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2014年7月20日日曜日

小林俊行先生のインタビューページ: インタビュー・井上学術賞受賞・小林俊行教授 無限次元の対称性の数学 ~根源から湧き出す泉の豊かさ~

インタビュー・井上学術賞受賞・小林俊行教授 無限次元の対称性の数学 ~根源から湧き出す泉の豊かさ~ という記事だ.


興味がある人はとりあえず読んでみよう.
極小表現について小林先生がいろいろ話している.


この辺からが本領発揮だ.

これ以上分解できない最小のものと言いましたけれども、
実は、重ね合せによる分解という古典的な考え方だけを用いるのではありません。
より単純なものから複雑なものを構成する、表現のインダクションという仕組みがあります。
その仕組みを逆にたどると、単に分解するだけより、もっと根源的なものに行き着きます。
実は、本当に根源的なものは非常に種類が少ないのです。
実際、対称性のほとんどは一次元のものに端を発していることがわかります。
根源的なのに無限次元のものもごく少数存在します。
この例外的な無限次元の対称性の代表格といえるのが極小表現です。


あとこれ.



教えるのが上手とか字がきれいとかというのと全然違うんだけど、
本物の数学の息吹を感じてもらう手助けなら少しできるかなあと。
一・二年生を教えたいという気持ちは、そういうところにあります。


自分の中のものが人に伝わる、あるいは人のものが自分に伝わるという、
空気中に飛び交うもの、目には見えない何かがあるでしょう。
ぼくは、こういう空気を大切にしたいのです。
ついさっきまで研究していた先生がパッと教室に行って講義する。
研究に没頭していた空気がまだ服にもついてるし、
体の中からも出ているかもしれない、それを伝えて、
また学生さんは学生さんで日々研鑽して伸びている空気を出してそれを一つの教室で共有するっていうのが、
何かすごく素敵なものだなあと思う。
それが教えることが好きな理由の一つかなあと思います。


これが凄く大事で, 私もやってみたいと思うことだ.
大したことができなかろうが何だろうが,
研究する気持ち・挑戦する気持ちを捨てずにいること,
それを示し続けること, それが大事と信じている.


ちなみに小林先生について以前 この記事 でも滅茶苦茶格好いい姿を紹介している.
ぜひ読んでほしい.
あと『数学まなびはじめ』は必読なので買っていない人はさっさと買ってほしい.


2013年10月28日月曜日

量子力学と群の表現論: エネルギー固有状態と群のユニタリ表現の表現空間

Twitter で石塚さんとこんなやりとりをしてきた.
"量子力学で, ハミルトニアン H がある変換群 G で不変であるとすると, 1 つのエネルギー固有値 E に属する H の固有空間は G のユニタリー表現の表現空間になっている. (…) これが, 原子や分子の状態や素粒子の分類に群論が有力な道具となる理由である. " (群の表現, 物理学辞典 (培風館)) へえー
@Yusuke_Ishizuka 大雑把に言うとただの同時対角化です
@phasetr すみませんが, ピンと来ないので何か文献を教えてください
@Yusuke_Ishizuka 新井先生の物理の中の対称性の七章あたりでしょうか. とりあえず連続群だとして, とか書こうと思ったところでブログに書けばいいと気づいたので, 後でなんか書きます. きちんとやると大変ですが, 気分的には大したことないです
@phasetr ありがとうございます. ブログ楽しみにしますね
というわけで簡単にまとめる. 参考文献としてはいつも通り新井先生の本で, 『物理の中の対称性』だ.



7.8 節【物理量の時間発展と保存量】が大体それだ. 正確にいうとこの節ではちょっと違うことをしているが, 次に書くようにすぐ直せる.

Hamiltonian \(H\) がある (連続) 群 \(G\) で不変だというのは, \(G\) のユニタリ表現 \((U_g)_{g \in G}\) を取って, \(U_g H U_g^* = H\) が成立することとする. 書いていて私がやりづらいので, \(G = \mathbb{R}\) としよう. ここで Stone の定理から無限小生成子 \(T\) があって \(U_x = e^{i x T}\) と書ける. (一般の場合は SNAG 定理 を使う. ) ここで不変性の定義式を \(x \in \mathbb{R}\) で微分した上で \(x = 0\) とし, 生成子同士の関係式に変えてみよう. (念のため書いておくと, 定義から Hamiltonian \(H\) は時間並進の生成子だ. ) \begin{align} \frac{d}{dx} U_x H U_x^* |_{x=0} = \left\{i T U_x H U_x^* - U_x H U_x^* (-i T) \right\} |_{x=0} = TH - HT = 0. \end{align} 元の不変性から「生成子同士が交換する」という条件が導かれた. ここで \(H\) はもちろんのこと, Stone の定理から \(T\) も自己共役であることに注意する. 自己共役というのは要は Hermite 行列ということであって, 交換する Hermite 行列は同時対角化可能という線型代数の定理によって \(H\) の固有空間が \(T\) の固有空間でもあることが分かる. 元の表現をここに制限すれば表現空間ができたことになる. 以上, 大雑把な説明だ.

これを見れば分かるように線型代数は量子力学の基本的な認識を形作る上で数学的に大事な役割を果たす. 学部 1 年で学ぶ線型代数で十分だが, その代わり学部 1 年を学ぶことは完璧に分かっていなければいけない. 数学科水準で理解するくらいでないと多分量子力学の理論にはついていけない. 少なくとも物理学科に来る人間なら量子力学を単なる計算の道具ではなく, きちんと学びたいと思っているだろう. そういう人は本当にきっちり線型代数を詰めておく必要がある.

大雑把と言った以上, 細かいこと, そして普通の Schr\"odinger を扱っているときに実際に数学的に起きる問題がある. それを簡単に書いて終わりにしよう. まず本の『注意 7.34』に書いてあることだが, 普通の意味で可換 (\(TH - HT = 0\)) だからと言って \(H\) が \(T\) の保存量になる保証はない. これは大抵の場合 \(H\) と \(T\) の少なくともどちらかは非有界になるからだ. 非有界作用素については「強可換」という概念があり, 強可換なら問題ない. この辺は『量子力学の数学的構造』や『量子現象の数理』を読んでほしい. 興味があるという向きにはセミナーを開いてもいい. 関東近郊なら何とか出向けるのでご相談頂きたい.

  

他の問題だが, 物理としては瑣末と言ってもいいのだけれども, 数学的に根本的な問題として \(H\) が固有値を持っているかという問題がある. 期待としては「スペクトルの下限である基底エネルギーは固有値であってほしい」が, これが怪しくなる物理現象を (赤外) 発散という. ちなみに私の専門だ. \(T\) も同じで, 固有値を持つかどうかが問題になる. 一応, 「固有空間」があることを前提にしているから.

上の問題と同じく物理というより数学の問題になるが, 非有界作用素の取り扱いが必要になるために色々数学的に面倒くさい.

ついでなので書いておこう. 「これは大抵の場合 \(H\) と \(T\) のどちらかが非有界になるからだ」と書いたが, では両方とも有界になることがあるか, という話がある. それはある意味で山程ある. 量子スピン系を考えるとき, 作用素環的に初めから無限系を考える場合もあるが有限系から熱力学的極限を取る場合もある. 有限系は有限次元なので, そもそも非有界作用素の出番はない.

2013年10月16日水曜日

「杉浦光夫先生と表現論」という PDF を発見した方の市民

どうしようもない理由で表現論について検索していたら, 杉浦光夫先生と表現論という PDF を見つけた. 無論解析門前払いこと『解析入門』や山内先生との共著の『連続群論入門』で名高いあの杉浦先生だ. 1 ページの写真, 何となく『解析入門』から想像していたのとは違う, 何というか温和な感じでちょっと驚く.

いきなり本題からずれるが, 『解析入門』はとてもよい本だ. 通読するのは確かにしんどいが, 証明がきっちり書かれているので辞書として調べものに使う分には本当に役に立つ. まえがきによると『解析概論』の現代化を目指して書いたとのことだが, 中途半端に Lebesgue を盛り込まずに切って捨てたのはよかったのだと思う. そこまできちんとあればそれはそれで助かるが, over-kill だろう. ただ, 関数論パートはもっと膨らませてもいいのではないか, とは思う.

