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2013年10月8日火曜日

解析学とコンパクト性: 特に無限次元空間の単位球の (汎) 弱コンパクト性

ブルブルエンジン兄貴と解析学に関するやりとりをしてきた これ とか これ.
ヒルベルト空間は, 閉単位球体が点列コンパクトなら直交基底を持つらしいのですが, これ選択公理要るのってやばいんですか??
@alg_d 誰も気にしていないのでは. 作用素環だとちょっとした汎関数つくるのに選択公理つかうようですし, 使うものと割り切っているか気にしないか, という印象
@phasetr この命題が成り立たないとしたらやばいんですか??
@alg_d 応用上, 大体可分なところしか考えない (ただ, \(L^{\infty}\) はよく出てくるのに非可分) (作用素環だと普通可分性を仮定) ので, そもそも現行人類が制御できる世界の外側なのでは, という感覚があります
@phasetr やばいと思った
そもそも関数解析で閉単位球体をコンパクトにしたいのってなんかあるんですか
@alg_d 「有界閉集合はコンパクト」の類似が使えてこう色々とはかどるからです. 幾何でよくコンパクト多様体ばかり出てくるのと似たような感じ
@phasetr なんかはかどるイメージがあまりわかないレベルで雑魚でした
@alg_d 解析学だと何かしら収束させないと話が進まないわけですが, 有界列であれば部分列くらいは収束してくれるのでうれしいわけです. そういう感じ
@phasetr はー, なるほど!!

2013年9月27日金曜日

Hilbert 空間メインの関数解析の初学には日合•柳の『ヒルベルト空間と線型作用素』をお勧めしたい

イケメンエリートのよぬすさんが線型代数のテキスト選定をしていたのでちょっと話してみた.
線形代数だとすると, テキストは何にすべきなのだろう......
@Yonus_Mendox ヒルベルト空間論とか読めばいいのでは
@phasetr いえ, 初めて学ぶひとと読むための本なので...... やっぱり一周して齋藤正彦でしょうかねえ. ──ところで, ヒルベルト空間論としては何を読めばよろしいのでしょうか.
@Yonus_Mendox 日合•柳のがすっきりしていて良い本です
@phasetr ありがとうございます. 作用素かあ......
@Yonus_Mendox ヒルベルト空間自体は簡単なので一般論としてはあまりやることないのです. 具体的なソボレフがどうの, とかいうことになると微分方程式などと絡めて色々やることありますが. 分かりやすい空間だからこそその上で作用素論などがうまく展開できます
日合・柳の本というのは『ヒルベルト空間と線型作用素』だ.

Hilbert 空間だけでなく Banach 空間の議論も少しある. 関数解析の基本定理が網羅されているので, 関数解析の本としても使える. 巻末の付録が尋常ではない程充実していて, Krein-Milman の端点定理や Riesz-Markov-Kakutani なども丁寧な証明つきで書いてある. Lebesgue が分かっていないとスペクトル定理の証明で少し詰まるかもしれない. 本のはしがきでも説明されているが, あえて作用素環には踏み込まずに基礎となる作用素論について説明している感じ. ただ, ところどころ, functional calculus や非可換 \(\ell^p\) としてのコンパクト作用素・ Schatten クラスなど作用素環でも大事な話は書いてある. 3 章のスペクトル定理と 4 章のコンパクト作用素, 付録をきちんと読めば元が取れる. 作用素論を専門にしようという人は作用素論の話題に特化した 5 章以降も読むといいだろう. 私は 4 章までしか読んでいないが, すっきりとまとまっていて非常によい本といえる.
Hilbert 空間と言えば我らが新井先生の『量子力学の数学的構造』があるが, 一般にはあまりお勧めしない.

I では Hilbert 空間の基礎からはじめて非有界作用素, 自己共役作用素, スペクトル分解まで議論する. II ではある程度具体的な量子系の解析と場の理論・量子統計で必要な Fock 空間の話をする. 関数解析入門にも使えるが, Banach 空間論はほとんど触れられていないのでそこについては本当に入門の入門くらいにしか使えない. 量子力学への応用に特化しているので非有界作用素の話が中心になるが, 必ずしも一般の数学でその作用素論をよく使うわけではない. 非有界作用素の議論はがかなり面倒なので, その辺を使わない人にはあまりお勧めしない. 一般の数学向けには用途には日合-柳の『ヒルベルト空間と線型作用素』がよい.
Twitter ではよく言っているが, 線型代数なら私は齋藤正彦の本が好きだ.

