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2014年3月28日金曜日

量子力学の数学に関する文献など: あとセミナーもしよう

また Ask.fm.
質問はこれ.



量子力学の数学的な基礎を勉強したいのですが,
どのような分野を勉強すれば良いのか教えてください.
ご面倒でなければ参考になる本についても教えていただきたいです.


色々なところで言っていたりするのだから
それ見てよ, という気もするが, 一応回答.



量子力学の数学的基礎も超大雑把に言って,
作用素論系と偏微分方程式系に別れるような感じがあります.


私がやっているのは作用素論・作用素環系ですが,
それについては例えばニコ動に置いてある http://phasetr.com/services/niconico/ の
量子力学・量子統計周りの話を眺めてみて下さい.


参考文献ですが, 作用素論系では
http://phasetr.com/services/references/ にある
新井朝雄先生の本がベストです.


微分方程式関係だと Lieb がリーダーです.
Lieb-Loss の Analysis が基本的な文献と言っていいでしょう.
量子力学というより量子多体系, 量子統計の色彩が強いですが,
The Stability of Matter in Quantum Mechanics もお勧めです.
ちなみに両方とも新井先生の本ほど簡単ではありません.
とくに Analysis は関数解析くらい知っている, と思って
読んでいると痛い目を見ます.


色々な不等式の最良定数評価がかなり早い段階から出てきて,
前から順番にきちんと読もうと思うと 3 章が
最良定数含め, とてもきついです.
面白い本ではあります.


あと, 作用素論との関係が強い (作用素論的性質の解析に使う) という
イメージがあるのですが, 確率論からのアプローチもあります.
これも新井先生の本をまず読むのがいいです.
その次は Simon の本あたりでしょうか.


場の理論に行くなら Betz-Lorinczi-Hiroshima を読まねばなりませんが,
これはかなりきついです.
確率弱者の私は読めません.


関東近郊の方なら適当にゼミやるのに誘って頂ければ,
話す方含め相談のります.


Twitter でもいいですが, メール phasetr@gmail.com にでも
適当にご連絡・ご相談頂ければ.


メルマガの方で時々触れることを考えているので,
ご興味ある向きは ここから 登録されたい.