それはそれとして PDF では業績とか次世代の教育に果たした役割とかそんなことが書かれている. 群の表現論, 極一部とはいえハードユーザではあろうから, 私も恩恵を受けているのだろう. 多少は知っている大島利雄先生が, 表現論上の大きな仕事だけでなく, 後を継いで東大での表現論研究者育成に励んだというお話などは感銘を受けた. 一般的な表現論というかその研究者達はよく知らないが, 小林先生あたり化け物が生まれているのは間違いないので, こう色々なことを思う.

2013年10月13日日曜日

愛情の表現論とは

しょうもない話だが, 愛情表現というツイートを見かけて次のようなことを想起した.
愛情表現, 何のというかどんな表現なのだろう
@phasetr ほしい物リストの中からプレゼント
@sulaymanhakiym すみません. 私が言っていたのはhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%A8%E7%8F%BE\_(%E6%95%B0%E5%AD%A6) の意味での表現です
@phasetr この手の文章は漢字の読みなどは問題なく読めるところから, 確実に素人を殺しにきます.
@sulaymanhakiym @phasetr 表現論は誰でもわかる!
もちろん群の表現とかの意味での表現を考えていた.

2013年9月5日木曜日

駒場幾何学的表現論と量子可積分系のセミナー

駒場幾何学的表現論と量子可積分系のセミナー が定期的に開かれているらしい.
駒場幾何学的表現論と量子可積分系のセミナー
セミナーの目的, 対象者, 講演方法: 幾何学的表現論や可積分系の分野の周辺で現在活発に研究している方々をお招きし, 最先端の結果, というより問題意識からはじめて 3 時間ゆっくりと講演していただくセミナーです. 対象者としては, これらの方面の専門家のみならず, 表現論, 代数解析, 数理物理学, 幾何学, トポロジー等の専門家や専門家を目指している若い方々で, 幾何学的表現論や量子可積分系に興味を持っている方を対象としています. このため, 講演者には例と具体的計算, 問題設定, 動機付け, 基本的結果, 基本概念等についてゆっくり丁寧にお話ししていただけるようにお願いしています. このため, 証明には深入りする必要ないと考えております.
世話人:岩尾慎介 (青山学院大) 白石潤一 (東大・数理) 土屋昭博 (IPMU) 山田裕二 (立教大). 連絡先 (岩尾)
9/17-19 には国場敦夫さんの「転送行列、Yang-Baxter方程式、Bethe仮説」という話, 10/26 には河澄響矢先生の「(I) The Goldman-Turaev Lie bialgebra and the mapping class group. (II) Various infinitesimal approaches to the moduli space of Riemann surfaces.」があるそうなので, 興味がある向きは参加されてはどうか.

追記

関係筋から「不定期開催だ」という情報を得た.
@phasetr 関係者です. 不定期です. 申し訳ないです.

2013年8月10日土曜日

筑波の竹山美宏先生によるセミナーについての注意書きページ

Twitter での元つぶやきを見つけられなくなってしまったが, 筑波の竹山美宏先生によるセミナーについての注意書きページ があった. いつも通りというか, 河東先生のページへのリンク も張られている.

セミナーの進め方については各自飛んでいって読んでもらうことにして, ここではメモがてら参考文献とその説明に関する記述を転記しておきたい.
卒業予備研究・卒業研究でのテキストの候補 (advanced なもの・竹山自身が読んでみたいものも含む) 以下に無いものでも, なるべく希望に沿うようにしますが, 竹山の専門と大きく離れたものについては対応できません. 以下には文献についての簡単な説明をしてありますが, 全部をきちんと読んだわけではないので, 鵜呑みにしないように. (内容の紹介として不適切なところがあったらご教示下さい)

ソリトン

ソリトンとはどのようなものかを感覚的に知りたければ, 高崎先生によるソリトン工房内の「ソリトンのさまざまな顔」 にあるアニメを見るとよい.
  1. 戸田盛和「波動と非線形問題 30 講」 (朝倉書店)
  2. 三輪哲二・神保道夫・ 伊達悦朗「ソリトンの数理」 (岩波書店)
  3. 広田良吾「直接法によるソリトンの数理」 (岩波書店)
  4. 戸田盛和「非線形格子力学」 (岩波書店)
  5. 高崎金久「可積分系の世界」 (共立出版)
戸田先生の「 30 講」の始めの方に, KdV/KP 方程式についての基本的な事項が解説されている. とりあえずこれを読んで, 広田先生の神業に酔いしれる (「直接法によるソリトンの数理」) か, 伊達-神保-柏原-三輪 (通称 DJKM) の一連の仕事をきちんと勉強する (「ソリトンの数理」). 「30 講」の中盤は, いわゆる戸田格子の話になっていて, これについては「非線形格子力学」にもっと詳しく書いてある. 戸田格子について, DJKM の仕事を踏まえて, その後の進展などなども含めて幅広く解説されているのが高崎先生の本.

量子可積分系

竹山の専門分野. 「量子可積分系」の数学的な定義があるわけではないので, 感覚的に分かりやすく説明するのは難しいが, 以下に挙げる本をパラパラ眺めて雰囲気を感じてほしい.
  1. 白石潤一「量子可積分系入門」 (サイエンス社)
  2. 神保道夫「ホロノミック量子場」 (岩波講座・現代数学の展開) (もしくは佐藤・三輪・神保による原論文 I--V )
  3. 土屋昭博 (述) ・桑原敏郎 (記) 「共形場理論入門」 (日本数学会メモアール)
  4. 山田泰彦「共形場理論入門」 (培風館)
  5. 鈴木淳史「現代物理数学への招待」 (サイエンス社)
白石さんの本は有限多体系 (Calogero-Sutherland model) を主たる対象として, 量子可積分系の研究に現われる様々な手法と考え方を紹介したもの. 解析力学のことから書いてあるから, とても親切で良い本 (のはず). 卒業研究ではこの本を読むことになるでしょう. 他のものは, その次に読むべき本として候補に挙げるもの. 神保先生の本は二次元の Ising 模型・ Ising 場の理論についての概説. 下に述べるパンルヴェ方程式の「復活」のきっかけともなったお仕事の話. せっかくだから, 時間と実力があれば, 原論文を読破してみたい. この話で構成される Ising 場の理論は有質量と呼ばれるクラスで, 共形場理論というのは質量ゼロの二次元の場の理論. 様々な無限次元リー代数の表現論や代数曲線なども関係してきて, 共形場理論から生まれ出た数学は, いまなお盛んに研究されている. 鈴木淳史さんの本は, ランダムウォークと量子可積分系の関係について解説したもの. まだきちんと勉強したことはないけど, 竹山が興味ある話の一つ.

超幾何関数

ガウスの超幾何関数, およびその多変数化.
  1. 犬井鉄郎「特殊関数」 (岩波全書)
  2. 原岡喜重「超幾何関数」 (朝倉書店)
  3. 木村弘信「超幾何関数入門」 (サイエンス社)
「特殊関数」は, 直交多項式などの様々な特殊関数を, ガウスの超幾何微分方程式を軸に統一的に論じたもの. 二階に限定しても, これだけの話があるのだから超幾何というのは深いのだ. 原岡先生の本は, ガウスの超幾何から出発して, 超幾何関数という対象に対する現代数学の見方を, 各方面から紹介するもの. twisted cohomology/cycle, グラスマン多様体, GKZ も登場する. 木村先生の本では, グラスマン多様体を中心に据えて, 多変数超幾何関数を統一的に論じている. 面白そう.

楕円関数

関数論の続きとしての楕円関数論.
  1. フルヴィッツ, クーラント「楕円関数論」 (シュプリンガー)
  2. 梅村浩「楕円関数論-楕円曲線の解析学」 (東京大学出版会)
フルヴィッツ・クーラントは楕円関数についてコンパクトにまとめられた本. 楕円関数は他の様々な数学と関係していて, そこが非常に面白いのだけれども, この本では敢えてストイックに楕円関数の基本事項を一直線にまとめている (のだと思う). 梅村先生の本では, フルヴィッツ・クーラントではあまり述べられていない, 楕円関数論の背後にある幾何についても言及している.
梅村先生の本, 前から読んでみたいと思っている.

