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2014年7月13日日曜日

セミナー宣伝: 【数理物理物性基礎論セミナー】中山優(IPMU)「共形ブートストラップで理解する相転移と臨界現象」7月19日14:00 学習院大学南7号館101

超気になる.
概要から一部抜き出そう.



私たちの相転移と臨界現象の理解は新しい局面を迎えようとしています。


私が学生の頃勉強した熱力学の教科書に「3次元の磁性体の問題には、
1970年代以降「繰り込み群」という考え方からのアプローチが試みられ、
ある程度の描像は得られたが、
真の解決はいまだ夢想さえできない。」と記述があります。
本セミナーでは、まず、(3次元の)臨界現象に潜んでいる非自明な時空の対称性「共形対称性」を考え直すことから始めます。
なぜ繰り込み群の固定点である臨界現象にはスケール対称性だけでなく共形対称性が潜んでいるのか?
その対称性の起源と考えられる「局所繰り込み群」とは何か?
と言う疑問から、共形対称性がどのようにして臨界現象の普遍性を支配しているかを説明していきます。


超行きたいが予定があっていけない.
何という屈辱だ.

2014年3月30日日曜日

数理物理の魅力と相転移の魅力: 数学と物理と数理物理と

Ask.fm から.
まずは質問.



二つの質問になってしまいますが,
主観的なもので結構ですので,
数理物理の (特に物理や数学それ自身と比較しての) 魅力および相転移現象の魅力がどこにあると感じてらっしゃるのか教えていただけませんか.


今考えるとあまりきちんと回答していない気もするが
とりあえず回答.


数学と物理, 両方好きで両方やりたいという単純な所です.


もちろんどちらか一方でも死ぬほどきついので,
本当に「研究」しようというなら,
どちらも半端な出来損ないになる可能性を視野に入れつつ
それでも踏み込む決意と覚悟が必要ですが.
もうあまり詳しく覚えていませんが,
相転移は大体田崎さんの影響です.


数学的には「特異性の数理」が非常に好きです.
色々あって学部一年の頃から数学的には超関数だとか
ある意味でかなり特異性の強い数学とずっと戦っていて,
結局今でも「場の理論の超関数論」と銘打って研究しているので
三つ子の魂百まで感あります.


話がずれましたが, 興味だけなら代数幾何の特異点論とか,
ブラックホールだとか, 特異性が絡む話は大体何でも興味があります.
極限で特異性が出てくる現象がとても好きで,
熱力学的極限とそこからの相転移がとても気にいっています.
相転移をやるなら人類が最大精度で扱えるのが
磁性関係だから磁石を扱う方向に行ったと言う非常に単純な動機です.


もちろん水が凍るとかもやりたいですが, アレは即死レベルだし,
シュレディンガーで磁性も即死コンボです.


磁性だととりあえずイジングですが, イジングは
(相対論的) 場の量子論の繰り込み処理との関係もあり,
数学的に量子統計と場の理論の相性がいいこともあって,
手始めにやりやすいところから, と思って
場の理論方面の勉強をしていて, 相転移自体とは
大分離れた赤外発散を修士では主に勉強していたのですが,
修論の為のネタ探しで考えたら一応磁性もできるわ,
と言う感じで磁性 + 赤外発散みたいな
特異性に特異性が重なって死ぬほど面倒臭い代わりに
趣味ばっちりな所を見つけたのでそこで今も
色々やっています.


物理的には素直な拡張でも数学的には全く
別の話を絡ませたりしなくていけなかったり,
逆に数学的には共通部分が多いのに物理としては
ちょっと遠目の所にアプローチできたりするのが
今の分野の面白いところですが,
一旦話が難しくなりすぎて死んだ分野なので,
一般にはお勧めしていません.


ただその分やっている人も少ないので,
すぐに世界のトップ 10 くらいに入れますし,
実際に多少しぼるだけでいわゆる
オンリーワンでナンバーワンにもなれます.


大学のアカポスゲット的な意味でこのご時世に
いい結果がすぐに出る保証は全くできないので,
決しておすすめはしませんが.

