています.


物理的には素直な拡張でも数学的には全く
別の話を絡ませたりしなくていけなかったり,
逆に数学的には共通部分が多いのに物理としては
ちょっと遠目の所にアプローチできたりするのが
今の分野の面白いところですが,
一旦話が難しくなりすぎて死んだ分野なので,
一般にはお勧めしていません.


ただその分やっている人も少ないので,
すぐに世界のトップ 10 くらいに入れますし,
実際に多少しぼるだけでいわゆる
オンリーワンでナンバーワンにもなれます.


大学のアカポスゲット的な意味でこのご時世に
いい結果がすぐに出る保証は全くできないので,
決しておすすめはしませんが.

2014年2月17日月曜日

確率論と偏微分方程式論: Feynman-Kac, 流体力学極限, Stochastic Loewner equation

ちょっとひさこさんと話したのでせっかくだからメモしておこう. 確率論と PDE という感じのところの話をしたのだ.

Feynman-Kac という伝統的な話題もあるが, 最近は日本だと舟木先生が特に精力的に研究している内容として流体力学極限という話題がある. 慶應理工の佐々田さんによる PDF を張っておこう. これ自体はよく知らないので興味がある向きは色々調べてみてほしい. 舟木
先生が本を書いてもいるので, それを見るのもいいだろう.






起源が流体にあるだけで放物型など色々な PDE との関係があるということくらいは調べた. ちなみに上記 PDF を書いている佐々田さんは 博士を 1 年で終わらせて即ポストも取った優秀な研究者で確率論の若手のホープだ. PDE と確率という話では, SLE と共形場 (Werner の Fields 賞) など, 相対論的場の量子論や統計力学などの物理を絡めた展開もある. 立役者は Werner というよりも Schramm なのかもしれないが, Schramm はとりあえず Fields 時には年齢に引っかかっていたはずだ. Poincare 賞はもらっている. あと, Schramm は山岳事故で亡くなっている.

全然関係ないが, 東大数理で Werner の講演会があったので聞きに行ったことがあり, そのときのエピソードを記録しておこう. 休憩時間にコーヒーを飲んでいたら, たまたま傍に現在京大でその当時東大に行た吉川謙一先生が, 「Werner の書くランダムっぽい曲線は正にランダムっぽくて, さすが確率論の人ですね」と言っていた.

2014年1月13日月曜日

代数解析と S-行列とか何とかと柏原-河合の Feynman 積分に関する PDF: Paul と kyon_math さんの対話から

Navier-Stokes 関係の話から kyon_math さんと Paul が何か話をしていたので.
しかも最近の問題や予想は 100 年以上長生きするものはほとんどない. リーマン予想は 160 年くらい, 双子素数やゴールドバッハ予想は 250 年くらいか. ヤコビアン予想はどうだろ? リーマン予想さんには, がんばって長生きしてほしいものですね.
@kyon_math https://www.jstage.jst.go.jp/article/sugaku1947/29/3/29\_3\_254/\_pdf なんて, 解けたらけっこうインパクトありますが, しばらく解けそうもないです.
@Paul_Painleve 確かにすごそう: 佐藤氏の夢みる方向で, すなわち, すべての量を古典解析的手法のみによって calcu1able なものにしよう, という方向で, S-行列の解析が完成したとすれば, それは人類の精神史において燦然と輝く金字塔となることは疑いないであろう.
@kyon_math あの頃は, 著者の二人も青臭い中二病にかかっていただけでしょう, ははは.
上記 PDF の話とはあまり関係ないが, 代数解析的に発散の困難とユニタリ非同値問題がどう捉えられるかというのは大分前から気になっていて, 代数解析を勉強しようと思った原動力になっている. 多変数関数論やらコホモロジーという障害があって全く勉強が進んでいないのだが. 最近, 「場の理論の超関数論」とか, 「場の理論の超関数論としての作用素環 (上の状態空間)」とか銘打って研究をしているが, 「場の理論の佐藤超関数」がどうなるのかというのが非常に気になっているので誰かやってほしい.

柏原-河合クラスの人間がもっと massless の方とかにも突っ込んできてほしい. あといいのか悪いのか分からないが, 相対論方面は対称性がかなり強く出てくるおかげで数学的に格好いい話も絡めやすいのだという感じがあるが, 非相対論方面だとなかなかそういう話がない感じもある. だからこそこの辺の人達がリードしてやってほしい感ある. 河合先生も, 1 次元の Schrodinger で WKB とかやってくれるのもいいのだが, 3 次元で Aharonov-Bohm とかもやってみてほしい. もっというなら場の理論に本格的に突っ込んできてほしい.

2014年1月7日火曜日

Kalien-Lehmann の Kalien は「シェリエン」と読むらしい

立川さんのツイートから衝撃の事実を知った.
場の量子論の教科書を勉強すると, KaLlen – Lehmann 表示というのが出てきて, 発音が良く分からなかったのだけれど, 今でている研究会に Kallen さんのお孫さんが来ていて, 直接聞くと シェリエン と読むそうです. というわけで最近勉強を始めた皆さんも宜しく.
@yujitach 当家の人が言うのだから間違いないですね. 私は長らくチェレンとばかり発音してきた.
えええっ!!@yujitach 場の量子論の教科書を勉強すると, KaLlen–Lehmann 表示というのが出てきて, 発音が良く分からなかったのだけれど, 今でている研究会に Kalien さんのお孫さんが来ていて, 直接聞くと シェリエン と読むそうです.
@yujitach 古いけど, Kalien の QED は一本スジの通った名著でした.
@kz_itakura スウェーデン語では http://el.minoh.osaka-u.ac.jp/flc/swe/lands/03.html によると, K は ä 等 front vowel が続くと発音記号では ɕ http://en.wikipedia.org/wiki/Voiceless\_alveolo-palatal\_sibilant になるようです. 僕の耳にはシェに聞こえます. é はィエになると言ってました.
私もずっと「チェレン」だと思っていた.

2013年11月29日金曜日

ささくれパイセンの確率的善導

ひさこさんにささくれパイセンの善導が入ったので記録しておこう.
もちろんその先も勉強し続けたいし知りたいけど今自分がもっとも勉強したい分野って確率微分方程式だけどはるか先‥‥
@ml_hisako ルベーグやったあと比較的すぐ突撃出来る感あります
@phasetr そうなんですか! 調べたら確率論の本は一冊読んでおかないと厳しいとも書いてあったんですが, "確率"微分方程式と言うとおり, 確率論はやってから進めるべきですよね??
@ml_hisako 最短, ブラウン運動を知っていればとりあえずはどうにかなって, ブラウン運動は連続関数の関数空間論とルベーグ知っていれば出来る感あります. もちろん確率論的に最大に一般的にきっちりやりたいならそれなりに準備いると思いますが. 確かセミマルチンゲールとかいるはずなので
@phasetr なるほど‥‥ワヘイヘイから誕生日プレゼントで probabity with martingales を貰ったのですが索引調べてみたら semimartingale は出てなかったのを見たりするとしっかりやるなら確率論の本や他の分野を勉強しないとならないなと思いました.
@phasetr セミマルチンゲールとか全然知らないです‥‥本当に奥が深いんですね‥‥詳しく色々聞きたいです!! セミナーの際に教えてくださいますか?
@ml_hisako probablity with martingales は和訳の方を持っていますが, あれはあれでブラウン運動とか確率微分方程式系のことにはあえて踏み込んでいない感じ印象です. 扱いやすいブラウン運動で色々遊んでおいてから一般論きっちりというのもあるはずなので
@ml_hisako ちょっと今研究的なアレが楽しくて時間を奪われていて 12 月にやる予定を勝手に立てていたルベーグのアレができず, 多分学生陣のテストを避けて 2-3 月くらいになる予定ですが, その辺りで個人的確率論の復習をかねたアレを何かやりましょう
@ml_hisako セミマルチンゲールとかは全く知らないです. 自分で使う所しか知らなくて, 確率論専攻の人からしたら本当にめちゃくちゃに虫食いです. ただブラウン運動と伊藤積分, Feynman-Kac は酷使するのでやる予定です
@phasetr 確率論のですか!? ありがとうございます!!! 今は貰った本をきちんと読み進めて行きたいとおもいます!! 少しでも確率論ができるように頑張ります.
@phasetr @ml_hisako 横から失礼します. (いちおう) 確率論専攻の者です. セミマルチンゲールの話は (要するにマルチンゲールを用いた確率積分の理論) 確かに綺麗ですが最初はブラウン運動を用いた確率積分の理論で感じを掴むのもいいと思います
@ysgr_sasakure @phasetr リプありがとうございます! 今はルベーグ積分入門という本と probabity with martingales という本を並行して読んでます (始めたばかりですが) 2 つの本を読み終えたら色々相談したいです! よろしくお願いします!
@ml_hisako @phasetr 伊藤清三とウィリアムズですか! 後者は代数の申し子ワヘイヘイからプレゼントされたそうで. あの本のマルチンゲールと一様可積分のところをしっかりとやっておけばセミマルチンゲール (というよりは局所マルチンゲール) についてやるときに非常に楽ですよ
@ysgr_sasakure @phasetr ブラウン運動の確率積分ということは確率過程の話もやらないとということですか? (知識がなくてごめんなさい) やるとなると本当にやること膨大ですが, 知りたい欲が掻き立てられます.
@ml_hisako @phasetr 多分ここで言っている確率過程の話は, マルコフ過程やレヴィ過程の知識は必要なのか, ということだと思うけど, 特にそんなことはないです. ブラウン運動を使う場合は正規分布や独立性が非常に大事ですが, その際特性関数が非常に役立ちます
@ysgr_sasakure @phasetr アドバイスありがとうございます! そこをやる際には注意したいと思います. 全然わからないことだらけですが, よろしくお願いします.
ふと思ったが, 確率微分方程式, そういうのが本当にあるのかと思っていたら実は確率積分方程式を印象的な記法で書いているだけのもの, というのではじめて聞いたときびっくりした. 確率偏微分方程式は何なのか全く知らないが. 確率積分方程式とはいうがそれならそもそも確率積分とは何ぞ? というところで確率積分, 伊藤の公式やらが出てくる. 確率積分は確率過程に関する積分論だが, ここで確率過程の特性としてマルチンゲールだの何だのと出てくる. セミマルチンゲールのレベルが (私が知る限り) 一番一般的だが, もっと簡単・具体的でかつ大事な例として Brown 運動がある. これと \(P(\varphi_1)\) 過程や Ornstein-Uhlenbeck 過程, Gauss 超過程のあたりが私にとっての基本だ. 学生時代, 作用素論と作用素環で手一杯だったとはいえ, 少し講義に出たくらいで全く身についていなかったつけが今来ていて, 泣きながら確率論を勉強している. 確率論というか確率過程を基礎からきっちり勉強した方がいい気もしていて, 適宜何かいい本を探してもいる.