パンルヴェ方程式

竹山はパンルヴェ方程式に関しては素人なのだけれども, ここ十数年でその世界が随分と広がったような印象と持っている. パンルヴェ方程式については, その歴史を紐解くだけでも結構面白い. これについては, やはり岡本和夫先生の「パンルヴェ方程式序説」をパラパラと見てもらいたい, のだけれど, 筑波の数学の資料室にはあるのだろうか・・・? 最近絶版になってしまったので購入はできませんが, どうしても見たければ, 竹山の部屋に一冊あります. (貴重な本を譲ってくれた O 君に感謝)
  1. 野海正俊「パンルヴェ方程式」 (朝倉書店)
  2. K. Iwasaki, H. Kimura, S. Shimomura and M. Yoshida, "From Gauss to Painleve" (Viewig)
野海先生の本は, パンルヴェ方程式についてその対称性を軸に論じたもの. 計算はそれなりの重量があるが, 行列式の計算ができれば読めてしまう. 野海先生の本が出るまでは, パンルヴェについて書かれた本で入手可能なものとしては, 「序説」と "From Gauss to Painleve" しかなかった. その名の通り, ガウスの超幾何の話から始まって, モノドロミー保存の方程式としてパンルヴェ (を一般化した Garnier 系) が出てくるまでを解説したもの. パンルヴェの専門家になるためには, 野海先生の本の話だけではなく, こっちの方の話も知っていなければならない (はず). ちなみに, 阪大の大山先生の本が出たら, すぐにでもこのリストに加えたいのだけれども, まだ出版されてない.
Painleve というと Twitter の Paul_Painleve さんを想起する.

常微分方程式

常微分方程式について基礎理論からきちんと学ぶ. 偏微分方程式をやりたい人は, 偏微分方程式を研究されている先生に指導を受けて下さい.
  1. 高橋陽一郎「力学と微分方程式」 (岩波書店)
  2. 高橋陽一郎「微分方程式入門」 (東京大学出版会)
  3. 高野恭一「常微分方程式」 (朝倉書店)
  4. E. Coddington and N. Levinson, "Theory of Ordinary Differential Equations" (Krieger, 和訳は吉岡書店)
高橋先生の「力学と微分方程式」は, 前半で定数係数線形常微分方程式の解き方がきちんと解説してあって, 後半は力学系の安定性の問題や変分法の入門的な内容となっている. 大学初年級向けとして書かれた本だけど, 扱っている例などはもう少し高級なところから取ってきてるので, 4 年生で読んでも十分かも知れない. 易しすぎるようであれば「微分方程式入門」の方を問題も解きながら読みましょう. こちらの方が数学の教科書としては硬派な感じがする. 高野先生の本は, 微分方程式の基礎理論から始まって, ガウスの超幾何のモノドロミーの計算, フックス型方程式, 不確定特異点とストークス現象の解説まであって, とても内容が豊富. 複素領域上の常微分方程式を学ぶための入門書としては最適なものだと思う. Coddington-Levinson は少し古い本だが, 有名な教科書. 自己共役作用素の固有値問題についても詳しく論じてある. こういう古典的かつ本格的な教科書をじっくり読むのも面白いのではないかと.

表現論

表現論とは何か? については, 京大の西山先生による 表現論 WEB を見てもらいたい.
  1. 平井武「線形代数と群の表現 I ・ II 」 (朝倉書店)
  2. 神保道夫「量子群とヤン・バクスター方程式」 (シュプリンガー)
  3. 谷崎俊之「リー代数と量子群」 (共立出版)
  4. 草場公邦「行列特論」 (裳華房)
表現論はいろんなアプローチの仕方があって, 抽象代数的な表現論を学ぶのであれば, そういう感じの本から入るのが良いと思う (セールの教科書とか). 表現論の入門書はいろいろあるので, ゼミで実際に何を読むのかは相談して決めます. ここでは, 解析っぽい表現論の入門書ということで, 平井先生の教科書を挙げておく. 易しいところから出発して, かつとても教養に溢れた楽しそうな本. ちなみに竹山は, 学生時代に平井先生の函数解析の講義に出ていたが, その試験の問題 1 は, 「数列空間 l^{2} は完備であることを示せ. ただし鶏肉を切るに牛刀を用いるが如き証明は不可」. だった. これ以上にカッコいい試験の問題文というのを見たことがない. 神保先生の本は量子群とその表現の入門書. 最後に Face 模型が出てくるところが嬉しい. 谷崎先生の本は無限次元のリー代数である Kac-Moody 代数の入門書. Kac-Moody の日本語の入門書としては, 他に脇本先生の岩波講座があるのだが, こっちはまだ (日本語では) 単行本化されていない. (追記:2008 年 7 月に単行本化されました) 「行列特論」を表現論の本だというのは少しズレてるような気がしないでもないけど, 第二部は quiver の表現論だ, ということで許して下さい. 線形代数だけを使って三つの面白い問題を論じている名著. ここで紹介するにあたって, パラパラと眺め直してみたのだけれども, やはりとても面白そうなので, 誰か読みませんか?
平井先生のこれ, 格好いい.
ちなみに竹山は, 学生時代に平井先生の函数解析の講義に出ていたが, その試験の問題 1 は, 「数列空間 l^{2} は完備であることを示せ. ただし鶏肉を切るに牛刀を用いるが如き証明は不可」.

母関数~組み合わせ論・整数論

もしくは「組み合わせ論や整数論と関係する q-解析」.
  1. アンドリュース, エリクソン「整数の分割」 (数学書房)
  2. G. Andrews, "The Theory of Partitions" (Cambridge Univ. Press)
  3. D. M. Bressoud, "Proofs and Confirmations" (Cambridge Univ. Press)
  4. B. Berndt, "Number Theory in the Spirit of Ramanujan" (AMS)
最初の二冊は整数の分割 (partition) についての本. partition というのは, 非負整数を非負整数の和で書くことで, 例えば 6 の分割は, 6=5+1=4+2=4+1+1=3+3=3+2+1=3+1+1+1=2+2+2=2+2+1+1=2+1+1+1+1=1+1+1+1+1+1 となる. このような分割が何通りあるか, というのが partition number と呼ばれるもので, その性質についていろいろと論じられているのが最初の二冊. "The Theory of Partitions" は関数論の続きとしても読める (たぶん). "Proofs and Confirmations" は, alternating sign matrix の数え上げという組合せ論の問題が, 二次元の可解格子模型の話 (物理の問題!) を使って解けてしまった, という話の解説. "Number Theory in the Spirit of Ramanujan" は, ラマヌジャンの数学の易しい入門書. ラマヌジャンはインドの天才数学者. 詳しいことはネットで調べればいくらでも出てくるだろう.

古典的な数理物理

大学院数理物質科学研究科数学専攻に進学希望の学生さんは対象外. 大学で学ぶ数学が, 物理でどのように使われているかを学ぶ. もしくは, 物理に出てくる数学を, きちんと扱うとどうなるかを学ぶ. 一年生の微積分の内容を仮定する.
  1. アーノルド「古典力学における数学的方法」 (岩波書店)
  2. 深谷賢治「電磁場とベクトル解析」 (岩波書店)
  3. 深谷賢治「解析力学と微分形式」 (岩波書店)
こういう本を紹介するときにアーノルドの本は外せないのだけど, 学生さんにとっては本格的すぎで手が出しづらいかも知れない. 実は竹山は未読なのだけど, とても面白そうで, いつか時間をとって読んでみたいと思っている. ちなみにロシアの数学科の学生はみんなこの本を読んでいるという噂がある. (あくまでも噂) 最近の本では, 深谷先生の上の二冊が挙げられる. 深谷先生の「電磁場と電磁気学」では, 二次元・三次元のベクトル解析の話がまずあって, これを踏まえて最後の三分の一で電磁気学の理論が展開される. 「解析力学と微分形式」は, ハミルトン系の幾何学的な理論を紹介したもの. ここで紹介する文献は, 内容が古典力学と電磁気学に偏ってしまっているけど, 流体力学や量子力学の解析学的アプローチに興味がある人は, 偏微分方程式を研究している解析の先生に指導を受ける方が良いでしょう.