2013年12月1日日曜日

量子力学からの物質の安定性と流体力学からの星の安定性

物質の安定性に関して久徳先生とちょっとした小話をしてきた.
なんで部屋の暖房が死にかかっているのかわからないが少なくとも俺が凍死に向けて確かな一歩を踏み出していることはわかる (帰宅)
@life_wont_wait 最強の戦力, 脂肪肝
@phasetr 死になさい
@life_wont_wait 赤外発散と相転移に関する人類の理解に革命を起こすまで死ねない
@phasetr 君の意見は聞いていない. 死になさい
@life_wont_wait 最期は重力崩壊と共に
@phasetr それが臨界現象だよ
@life_wont_wait 死してもなお統計力学の発展に寄与する方の市民
@phasetr ではここで 1post で統計力学の重要性や面白さをご解説願います
@life_wont_wait 大自由度の系が持つ普遍性と何でそういう話になるのか理由がさっぱり分からない不可解さ
@phasetr ウワーッ 自由度だーッ (死)
@life_wont_wait stability of matter from atom to star
@phasetr 流体の安定性ならなんとか…
@life_wont_wait http://www.amazon.com/The-Stability-Matter-Selecta-Elliott/dp/354022212X 読みましょう
@phasetr これ星も粒子の多体系で扱ってるんですか?
@life_wont_wait 白色矮星やら中性子星やらを量子多体系で扱っている論文があるのは知っています. 場は扱おうにも (数学的に) 難し過ぎて多分手が出せるような状態ではないでしょう. 特に有限温度は
@phasetr 中性子星は大抵ゼロ温度でいけますが, どちらにせよ星を量子多体系なり場なりで扱うとなると動機は数学的な興味に移ってくる気はしますね. 安定性の絡みではやはり必要な課題があるものなんでしょうか
@life_wont_wait 多体系の安定性自体, もはや数理物理の人しか研究していないはずです. その一環で数学的, 物理的に本当にどこまで理論が適用できるのかの限界調査とか, フェルミの縮退圧関係がどこまでど真面目に効いてくるかとか. あとそもそも古典系は安定性ないはずなので
@phasetr 話が微妙に噛み合っていないような気もしますが, 流体モデルでも星の安定性=質量や角運動量を固定した星が安定に存在できるか, というのは古来より研究の続いているトピックなので「古典系は安定性ない」というときの安定性は何か違うものを指しているのかもしれません
@life_wont_wait こちらで「物質の安定性」といったときの安定性は「古典的に (原子核の周りを) 荷電粒子が円 (加速度) 運動していると電磁場を放出してエネルギーを出していって原子が潰れる」的なアレで, 無限多体系の基底エネルギーの粒子平均が有限かと言う所から見た問題です
@phasetr ああなるほど, その意味だと電磁気に限らず古典系は延々落ちていくだけで安定性ないんでしょうね. 星っていうことは重力が外場で入っている量子多体系なのかと思いますが深入りしたくなさが強いですわ
@life_wont_wait 今思い出しましたが, 普通, 熱力学で扱う系はエネルギーが示量的で, 安定性と示量性に関係があるのでその辺の量子力学的チェックでもあります. ちなみに流体からの安定性はどういうモチベーションでどういう話をするのでしょうか
@phasetr どういう天体が理論的に存在可能かというのはひとつ重要です. 例えば現実の中性子星の回転速度は定常解の理論的上限よりずっと低く, 速く回ると不安定になって自発的に遅くなるというのが標準的な説です. 何かが不安定化するときは動的な現象 (超新星爆発とか) が起こるのも重要です
@life_wont_wait 宇宙やばいし星やばい
@phasetr 熱力学という意味では流体でも http://adsabs.harvard.edu/abs/1981ApJ...249..254Shttp://adsabs.harvard.edu/abs/1988ApJ...325..722F など大局的な性質で安定性を判定しようという話がありますが, 今見たら多体系としても http://adsabs.harvard.edu/abs/1982ApJ...257..847S がありました
@phasetr 「宇宙の基本は星と宇宙論」という話があります
@phasetr 最近はブラックホールの方にも応用されているようです. 少ししか知りませんが http://arxiv.org/abs/1309.0177http://arxiv.org/abs/1310.5117
宇宙関係での流体力学からの安定性の議論があるのは知らなかった. 死ぬ程難しそう.

2013年10月14日月曜日

物理と関数解析: LSZ やら物質の安定性やら

時々話題にするが 物理と数学, とくに関数解析というネタについてまたやりとりしたので, 記録しておく.
ある物理については関数解析の知見が本質的だったとかそういうシーンって何かないのかな
@wr_r LSZ は弱収束が大事で数理物理が先行した, 世にも珍しい例です
@phasetr どういうことでしょう.
@wr_r 場の理論の散乱をみるには演算子の収束ではなく行列要素の収束を見ないと駄目, という話です
@phasetr なるほど, それはおもしろいですね. ちょっと調べてみたら, 相転移 P のブログで今年の 2 月 7 日に取り上げていたんですね. 他に数理物理が先攻したような話ってどんなものがありますか.
@wr_r 最近というか現代的なところではそれ以外ないという理解です. 数理物理勢しかしていないこととしては物質の安定性があるでしょうが, あとはよく分かりません
@phasetr 少なそうとは思っていたのですが, そこまででしたか……. 数理物理は今研究されてる物理の手前の数学をやっているということなのでしょうか. それと, 質問ばかりになりますが, 物質の安定性というのは例えば基底状態がちゃんと存在するかとかそういう話でしょうか.
@wr_r 私が今やっているところだと, 学部三年の量子力学てやるような話をやっています. 物質の安定性は, 多体系のハミルトニアンの基底エネルギーが粒子数で下から抑えられるかという話で, 量子論のはじまり, 電子軌道の安定性の一般版です
@phasetr なるほど〜, それでは物理の人間は数学やる前に物理やってという話になるわけですね. 物質の安定性については, 確かにそういう問題は聞きませんでした. 面白い話をどうもありがとうございます.
@wr_r 物質の安定性はとりあえず http://arxiv.org/abs/1111.0170 である程度様子が掴めます. あと http://arxiv.org/abs/math-ph/0209034 とか
@phasetr リプライに今気付きました. ありがとうございます! 時間見つけて読んでみますね.
物質の安定性については物理的にもとても大事だと思っていて, 研究したいとも思っている. 物理的にはこれ以上ないほど簡潔明瞭な上に fundamental の方の意味で基本的で本当に気にいっている問題だが, 数学面でかなりきつい. 難しい数学を使うというわけではなく, 評価のための不等式の技巧が死ぬ程きついというタイプ. 微積分しか使わないと言い切ってもいい程度ではある. こういうと Lieb や周辺の人達がこう色々と言ってくる可能性はあるが, とりあえずいいだろう. 原さんなどは納得してくれると理解している. arXiv にもあるが, Buchholz の散乱に関するレビューで LSZ の経緯とか色々書いてあった記憶がある. 興味がある向きは探して読んでみよう.