2013年11月21日木曜日

場の量子論と解析数論: p進大好きbotからの質問に答える方の市民

我らが p 進大好き bot から質問を受けた方の市民だ. 私は Fock 空間上, 非相対論的場の量子論や量子統計をやっているので物理として相対論が絡む話はあまりよく知らないし, 数論方面もさっぱりなのだが, 多少知っていることはあるのでまとめてみた.
@phasetr なるほど. ボゾンとフェルミオンに対応する Fock 空間の有界作用素のスペクトルに強い離散性を課しているのは量子論からくる妥当な制約なのでしょうか? 固有値の整列性から総和的概念と相性がよくなって数論につながっているように見えるので少しその仮定の意味が気になりました.
まず強い離散性 (トレースクラスの仮定) だが, 物理的には不十分なことこの上ない. 「物理はともかく (今の数学の水準で) 数学的に面白い話ができるのはこの場合」という割り切りと思ってもいい. 物理としてスペクトルが離散的になるのは 2 つの場合がある.
  1. \(\mathbb{R}^d\) 上, 調和振動子などの特別な場合 (confined system).
  2. 有界領域上での Hamiltonian.
前者だが, 調和振動子など大事な系はあるものの物理としては本当に特殊な場合だ. 場の理論でも調和振動子が一番の基本だし, 調和振動子は決定的に重要な系ではあるけれども. 若山先生の非可換調和振動子など, 「調和振動子」は数学的に数論との関係がかなり深いようなので面白い. ただし, 物理的には散乱がないという決定的な欠点がある. すごく大雑把にいって, 散乱は Hamiltonian の連続スペクトルの部分に対応する. 非破壊検査など散乱を基礎にした応用はたくさんあるし, ミクロな系, 特に素粒子を実験で見るときは散乱で見るため, 散乱がないのは物理としては困ると言ってもいい.

ちなみに調和振動子のように (原点から) 距離が離れるとポテンシャルが大きくなる (ので粒子があまり遠くに行かない) 系を confined system と言う. 数学的な一般論として, 「Laplacian + 最高次が偶数の多項式ポテンシャルが入った Hamiltonian」のスペクトルは離散的になる. (新井先生の『量子現象の数理』にも証明がある. ) Confined system を「Hamiltonian のレゾルベントがコンパクト作用素になる」と定義している文献もある.



後者だが, 証明や条件を忘れたものの, 有限系ならそれなりに一般的に言えたはずだ. コンパクトな Riemann 多様体の Laplacian は離散的という一般論があるが, 大体そういう感じ. もちろん, 一般には Laplacian に適当な摂動を入れるので離散性が保たれるかは自明ではないが, 頑張るとそれなりに一般に言える. 量子統計や場の理論でも, いったん有界系でトレースを使いながら理論を作っておいて, 最後に物理として標準的な \(\mathbb{R}^d\) への極限 (熱力学的極限) を取る, ということをする.

後者についてはもう 1 つ決定的な事実がある. 前者とも関係するが, 一般に無限系の Hamiltonian には連続スペクトルがあるのでトレースは取れない. 物理だと平衡状態は \(\mathrm{Tr} (A e^{- \beta H}) / \mathrm{Tr} (e^{- \beta H})\) で定義するが, これは無限系では意味をもたない. つまり数理物理としては無限系の平衡状態を定義するところから始める必要があるが, これがなかなか大変だった. ここをきちんと議論するために Haag-Hugenholtz-Winninkの有名な仕事 が出たのであって, 量子統計の数理物理に対する冨田-竹崎理論の重要性が出てくる. 冨田-竹崎理論というか平衡状態周りでも 数論における相転移とかいう Bost-Connes の結果 があるので, それはそれで数論的にも大事なようだが, こちらは難しくて読めなかった. p 新大好き bot はセミナーで読んだらしいので, 興味がある向きは p 進大好き bot に聞こう.

もう一個.
@phasetr ついでに 4 章で \(L_S\) と \(Q_{S,+}\) に対する指数定理のようなものが示されているのも興味深く感じました. フレドホルム作用素 \(S\) に対して \(L_S\) や \(Q_{S,+}\) (そして \(d_S\)) に何らかの物理的意味付けがあるのでしょうか?
こちらについてはあまり知らない. \(L_S\) は (自由場の) 超対称的 Hamiltonian, \(Q_{S,+}\) は超対称荷 \(Q_S\) の分解ということくらいは知っているが, この辺の物理自体には詳しくない. 超対称荷自体何なのかあまりよく分かっていないが, 「荷」とつくのは大体保存量であって, 物理的には普通とても大事な量に対してその名前をつける. だから大事なのだろう, くらいにしか分からない. \(d_S\) については, Proposition 4.1-4.2 にあるように「ボソンを消してフェルミオンを作る」というそのままの意味があるが, これ以上の詳しいことは知らない. 超対称性はボソンとフェルミオンの対称性なので, 正に超対称性を司る作用素が \(d_S\) という話ではある. それが幾何学的にも大切な外微分になっているというのは確かに面白い.

これ とか これ とか これ とか これ とか, 量子力学のレベルでは超対称性と指数定理というのは大きなテーマになっている. その場の理論版としてこの辺の話があり, さらに数論的な要素すら持っていたという感じなのだと思っている. 量子力学での話からすれば多様体上で何か議論したいところだが, 無限次元多様体の議論をいきなりやるのはつらいので, まっすぐなところで下調べしよう, というのが新井先生のこの辺の研究の動機の 1 つでもある. 『Fock 空間と量子場 上』の 6 章のまとめのところにその辺の話が書いてある.



物理としてはむしろ, この辺の兼ね合いから超対称的な理論が数学として幾何学的な拘束を受ける (はずな) ので, 数学 (幾何学) 的に意味が明快なところから逆に物理を見つけていくときの指針として使うのだろう. とくに素粒子では数学的な制約からあるべき物理 (モデル) をしぼっていくというのはよくある. 例えば「理論は Lorenz 対称性を持たねばならない」とか「繰り込み可能でなければならない」とか「漸近的自由でなければならない」とか. 素粒子物理として数学的指針は決定的に重要らしいのだが, 数学的にはそこを逆に使って物理的な洞察から衝撃的な数学的関係を見つけてくるのが楽しいということで色々な交流があるという認識だ. ミラー対称性とか何とかそのあたりもそう.

知っているのは大体このくらい.

2013年11月1日金曜日

超準解析のプロである魔法少女に超準解析で超関数がどうなるかについて聞いてみた

超準解析のプロである魔法少女とのやりとりを記録していきたい.
大学入ってから運動量は酷使するものの力積使ったことないのだがアレはいったい何だったのだろう
@phasetr デルタ関数の近似ということにしておこう
@functional_yy ふと思ったのですが超準解析でδ関数はどういう扱いになるのでしょうか. 超準解析的には普通の関数と思えるのか的なアレです
@phasetr この辺り詳しくはないのでよく知りませんが, 例えば幅無限小高さ無限大で掛け合わすと 1 のパルスを考えれば望みの性質は得らます. http://planetmath.org/constructionofdiracdeltafunction
場の量子論で赤外発散という現象があるが, その数学的解決には「場の量子論版の超関数」が必要だと思っている. 作用素環上の状態の空間でとりあえず定義はできるのだが, それを確率論 (経路積分) でいうとどうなるか, 最近は特に表現論的にもう少し突っ込むとどうなるかというあたりをスピン-ボソンモデルで計算している. 代数解析的なアプローチではどうなるかというのは考えていたが, 超準解析的にどう見えるか考えてもいいかもしれない

2013年10月28日月曜日

量子力学と群の表現論: エネルギー固有状態と群のユニタリ表現の表現空間

Twitter で石塚さんとこんなやりとりをしてきた.
"量子力学で, ハミルトニアン H がある変換群 G で不変であるとすると, 1 つのエネルギー固有値 E に属する H の固有空間は G のユニタリー表現の表現空間になっている. (…) これが, 原子や分子の状態や素粒子の分類に群論が有力な道具となる理由である. " (群の表現, 物理学辞典 (培風館)) へえー
@Yusuke_Ishizuka 大雑把に言うとただの同時対角化です
@phasetr すみませんが, ピンと来ないので何か文献を教えてください
@Yusuke_Ishizuka 新井先生の物理の中の対称性の七章あたりでしょうか. とりあえず連続群だとして, とか書こうと思ったところでブログに書けばいいと気づいたので, 後でなんか書きます. きちんとやると大変ですが, 気分的には大したことないです
@phasetr ありがとうございます. ブログ楽しみにしますね
というわけで簡単にまとめる. 参考文献としてはいつも通り新井先生の本で, 『物理の中の対称性』だ.