大学の解析をきちんと勉強して卒業する

大学院数理物質科学研究科数学専攻に進学希望の学生さんは対象外. 大学を卒業するまでに, 一度は本気で自力で数学と格闘するためのコース. 必要が生じたら面倒がらずに微積分の復習をする覚悟を持っていて, かつ自分が理解できるまでしつこく考える意欲があって, かつ十分たくさんの時間を卒業研究の勉強のために費す決意のあることが必要条件. テキストの練習問題もきちんと解きながら読み進める.
  1. 斎藤正彦「微分積分学」 (東京図書)
  2. ケッヒャー「数論的古典解析」 (シュプリンガー)
  3. ポントリャーギン「常微分方程式 新版」 (共立出版)
  4. スピヴァック「多変数の解析学」 (東京図書)
  5. 原岡喜重「多変数の微分積分」 (日本評論社)
斎藤先生の本は微積の教科書. 一年生の微積の知識が不十分な場合には, このレベルから (相当のスパルタで) 勉強してもらう. 高校の微積の復習から出発して, ベクトル解析の概説まで. これはブルバキスタイルを身につける練習として使う. ただし, この本の内容で卒業研究発表をするわけにはいかないので, 発表用に何かしら古典的な題材について学んでもらうことになるでしょう. 「数論的古典解析」は, 一変数の微積分が, 解析数論に現われる問題にどのように応用されるのかを紹介したもの. ポントリャーギン「常微分方程式」は, 常微分方程式の有名な教科書. 工学の問題への応用など, ポントリャーギン先生の教育的配慮に満ちている本. それだけでも十分感動的である. 内容はそれなりに本格的. 頑張ってきちんと読んでみましょう. 「多変数の解析学」は, 竹山が学生時代に多変数の微積分を勉強した本. 最近復刊された. 多変数の微分の概念から始まって, 一般次元のストークスの定理の証明まで, 無駄なくスッキリと話が進んでいく. 薄い本ではあるが読みごたえがある. スピヴァックが難しすぎるようであれば, 微積分の復習をしながら原岡先生の本をきちんと読む.
数論的古典解析, 前から読んでみたいと思っているが手を出せていない.

2013年6月25日火曜日

論文紹介:Buchholz-Grundling の Quantum Systems and Resolvent Algebras

Buchholz-Grundling による survey, Quantum Systems and Resolvent Algebras が arXiv に出ていた. これ だ. 以前から resolvent algebra の論文は出ていたが, それに関するまとめらしい. Resolvent algebra を使うと何となく計算がうまくいきそうな感じもするので, 使ってみたいと思っている. また Araki-Woods algebra の代わりに resolvent algebra を使った場合の自由場の BEC を調べることで親しんでみようとか思っているのだが, 滞りまくっている.

Resolvent algebra というのは大雑把にいえば非有界作用素のレゾルベントを取ることで有界作用素にし, その有界作用素から作用素環を作るという話. Araki-Woods algebra は非有界 (自己共役) 作用素 \(A\) からスペクトル理論を使って \(e^{iA}\) (有界作用素) を作り, これから作用素環を作るという話. レゾルベントの方が色々振舞いがいいのに何故かほとんど研究されてこなかったが, 何か色々な性質がよくて嬉しいから皆もやろう, ということで論文になっている.

アブストを見るとすぐ出てくるが, 量子系の運動学的な構造をモデル化するのによいらしい. この辺まだあまりよく分かっていない.

Introduction では Segal の場の作用素の話からはじまる.
作用素 \(\phi(f)\) から作る多項式代数は, 自己同型による意味のあるダイナミクスをあまり持っていない. 実際それを不変にするのは多項式 Hamiltonian だけだ.
ということらしい. 知らなかった.
非有界作用素だと扱いが面倒なので, 指数の肩に乗せて有界にする. これは良く知られた Weyl algebra だ.
実は有界作用素にして Weyl 環にすると, 表現論的に元の CCR algebra とは違う環になる. 新井先生の本, 『量子現象の数理』の 3 章では量子力学のときに Aharonov-Bohm に即してこれが議論される. 興味がある向きは見てほしい.


Weyl algebra も物理的に意味のあるダイナミクスを記述する自己同型群を持たないという欠点がある. これは Weyl algebra が単純であることが問題だが, 一方でダイナミクスが豊富な単位的 \(C^*\) 環はイデアルを持たなければならない.
単純環というのは知っているが, ダイナミクスとイデアルの関係はあまりよく知らないので悲しみに包まれている.
この状況に対応すべく, 以前の論文 で resolvent algebra を議論した. この環はイデアルをたくさん持っている. これから出る論文でイデアル構造が基礎となる量子系の大きさに依存していることが示されている. Primitive ideal と resolvent algebra のスペクトルは 1 対 1 に対応している.
アブストを見る限り, 大きさというのは多分あとで出てくる. 色々と役にも立つので皆も研究しようよ, ということも書いてある.

2 章では定義と Fact が書かれている. 命題 2.3 がかなり強烈.
表現が正則 (定義省略) なとき, 表現は忠実になる.
表現が忠実で表現した環の弱閉包が因子環なら表現は正則になる.
Oh, it's… という感じ.

命題 2.4 では正則表現の場合に Weyl algebra との 1 対 1 対応があることを言っている.
章末には Bohr コンパクト化とか出てきてつらい.

3 章ではイデアルと次元の話になる. 次元というのは何か, というところからしてよく知らない. 可換環でも次元があるらしい, というのは聞いているけれども.

定理 3.1 で, 基礎となるシンプレクティック空間が有限次元のときは, 表現が完全に分類できている. これは Stone-von Neumann の一意化定理の拡張にあたるとか書いてある.
定理 3.2 は代数的不変量の話をしているし Remark もあるので大事そう.

命題 3.3 は面白い.
\(I\) を resolvent algebra \(R\) の非零イデアルの共通部分とする.
\(\mathrm{dim} \, (X) < \infty\) なら \(I\) はコンパクト作用素のなす環 \(K\) と同型になる. また任意の既約正則表現で \(I\) を移すと \(K\) になる.
\(\mathrm{dim} \, (X) = \infty\) のとき, \(I = \left\{ 0 \right\}\) になる.
命題 3.4 もやはり大事そう.
\(R\) は核型 \(C^*\) 環になる.
\(R\) が I 型であることと \(\mathrm{dim} \, (X) < \infty\) は同値.
Weyl algebra もそうだが, resolvent algebra も可分でないの, 笑える.
4 章ではオブザーバブルとダイナミクスの話になる. はじめは具体的な Hamiltonian を取って, それを調べている. P10 に resolvent algebra と付随する Hamiltonian の分類が open であることが書いてある.

基礎となる空間の次元が無限大のとき, Haag の定理に関連する結果が予想されるが, それが実際にあるというのが補題 4.3 の模様. とりあえず雑にしか読んでいないのであまりよく分かっていない.

5 章でこう色々とまとめが入る.

イデアルだとか代数的なところがかなり綺麗に運動学的な部分にはまるという話だが, 構成的場の量子論の泥臭いところとどう相互にカバーしあっていくか, という部分がやはり一番気になる.