2014年1月3日金曜日

メモ:2 次元連続スピン系の連続相転移に関する解説など

「 2 次元連続スピン系の連続相転移」に関するプレゼンテーションファイルなどが公開されていたのでとりあえずメモ. これ とか これ
https://twitter.com/tnksh/status/417610817039650816 【 Shu Tanaka's Blog: 2 次元フラストレート連続スピン系における連続相転移に関する解説を作成しました http://shutanaka.blogspot.com/2013/12/blog-post\_30.html?spref=tw 】
https://twitter.com/tnksh/status/417595165101293568 【以前論文を書いた「 2 次元連続スピン系の連続相転移」に関するプレゼンテーションファイルを slideshare に掲載しました. http://www.slideshare.net/shu-t/prb-87214401slideshare】
あとで読もう.

2013年12月16日月曜日

相転移関連の論文「More is the Same; Phase Transitions and Mean Field Theories」

相転移関連の論文らしいので読みたい.
「More is the Same; Phase Transitions and Mean Field Theories」 初期の相転移の理論について注目した論文らしい
http://arxiv.org/pdf/0906.0653v2.pdf
平均場なので微妙な感もあるが, 初期の相転移の理論, あまりよく知らないので, 歴史的な興味もある.

2013年4月19日金曜日

数論と相転移に付随する自発的対称性の破れ:Connes 論文と新井論文の紹介

この辺 からの mr_konn さんとブルブルエンジン兄貴のやり取りで, 数論 (代数的整数論) での両側剰余類の話が出てきた. 私自身は使ったことないが, Connes の数論での相転移論文にも出てきたことを思い出した. Hecke algebras, type III factors and phase transitions with spontaneous symmetry breaking in number theory という論文だが, 学生時代は学生時代できちんと読もうとして訳が分からず挫折した経緯があり, 結局あまり内容を把握していない. 時々 Twitter でネタにするので, この機会に軽く眺めてみようと思い, 自分用メモとして残しておく.

あと, 関係する話として新井先生の Infinite dimensional analysis and analytic number theory という話もある. 両方とも量子統計と数論の関係がテーマで, 分配関数が Riemann の \(\zeta\) になる, という話. 新井先生の論文の方は直接的に Fock 空間と第 2 量子化作用素の話をしていて, 数学的にはこちらの方が簡単で読みやすい. ただ, 基本的には全く違う話なので両方読み比べた方が楽しいだろう.

では Bost-Connes 論文のメモに入る. 念の為, 先に書いておくと, (量子) 統計や相転移の物理については田崎さんの本がいいだろう.

  
作用素環で相転移を扱うという場合, とりあえず量子統計のセッティングで話をする. 特に \(C^*\) (または \(W^*\)) 力学系の話になる. そこで分配関数が \(\zeta\) になる, という方向に持っていく. イントロで相転移や自発的対称性の破れについても直観的な説明が書いてあるので, 興味がある向きはそれも参考にされたい. この論文では素数の分布と自発的対称性の破れの関係を論じている.

\(C^*\) (\(W^*\) でもいいが) 力学系は, \(C^*\) 環 \(A\) と \(A\) 上の強連続な自己同型群 \((\sigma_t)\) の組のことをいう. Hilbert 空間上の連続なユニタリ群は (半群理論からでもいい) Stone の定理 によって, 自己共役作用素 \(H\) を使って \(U_t = e^{itH}\) と書ける. GNS 表現にして考えてもいいが, \(C^*\) 環上でも (半群理論から) 直接 \(\sigma_t = \mathrm{Ad} \, e^{itH}\) のように書ける. この Hamiltonian \(H\) のスペクトルが色々大事な情報を持っている. 新井論文では実際に適当な Hamiltonian を構成して, Riemann の \(\zeta\) を作っている. von Neumann 環でいうと, KMS 状態が意味を持つのは III 型環だけだ, というのもメモしておこう.

KMS 状態とその端点分解の一般論が出てくる. まず状態の空間が定義から凸集合になり, さらに KMS 状態の集合自体も凸集合になる. そうすると KMS 状態による端点分解ができてそれ自体が熱力学的な純粋相を表す, という話があるが, この論文ではそれが数論の数学としても大事なようだ.