2013年5月21日火曜日

Lieb-Yngvason による The entropy concept for non-equilibrium states が arXiv に出たので読んでみた


Lieb-Yngvason のプレプリントが出たのだが, 普通の理論物理の人が「ちょっと衝撃的?」と言っていたので眺めてみた. The entropy concept for non-equilibrium states だ. Lieb-Yngvason がまた何か面白いことをしたようだ.

余計な話もいくつか書くが, 論文紹介というよりも私がこれを読んで思ったことの読書メモみたいな感じで読んで頂ければ, と思う. それなりに専門的に勉強した人間が何を考えながらどう読む (反応する) のか, というのを見てみたい向きには面白いのではないかと期待して.

まずアブストラクトを見る. 引用部の訳は意訳の上に適当なので, きちんと原論文にあたってほしい.
P1. 
以前の Lieb-Yngvason が論じてきた枠組みで非平衡のエントロピーが特徴付けられた. 今回, 同じ枠組みで, 物理的に望むべき性質を持つ一意的なエントロピーの存在が言えないことが示された. ただし, 一意性がないだけでそれらしき関数が 2 つ定義できる.
平衡系の熱力学の論文は, 例えば The Physics and Mathematics of the Second Law of Thermodynamics だ. 一意性がないだけで, とりあえずエントロピーは定義できるらしい. とりあえず本文に入っていこう.
P1. 
エントロピーは時間とともに増えていくとされている. エントロピーは平衡状態では何の問題もなく定義できているが, 宇宙の中にある物質の状態の多くは平衡状態にはない. 非平衡状態に対するエントロピーが何なのか分からければ, その増大というのもきちんと定量化できない. 非平衡状態のエントロピーの定義もあるが, 色々な問題がある.
当たり前の現状認識から入る. 別件だが, Jaksic-Pillet あたりが非平衡定常状態に対して, エントロピー生成を証明したという話があった覚えがあるが, あれは具体的にどういう設定下で何をしたのかよく知らない. あれと今回の結果, どういう関係にあるのだろう.
P2. 
状態の比較時, 化学的な組成は同じ状態を考える. 今回の議論では状態の断熱比較性 (以下比較性という) が大事. 一般には非平衡状態のエントロピーは一意に決まらないが, \(S_{\pm}\) という 2 つの両極端なエントロピー関数がある. 比較性が成り立つときにはこの 2 つは一致する. 当然非平衡状態での比較性が成立することは極めて非自明であって, しかも一般には期待できない.
\(S_{\pm}\) が恐ろしく非自明で凄まじい. あと, 化学的な組成が同じ状態に対する比較性を考えるというの, ここではさらりとしか書いていないがかなり重要だろう. 化学反応が起きる場合, さらに修羅のような状況になるのは簡単に想像がつくし, そのときは \(S_{\pm}\) のような量が consistent に定義できるのかすら怪しいという印象. あくまでただの印象だが. そもそもエントロピーを定義する意味があるか, という問題もあるけれども.

とりあえず 2 章に進む. これは以前の論文の復習なのでとりあえずさらりと. 興味がある向きで自分できちんと上記平衡系の論文を読もう.

全然関係ないが, 非平衡状態での多体系のエネルギーは相加性を見たすのだろうか. 基底状態に関する相加性については, やはり Lieb が主導している物質の安定性の数理物理でのメイントピックだし, 恐ろしく非自明. 物質の安定性, 関西ぶつりがく徒のつどいとかで話したいがまず勉強が必要な人生だった. 数学の人に話すには量子力学と熱力学の上に物理に興味があるかという部分まで要求することになるので無理っぽい. 基底状態に関する限り, 物質の安定性は (量子) 統計力学というより量子多体系の話なので, 統計力学に頼るという話ではない. ただ, ミクロなモデルには頼るので今回の話とは別途切り分けるべき話ではある.