2013年5月30日木曜日

作用素環と作用素論:スペクトル解析への応用


Evabow さんとちょっとしたやりとりをしたのでせっかくなので記録しておく. 私のツイートは これ だ.
@Evabow1 @bread_crust http://arxiv.org/abs/0911.5126 など, Schrodingerのスペクトル解析に作用素環を使うというような話はあります. 微分方程式でも調和解析でもなく作用素論の方面なので大分ずれはしますけれども
はじまる部分はもっとあとの方だが, 面白い内容なので 元ツイート からはじめる.
本ゼミの前提知識に作用素環も増えた。 
@Evabow1 ヤバいのでは・・・ 
@Evabow1 !?!? 
@Manaka0501 理解を深めるには必要になった。まだ初歩的なとこしか使わないが 
@bread_crust Banach*環のいい本教えてください!! 
@Evabow1 頑張ってください! 
@Evabow1 何が知りたいの? 
@bread_crust Banach*環、C*環と表現論つながりのことが知りたいです。 
@Evabow1 それは群C*環の表現のことを言ってるの? 
@bread_crust そうです。 
@Evabow1 微分方程式でそんなん使うのか… 
@bread_crust 微分方程式←調和解析↔表現論↔作用素環 みたいな感じだと思っています。 
@Evabow1 ちなみに、それは一般論を知りたいの?有限群を知りたいの?Lie群を知りたいの?無限次元Lie群を知りたいの? 
@Evabow1 えーっと他にもあるのかな… 
@Evabow1 なんつーか群C*環で俺が知ってるのって、今読んでるDavidsonしかないんだけど(本当はもっとある)、 それって本当に今必要なのかなって感じはある。 もちろんC*のことをある程度知ってるなら十分に読める。 
@Evabow1 そして非有界作用素のことを言ってるなら竹崎でも読めばいいんじゃないかと思うんだけど、それこそ本当に必要なの? 
@Evabow1 というわけでDavidsonと竹崎を読んで俺に教えてください 
@bread_crust 3時前に寝てしまって返信が遅れました。 C*環まわりの表現論の一般論と非有界作用素が知りたいです。 作用素環が本当に必要なのかどうか現時点ではよく分かりませんが、 微分方程式を別の角度から見ようと思ったときにどこかで使うと思うので 
@bread_crust 何かと忙しい院はなく学部のうちに手がつけられる所はやっておきたいなと思っています。 いろいろ助言をしてくださってありがとうございました。 
@Evabow1 ごめん、C*環のまわりの表現論の一般論ってなにを指してるのかがわからないんだけど、 単に作用素解析とかGNSを指してるわけではなくて、群の(ユニタリとかの)表現のことでいいんだよね? 
@bread_crust 群の表現です、すみません。 
@Evabow1 @bread_crust http://arxiv.org/abs/0911.5126 など,Schrodingerのスペクトル解析に作用素環を使うというような話はあります. 微分方程式でも調和解析でもなく作用素論の方面なので大分ずれはしますけれども
@phasetr ありがとうございます!数理物理方面も少し興味があるので、挑戦してみたいと思います。
作用素環専攻だったのに普通の作用素環の常識的なところも知らない自分, かなりまずいという意識だけはある. 最近だとどんな本で勉強するのだろう. 最近も何も, 数理物理に特化した本しか読んだことないので, 昔の本もろくに知らないが.

2013年4月30日火曜日

表現論 (文学ではない) と解析学:入門的なアレ

解析系の学生が表現論をちょっとやってみたいとかいうので, いくつかアタックしやすそうなラインを勧めておいた. この辺 だ.
@yukimi_go まずはストーンの定理とか半群理論とかやるといいのでは 
@yukimi_go フーリエ解析も表現論なのでその辺からやって行く手もある説 
@yukimi_go 色々ありますが,PDFだとhttp://web.sfc.keio.ac.jp/~kawazoe/SK%20awazoe.pdf とか http://krishna.th.phy.saitama-u.ac.jp/joe/sotsu/Yoshnaga2009.pdf. はじめから調和解析と言えばよかった説. あとこれも参考にhttp://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c147f6ab740cf0c0968882d347f3bb0
表現論は私自身もよく知らないのだが, 専門は \(C^*\) 環論の表現論と強弁することがある. また対称群周りの表現論はボソン, フェルミオンとの関係で使うし, \(\mathbb{R}\) のユニタリ表現は時間発展との関係で出てくる. Lorenz 群や Poincare 群も相対論的場の量子論で使う. Haar 測度などもまともに勉強したことないが, 勝手に使っている. どこかで勉強したいとはずっと思っているのだが.

     

小林, 大島先生のは東大数理でも使うレベルの本格的な本だ. 第一分厚い. 色々書いてあるので眺めていて面白いのは間違いない. 杉浦, 山ノ内本は数学というより物理向けの本だろう. 数学的にきちんとした本だが, 山ノ内先生が物理の人で, 表現論周りのことをしていて物理の人でも読める本を, ということで書かれた本だった気がする. 読んだことはないのだが, 読んでみたいということで入れておいた. あとは新井先生の本で, 量子力学, 場の理論周りの話が書いてあるので入れておいた.


2013年4月19日金曜日

数論と相転移に付随する自発的対称性の破れ:Connes 論文と新井論文の紹介

この辺 からの mr_konn さんとブルブルエンジン兄貴のやり取りで, 数論 (代数的整数論) での両側剰余類の話が出てきた. 私自身は使ったことないが, Connes の数論での相転移論文にも出てきたことを思い出した. Hecke algebras, type III factors and phase transitions with spontaneous symmetry breaking in number theory という論文だが, 学生時代は学生時代できちんと読もうとして訳が分からず挫折した経緯があり, 結局あまり内容を把握していない. 時々 Twitter でネタにするので, この機会に軽く眺めてみようと思い, 自分用メモとして残しておく.

あと, 関係する話として新井先生の Infinite dimensional analysis and analytic number theory という話もある. 両方とも量子統計と数論の関係がテーマで, 分配関数が Riemann の \(\zeta\) になる, という話. 新井先生の論文の方は直接的に Fock 空間と第 2 量子化作用素の話をしていて, 数学的にはこちらの方が簡単で読みやすい. ただ, 基本的には全く違う話なので両方読み比べた方が楽しいだろう.

では Bost-Connes 論文のメモに入る. 念の為, 先に書いておくと, (量子) 統計や相転移の物理については田崎さんの本がいいだろう.

  
作用素環で相転移を扱うという場合, とりあえず量子統計のセッティングで話をする. 特に \(C^*\) (または \(W^*\)) 力学系の話になる. そこで分配関数が \(\zeta\) になる, という方向に持っていく. イントロで相転移や自発的対称性の破れについても直観的な説明が書いてあるので, 興味がある向きはそれも参考にされたい. この論文では素数の分布と自発的対称性の破れの関係を論じている.

\(C^*\) (\(W^*\) でもいいが) 力学系は, \(C^*\) 環 \(A\) と \(A\) 上の強連続な自己同型群 \((\sigma_t)\) の組のことをいう. Hilbert 空間上の連続なユニタリ群は (半群理論からでもいい) Stone の定理 によって, 自己共役作用素 \(H\) を使って \(U_t = e^{itH}\) と書ける. GNS 表現にして考えてもいいが, \(C^*\) 環上でも (半群理論から) 直接 \(\sigma_t = \mathrm{Ad} \, e^{itH}\) のように書ける. この Hamiltonian \(H\) のスペクトルが色々大事な情報を持っている. 新井論文では実際に適当な Hamiltonian を構成して, Riemann の \(\zeta\) を作っている. von Neumann 環でいうと, KMS 状態が意味を持つのは III 型環だけだ, というのもメモしておこう.

KMS 状態とその端点分解の一般論が出てくる. まず状態の空間が定義から凸集合になり, さらに KMS 状態の集合自体も凸集合になる. そうすると KMS 状態による端点分解ができてそれ自体が熱力学的な純粋相を表す, という話があるが, この論文ではそれが数論の数学としても大事なようだ.

P413 あたりから今回のターゲットの \(C^*\) 環が Hecke 環だという話になってくる. \(\mathbb{C}\) の格子の Hecke 対応とか何とか出てくるがよく知らない. ここで double coset \(GL(2, \mathbb{Z}) \setminus GL(2, \mathbb{Q}) / GL(2, \mathbb{Z})\) が出てくる.

適当な条件下で離散群 \(\Gamma\) とその部分群 \(\Gamma_0\) から convolution algebra として Hecke 環ができるらしく, \(\ell^2 (\Gamma_0 \setminus \Gamma)\) への Hecke 環の正則表現の閉包として \(C^*\) 環を作る. また脱線するが, 群のユニタリ表現から作用素環を作るというのは標準的な方法だ. 一般に \(C^*\) 環内での functional calculus から \(C^*\) 環の全ての元はユニタリ作用素で書ける. したがってユニタリを指定すれば作用素環が決まると言っていい. von Neumann 環だと射影でもいい.

Prop 4. では自己同型群を作っている. 記号からしても KMS のモジュラー自己同型群だろう.

P415 で力学系の相転移に付随する自発的対称性の破れの記述がはじまる. \(\mathbb{Q} / \mathbb{Z}\) 上の関数 \(\psi_{\beta}\) を, 適当な素因数分解を使いつつ定義する. 面倒なので \(P\) の定義は論文を見てもらうことにして, \(\Gamma = P_{\mathbb{Q}}^+\), \(\Gamma_0 = P_{\mathbb{Z}}^+\) とすると, \(\mathbb{Q} / \mathbb{Z} \subset \Gamma_0 \setminus \Gamma / \Gamma_0\) になり, ここから Hecke 環や \(C^*\) 環の包含も出る. この辺をうまく解析すると主定理の Theorem 5. になって, Riemann の \(\zeta\) が出てくる. \(\mathbb{Q}^{\mathrm{cycl}}\) とか数論っぽいのが色々出てくる. また Galois 群 \(G = \mathrm{Gal} (\mathbb{Q}^{\mathbb{cycl}} / \mathbb{Q})\) が自己同型群として作用して, しかも時間発展 (KMS のモジュラー自己同型) と可換になり, これが自発的対称性の破れを記述する, とのこと. Theorem 5. の証明の前に力学系と素数の分布の関係の説明をしよう, といって節が変わり, 2 節になる.