7.8 節【物理量の時間発展と保存量】が大体それだ. 正確にいうとこの節ではちょっと違うことをしているが, 次に書くようにすぐ直せる.

Hamiltonian \(H\) がある (連続) 群 \(G\) で不変だというのは, \(G\) のユニタリ表現 \((U_g)_{g \in G}\) を取って, \(U_g H U_g^* = H\) が成立することとする. 書いていて私がやりづらいので, \(G = \mathbb{R}\) としよう. ここで Stone の定理から無限小生成子 \(T\) があって \(U_x = e^{i x T}\) と書ける. (一般の場合は SNAG 定理 を使う. ) ここで不変性の定義式を \(x \in \mathbb{R}\) で微分した上で \(x = 0\) とし, 生成子同士の関係式に変えてみよう. (念のため書いておくと, 定義から Hamiltonian \(H\) は時間並進の生成子だ. ) \begin{align} \frac{d}{dx} U_x H U_x^* |_{x=0} = \left\{i T U_x H U_x^* - U_x H U_x^* (-i T) \right\} |_{x=0} = TH - HT = 0. \end{align} 元の不変性から「生成子同士が交換する」という条件が導かれた. ここで \(H\) はもちろんのこと, Stone の定理から \(T\) も自己共役であることに注意する. 自己共役というのは要は Hermite 行列ということであって, 交換する Hermite 行列は同時対角化可能という線型代数の定理によって \(H\) の固有空間が \(T\) の固有空間でもあることが分かる. 元の表現をここに制限すれば表現空間ができたことになる. 以上, 大雑把な説明だ.

これを見れば分かるように線型代数は量子力学の基本的な認識を形作る上で数学的に大事な役割を果たす. 学部 1 年で学ぶ線型代数で十分だが, その代わり学部 1 年を学ぶことは完璧に分かっていなければいけない. 数学科水準で理解するくらいでないと多分量子力学の理論にはついていけない. 少なくとも物理学科に来る人間なら量子力学を単なる計算の道具ではなく, きちんと学びたいと思っているだろう. そういう人は本当にきっちり線型代数を詰めておく必要がある.

大雑把と言った以上, 細かいこと, そして普通の Schr\"odinger を扱っているときに実際に数学的に起きる問題がある. それを簡単に書いて終わりにしよう. まず本の『注意 7.34』に書いてあることだが, 普通の意味で可換 (\(TH - HT = 0\)) だからと言って \(H\) が \(T\) の保存量になる保証はない. これは大抵の場合 \(H\) と \(T\) の少なくともどちらかは非有界になるからだ. 非有界作用素については「強可換」という概念があり, 強可換なら問題ない. この辺は『量子力学の数学的構造』や『量子現象の数理』を読んでほしい. 興味があるという向きにはセミナーを開いてもいい. 関東近郊なら何とか出向けるのでご相談頂きたい.

  

他の問題だが, 物理としては瑣末と言ってもいいのだけれども, 数学的に根本的な問題として \(H\) が固有値を持っているかという問題がある. 期待としては「スペクトルの下限である基底エネルギーは固有値であってほしい」が, これが怪しくなる物理現象を (赤外) 発散という. ちなみに私の専門だ. \(T\) も同じで, 固有値を持つかどうかが問題になる. 一応, 「固有空間」があることを前提にしているから.

上の問題と同じく物理というより数学の問題になるが, 非有界作用素の取り扱いが必要になるために色々数学的に面倒くさい.

ついでなので書いておこう. 「これは大抵の場合 \(H\) と \(T\) のどちらかが非有界になるからだ」と書いたが, では両方とも有界になることがあるか, という話がある. それはある意味で山程ある. 量子スピン系を考えるとき, 作用素環的に初めから無限系を考える場合もあるが有限系から熱力学的極限を取る場合もある. 有限系は有限次元なので, そもそも非有界作用素の出番はない.

2013年10月14日月曜日

物理と関数解析: LSZ やら物質の安定性やら

時々話題にするが 物理と数学, とくに関数解析というネタについてまたやりとりしたので, 記録しておく.
ある物理については関数解析の知見が本質的だったとかそういうシーンって何かないのかな
@wr_r LSZ は弱収束が大事で数理物理が先行した, 世にも珍しい例です
@phasetr どういうことでしょう.
@wr_r 場の理論の散乱をみるには演算子の収束ではなく行列要素の収束を見ないと駄目, という話です
@phasetr なるほど, それはおもしろいですね. ちょっと調べてみたら, 相転移 P のブログで今年の 2 月 7 日に取り上げていたんですね. 他に数理物理が先攻したような話ってどんなものがありますか.
@wr_r 最近というか現代的なところではそれ以外ないという理解です. 数理物理勢しかしていないこととしては物質の安定性があるでしょうが, あとはよく分かりません
@phasetr 少なそうとは思っていたのですが, そこまででしたか……. 数理物理は今研究されてる物理の手前の数学をやっているということなのでしょうか. それと, 質問ばかりになりますが, 物質の安定性というのは例えば基底状態がちゃんと存在するかとかそういう話でしょうか.
@wr_r 私が今やっているところだと, 学部三年の量子力学てやるような話をやっています. 物質の安定性は, 多体系のハミルトニアンの基底エネルギーが粒子数で下から抑えられるかという話で, 量子論のはじまり, 電子軌道の安定性の一般版です
@phasetr なるほど〜, それでは物理の人間は数学やる前に物理やってという話になるわけですね. 物質の安定性については, 確かにそういう問題は聞きませんでした. 面白い話をどうもありがとうございます.
@wr_r 物質の安定性はとりあえず http://arxiv.org/abs/1111.0170 である程度様子が掴めます. あと http://arxiv.org/abs/math-ph/0209034 とか
@phasetr リプライに今気付きました. ありがとうございます! 時間見つけて読んでみますね.
物質の安定性については物理的にもとても大事だと思っていて, 研究したいとも思っている. 物理的にはこれ以上ないほど簡潔明瞭な上に fundamental の方の意味で基本的で本当に気にいっている問題だが, 数学面でかなりきつい. 難しい数学を使うというわけではなく, 評価のための不等式の技巧が死ぬ程きついというタイプ. 微積分しか使わないと言い切ってもいい程度ではある. こういうと Lieb や周辺の人達がこう色々と言ってくる可能性はあるが, とりあえずいいだろう. 原さんなどは納得してくれると理解している. arXiv にもあるが, Buchholz の散乱に関するレビューで LSZ の経緯とか色々書いてあった記憶がある. 興味がある向きは探して読んでみよう.

2013年10月6日日曜日

久保記念シンポジウムに参加し, 沙川さんの初観測に成功した

10/5 に久保記念シンポジウムに行ってきた. 前日にピカチュウさんに教えてもらったので, 急遽参加を決めた. 何せ若きスーパースターとして活躍していると評判の沙川さんのトークが聞けるのだ. 市民として滅多にない機会なので超楽しみということで参加した.

沙川さんトーク, 面白かった. 小林さん (と呼んでいいのかどうかアレだが) も話がうまくて面白かった. 実験の人の話を滅茶苦茶久し振りに聞いたが, そんなことできるのか, と思って単純に楽しかった. 自分の研究に役立つ方向では, 勝本さんの話, spin-boson モデルの話が出てきたのが大変に興味深い. 廣川先生が spin-boson の役割みたいなことを言っていたのを聞いたことがあるが, 実験の人が実際に spin-boson を使って実験の説明をしているのを聞いて, spin-boson 結構使えるのか, というのが少し感覚として分かった. spin-boson, 実際に最近結構数学的にもきちんと研究できるようになってきていて これ とか これ とかあったりする. 適当に検索して見つけただけなので, この論文が非常に良い結果とかいうわけではない. 私が知る範囲では, 数学的には廣川先生が一番熱心に研究していると思う. 興味がある向きは廣川先生の仕事から色々調べていくといい.

実験トークはよく分からないので, 沙川さんトークだけ記録しておく. 上田先生ともやっている, 情報熱力学周りの話だった. 当人は「あまりガチガチなことをするとまずいからと思ってゆるふわな内容にしてしまったが申し訳ない」みたいなことを言っていたが, 感覚の全くないところだったので, 逆に私にはゆるふわでちょうどよかった. 何をやっているのか雰囲気は把握した. 確かに面白い. エントロピー生成に関して, 2 つの不等号を繋げて全体として非負, という話をしていて, 同時に等号が成立するような実験系などあるのか気になったので質問してみたが, やはりまだよく分かっていない, ということだった. 系のエントロピー生成とメモリ側のエントロピー生成で等号成立条件が全く違うので, ということらしい. 隣にいた宮下先生から「それは物理としては期待できないでしょう」みたいなコメントを頂いた. しかし, 何かできたら面白そう. 実験的に実現できるかはともかく, とにかく理論的に何か言えたら面白いとは思う. 物理に関してはほぼ素人なので, ピント外れの考えかもしれないが, こう色々と想像をかきたててくれる. トーク後, 田崎さんに「大分話すのうまくなったけれども基本的な設定の部分についての説明が全然ないし云々」という突っ込みを受けていた.

ここ最近, Summer School 数理物理など楽しいイベントがたくさんで非常に楽しい. それはそうと, 沙川さんに「どちらの方でしょうか」と聞かれたときに「Twitter の相転移P です」と言ったらそれで通じたことは記録しておきたい.