また, 相転移を考えなければいけないために起きる, 熱力学の数学的な処理の面倒さと, 面倒さそれ自身が持つ物理的な意味と重要性 (要は相転移) についても書いた方がいい気がしている.

3 章に進む.
P9. 
平衡状態と違い, エントロピーで全てが決まるわけではないので非平衡状態のエントロピーを考えても平衡状態ほどの意味はない. ただし, 平衡状態のエントロピーが持つよい性質を保ちながら, 非平衡状態に対してどのくらいよいエントロピーが定義できるかを考えるのには意味がある.
非平衡状態の空間は, 全ての非平衡状態を含む必要はないことを強調しておく. これは, 爆弾の爆発のような状況を考えるときにそもそも状態の関数としてエントロピーを考える意味があるか, といった物理的な設定を反映させている.
非平衡状態は時間依存, または環境と完全に切り離せないことにも注意する.
状態空間に reproducible という条件をつけるようだが, 後で出てくるのだろうか.
3.1 節に進む.
P10. 
拡大状態空間でも順序の物理的意味は平衡状態と同じとする.
これは物理的に妥当なのかよく分からない. 純粋に数学として議論を進める上では関係ないが, 最後きちんと物理にするためには決定的に重要なところ. とりあえず先に進む.

N1 で A6 (Stability) を仮定しているが, 非平衡でも成り立つと思っていいのだろうか. 他はとりあえず仮定しておいていいとは思うのだが. 平衡状態に近いところ (非平衡状態の空間をそのくらいに小さめに取る) なら仮定してもよさそうな気はするが, 遠平衡状態 (と私が仮に名付ける) ではどうなのか.

どうでもいいことだが, 数論幾何で遠 Abel 幾何というのがある. 名前しか知らないが Grothendieck が提唱したということだけ知っている.

ふと思ったのでメモしておくと, 公理的場の量子論や代数的場の量子論での「公理」はここで言う「仮定」の意味だ. 「ある仮定のもとで何がどこまで言えるのか」を確かめようという取り組みが公理的場の量子論と言える.

何故こんなことをするかというと, 少なくとも 1950 年代は特に場の理論の散乱がうまく扱えず, 何をどうしたらいいのか全く分かっていなかったという背景がある. しかも場当たり的な仮定をつけて, その場ではうまくいくが, 別の場合には全く使えないというひどい状況だった. まずは「この程度は成り立つと思っていいだろう」というラインを決めておいて, そこから導かれる結果を吟味し, どんな仮定ならば適切かを判断する材料にしようという試みなのだ.

なので, とりあえず仮定しておいて何が出るかを調べよう, という姿勢なら (数学的には) 条件をつけておいても構わない.
P10. 
N2:全ての (考察下の) 非平衡状態 \(X\) に対し, 2 つの平衡状態 \(X'\), \(X''\) があって, \(X' \prec X \prec X''\) が成り立つ.
N2 の意味の説明:訳は省略.
初見では適当に読み飛ばしてしまったが, これはかなり強い意味を持っていた. 物理としては自然な仮定かとは思う. 詳しくは P10 の N2 直下の文参照.
P10. 
非平衡状態の空間上で定義される関数で, 平衡状態の空間上, 平衡状態のエントロピーと一致する関数を探そう, というのが基本的な問題となる.
(14), (15) で定義される関数 \(S_{\pm}\) がこう色々と大事. 物理的な意味もある.
P11 の命題 1 に基本的な性質がまとまっている. あまりきちんと落っていないが, 証明もそれほど難しくなく追えるレベル.

P12 の定理 4 では非平衡エントロピーの一意性に関する同値条件がまとまっている.
3.2 節では温度 \(T_0\) の熱浴を仮定して最大仕事と, 最大仕事からのエントロピーの定義について考えている.

3.3 節に進む.
P15. 
定理 4 と非平衡状態空間上の比較原理, つまりエントロピーの一意性は, 全ての非平衡状態はある平衡状態と断熱的同値性と同値になる. 平衡状態に近いところであってもまず期待できない性質であることを見ていく.
P16, 4 章でまとめに入る.