P413 あたりから今回のターゲットの \(C^*\) 環が Hecke 環だという話になってくる. \(\mathbb{C}\) の格子の Hecke 対応とか何とか出てくるがよく知らない. ここで double coset \(GL(2, \mathbb{Z}) \setminus GL(2, \mathbb{Q}) / GL(2, \mathbb{Z})\) が出てくる.

適当な条件下で離散群 \(\Gamma\) とその部分群 \(\Gamma_0\) から convolution algebra として Hecke 環ができるらしく, \(\ell^2 (\Gamma_0 \setminus \Gamma)\) への Hecke 環の正則表現の閉包として \(C^*\) 環を作る. また脱線するが, 群のユニタリ表現から作用素環を作るというのは標準的な方法だ. 一般に \(C^*\) 環内での functional calculus から \(C^*\) 環の全ての元はユニタリ作用素で書ける. したがってユニタリを指定すれば作用素環が決まると言っていい. von Neumann 環だと射影でもいい.

Prop 4. では自己同型群を作っている. 記号からしても KMS のモジュラー自己同型群だろう.

P415 で力学系の相転移に付随する自発的対称性の破れの記述がはじまる. \(\mathbb{Q} / \mathbb{Z}\) 上の関数 \(\psi_{\beta}\) を, 適当な素因数分解を使いつつ定義する. 面倒なので \(P\) の定義は論文を見てもらうことにして, \(\Gamma = P_{\mathbb{Q}}^+\), \(\Gamma_0 = P_{\mathbb{Z}}^+\) とすると, \(\mathbb{Q} / \mathbb{Z} \subset \Gamma_0 \setminus \Gamma / \Gamma_0\) になり, ここから Hecke 環や \(C^*\) 環の包含も出る. この辺をうまく解析すると主定理の Theorem 5. になって, Riemann の \(\zeta\) が出てくる. \(\mathbb{Q}^{\mathrm{cycl}}\) とか数論っぽいのが色々出てくる. また Galois 群 \(G = \mathrm{Gal} (\mathbb{Q}^{\mathbb{cycl}} / \mathbb{Q})\) が自己同型群として作用して, しかも時間発展 (KMS のモジュラー自己同型) と可換になり, これが自発的対称性の破れを記述する, とのこと. Theorem 5. の証明の前に力学系と素数の分布の関係の説明をしよう, といって節が変わり, 2 節になる.

2 節の冒頭で E. Nelson の「第二量子化は functor である」という言葉が引用される. この Nelson は 2011 年に The Inconsistency of Arithmetic で話題になった Nelson だ. 今は基礎論あたりにいるが, 元々構成的場の量子論にいた人だ, という小ネタをはさんでおこう. 第二量子化周辺の話が簡単に説明される.

今はじめて知ったのだが, P417 の Lemma 6. がハイパー強烈だった. 冷静になって考えて見れば当然という感はあるのだが. \(\mathcal{P}\) を素数の集合としよう. \(T\) が Hilbert 空間 \(H\) 上の自己共役作用素として, \(T\) の第 2 量子化作用素を \(\mathbf{S} T\) としよう. このとき, \(\sigma (T) = \mathcal{P}\) と \(\sigma (\mathbf{S} T) = \mathbb{N}^*\) が同値, という命題だ. ここで \(\sigma(T)\) は \(T\) のスペクトルを表す. 第 2 量子化作用素の定義を省いているのでアレだが, 単なる素因数分解だ. 証明は論文に書いてあるので, 興味がある向きは参考にされたい. というか, どこかで話してもいいかもしれない.