2013年10月4日金曜日

美少女であるところのひさこさんを確率的な意味で善導してきた

これは美少女であるところのひさこさんを善導したその記録である.
確率論とそれる方向に向かっている方のひさこさん.
@ml_hisako 何やってるんですか
@crobert_z フーリエ解析です.
@ml_hisako 測度のフーリエ変換とかあり, 分布周りの大事な話があり, ガウシアンとの関わりも強いのでそれていない説
@phasetr なるほど. ありがとうございます!
@ml_hisakohttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E6%80%A7%E9%96%A2%E6%95%B0\_(%E7%A2%BA%E7%8E%87%E8%AB%96)この辺見ると, 特性関数は定義そのものにフーリエ変換を使っているのが分かります. また確率論の基本的な対象, ガウシアンはフーリエ変換と相性がいいのですが, そういうところで陰に陽に使います
@ml_hisako さらに言えば, ブラウン運動を基礎にした確率積分でもやはりフーリエ変換は適宜使いますし, フーリエ変換発祥の地, 熱方程式を解析するときにも Feynman-Kac の公式という確率論の金字塔もあるので, フーリエはやっておいて全く損はない話です
@ml_hisako むしろ, 色々なものが色々に絡んでいくところこそ面白いところなので, あまり確率論に関係なさそう, という理由で他の数学を避けたりしないようにしてほしいくらいです. 確率論からの共形場理論でウェルナーにフィールズ賞が出ていますが共形場は他の数学との相互作用があります
@ml_hisako 前ブログにも少し書きましたが, 数論と関係ある部分もありますし, 確率論の射程も広く深いです
@phasetr なるほど…最近, 勉強してるうちに違う事もやりたいけれど確率論をやりたい気持ちが強いのでやっぱりそれに基軸を定めてやるなのかと疑問に感じました. でも市民さんからアドバイスをいただき, ほかの数学も避けずに学びたいと思いました. (続く)
@phasetr 伊藤清の確率論の 1 巻を調べてみたら特性関数の章でフーリエ変換を定義してました. Poisson 分布を考える際にも必要なんですね. この章をまだ勉強してませんでしたがフーリエ解析の大切さも理解できました. http://pic.twitter.com/0iobVWGWmf
@ml_hisako ついでなのでもう少し色々書いておくと, 例えばフーリエ解析は表現論と深い関係がありますが, 大雑把に表現論とフーリエの交点に調和解析という分野があります. この分野に確率解析を持ち込んで画期的な仕事をしたのが東大数理の新井仁之先生です
@ml_hisako また伊藤清自身がはじめた分野として確率微分幾何というのもあります. ささくれパイセンがこの辺に進もうとしているようですが, 20 世紀数学の金字塔の 1 つ, Atiyah-Singer の指数定理の確率論的証明という話題もあります
@ml_hisako これや量子力学・場の量子論と深い関係がある話ですが, (偏微分) 作用素を積分核を使って表示することで作用素を詳しく解析する手法としての経路積分 (Feynman-Kac 公式) というのがあり, 作用素論との関わりもあります
@ml_hisako 私が知っている範囲で考えるだけでもこれだけの広がりがある分野です. 元々応用から出てきた分野なので, 統計学まで含めて応用向きの話も数限りなくあります. 確率に限りませんが, 何をやっていてもそれる方が難しいでしょう
@phasetr 確率論がこんなに広がりがあると知り, 改めて学びたいなと思いました. 貴重なお話ありがとうございます! また色々教えてください!! 私も勉強して身につけたいです.
数年したら逆に色々教えてもらえるようになるはずだ. 楽しみに待っていたい.

2013年10月2日水曜日

Summer School 数理物理 2013 量子場の数理に参加してきたがスーパー楽しかった

Summer School 数理物理 に参加してきた. とりあえずスーパー楽しかった. 河東先生のは微妙なところだが, 大体全ての講演の内容にピントが合いまくっているので, 大分景色が広がった. 入門的な話を議論するということで面倒なところに触れていないからということもあるが, 人の話が これだけクリアに分かった経験もなく, 楽しかった. 順に感想を書いていこう.

新井先生: 相対論的量子電気力学

新井先生の話は 2 日使って相対論的 QED の 発見法的な (数学的に厳密でない) 議論をした上で, 最終日にきちんと定義できる部分の話をした. Hamiltonian を定義してその詳しい性質を調べたいわけだが, 今のところ運動量・空間の切断をつけないとうまくいかないということで難しいが, それでも議論は進んできている, という夢のある話が展開された. 切断つきとはいえ, 思った以上に議論が進んでいたのでびっくりした. 最近の新井研は相対論の人が多いらしく, 会場内でも学生さん達がその辺の議論をしていて楽しそうだった.

最終日のお昼, たまたま新井先生と新井研の学生さん達と食事しながらお話したのだが, 散乱理論さえ構成できれば基底状態の存在などはとりあえず言えなくてもいい, とか「それはそうだ」という話を色々した. とにかく本当に物理的な, カットオフなしの理論は何も言えていないから, やるべきこと・知りたいことは色々ある. QCD やその格子正則化の議論もしたいが難しい, という話とか色々. 論文タイトルだけは QCD を示唆しているが, 実際にはヒッグスが起きたあとの massive theory であって, ある意味こけおどしのような論文もあるからそんなに難しいと思わずとりあえず目を通して比較してみたら, とかいうコメントもあったりして実に楽しそう. 活発に研究されているようで見ているだけでも楽しい.

あと, 学生の頃からずっと新井先生にはメール上で本の誤植を送ったり論文をお送りしたりと交流があったのだが, 今回ようやく始めてお話する機会を得た. きちんと覚えて頂けていたようで, 何よりであった. 非同値表現など CAR・CCR の表現論周りで, 簡単過ぎるかもしれないがやらなければいけないことなどを考えていて, それについても少しお話したところ, Derezinski がきちんとやらないといけないと言い始めているようで, 実際に大事だろうから是非やるといい, 的な話もした. 考えていることが無意味ということはないようなので, 少し安心した. その方面も基礎的なところをきちんと固めていきたい. 「やろうと思っているがなかなか時間が取れないところをやってくれているので嬉しい」的なことも言われたので, 地味な研究だが粛々と議論を進めていきたい. 今回有限温度の話は全くなかったが, その辺も絡めてやっていく必要がある.

河東先生: 代数的場の量子論における各種共形場理論

作用素環専攻で比較的近い分野であったにも関わらず, 河東先生の話は一度も聞いたことがなかったが今回はじめて聞いた. 物理的に何かあるのかは全く分からないが, 単純に数学として非常に面白い内容だった. パン耳パイセンとか Twitter 上の作用素環の人, この辺やって私にレクチャーしてほしい. 冨田-竹崎理論とか多変数関数論とか, その辺のサポートならとりあえずある程度はできるのだが.

「この辺やっているのは私と Longo と Longo の学生くらいしかいないので人が増えてほしいのですが」的な話をしていた. 本当に面白いのでここも人が増えてほしいのだが, 冨田-竹崎理論やら多変数関数論が必要やらで参入障壁が高く感じられてしまうようで, 全然人が増えません, とのこと. その辺の詳細をうまいこと回避していたためとはいえ, かなり良く分野の様子が見えてこれも本当に楽しかった. むしろ, その辺をうまく回避しつつ面白いところを的確に時間内に盛り込んでいった河東先生の力量が凄まじいとも言える. Twitter でも河東先生のトークが凄かったという呟きを見かけたが, 確かに圧巻だった.

初日のトークで「私は数学者なので演算子ではなく作用素といいます」という話があったのだが, これを受けてその後, 原さんは「僕は物理屋なので, 演算子, といいます」といい, その後さらに廣島先生が「僕は数学者なので作用素といいます」と言っていた. 原さんが物理学者に物理学者と認識されているのか非常に気になるところだがそれはともかく, 原さんが自分を物理「屋」といい, 河東・廣島先生が自分を数学「者」と言っていたのが面白かった.

講演自体だが, 初日は場の量子論と Wightman 場, 作用素値超関数が必要というところから非有界で鬱陶しいので有界作用素に移るという話から始まった. 物理としては 4 次元 Minkowski 時空で Poincare 対称性を考えるが, これだと例が作れないしよく分からないので,
  1. 数学としてきちんとできて面白い共形場に移ること,
  2. フルの共形場ではなくカイラルに移って議論しよう,
  3. 時空としては \(x=t\) の直線上, しかもコンパクト化して $S^1$で対称性としては \(\mathrm{Diff} (S^1)\) という巨大な群を考えよう,
  4. そしてその公理系を簡単に説明した,
というところで話が終わった. 設定に関する気持の部分なので特筆すべきことはない.

2 日目からが本番で, 数学的な話がはじまった. これが面白い. Haag duality やら Reeh-Schlieder やらあるが, 特に Haag duality は話の中で拡大の極大性や locality との兼ね合いで酷使されるととても大事なのだが, 結構難しいがそれは公理として認めてしまってとにかくやってしまえばいい, みたいな話をしていて笑った. さすがに自分の学生がこの辺したいと言い出したらきちんとやるようにはいうようだし, それはそうだと思うが, それも含めて笑った. Haag duality は単なる便利なコンベンションくらいに思っていたのだが, 実際の議論では本質的に効いてくるようだった.