Amazon のこの書評は以前私が書いたものだ. こちらにも引用しておこう.
数学や他の分野の方々には申し訳ないですが, 物理の人間として書きます. 経験に照らしてみても, (非数学の) 初学者が気楽に読めるような本とはいえませんが, 非常に良い本であることは間違いありません.
(初等) 物理の中で線型性は非常に重要な概念です. まず, 数々の物理法則は微分方程式の形で書かれますが, 大抵は線型の微分方程式です. 例えば, 大抵の電磁気学の本は, 静電場を記述するクーロンの法則からはじまると思いますが, 重ね合わせの原理を用いて, 多電荷の系へ拡張し, さらに電荷が連続分布した系へと拡張していきます. このとき用いる重ね合わせの原理を数学的に述べると, 微分方程式の線型性です. また線型空間の理論は座標による表示を離れる, という幾何学的な面もありますが, これは物理法則の共変性を定式化する際に大事になってきます.
もっと本質的に線型性が出てくるのは現代物理の要たる量子力学です. 正確には量子力学で用いるのは無限次元の線型代数 (関数解析) ではありますが, 基本的な思想を学ぶには有限次元の線型代数 (本書の程度!) で十分です. 応用上も大事な正規作用素のスペクトル分解 (対角化と同値) について触れてあるのも嬉しいところです.
最後に行列の解析的な取り扱いがありますが, これには, そもそも行列の関数 (指数関数や対数関数) を定義する, という応用上も大事な議論が含まれています. たとえば, 量子光学で現れるコヒーレンスを扱うときなどに, これを知っていると, 戸惑いがなくなると思います.
かなりマニアックな話 (数理物理的観点) で恐縮ですが, Perron-Frobenius の定理の前に「工学や経済学への応用上重要」という説明がありますが, この定理は厳密統計力学への多数の応用があります. この定理には正値性保存 (または改良) 作用素の理論という無限次元版がありますが, これはたとえば, 汎関数積分 (経路積分) 法の威力を高めてくれます.
学部の 4 年にもなれば, 物理で線型代数が重要なことは身にしみて分かります. 特に量子力学においては決定的です. ある程度線型代数に慣れたら, 物理の人にはぜひともアタックしてもらいたい本です.

2013年8月22日木曜日

研究室で昼寝をしていたら幽体離脱してしまったので Hilbert 空間に行ってきた

この間 RT で次のような文章が書かれた写真が回ってきた.
いつもどおり, 研究室で心地よい昼寝を楽しんでいた数学者のぼくに驚愕すべきことが起こった. なんと, 無意識に幽体離脱をやってしまったのだ! 肉体を離れて意識だけになったぼくは, 一冊の案内書に導かれ, ヒルベルト空間を-. 数学の概念が文字どおり実体化した奇妙奇天烈な世界を目指した…. "無限"の実像を探求するため. 鬼才の名に値する真の鬼才が怒涛のアイデアで SF と数学の極北を探求する超絶マッド SF.
調べたところ, ルーディ・ラッカーの『ホワイト・ラッカー』というハヤカワ文庫 SF の作品らしい.



最近積読が多過ぎてつらいのだが, これはちょっと読んでみたい. 本当に Hilbert 空間に行けたのだろうか.

2013年4月9日火曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学のリアルセミナーをやりたいので東大数理各位にご協力頂きたい

この間 TL で新入生が線型代数何ぞ的なこと言っていたのもあるので, 新入生向けに線型代数の世界を見せたい. 私が話せるのは解析学周辺しかないが, ないよりはましだろう, ということで. 大体, Hilbert 空間と線型作用素を基本に話す予定. モチベーションを高めることを目的に概論的な話で 4-5 回くらいに収めたい. というわけで, 東大数理の学生で, 話すための部屋確保に協力して頂ける方を募集している.