2 節の冒頭で E. Nelson の「第二量子化は functor である」という言葉が引用される. この Nelson は 2011 年に The Inconsistency of Arithmetic で話題になった Nelson だ. 今は基礎論あたりにいるが, 元々構成的場の量子論にいた人だ, という小ネタをはさんでおこう. 第二量子化周辺の話が簡単に説明される.

今はじめて知ったのだが, P417 の Lemma 6. がハイパー強烈だった. 冷静になって考えて見れば当然という感はあるのだが. \(\mathcal{P}\) を素数の集合としよう. \(T\) が Hilbert 空間 \(H\) 上の自己共役作用素として, \(T\) の第 2 量子化作用素を \(\mathbf{S} T\) としよう. このとき, \(\sigma (T) = \mathcal{P}\) と \(\sigma (\mathbf{S} T) = \mathbb{N}^*\) が同値, という命題だ. ここで \(\sigma(T)\) は \(T\) のスペクトルを表す. 第 2 量子化作用素の定義を省いているのでアレだが, 単なる素因数分解だ. 証明は論文に書いてあるので, 興味がある向きは参考にされたい. というか, どこかで話してもいいかもしれない.

それで上の \(T\) を使って, 次のように Riemann の \(\zeta\) が定義できる: \begin{align} \mathrm{Tr} \left[ (\mathbf{S} T)^s \right] = \frac{1}{ \det (1 - T^s)}. \end{align} ここまで来て分かったが, 上記の新井先生はこの命題を基礎にして, Fock 空間上で直接色々やっている. 以前はここまですら読んでいなかった, という個人的衝撃の事実が発覚した. もう少し読んでおけばよかった. 要はボソンの場の量子論と数論に関係があるという話だ. 一応書いておくと, 当然フェルミオンとも関係があって, 双対性だとか超対称性うんぬん, という話が新井先生の論文に書いてある. 2 節, 単独で読んでも面白そうだ. 今度どこかで話してみたい.

3 節では 2 節で作った \(C^*\) 力学系と数論の概念を関係づけ, Theorem 5. の Hecke 力学系を作っている. 局所コンパクト群とか Haar 測度だとかも出てくるので, 色々な数学が交錯する姿を見てみたい学部生が読んでも面白いだろう. 当然ながら \(p\) -進数や付値なども出てくる. アデールだとか, 学生時代, 非可換幾何をやっていた先輩の話で出てきたな, という程度の知識しかないので適当に読み飛ばした.

派手に飛ばして, 6 節で \(\beta > 1\) KMS の分類をし, 7 節で \(\beta \in (0, 1]\) での KMS 状態の一意性を議論している. III 型環とかがちゃがちゃ出てくるので面白そうだが手に負えない.

最後, 参考文献に Araki-Woods や Connes-Takesaki, Bratteli-Robinson, Haag, Pedersen の有名な論文や教科書がある中, Dirac, Serre, Shimura, Tate, Weil があるのに爆笑した. 色々な数学が交錯する姿が見られる論文なので, 興味がある向きはアタックされたい.

追記

ご興味を持って頂けそうだったので, knyokoyama さんにこの記事を読むように強要した. その辺のやりとりが ここ からはじまる.
@knyokoyama あまり細かいところには触れていませんが,ご興味があるかと思ったので, 自分で書いたものですが,ご興味があれば. 数論と相転移に付随する自発的対称性の破れ:Connes 論文と新井論文の紹介 http://goo.gl/fb/XEsEh よく分からない数学 
.@phasetr BostConnesと新井先生の論文を読み比べるに同意 
@phasetr 読み比べようとするも、BostConnesと新井先生の論文は、全く別の話です(phasetrさんのブログに別ものと記載あり). ***比べられない.*** 
@knyokoyama もちろん全く違うのですが,ゼータと量子統計という大きなくくりで見て色々な展開が想像できるので, それを考えると楽しいだろうという話です. 解析数論と数論的関数,超対称性や双対性の数論的反映と,数論での相転移など,量子統計・場の理論の多彩な展開がみられるので 
@phasetr おっしゃるとおりです.ご紹介,感謝いたします. 
@knyokoyama 比べる、という言い方がまずかったか、という気はします 
@phasetr ありがとうございます.結構、楽しく読ませていただきました. リーマンゼータの導出や、驚きのlemma6、(素因数分解定理の言い換え)?!、時間発展までは、 共通、、、その後は、全く別モン.かたやKMS条件から円分体、かたや数論的函数とSUSY.双方素晴らしい 
@knyokoyama 書こうと思って忘れていたのであとで追記しようと思いますが, あの補題(とそのあとの分配関数)がゼータの零点が自己共役作用素の固有値問題に結びつくというHilbert-Polyaの話なのでしょう. 最近は若山先生の非可換調和振動子などもあるようですが
Hilbert-Polya 予想については ここ などを見てほしい:英語版の Wikipedia だ.

2013年4月6日土曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 5 やや番外編 何で線型代数で連立一次方程式扱うの?

先日, 数学科 (志望の) 大学新入生が線型代数で連立一次方程式扱うの, あれ何なの, 何の意味あるの, という風なことを呟いていた. 究極的には「数学を学んでいくうちに分かる. むしろある程度やらないとどうしても大事だ, という感覚は掴めない」と言わざるを得ない部分がある. ただ, そう言って初学者が持つ当然の疑問に (できる範囲で) 答えないのも問題だ. それも数学科の学生ともなれば尚更. というわけでできる範囲の返答をしてみよう.

次の二本立てとしよう.
  1. 連立一次方程式.
  2. 線型性という視点の獲得.
私の知る範囲ということでだが, 前者は応用向き, 後者は数学としても大事だが, 数学以外にとっても決定的に大事だ. 少なくとも数学科としては 2 を学ぶために取っ付きがいい題材として連立一次方程式を選んでいるというのが一番ではないか, という気がする. Hilbert 空間から始めるよく分からない数学に組み込んだのは, この 2 の部分の役割の説明にもなるからだ.

まずは当初の疑問に対して, ということで連立一次方程式についてだが, これについて私が直接知っているのは例えば微分方程式の数値解法との関係だ. コンピュータはダイレクトに連続量を扱えない (らしい) ので, 微分方程式という連続的な対象を適当に離散化して数値計算に落とし込むようだ. 全てかどうかまでは勉強不足で知らないのだが, 少なくとも線型の方程式なら連立一次方程式に帰着する. 応用上, シミュレーションなどは大事なので, そこで微分方程式を解く必要があり, そういうところで基本的な役割を担う.

あと, 数学的なところでいうなら, 取っ付きの良さが挙げられるだろうか. 連立一次方程式という「簡単な」対象を題材に線型代数の基本的なところを学ぶというのは, 1 つの見識と言えないことはない. 抽象論に行く前に具体的なところで感覚を掴むことは大事だから. 連立一次方程式を解く中で色々な代数的特徴の幾何的な解釈も交じえながらやると, またもう少し視野も広がる. ただ, これだとあまり何の意味があるの, というところに答えられている気はしない.

少し話は変わるが, この辺, 私が半端に物理から数学に行ったためにあまり数学科の教育事情を知らないので困るのだが, 実際のところ数学科での数値計算やシミュレーションの教育はどうなっているのだろうか. 組み合わせ論や計算代数などコンピュータ上でも厳密な計算ができる対象については, 実際に研究でも使われることはあるようだが, 微分方程式などの近似計算としての利用の場合はどうか. 元京大で早稲田に移った西田先生 (衝撃波の専門家と聞いている) は数値計算援用証明の開拓という部分もこめて, 数年前に解析学賞をもらっていたので, この辺の教育も充実しつつあるのかもしれない. ちなみに私はといえば, 学生時代全くプログラミングはやっていなかった.