例を作ることと合わせて, 共形場の定式化の 1 つである頂点作用素代数やそれが発展する契機になった Moonshine 予想の話を噛ませたあとに作用素環的な議論が進んだ. 頂点作用素代数の結果を使いつつ議論するのは 3 日目の最後までずっと出てきたので, 相当大事なようだ. 共形場の定式化として適当に対応があることを使って, 頂点作用素代数で議論されていることを作用素環でトレースすることやその逆についてもかなり活発に議論されている模様. 同じ理論を記述しているのだからお互いの対応があるはずだが, 頂点作用素代数も代数的場の量子論もそのままでは一般的過ぎるから, 適当に制限をしたところでないと完全対応はないだろうという話, そしてそれは作用素環では完全有理性という条件で良さそうだ, ということだった. 完全有理性は本質的に面白い結果を出すところでは大体仮定されるらしい. きちんと確認していないが, 完全有理性は河東先生達が定義した概念のようだ. この辺もかなり凄い.

頂点作用素代数というか, 物理的に同じ理論を研究しているのだから別の数学を使ってできたことは作用素環でもできるはずだしその逆だってできるはず, というのは構成的場の量子論でも同じで, 作用素論・作用素環でできたことは確率論 (汎関数積分) でもできるはず, というのは私も思っているし実際にやりたいことでもある. そういう意味でも河東トークはとても楽しかった. 頂点作用素代数と作用素環は一方は純代数, 一方は解析学と本当に本来の興味感心がかなり違うはずなのだが, そこに対応する議論が展開できるというのはひどく非自明で楽しい. 河東先生も「昔は考えることもできなかったような分野の数学者とも話が通じるようになってとても楽しい」的なことを言っていた. 何かの文章でもあったが「昔は operator algebra で検索すると vertex operator algebra も引っかかって鬱陶しいと思っていたが, 今ではきちんと関係があることが分かった」みたいな話をして笑いを誘っていた.

3 日目はカイラルから発展してフルの共形場, 境界共形場の話をして非可換幾何の話をして終わった. 公理の設定があること, 共形場を全く知らないのでどういう話が常識なのかも知らないこともあるが, カイラルから共形場が復元できるというのはなかなか凄い. 境界つき理論との関係もなかなか無茶で, 境界の追加・削除の議論というのも凄まじい. 最後, 非可換幾何の話をするときに非可換幾何の Dirac 作用素を見つけるのに, 頂点作用素代数の構成を媒介して見つけてくるというのがかなり心に響いた. 思いもしない異分野の相互作用として相当に格好いい. 何かさらっと話していたし発見者が誰なのか確認してこなかったが, 発見者, 相当興奮したのではなかろうか.

やや別件だが, 非可換多様体は実際には非可換スピン多様体であるという話がされた. 前から普通の多様体の話をしているはずなのに何故 Dirac 作用素が出てくるのか不思議だったが, 実際, 非可換多様体の定義として今使われている spectral triple は非可換 Riemann 多様体, 特にスピン多様体であると直接確認できたので, その辺の胸のつかえが取れた感もある.

立川さん (後で名前を把握したというか顔と名前を一致させた) が色々面白げな質問をしていて, 超弦周りの話と何か絡んでいくのかもしれない. そもそも AdS/CFT とかある. 物理がどうなのかは全く分からないが, 数学としてはとても楽しいのでどんどんやっていってほしい. よい話だった.

原さん: 構成的場の量子論, \(\phi^4\) の話

田崎さんからの影響で何となく「さん」づけで呼ぶのが自然な印象がある原さんであった. 田崎さんとの共著で出る予定の Ising 本の査読をしていることもあり, 一応構成的場の量子論にいる人間として先達でもあり, 名前はずっと前から認識していたが, 今回初観測に成功した. 何か凄いかわいいというか穏やかな感じの人だった. 3 日目, ホテルの隣の部屋の人が変なことをして鳴らして警報機で起こされるなど, 今回は散々だったらしい. 体調が万全であればもっと色々な話が聞けたかと思うと残念だ. これはこれで, 今までふんわりしたことを知っていただけでもう少しきちんと知りたいけれどもなかなか勉強の時間が取れず, 解析が死ぬ程つらい分野のため精神的負担も大きかった triviality に関してある程度具体的に状況を把握できたので, とても有意義で楽しかったのだが.

Ising 本を読んでいたこともあり, スピン系に関する議論にピントがあっていたので滅茶苦茶面白かった.

「どんな汚い手を使ってでも OS の公理系を満たす例を作ればこちらの勝ち」という台詞, 非常に気に入っているというか, 私も基本的にこのスタンスというか, こういう風に言っている人達の背中を見て育った結果というか, こう色々なものを想起して感慨深く楽しい.

Ising で古典スピン系の様子を一定以上把握できていたので, ハードアナリシス部分はともかく, 今まで以上に景色を見渡せるようになった感がある. もちろんハードアナリシスパートこそが命なので, 全然何も分かったことにはなっていないけれども.

Ising 本を読んだとはいえ, あまり真面目に 13 章を読んでいなかったので相転移・臨界現象と \(\phi^4\) がどう関係するのか全く理解していなかったのだが, スケール変換に関する繰り込みで使うこと, その使い方というのをようやく把握できたので, 胸のつかえが取れた感ある. あれは本当に格好いい. スペクトル表示や鏡映正値性の話をもっときちんと聞きたかったが, 仕方ない. Frohlich から Hubbard 強磁性の解析にも鏡映正値性が使える可能性があるからちょっとやっておけ的なことを言われているし, もう少し真面目に勉強したい. Ising 本の付録, あまりきちんと読んでいないので, もう一度読み直したい.
\(\phi^4\) の triviality について, 原さんは相当思い入れがあるようで, 小話をしていた. 学部から院にかけて素粒子をやろうとしていたから場の理論を頑張って勉強していて \(\phi^4\) ももちろん頑張って計算したが, 院に入ったくらいだかに triviality 周辺の結果が出てきて, 自分の 2 年間は何だったのかと思った, みたいな話をしていた.

折角相関不等式のプロに会ったので, Hubbard でそういう話がないか聞いてみた. 凄い便利だからあったら誰かやっているだろうけれどもあまり聞かないなら難しいのではないか, とか実に真っ当なコメントを頂いた. あったらいいな, くらいだし, あろうがなかろうが無限系 Hubbard はやるしかないので粛々と進めるだけの市民だった.

あと Ising 本を催促してきた. もう少しでできるとしか言えないとのことだったが. このブログなど見ているかはどうかというのは積極的に棚に上げ, とりあえずここでも催促していきたい.

廣島先生: 汎関数積分による Nelson モデルの話

廣島先生も一方的に名前だけ把握していたが今回初観測に成功した. ほぼ一環して経路積分と言っていたが, 要は確率論を使って場の理論を記述していこうという話だ. ずっと興味はあったがあまり真面目にやっておらず, というか粒子系の方で確率解析やら何やら色々必要でしんどくて全く手がついていない分野だったため, とても (おそらく一番) 楽しみにしていた. 先日ささくれパイセン向けセミナーとして場の方の経路積分は復習していたので, 大体はついていけた. もちろんありとあらゆる意味でハードアナリシスこそ本道でそこについては全くフォローできていないが, 以前よりも親しみは増したので大変に有意義であった.

赤外正則化の元での個数期待値の指数減衰や (confined potential の場合の) 位置の指数減衰に関する詳細な評価ができるというのは, やはり圧倒的に力強い.

非 Fock 表現での Nelson (正確には私が知りたいのは van Hove) の基底状態について, 汎関数積分で見るとどうなるかが知りたいのでちょっと時間を取って取り組みたい. 物理での赤外発散の位置づけを全く理解できていないのがつらいところだが, とりあえず数学というか数理物理として処理しきりたいと前から思っている.

Pauli-Fierz は 3 日に 1 回夢に見ると言っていた. うらやましい.

小嶋先生との話

廣島先生の 2 日目, 基底状態の非存在に関する議論が出たときに「数学者である廣島先生に聞くのは筋違いかもしれないが」との前置きのあと, 基底状態の非存在に関する物理について質問されていた. 鹿野さんとのやり取りなどほとんどフォローできていないのだが, そもそも赤外発散とは何か, 赤外正則化と実際の物理とは何か, 赤外発散があるときの基底状態とは何か, といったところの物理, 私はよく把握できていないことを改めて認識した. 物性や有限温度への応用で冨田-竹崎理論を使えばいい, という話もあったのだが, それはそれでまず数学として色々難しくてあまり進んでいないというコメントをした.

一応 BEC の存在を言えている系はあるので, その辺の話なども少ししたら, 興味を持って頂けたようで, とりあえずプレプリントを見てみたいというお話になったので, プレプリントをお送りしておいた. 以前の Summer School 数理物理の BEC 回のとき, 小嶋先生もスピーカーとして話していて, 色々考えないといけないことはあるということなので, 多少なりとも参考になれば嬉しい.

総評

超楽しかった.

2013年9月17日火曜日

Gaussian superprocess and its application to Quantum Field Theory: Sasakure Seminar

先日, 東工大でささくれパイセンを主な対象として開催した小セミナーで, 「Gaussian superprocess and its application to Quantum Field Theory: Sasakure Seminar」というタイトルでお話してきた. Gauss 超過程は場の理論へ応用できるのだが, そこに関する話. 難しい話はせず, ボソン Fock 空間と緩増加超関数空間上の \(L^2\) (確率空間) のユニタリ同値性について話してきた. 幾何や数論への応用へもあるのでそこまでどうしようもないほどマニアックで孤立した話題でもない, ということも説明. これから研究でも使う予定なので, それに合わせて復習にもなった.