あまり証明をまじめに追っていないが, 数学的には問題ないだろう. 問題は物理への適用だ. 設定した公理 (仮定) がどこまで物理的に真っ当かという議論もある. 統計力学の設定で「追試」するというのも面白そう.

2013年4月10日水曜日

物理の一般と数学の一般と, その狭間の数理物理と


あまり見かけない話だが, 私にとっては大事なことなのでここに記録しておきたい. 一言でいうと, 物理として一般的な数学的設定は数学としては具体的または特殊な設定で, そこから出てくる変な数学的問題を適当な意味でどうにかするのが数理物理, とかいう感じの話をしたい. ここでは超弦理論と幾何みたいな方向の話は一旦おさえたい. あまりよく知らないから, という理由もある.

まず具体的にいうと, 物理として一般的な数学的設定というのはこういう感じ: 量子力学を考えよう. 電子と原子 (原子核) からなる系を考えると次のような Hamiltonian からなる系を考えることになる. 一応現実的に, 3 次元にしておこう.

\begin{align} H = -\sum_{i=1}^{N_{\mathrm{e}}} \triangle_i - \sum_{i < j} \frac{e^2} {\left| x_i - x_j \right|} -\sum_{i,j} \frac{e e_j} {\left| x_i - R_j \right|} -\sum_{i,j} \frac{e_i e_j} {\left| R_i - R_j \right|}. \end{align}

ここで \(x\) が電子で \(R\) が原子核の方を表している. \(e\) が素電荷で, \(e_i\) が原子核の電荷だ. 細かい話は別にどうでもいいのだが.

ここで問題にしたいのは, 上の設定は物理としてはかなり一般的な設定ということだ. (もう少し一般にしたければ量子電磁場を入れるとかいう方向もあるし, それが最近の数理物理での話で, しかも Summer School 数理物理 2013 での特に廣島先生の話と関係が深いところだが, それは置いておく.) そして数学としては特殊な (具体的な) 作用素の作用素解析に対応する.

数学としては単なる具体例をやっているだけと言えるのだが, この例が数学的にかなり鬱陶しいことが問題だ. まず Coulomb ポテンシャルだが「原点まわり」での発散がある. 無限遠でも積分が発散する: \(\int_{\mathbb{R}^3} \left| x \right|^{-1} dx\) を極座標で書くと分かる. 関数自体は簡単だがかなり鬱陶しい挙動をする. そのために起こる面倒くささの処理に面白さを感じて積極的にやっていくというのがとりあえず数理物理だ. 物理的なモチベーションや物理的な興味がない限り, そもそも面白さを感じることが難しく, 真っ当な数学の人がなかなかやろうとしないラインで数学をすること, と言ってもいいかもしれない.
ちなみに, こうした性質を持つという範囲でポテンシャルを一般化するという方向の研究はないでもない. 特に自己共役性に関する部分ではそれにも意味がある. だが, 私の趣味に関する部分でいうなら, あくまで Coulomb ポテンシャルに限定して議論することに意味がある. この関数に特化してぎりぎりまでシャープな結果を出すことが物理として大事だからだ. 物理として意味があるなら, 数学としては特殊で構わない. 大事なことは最後に物理としてシャープな結果を出すことにある.

ここで物質の安定性を考えてみたい. 物質の安定性というのは量子力学の起源としてとても大事な話だ. 量子力学の起源にもいくつかあるが, ここでは電磁気学的なところを出そう. 加速運動をする荷電粒子は電磁波を出すという議論がある. 電子は原子核のまわりを円運動するという素朴な描像があるが, 等速円運動と思っても, 円運動である限り加速度がある. つまり電磁波を出すのだが, 電磁波を出すとその分荷電粒子のエネルギーが減る. エネルギーが減ると速度が減り, 軌道半径も小さくなる. 軌道半径が小さくなると電子が原子核に落ち込んでしまい, 原子が不安定になる, という話だ. これをおさえるために量子力学が登場した, という側面がある.

普通の理論物理の文献ではあまり出てこないようだが, これを基準に考えると, 量子多体系が安定に存在することも自明ではなくなる. ここにメスを入れようというのが物質の安定性の問題だ. 実際, ここを真面目にやっているのは Lieb を筆頭とする数理物理の人々しかいないらしい. 「物理的」な議論も, 数理物理的な証明ができたあとにその物理として大事な部分を抽出した形で出てくると聞いている. あまり数学を知らない人向けに一応言っておくと, 数学をしているときちんと穴のない議論をするために, 「技術的に面倒なこと」をする必要が出てくる. 何かごちゃごちゃと収束やら極限の順序交換ができるか, とかの話をしなければいけないとでも思っておいてくれればいい. その辺を抜いて「物理的な議論」を作る, という話なので, この分野は完全に数学というか数理物理先行の話題といえる.