2 の線型性という視点の獲得というところについて考えよう. 上で「線型の」微分方程式という話をしたが, 微分方程式という「代数」とは一見全く関係ないところにその名前が出ているところからして既にやばい. 解析学の話題の中にも線型性という視点が自然に入り込んでいる. このように数学を学ぶ上で線型性というのは基本的な見方, 言葉として決定的に重要なのだ. 例えば私の数学上の専門だが, 微分作用素 \(d/dx\) は線型写像 (普通線型作用素という. 物理だと線型演算子という) だし, 積分も線型写像と思える. この辺を徹底的にやろうというのが作用素論だ. 量子力学との深い関係もあり, 正にそこが私の専門になっている.

色々あって簡単に話しきれることではないのだが, 他にもいくつか例を挙げておこう. 線型代数の対象は線型空間とその上の線型写像だが, 群の表現論では群を線型写像に写し取って研究する. 群という別の代数的対象を線型代数を使って調べるということがある. 線型代数をフックにしているので, 線型代数の理解は前提としてある. また, 群が特に Lie 群になっているとき, この Lie 群を線型化した対象としての Lie 環という対象がある. 「線型化」という手法があると言ってもいい.

触れていると大変なことになるが, 群の表現論も物理への応用がある. 無限次元ユニタリ表現論は量子力学の基本と言ってもいい. これ自体は知らなくても物理は余裕でできるが, 一応使ってはいるので言葉くらいは紹介しておこう.
また, 線型代数の発展として加群というのもある. 加群も色々なところで出てくる. 大学 1 年には無茶な要求だが, 線型代数は係数が体になっているのだが, 加群は係数を環にしている. これのおかげで (数学内部での) 応用の幅が大きく広がる. 第 3 回の関西すうがく徒のつどいで聞いたが, ホモロジー代数への応用ということでいうなら, 最近は画像処理などへの工学的な応用もあるようだ.

加群の話はありとあらゆる意味で全く知らないのだが, 聞いたところによると射影加群はベクトルバンドルと言った幾何の話とも深い関係があったり, \(D\) 加群という代数解析での大事な対象が正に加群だったりする.

うまく答えられている気は全くしないのだが, まとめると, 線型代数は線型性という視点の獲得が一番大事なことで, 連立一次方程式という慣れ親しんだ題材でそれを学ぶことができるということだ.

2013年2月4日月曜日

書評:Simulations' Achille's heel


書評と言っていいかは微妙だが,いい呼び方が思い付かなかったので. Twitter のnishi_akiさんの次のようなツイートを見かけたので読んでみた.
計算機科学の落とし穴 http://www.eurekalert.org/pub_releases/2013-01/s-sah012913.php 演算能力向上で複雑な系を計算出来るように見えても、 適用する理論を間違え現実的に意味のない解を導き出していることがあるという報告。 例えばミクロな系でのみ成立する理論を3次元的に拡張してマクロでの予測をするとか。
適用する理論を間違えるというより,きちんと見たい現象に合わせて理論を選べ,という話といった方がいいのだろうか. あと「ミクロな系~」という部分は少し違う. バルクの性質を見たい場合を考えよう. 単位胞のようなミクロなところだと,例えば表面の効果が強く効いてくる (可能性がある) ので, バルクの性質を見たいならこの効果を消さないと何か問題が起きる (正しく見たい現象が見られない). その表面項処理をせずに単純に計算機を回してはいけない,という話. ミクロな系で成立する理論を使ってマクロなところの計算をしてしまうと,という話とは少し違う.

ほとんど関係ない上に我田引水しまくるが,物理だと (少なくともパッと見) 数学的にまずい議論をして, 物理的に正しい (場合によっては数学的にさえ正しい) 結論を出してくることがあることを想起した.

例はいくらでもあるし,場合によっては,または時代によっては「数学者」ですらそうしたことをする. 良く言われるのは Euler か. 級数の収束を気にせずに計算をはじめて,実際に見かけは無茶苦茶な計算だが 結果だけは圧倒的に正しいというとんでもないことをやっていると評判だ. 彼は彼なりの数学的直観によって正しい道を進んでいて, 彼が現代的な意味できちんとしたことをしなかったのは時代的に そうした道具がなかったからで云々,という話も色々ある. 興味がある向きは高瀬先生の本を読むと面白い. 「dx と dy の解析学」はまだ読んでいないので,そのうち読みたいと思っている.


私の専門に近いところだと掃いて捨てる程あるのだが,例えば量子電気力学 (QED) の摂動計算がある. 「共変的摂動論は数学的には破綻している」ことを主張する Haag の定理というのがある. そのため大体の QED の計算は数学的には破綻しているのだが,数値的には驚異的な精度で 合うことで有名だ.

ついでに言うと,場の量子論の数学的困難の源の一つはここにある. そのうち出るはずの (私も査読に参加している) イジング模型の議論だと, 物理的,直観的な議論をそのまま数学的に厳密な議論に昇華した証明というのがあるし, そういうことができるのが非常に強い. しかし,場の量子論だとそうした物理的に明快な議論というのが数学として 根本的に破綻していることが多いので,そうした筋を辿れず, 物理で既に分かっている結果を再現することを目的に議論を構成する羽目になってしまうことがよくある. また,級数の収束性をきちんと確認して摂動論の結果を精密にする,といったことも大体上手くいかない. 赤外発散が起きる場合,高橋康本第5章で理論物理レベルの議論でもおかしなことが起きるという話が 解説されているので興味がある向きは参照されたい.


ついでなので書いておくと,今でも完全に数理物理先行というか, 数学的に精密な議論からしか物理的な結果が叩き出せないのは物質の安定性くらいではないだろうか. これは数学的に厳密に議論しておいて,あとから物理的,直観的な議論は 物理として重要な部分を切り出す (数学的に煩雑になってしまう部分を除く) という方向で 物理の人に結果を説明するというようなことをするようだ. これについてはSolovej によるレビューを参考にしてほしい. 詳細については下記の本を参照. 今,ものすごい安くなっているので買っておいて損はない.


また少し別件だが,数学的に厳密な議論にこだわっていてもどうしようもないことはあるので, そこはきちんと注意しておきたい. Weil の ユニタリ表現に関する話として平井先生の「線形代数と群の表現 II」23.7 節を読んでおくと面白い.


ローレンツ群 (非コンパクト群) のユニタリ表現という問題があったのだが, 数学的にきちんとした議論にこだわるあまり,なかなか話が進まなかったのに 業を煮やした Wigner が先陣を切って研究を始め,その後を Dirac が追って 研究を深めたという話がある. 1940-50 年代の話のはずだが,このとき相対論的量子力学,または場の量子論のために ローレンツ群のヒルベルト空間表現を考える必要があって,物理的にここを何とかしたいという 強烈なモチベーションがあった. そして数学者がモタモタとして結果を出さないので痺れを切らした物理学者が 切り込んだという話.

物理だと実験との整合性という話があるのでそこを盾にして切り込んでいける. 実際に Wigner や Dirac の話は (少なくとも) 結果は数学的に正しい (部分が多かった?) らしく, 何が起こっているか分かったあとは数学者も研究に参加してきたということだ.

上記の本に書いてあったのだと思ったが,表現論で有名な Harish-Chandra は元々 Dirac の学生だったらしい.

あと上の話で数学者側をフォローしておくと,この頃の数学は無限次元のことが全く分かっておらず そこの研究に関しては非常に苦しい時代だったことを強調しておきたい. 特に物理への応用を考えると運動量作用素なりハミルトニアンなり非有界作用素が バンバン出てくるのだが,これは定義域の問題など面倒な話が死ぬ程たくさんある. Weil クラスの研究者ですら辛い世界だったということで状況をご想像頂きたい. このあたりについては例えば竹崎先生の作用素環への入り口を見てみると楽しい.

2013年2月1日金曜日

線型代数と表現論・圏論

Twitter で 保型表現と Galois 表現 という PDF を見かけた.
中身は数論なのだが, その中で表現論や圏論, 線型代数に関する部分が面白かったのでそこだけメモしておきたい.
数論部分については分からないので, 触れない.


長くなるが, 個人的に面白いと思った部分を引用しておこう.
面倒になったので引用しないが, 3.2 節にも線型代数と表現論ということで大事な記述がある.
興味のある向きはそちらも参照されたい.