証明は飛ばし飛ばしだが, (可換) von Neumann 環を援用する, 確率論ではあまり見ないであろう話や, Gauss 超過程の存在証明などポイントポイントはおさえた話をした. Gauss 超過程の存在証明は Tychonoff から Hahn-Banach, Stone-Weierstrass を介し, 最後 Riesz-Markov-Kakutani で締めるという関数解析の至宝を並べた証明で, 解析陣の心を掴んだ.

まだ一本目すら出ていないが, これも動画 (DVD) にしたい. やりたいことがたくさんある. ご興味があるという向きはご連絡頂ければ適当にお話に行くことはできる.

2013年9月1日日曜日

構成的場の量子論と Levy 過程と Gauss 超過程

先日, Twitter でくるくるさんに読んでほしい本特集をしていたのだが, その中でささくれパイセン方面にぶっこもうという自然な流れができた. それを記録しておきたい. 他の人も何か言っていたと思うが, 追跡しきれないので自分の分だけまとめる. この辺からはじまる.
ささくれ先輩には汎関数積分を教わりたい. Levi 過程とか微妙に確率的に多少突っ込んだ話が必要で, かなりつらくて読みこなせない
今書いている論文, さっさとまとめてちょっと違うことしてみたい気分になっている. 動画作る上で幅を広げたいという目的もあり
(作用素論・) 作用素環・確率論でそれぞれ同じ物理がどういう風に数学的に表されるか, とかそういうのも鑓田違法の市民だったが, 確率には挫折しっぱなしな方の市民だった
よく知らないのだが, ブラウン運動と大偏差原理, 何か関係あるの
ささくれ先輩にガウス超過程を教わるオフの開催が決まった
ささくれパイセンとパン耳パイセンに可換, 非可換確率論の集中講義をしてもらおう
構成的場の理論, 本当にレビとガウス超過程出てくるということだけは言っておきたい
学部一年の時, ブラウン運動の物理について調べて発表しろという講義があり, その時何も知らずに飛田ブラウンを手に取ったり, 初期値δ関数の拡散を考えるのにシュワルツの超関数とか手に取ってしまって絶望に叩き落とされた私の話はやめるんだ
Levi 過程にまで踏み込んだ本格的な汎関数積分の本は廣島先生達による次の本, 『Feynman-Kac-Type Theorems and Gibbs Measures on Path Space: With Applications to Rigorous Quantum Field Theory』がいいだろう. 場の理論で作用素論・作用素環で証明したことを汎関数積分で見てみたい, と思って汎関数積分を勉強しようと思って読んだところ, 確率弱者に読める本ではないことが判明して号泣した本だ.



Gauss 超過程は上記の本にもあるが, 新井先生の『量子数理物理学における汎関数積分法』が読みやすい.



場の理論だと, 基本的に Gauss 超過程は「敗北」を意味する. Gauss 超過程は自由場に対応するからだ. 物理として面白い (意味がある) のは相互作用場だが, 上記注意からこれは非 Gaussian である必要がある. これが実につらい. Gaussian だからといって超関数を変数とする関数の積分を考えないといけない時点で解析的にかなりハードだが, それをさらに越える制御の面倒さが出てくる. Curved spacetime でしようと思うと最早現行人類の手を離れるといってもいいだろう.

途中で非可換確率論の話が出てきているが, それについてはこれでも見てほしい.
@safour_1 http://phasetr.blogspot.jp/2013/03/twitte\_15.html この辺を

2013年8月18日日曜日

書評という名の感想: 大栗博司さんによる『大栗先生の超弦理論入門』講談社ブルーバックス

大栗博司さんによる『大栗先生の超弦理論入門』という本が 8/20 にブルーバックスから出版される.


これの早刷による書評募集があったので, 応募したら当選になったようで, 本が送られてきた. 送るべき書評は 400 字までなのだが, 備忘録も込め, ここでは詳しく書いておく. 自分の趣味に沿った, 普通の人は気にすることのない細かいいちゃもんのようなものもあるが, このブログ読んでいる人に普通の人はいない想定なのでよしとする.

まず一言でいうと面白かった. 今まで断片的に知っていた色々な超弦理論関係の言葉が繋がっていってすっきりした, というのもある. 特に後半, 何を言っているのかさっぱりだが大栗さんが実に楽しそうに研究し, 本を書いている姿が伺える. 所々自分の趣味を刺激してくるので, 研究 (勉強ではなく) したくなる気にさせてくる素敵な本であった.

とりあえず私の知る大栗さん像から書き始めることにしよう. 私の専攻はいわゆる数理物理で大栗さんも広義の数理物理だとは思うが, 研究の方向についてほぼ関係はない. 始めて大栗さんの名前を聞いたのは東大数理の名誉教授 (話を聞いたときは教授だったが) の桂利行先生からだ. 何かのときに IPMU の話になって「大栗さんも村山さんも数学めちゃくちゃできる」と言っていたので名前を知った. 東大数理の名誉教授になるくらいなので桂先生も大概だが, その人にこう言わせるとは凄まじいな, と. 超弦関係の物理の人, 鬼のように数学できるので恐ろしいが, その中でもトップクラスとか戦慄した.

では内容. 「はじめに」から順に思うところを徒然に書いていく.

はじめに

超弦理論は素粒子の理論であると同時に時空の理論でもあるということ, 空間の「次元」が決定できる理論であると紹介される. P.5 で次のように書かれているので, 「決定」と書いてしまうのはまずい気もするが, あとの方で「次元が決定できて嬉しい」という記述はあったので.
超弦理論の研究から, 空間の「次元」が変化してしまうという驚くべきプロセスが発見されました.
何にせよ, のっけから空間の次元の話を押し出してきていて, 心を掴みに来ているな, という感じ. ふと思ったが, 時間は何で 1 次元扱いなのだろう. 不公平感溢れる.
P.6 に次のような記述があるが, ちょっと思うところがあった.
P.6
温度とは分子の平均エネルギーの表れにすぎません.
超弦理論, ブラックホールの温度という話も出てきたし形式的には多体系の理論になると思っているのだが, 温度はどう扱っているのだろう. 形式的に「絶対零度」の世界の理論なのだろうか. 京都の小嶋先生あたりの相対論的場の理論での非平衡状態に関する研究あるし, 温度が入ると Lorenz 不変性が壊れるとかいう話というのを聞いたので, その辺気になる. Curved spacetime 上, 普段私が触っているフラットな時空での対称性の議論がどこまで使えるかがまず問題なので Lorenz 不変性の話はいいとして, 温度の扱いは気になった. 超弦レベルでの温度の定義とかまた修羅の世界っぽいが, そもそも意味があるのかどうかが気になる.

のっけから私の話が脱線しまくっているのだが, 本ではストレートに空間とは何ぞ, 次元とは何ぞ, というところを考えるのだというのを強調している.
P.7
そして, この理論が数学的につじつまが合っているかどうか確認していく作業の過程で
超弦というか相対論的場の量子論を含む素粒子関係, 理論が異常なくらい綺麗なので時々驚く. 私は一応物性回りで, 綺麗になり過ぎないぎりぎりのところで, しかも現行人類に扱える範囲の対称性は持っているところを狙っているので, (不勉強で関連する物理がよく分かっていないこともあり) 綺麗すぎると物理として大丈夫なのか, というのが気になるが, 真っ向から逆を行っている感じ, 何ともいえず, 面白い. 数学的整合性を軸に議論するというの, AQFT では基本中の基本ではあるけれども.
P.8
第 4 章では, 超弦理論では「空間の次元が決まる」理由を明らかにします.
次元が決まるというの, 確かに面白いし魅力的. 普段好き好んで \(d\) 次元で考えている私が言うのもアレだが.

第 1 章 なぜ「点」ではいけないのか

量子統計というか非相対論的場の量子論というか, その辺で電子が点粒子なせいで, 基底状態の不安定性との戦いが必要になるので困っている方の市民だった. 私が扱っている範囲では原子核も点扱いが一次近似として正当なので, いつも困っている. もっというなら, つらくて手に負えないため普段は Hubbard で格子上に制限してその辺さばいているのだが. というようなことをタイトルを見た時点で色々思う.

章の冒頭の一文を引いておこう. 駄目な大人には困ったものだ.
P.12
私たち素粒子物理学者はこうした問いかけを心に抱き続けたまま, 大人になってしまいました.
超弦だと物質の基本は (昔ながらの) 粒子とするのではなく弦だと思うという話だが, 少なくとも何故「点」では困るのか, というところから始まる. ここまで書いて思ったが, 脱線が多過ぎて本の筋が何なのか見えなくなりつつある感想文になってしまっていて実にアレ.

Euclid あたりの数学的な点の扱いから Demokritos の原子論に流れて, というお決まりの話の流れが出てくる. この辺については我らが江沢洋先生の『だれが原子をみたか』がハイパー面白いのでお勧め. 江沢先生は日本の数理物理の草分けで素粒子・場の理論界隈の数理物理の人だ.


原子・原子核からさらに陽子・中性子, クォーク, 標準模型の話で, そこから標準模型の問題を議論して弦だ, となる.

単純に私が知らなかっただけだが, 暗黒物質は標準模型関係の話だというの, あまり認識していなかった. 宇宙論関係の話だとしか思っていなかったので「ほー」と思った.
重力と電磁気力の比較のところ, 物質の安定性関係で中性子星 (重力多体系) の扱いなどを思ったが今は別に関係ない (はず).

電子が自分で作った場との相互作用で無限大が出てきて困るから点は駄目なので, 繰り込みでどうにか対処したがある所まで行くと 繰り込みも駄目だからどうしようとなって弦に行きついた, というところで 1 章が終わる.