  
やる予定の内容を書いておきたい. 基本的には抽象論をやる. 作用素論方面の話に行ってスペクトル定理くらいまでやりたい. 作用素環などで大事になる方向だ. 非可換幾何への展開でまた \(L^2\) などとの関係が返ってくる. あと, \(L^2\) のような話は具体的な話はもちろん大事だが, これはイントロで少し触れるだけにする.

まずイントロでする予定の話. 線型代数は (数学内部または少なくとも物理と物理に近い工学で) 役に立つという話はされるだろうが, あまり具体的な話はされない (時間がない) だろうから, その辺の話から入る. 新入生向けなので, まず Hilbert 空間は何ぞというところを話す. 高校でもやった三角関数の積分が実は Hilbert 空間で意味を持つというところ, 微分積分と線型代数の交点というか親玉みたいな話としての関数解析で大事な空間という話をする. また, 物理でそれなりに色々な数学が出てくるが, 線型代数という視点でクリアで統一的な理解ができるから大事だよ, 的な話をする. 微分作用素, 積分作用素の線型性とかも話す必要がある.

物理または工学上大事な数学的道具立てとして大事な微分方程式があるが, 初等的な方程式なら具体的に解ける. 「線型の微分方程式」という中で既に線型性が出ているので, そういうところで解析と線型代数の関わりみたいな話がしたい. これを解く中で現われる直交多項式の話の「直交」も線型代数由来の話で, これが Hilbert 空間の話という感じで. 量子力学の数学的構造 I の 1 章の演習問題にいくつか書いてあるので, 一応参考文献として挙げておこう.
  
また, Taylor 展開と作用素論ということで \(e^{ipx}\) の話もしよう. 簡単に説明しておくとこんな感じ. \(f(x)\) を原点周りで Taylor 展開するとこうなる: \begin{align} f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \left( \frac{d}{dx} \right)^n f(0). \end{align} どうでもいいが, 量子力学っぽく \(p = -i d/dx\) と書こう: \begin{align} f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} \left( i p \right)^n f(0). \end{align} ここで指数関数の Taylor 展開は \begin{align} e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} x^n \end{align} となる. ここで Taylor 展開の \(\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} \left( i p \right)^n\) は \(x\) に \(ip\) を代入したものと同じ形をしていることに注意して次のように書き換えてみる. \begin{align} f(x) = \left( e^{ipx}f \right) (0). \end{align} 指数関数に微分作用素を叩き込むという荒技を披露したが, 作用素論を使ってこれが正当化できます, みたいなことも言いたい. また, 作用素の指数関数 \(e^{ipx}\) は Taylor 展開で定義してしまうと解析関数に対してしか定義できないが, \(x\) だけずらす作用素と思えば一般の関数に対して定義できる. ここでユニタリ作用素とかそういう話になる. あと \(x\) だけずらす作用素 \(e^{ipx}\) の無限小生成子としての運動量という所から, 解析力学と量子力学の関係がどうの, みたいな話もちょろっと触れたい.

以上大体イントロで話す予定のこと. 2 回目から実際にもう少し踏み込んだ話をしていく. まずは Hilbert 空間自体の話をする. 「ヒルベルト空間と線型作用素」には Banach 空間の話もあるが, 時間的に多分カットだろう. 演習問題になっている定理にも少し触れたい. 完備性の話などもあるので, 証明もポイントをおさえて触れていきたい.

引き続き 2, 3 章を力づくでやっていく. 非有界作用素はゴツ過ぎて触れられないが, スペクトル定理はやりたい. スペクトル定理は無限次元版の対角化だ. スペクトル測度や解析関数カルキュラスとか出てきてやばいのだが, むしろ色々な数学との関係を話す機会として採り上げたい. Stone の定理と量子力学の話とかも一応入れる予定.

参考文献をまとめておこう. 1 つの展開としての作用素環方面, 特に (非可換) 幾何方面ということで, 数学会で PDF が公開されている 夏目-森吉 の「作用素環と幾何学」も紹介しておこう.

   

触れる予定はないが, 微分方程式関係と共に関数解析をやろうという感じの本も紹介だけはしておこう. こういう具体的な方から学ぶのが好きな人は頑張ってアタックしてみてほしい. また, こちらに興味があるという人は声をかけてほしい. トークしろと言われると困る部分はあるが, 一緒に勉強しようというなら時間さえ合えば付き合いたい. そしてプロデュースしたい.