より現代的な視点からは, 表現論の重要性は何と言っても理論の線形化にある.
ブルバキはかなり早くから線形代数の重要性を強調したが, もちろん,
必ず体系的に解ける唯一の問題としての連立一次方程式, すなわち完全に信頼できる方法論としての
線形代数の強みは周知の通りであろうから, ここでは圏論的な視点を強調しておく.
線形代数 (体 \(K\) 上の有限次元ベクトル空間の理論) は, 代数的構造の見通しのよい理解と操作のひな型となった.
圏論の方法は, ここの数学的対象 (集合とその元) を直接分析するよりも, それらの間の相互関係,
つまり構造射の集合を理解しようとする.
共通の構造を持った対象の全体 (圏) という文脈の中に置くことによって,
個々の対象の役割, ひいては本質がよく見える, という考え方である.
古典的な数学的結果も, それが対象の具体的な表示の仕方に依存しない結果であれば,
圏の性質, あるいは圏と圏の間の関手の性質として表現することができる.


体 \(K\) を固定し, \(K\) 上のあらゆる有限次元ベクトル空間のなす圏を \((\mathrm{Vect}/K)\) で表すことにしよう.
圏 \((\mathrm{Vect}/K)\) の対象は \(K\) 上の有限次元ベクトル空間であり, それらの間の射 (構造射) は \(K\) 線形写像である.
この圏の対象の同型類は, 次元という自然数の不変量で完全に決まる.
つまり, 同型類の集合から自然数の集合 \(N\) (0 を含む) への全単射がある.
各 \(n \in N\) に対して \(K^n\) (数ベクトル空間) という具体的な対象を構成でき,
これらの対象への同型を決める (基底を選ぶ) ことで任意の対象・射の具体的な表示が得られる.
対象 \(V\) から \(W\) への集合は加法群の構造を持ち,
部分対象・商対象・核・像・余核・余像・準同型定理・直和・完全系列が定式化できる Abel 圏になる.
さらに任意の短完全系列は分解し, 実際あらゆる対象は 1 次元の対象の有限個の直和に分解される (半単純性) .
\(K\) が代数的閉体ならば, 自己準同型射も直和分解 (対角化) されたものと簡単なベキ零元の和に書ける (標準形) .
さらに内部テンソル積・内部 Hom ・双対対象が定義されるのでテンソル圏, とくに淡中圏になっている.
これらの操作 (\(\otimes\), \(\otimes\), Hom, *) の他に, 対称積 \(\mathrm{Sym}^n\) ・外積 \(\wedge\) など,
対象から新しい対象を構成する標準的な操作がいくつか定義できる
(強いて言えば, 対称群 \(S_n\) の各表現に対応するベキ等元に応じて作られる) .
各対象 \(V\) の自己同型群は一般線形群 \(GL (V)\) であり, さらに各対象に最高次形式 \(\wedge^{\mathrm{dim} V} V \cong K\)
(行列式) ・内積・交代形式・エルミート形式などの付加構造を定義した圏を定義することもでき,
それらの圏での自己同型群は特殊線形群・直交群・斜交群・ユニタリ群などの古典群になる.
だいたいこの程度が, 数学科で学ぶ線形代数の全体であり, これで l \((\mathrm{Vect}/K)\) は完全に理解されたと感じられる.
つまり, これ以上 \((\mathrm{Vect}/K)\) に関して解かれるべき問題はないようだ (これは驚くべきことかもしれない) .
この \((\mathrm{Vect}/K)\) の理論 (線形代数) の, 数学を記述する方法論としての威力は絶大であった.
幾何学では位相空間や多様体の圏から \((\mathrm{Vect}/K)\) への関手 (コホモロジー理論) がいくつもの深い結果をもたらし,
空間上の関数の貼り合わせ (局所・大域原理) やベクトルバンドルの理論は,
開集合の圏から \((\mathrm{Vect}/K)\) への関手 (層) として記述され,
微分形式や多様体上の調和解析 (Hodge 理論) などの理論が見通しよく理解された.


さて, われわれのテーマの視点からは, \((\mathrm{Vect}/K)\) とは, 自明な群 \(G = \{1\}\) の
有限次元表現のなす圏に他ならない.
その意味では, 表現論とは線形代数の一般化である.
表現論が, 数学的理論を記述し理解するための言語として機能する所以がここにある.
一般に, 群 \(G\) の, 体 \(K\) 上の有限次元ベクトル空間への表現, すなわち \(G\) の作用が定義された \(( \mathrm{Vect} / K )\) の
対象のなす圏を \((G-\mathrm{Rep}/K)\) と表そう.
この圏の射は, \(G\) の作用と整合的な \(K\) 線形写像 (表現の間の準同型写像) である.
繰り返すが, 自明な群は自明にしか作用できないから, 自然に圏同値
\(({1}-\mathrm{Rep}/K) \cong \mathrm{Vect}/K)\) がある.
そして, \(G\) が有限群で \(K\) が標数 0 の代数的閉体の場合, 上に素描した
\(\mathrm{Vect}/K\) の理論がほぼそのまま \((G - \mathrm{Rep}/K)\) の理論に一般化される, というのが, 有限群の表現論の基礎である.
とくに, 0 と自分自身以外に部分対象を持たない既約な対象 (既約表現) が
既約指標 (共役類の集合の上の関数の空間の直交基底をなす) によって分類され,
任意の対象は既約対象の直和に分解すること (半単純性, あるいは完全可約性) が基本定理になる.
既約な対象はもはや 1 次元とは限らないが, その自己準同型は \(\mathrm{Vect}/K)\) の既約対象
(1 次元ベクトル空間) と同じく定数倍のみである (Schur の補題) .
しかし, この \(\mathrm{Vect}/K)\) から \((G-\mathrm{Rep}/K)\) への一般化によって, 理論の構造的な操作に新たな自由度が加わる.
すなわち, 群 \(G\) を変えるという自由度である.
群準同型 \(f : G \to H\) が与えられると, \(H\) の表現は \(f\) で引き戻すことで自然に \(G\) の表現になるから,
Abel 圏の間の加法的関手 \(f^* : (H-\mathrm{Rep}/K) \to (G-\mathrm{Rep}/K)\) ができる.
とくに \(G\) が \(H\) の部分群で \(f\) が包含写像の場合は \(f^*\) は表現の制限 \(\mathrm{Res}^H_G\) であり,
その左随伴関手は表現の誘導 \(\mathrm{Ind}^H_G\) である (Frobenius 相互律) .
単に一つ一つの準同型 \(f\) による引き戻しを考えるだけでなく, あらゆる準同型 \(f\), さらには剰余群 \(G/H\),
直積群 \(G \times H\) など群の圏におけるあらゆる操作に付随して,
異なる圏\((G-\mathrm{Rep}/K)\) たちの間の関手を考えることができる.
このようにして, 群の理論が線形化される, すなわち線形代数の言語で記述される,
いや線形代数という理論そのものの一般化として理解される.
これが表現論の考え方である.
理論のパースペクティブがより高次になっているという意味で, 表現論は群論に従属するものではなく,
群論を発展させた理論であるという面がある.
これから, 表現論による理論の記述の強みを解説していきたいが, その前にわれわれの興味 (代数的整数論) に
沿った具体的な対象を導入していくことにしよう.


追記


kyon_math さんから次のようなご指摘を頂いた.
触れたことがない正標数の話なので正直全く勘が働かなくて分からないが,
他の方には即参考になる可能性もあるのでメモしておく.
ちなみに これこれ.



@phasetr K が代数閉体でない場合でも, 半単純元と冪零元は定義できてジョルダン分解が成り立ちますね.


@kyon_math @phasetr 群の表現の既約分解については, 有限群であることを仮定した方がいいかも.
有限群の場合, 表現の既約分解は代数閉よりも標数の制約の方が大きい (マシュケの定理).
代数閉でも標数が正だとその表現論は難しい. (still in progress)


あと Maschke の定理は これ.
恐るべし正標数.


2013/02/02 追記
kyon_math さんから さらに教えて頂いた.
あとで読もう.

@phasetr ああ, 吉田さんのだったんですね.
吉田さん, かなりぶっ飛んでるからなぁ (もちろんいい意味で)
駒場中高等部向けのガロア理論の講義録も見っけた. http://bit.ly/XsPy0U
あわせてガロア理論の基本定理について http://bit.ly/Xcw2E5