章末のコラムでひもと弦という言葉回りの小話が紹介される. ひもという言葉を使った方が一般にインパクトがあるらしいというのだが, 弦と言った方が格好いいのに, と思ったけれども, Twitter で「女性に寄生する男性としてのひも点意味での超ひも理論」とかいう地獄の底から這い上がってきたような, 何重もの意味で線型代数で殲滅すべき発言をよく見かけることを想起し, 納得せざるを得なかった.
次の話, 涙を禁じ得ない.
P.32
先日も著名な天文学者と話しているときに「大栗さん, 超弦理論と超ひも理論というのは, 同じものだったのですか」と聞かれて, びっくりしました.

第 2 章 もはや問題の先送りはできない

電子の話だが, 電磁場が出てくるので光の話も出てくる. くりこみの話がメインだが, 重力を考えるとくりこみができなくなって困った, というところで終わる.
P.37
光は「波」であり「粒」でもある
よくあるアレだが, 超弦くらいの無茶な話をするなら, もう「光は波やら粒子やらといった (古典的な) 存在ではなく量子という別の何かであって, 常識的な見方は捨てるように」と言い切った方がいいのではないか. 「物理学者は保守的」という記述もある中, 保守的な人間ですら常識を捨てざるを得ないほどよく分からないということ, もっと強調していいと思う. その上でさらにどうしようもなくなって弦のような何かというところまで行き着いた, という話ではないのか.
P.42
これをファインマン図で表すと, 図 2-3 の左のように, 電子が自ら発した光子を吸収する現象と表現することができます. これによって電子の質量が無限大になってしまうのです.
Feynman ダイアグラムがぽんと描かれていて爆笑した. この辺きちんとやったことがない方の市民なので, これ見ても何故無限大になるのかさっぱりだが, 無理矢理ぶっこんで来る気概, 尊い. あとで弦のダイアグラムも出てくる.
P.46
自然界の階層構造
この周辺でくりこみの話が議論される. 階層構造のおかげでくりこみが上手く働くのだが, 重力を考えないといけなくなるとここが難しくなるという話.
私は (超弦から見て) 階層構造の上の方, 特に 上の方が上の方で本当に閉じているのかを数学的にきちんと追跡しきる部分に興味がある のだが, あまり下の方をきちんと勉強していなかったので, この辺, 最下層に進撃している人の見解が見られて面白かった. 私は自然界の階層構造の数学的整合性それ自体を調べたい. その辺を改めて認識させられて, 私にはとても刺激的な部分だ.
P.53
先ほども述べたように, 自然界に階層構造があって, よりミクロな世界の理論のほうが基本的であるというときには, 空間的な距離がきちんと測れることを前提をしています. 距離が測れなければ, よりミクロな世界とは何を意味するのかさえわかりません.
中略
重力と量子力学が統一される世界までいくと, それよりもミクロな世界は存在しないと考えられているのです.
ここ, さらりと書かれているが凄まじい. 最後, ブラックホールの話が出て次章となる.
P.58 コラム 思考実験
街中を散歩していても, 食事中でも, 思考実験はいつでもどこでもすることができます.
数学だと「思考」が外れて本当に実験ができる. 理論と実験の区別, 特にないのが数学のいいところ, ということで牽強付会に数学につなげていきたい.

第 3 章 「弦理論」から「超弦理論」へ

弦と超弦, 何が違うのかよく知らなかった方の市民だったが, ここではじめて違いを知る. 違うのは把握したが, どう違うのか.

南部・後藤の提唱, 開弦と閉弦, 粒子を弦にしたときの Feynman ダイアグラムと進んでいく. P.70-71 で弦にしたおかげで原理的に発散の困難を取り除けたということがダイアグラムを使って説明されるが, 私にはよく分からなかった. ダイアグラム自体よく分かっていないのも大きいのだろう. ひとまず何か大丈夫らしい, ということで先に進む.
P.72
光子は「開いた弦」の振動
閉じた弦は重力を伝える
弦の話に入って早々に光と重力が弦で統一的に理解できるという無茶がぶっこまれる. さらりと猛スピードでやってくるのでびっくりだ.
P.78
弦理論と超弦理論の違い
弦理論だと boson だけ, 超弦だと fermion も含む, ということらしい. 超空間とかグラスマン数の話が出てくる. 物理の人はよくグラスマン数というが, 数学だと普通は外積代数という. Lie 代数と Lie 環, 作用素代数と作用素環のように, この辺, どういうところから言葉の使い方の違いが出てきたのか前から不思議に思っている. 外積代数に関しては, はじめに見つけた人の名前を出す物理の人の言い方がいいとは思うし, Lie 代数についても環ではなく代数の方が正確だからこれも物理の言い方の方がいいと思うが, 物理の人の言葉遣い, 無茶苦茶な方が普通なので, こう色々なものを感じる. 数学は数学で, 量子化・量子何とか・エネルギーなど物理用語を魔解釈することはあるにはあるのだが.

最後, 超対称性と余剰次元の話が出てきて章が終わる. 外積代数の方の次元が「空間」の次元扱いになるの, 凄まじい. 自然やばい.

第 4 章 なぜ九次元なのか

タイトルからして既に危険領域に突入している.

章の冒頭に小川洋子『博士の愛した数式』の一節と Euler の公式が引用されている.


話の本筋と全く関係ないが, 数学会の会誌の「数学会報」だか何かに, 「博士の愛した数式を読んで, 改めて自分が日々触れている数学が素晴らしいものだということに気づかされた」という書評があったのを思い出した. この章では \(\zeta\) が出てくる.
P.95
なぜ三次元なのか
正面切って聞かれると答に窮する疑問だが, 超弦だとこれが出てくるという戦慄すべき話が語られる. 大栗さん自身次のように書いている.
P.95
次元の数が決まるというのは, 物理法則としては前代未聞のことです.
超弦理論という「理論」を「自然法則」と言っていいのかはよくわからないが, 次元を決めてしまう理論が凄まじいのは間違いない. これではじめて知ったのだが, これなら超弦理論に夢中になる人がいるのも道理だという認識に至った. この章では 25 次元の話なども出てくる. ここに興味がある向きは是非きちんと本を買って読んでみてほしい. あと, ここの特に超弦理論の計算のところ, 参考文献つけてほしい.

コラムで超弦理論の実験的検証という話があるが, 実験的に検証するための実験の提案などはあるのだろうか. 少なくとも現段階で高エネルギー領域での直接検証は無理だろうが, 最近物性への応用の国際会議があったとか聞いたし, そういう方向からの話は何かないのか. この本, 基本的に理論の話で実験の話はないので, そういう方向の参考文献とか知りたい.
P.111
超弦理論の研究で, 数学的な整合性が大きな導きの意図になっているのはそのためです.
散乱理論が作れない中で出てきた AQFT や GQFT の動き・目的は正にここだったのに, 物理の人から「公理的場の理論の物理への寄与は任意に与えられた正数よりも小さい」とか言われていた, というのをふと想起した.

第 5 章 力の統一原理

冒頭にヘレン・ケラーが引用されているあたりに大栗さんの感情の高ぶりを感じる. ここではゲージ原理の話が出てくる.

金融市場を例に説明されるのだが, これが私にはわかりづらい. これは一般向けの本であって, 私は厳密には対象の層ではないので全く参考にならない意見だろうが, 一般にはこの説明は分かりやすいものなのか, というは気になるところではある.

また, Yang-Mills の話が出てくる. これは Clay 研究所の 7 問題のアレだ. つまりこの辺 (の数学), 死ぬ程難しい.

第 6 章 第一次超弦理論革命

Schwarz の孤軍奮闘とその背景・歴史的経緯がまず語られる. I 型, II 型, アノマリーなど聞いたことのある言葉が乱舞しはじめて楽しい.
P.150
「三十二次元の回転対称性だ」
これ, 本当に \(SO(32)\) なのだろうか. 本当に「Infinity cancellations in SO(32) superstring theory」というタイトルで, Green-Schwarz だしこれだろうか. Yang-Mills にしろ, 本当に回転なのか. 何故球面上の話がそんなに大事なのだろう. そもそもゲージがよく分かっていないというところがあるから仕方ないのだが. ぎりぎり BCS と BEC を知っている (分かっているわけではない) が, そこでも「向き」が大事なようだし, 何か向きの話なのだろうな, という漠然とした感覚はあるが, それでいいのかよく知らない.

ヘテロティック弦理論がまた意味不明でやばい. 何だこれは.
P.158
カラビ-ヤウ空間によるコンパクト化
Calabi-Yau からの Witten が来た. Witten は「量子力学は 20 世紀の数学を彩ったが, 21 世紀の数学は場の量子論の数学になるだろう. 超弦理論は本来 22 世紀の数学なのに間違って今世紀に出てきてしまった. 私はこちらで頑張るが, 場の量子論界隈は 21 世紀の数学をきちんとやっておくように」のようなことを言ったと聞いている. それならほぼ死んだ状態の場の量子論界隈の数理物理に人を回すよう手配してほしいと思っているのだが, 全く実現しない. 困ったものだが, そのおかげで私も大学出てしばらく経つのに場の理論の数学界隈から取り残されずに済んでいるのでつらい.