話が飛んでしまったので, 物理としてシャープな結果と数学としての特殊性という話に戻そう. 何がいいたいかというと, ここでは電子がフェルミオンであるという性質を使わないといけないということだ. 詳しくは Lieb-Seiringer の本を読んでもらいたいが, 基底エネルギーが粒子数に比例する形で下からおさえられないといけない.


ここで系がボソンだけだと基底エネルギーが粒子数の 7/5 乗に比例してしまうことが分かっている. つまりボソンだけの系は不安定なのだ. 系がフェルミオンだけなら問題ないか, もしくはもっと強くフェルミオンを含めば問題ないか (系に電子があるか), というのは非自明な問題だが, 現実的な設定としては後者の設定下で証明をつける必要がある. そしてそれは実際できている. このときに系にフェルミオンがいるという設定は, Hilbert 空間にすると次のようになる. 現実に合わせて多成分系を考えると \(L^2(\mathbb{R}^{d_1}, \mathbb{R}^{d_2}, \cdots)\) という空間で考える必要がある. フェルミオンが電子だけで \(\mathbb{R}^d_1\) 部分に対応しているとすると, ここの成分だけ座標について反可換, 他の座標については各粒子系の成分ごとに可換, という変な空間で作業する必要があるということだ. \(L^2\) を使う分野はたくさんあるが, 少なくとも私が知る限りでの微分方程式論でこういう空間を扱っているのは見たことがない. 幾何では微分形式に合わせて反可換な関数を扱うというのは考えられるし, 一般のテンソル上で議論するときに形式的には現れるが, どこまで本格的に扱っているのかは知らないので分からない. ただ物理的な設定をそのまま素直にやろうと思うと, \(\mathbb{R}^d\) 上での微分方程式論ではほぼ触らない空間上での議論が必要になる. そしてそういう空間上での議論が物理として本質的になるというのもまた大事.

究極的にはやはり物理にも数学にもインパクトを与えられるようなことをしてみたい, というのはあるが, 今のところ私が関わっている部分の構成的場の量子論, 厳密統計力学は物理としては時代遅れ, 数学としては特殊で面白いかのかどうかよく分からず, 「数理物理として面白い」という話しかない印象がある. 物理でもなく数学でもない数理物理という分野があるのだ, と思えば, むしろここにこそ存在意義を見出すべきで, 最近は特にそう思っている. 市民であってプロの研究者ではないから, 物理も数学も最先端にはついていきづらいという状況下で, それでも自分が最先端にいられるところというと結局そういうあまり人がいないところでふんばるしかないというところもある.

ここで何であろうとも最先端にいなければならない, というのは大事にしたい. ニコマスなり何なりでいわゆる「プロデュース業」をしようと思っているわけだが, そこでのモチベーションの大きな部分は「子供の頃の自分が見たかった世界を見せる」ということだ. これは「天才達が見ている世界, 世界トップの人が見ている世界」といってもいい. どれだけマニアックであろうとも, 世界トップであることは (子供の頃の私にとって) 決定的に大事なので, そこは愚直に守りたい. これが一般的な感覚ではない (らしい) ことは承知しているが, 大学で自分と同じような趣味をしている人間に出会い, またニコニコで数百名であろうとも確実にそういう層が存在することも理解した. だからその層に向けて何かするのだ.

あとついでにいうと, 数学ができる人間が世界で一番格好いいと思っていて, また人並に格好よくなりたいという希望もあるので, そこの欲求を満たしたいというのもある. 世間と格好いいと思うことが決定的にずれているだけで, 気分の上では格好つけたいというのはほとんど変わらないと思っている. さらにこの間 Twitter でも言ったが, 女性一般はまあどうでもいいのだが, 数学ができる女性にはもてたいとは思うが, そもそも数学できる以前にしようと思う女性自体がいなくて困るので, そこを増やすべくプロデュース業に勤しまねば的なアレもある.

いつも通りよく分からない文章になったので自分に失笑している.