それはそうと, ここでのコンパクト化, 数学的には何をやっているのかずっと前から気になっているのだが結局よく分からない. こちらも全然知らないが, Riemann 多様体の崩壊みたいな話が関係あったりする? この辺まで来ると, 正直物理よりも数学的な内容の方が気になってくるあたり, 物理学科出身ではなかったのかと自らの業の深さを感じる.
P.160
コンパクト化したときにその条件をぴったり満たす六次元空間が, 六年前の一九七八年に数学者によって見つかっていたことを知りました.
この条件とか凄く気になる. あと Calabi-Yau, 問題自体は大分前 (20 世紀初等くらい) から出ていたと思っていたが, かなり最近だというのを確認してちょっとびっくりした. 解決自体は Yau だからそれ相応の年代というのは知っていたが. 数学的な発見の時代と物理的な利用の時代が時期的にかなり近いというかほぼ同時進行なのも奇跡的で面白い.
P.162
カラビ-ヤウ空間の幾何学で, 素粒子模型が決まる
トポロジーからクォークの世代数が決まるという話, 意味不明で凄まじい. トポロジーというか幾何から物理が決まるというの, P.130 あたりの Aharonov-Bohm でもあるにはあるのだが, 結局この辺触ったことほとんどないからぴんと来ないというか戦慄する感じはある. Aharonov-Bohm も物理というより数学関係, CCR の表現論として触ったところが強いので, そういうのもいけないのだろうけれども.
P.169
カラビ-ヤウ空間が与えられることで答えの出る問題は, 実は素粒子の世代数だけではありません. 後略
あまり書いてしまうとよくないかと思って省略した. これは凄まじい. それは超弦理論に, Calabi-Yau に夢中になると理解.
P.170
距離の測り方すらわからない
この記述の意味は以前 Twitter で大栗さんに直接聞いたことがある. ここで周辺の話についてちょっと書いておいたので興味がある向きはご確認頂きたい. 大栗さんから Twitter で頂いたお返事は別途引用しておこう. よくある存在だけは分かっているが性質がよく分からないというアレだ.
@phasetr コンパクトなカラビ‐ヤウ多様対については、 計量テンソルが存在することは証明されているが、その具体的な形がわかっていないということを噛み砕いて述べたものです。
P.172
ゲルマンはのちに, 「超弦理論のような絶滅に瀕している分野のために, 保護区を設けたのだ」と語っています.
中略
ゲルマンのような目利きが見守っていたからこそ, シュワルツも自由な心と集中力を持って研究ができ, 真のイノベーションを起こすことができたのです.
言いたいことは分かるが, 何というか, 結果的にゲルマンが目利きだったという部分が強調されているような感じでちょっと嫌. 結果的に超弦が駄目な結果になっていたとしても, それに賭けて心血注いだ Schwarz とそれをサポートした Gell-man の志は尊い. いいたいことが上手くまとまらないが, 言いがかりに近いアレだ.

第 7 章 トポロジカルな弦理論

名前だけは知っていた topological string, 大栗さんの業績だったのかというのを始めて知る夏だった. 量子効果を計算するというがそれが何なのかさっぱり分からないというか, そもそも書いていないという認識. 気になる. 定義自体はやはり計量に依存する量の計算なのだろうか. そうでないと話に意味がないので多分そうなのだとは思うのだが. あと P.179 の式, Word みたいな表示で嫌: TeX の感じで載せてほしかった. 難しいのだろうか.
P.184
大事件が起きたのは, その数ヶ月後でした. 第一次超弦理論革命と同時に研究者人生をスタートした私は, バークレイで研究室を立ち上げようとしていたときに, 第二次超弦理論革命に直面することになったのです.
大栗さん, 超弦理論の発展の生き証人という感じで実に羨ましい. 研究者になりたかったと改めて思わされる.

第 8 章 第二次超弦理論革命

Witten が再登場した: 双対性や M 理論の話.
P.196
空間の次元を高くすると, 二種類の粒子の数を合わせることができなくなるからです.
これ, どういうことなのだろう. 参考文献知りたい. 数学的・物理的に読めるかどうか, 読む時間が取れるかはともかく.
P.203
当時はまだこの研究に使える数学的な道具が限られていたことも, 理由の一つでしょう.
数学的に何が足りなかったのだろう. それが無性に気になる. 超弦ではなく場の理論だが, こういう「物理に必要な数学を見つける・作る」という問題, 自分の専門ということもあるから.
P.204
円の半径が, 力の大きさになる
P.207
結合定数が大きければ大きいほど複雑化し, 計算が困難になると思われていた超弦理論が, その極限では一〇次元空間の超重力理論になるという, きわめてシンプルで美しい理論になっていたわけです.
円の半径が変わるというはともかく, 結合定数が変わるというのはどういうことなのだろう. ある物質というか場の結合定数が大きいときの問題というにしても, 結合定数変わるのだろうか. 裸の結合定数とかその辺の話? それは超弦理論でもまだ何かあるということか. 光学格子上の BEC のように, 結合定数を変化させられるのだろうか.
P.214 column
そもそも, 素粒子論や超弦理論の新しい発展が, 既存の数学ですべて理解できるとはかぎりません. 研究をしながら, 新しい数学を作っていくことも必要になるでしょう. そして, このような研究から新しい数学分野が開けていくこともあります.
超弦界隈は現在進行形で色々あるようだが, 私の専門の量子統計・場の量子論でも色々あるし今もある. 特に作用素環への影響は顕著だ. 熱力学・統計力学で一番基本になる概念である平衡状態の定義そのもので新しい数学が生まれたことがある. 正確にいうと数学での発展と物理での発展が同時に起こって一体になって進んだ経緯がある. 有名な話でバトンルージュでの国際会議で, 後に冨田のモジュラー理論 (冨田-竹崎理論) と呼ばれる理論に関する冨田稔のプレプリントが出ていたのだが, Haag-Hugenholz-Winnink による平衡状態の定式化に関する話もあった. プレプリントを見ると出てくる式がやたら似ていて不思議なこともあるものだ, と思っていたら, 実は数学的には同じ話だった, という荒木先生の話があった. 最近量子統計界隈でそういう動きはないように思うが, 相対論的場の量子論, AQFT ではまだまだ動きがある. 非相対論的場の量子論 (構成的場の量子論) だと新しい数学と言えるのかは分からないが, 数学的研究は進んでいる. 超弦は人がたくさんいるので, 興味がある向きは是非こちらにも来てほしい.

2.10 第 9 章 空間は幻想である

その辺の適当に何かかじっただけの人間がいっていたら苦笑いするしかないような発言だが, まともな物理学者が言っていることに戦慄する方の市民だった.
ブレーンの話が出てくるのだが, 破滅的に意味不明で戦慄する. もう, どうなっているのだ, としかいいようがない.

P.225 の IIA 型の話, 何を言っているのか全然分からない.
P.229
ブラックホールの温度が説明できるようになったのです.
ブラックホールの温度, どう定義しているのだろう. ブラックホールの熱力学というのを聞いたことはあるが, 実際に何をやっているのかは知らない. 「p-ブレーンも温度を持つ」という記述があるが, p-ブレーンの温度もどう定義しているのか気になって仕方がない. P.230 で「開いた弦の運動によって説明できた」との記述があるが, 平衡系の計算みたいなことをしているのだろうか. ブラックホールに平衡系の理論は適用できるのだろうか. とりあえず適用してみて一致することが分かった, という話? 素人がすぐに思うことを専門家が突っ込まないはずがないので, きちんと議論はあるのだろうし, それを知りたい.
P.234
重力のホログラフィー
また名前だけは知っている重力ホログラフィーと AdS/CFT が出てきた. AdS/CFT, この辺の話だったのか.
P.239
温度も, 空間も, その中に働く重力も, 本質的なものではない.
何だか知らないが「温度が本質的なものではない」というのにイラっと来た. 自分の熱力学・統計力学への過剰な思い入れを感じる出来事だった.
P.242
この現象は, 重力のホログラフィー原理を使って予言されていました.
理論で予言できた現象が実験で再現されるという話, 無条件に胸が高鳴る.

2.11 第 10 章 時間は幻想か

理解が置いつかなくなっていることもあり, もはや「ほー」「へー」くらいしか書くことがなくなっている方の市民だった.
P.252
私「空間とは, どのような種類の集合なのですか」
数学者「近いものと遠いものの区別がつくような集合です」
数論幾何をやっている nolimbre さんの「位相空間は甘え」という言葉を想起した.
P.261
超弦理論のこれまでの研究は, 九次元空間のコンパクト化のような, 時間的に変化しない現象に集中してきました. しかし, 宇宙の始まりの問題に超弦理論を応用しようとすると, 超弦理論において時間がどのように扱われるべきかについて, 深く考える必要があります.
これまでの記述は時間変化のない現象ばかりだったということ, 意識していなかったので「ほー」という印象.
P.269
学生が大学院に入学してから超弦理論の論文を書けるようになるまでの年数が, 私が大学院生だった三〇年前も現在も, 変わっていないことです.
難しくなりすぎて研究者が離れて, 今では滅亡の危機に瀕している構成的場の量子論とは大違いだ. 非相対論的場の量子論の方ならもう少し何とかなる気はする. 4 次元 \(\phi^4\) の自明性ですら手が負えず, QED は Dyson が 50 年も前に存在しないだろうという兆候を見つけたきり多分何も動いておらず, かといって QCD もどうにもならない. (量子) 統計方面でも, Heisenberg や Hubbard ならもう少し何とかなる気はするが, Ising だと大体悪魔のような問題しか殘っていなくて, 革命的な展開が 2-3 は必要という印象がある. 超弦理論, 羨ましい.
P.270
超弦理論はまだまだ発展途上の理論です. それは研究者にとっては, 挑戦すべき問題がたくさんあるということでもあります. この分野のさらなる発展にご注目下さい.
もちろん注目はするが, 少し研究者をこちらに分けてほしい.

2.12 まとめ

この本の感想だか何だかよく分からないことになってしまったが, 刺激的な本だった. 2 年くらい書きかけで放置していた論文をいい加減まとめようという気持が湧いてきた. 頑張ろう.