それで上の \(T\) を使って, 次のように Riemann の \(\zeta\) が定義できる: \begin{align} \mathrm{Tr} \left[ (\mathbf{S} T)^s \right] = \frac{1}{ \det (1 - T^s)}. \end{align} ここまで来て分かったが, 上記の新井先生はこの命題を基礎にして, Fock 空間上で直接色々やっている. 以前はここまですら読んでいなかった, という個人的衝撃の事実が発覚した. もう少し読んでおけばよかった. 要はボソンの場の量子論と数論に関係があるという話だ. 一応書いておくと, 当然フェルミオンとも関係があって, 双対性だとか超対称性うんぬん, という話が新井先生の論文に書いてある. 2 節, 単独で読んでも面白そうだ. 今度どこかで話してみたい.

3 節では 2 節で作った \(C^*\) 力学系と数論の概念を関係づけ, Theorem 5. の Hecke 力学系を作っている. 局所コンパクト群とか Haar 測度だとかも出てくるので, 色々な数学が交錯する姿を見てみたい学部生が読んでも面白いだろう. 当然ながら \(p\) -進数や付値なども出てくる. アデールだとか, 学生時代, 非可換幾何をやっていた先輩の話で出てきたな, という程度の知識しかないので適当に読み飛ばした.

派手に飛ばして, 6 節で \(\beta > 1\) KMS の分類をし, 7 節で \(\beta \in (0, 1]\) での KMS 状態の一意性を議論している. III 型環とかがちゃがちゃ出てくるので面白そうだが手に負えない.

最後, 参考文献に Araki-Woods や Connes-Takesaki, Bratteli-Robinson, Haag, Pedersen の有名な論文や教科書がある中, Dirac, Serre, Shimura, Tate, Weil があるのに爆笑した. 色々な数学が交錯する姿が見られる論文なので, 興味がある向きはアタックされたい.

追記

ご興味を持って頂けそうだったので, knyokoyama さんにこの記事を読むように強要した. その辺のやりとりが ここ からはじまる.
@knyokoyama あまり細かいところには触れていませんが,ご興味があるかと思ったので, 自分で書いたものですが,ご興味があれば. 数論と相転移に付随する自発的対称性の破れ:Connes 論文と新井論文の紹介 http://goo.gl/fb/XEsEh よく分からない数学 
.@phasetr BostConnesと新井先生の論文を読み比べるに同意 
@phasetr 読み比べようとするも、BostConnesと新井先生の論文は、全く別の話です(phasetrさんのブログに別ものと記載あり). ***比べられない.*** 
@knyokoyama もちろん全く違うのですが,ゼータと量子統計という大きなくくりで見て色々な展開が想像できるので, それを考えると楽しいだろうという話です. 解析数論と数論的関数,超対称性や双対性の数論的反映と,数論での相転移など,量子統計・場の理論の多彩な展開がみられるので 
@phasetr おっしゃるとおりです.ご紹介,感謝いたします. 
@knyokoyama 比べる、という言い方がまずかったか、という気はします 
@phasetr ありがとうございます.結構、楽しく読ませていただきました. リーマンゼータの導出や、驚きのlemma6、(素因数分解定理の言い換え)?!、時間発展までは、 共通、、、その後は、全く別モン.かたやKMS条件から円分体、かたや数論的函数とSUSY.双方素晴らしい 
@knyokoyama 書こうと思って忘れていたのであとで追記しようと思いますが, あの補題(とそのあとの分配関数)がゼータの零点が自己共役作用素の固有値問題に結びつくというHilbert-Polyaの話なのでしょう. 最近は若山先生の非可換調和振動子などもあるようですが
Hilbert-Polya 予想については ここ などを見てほしい:英語版の Wikipedia だ.

2013年4月13日土曜日

Nambu-Goldstone ボソンに関する Watanabe-Murayama 論文の著者らによる日本語解説が出た

以前 Nambu-Goldstone ボソンに関する Watanabe-Murayama 論文が話題になったが, その日本語解説が今月号の物理学会誌に載ったとのこと. 文章自体は ここから落とせるようなので, 興味がある向きは確保されたい. 相転移と自発的対称性の破れに関して簡単な解説もあるので, そのあたりに興味がある向きは眺めておくといいかもしれない.

あと最後になるが, 正直なところこの話, 私はさっぱり分からないのでつらい.

2013年4月1日月曜日

書評:田崎晴明 熱力学, 清水明 熱力学の基礎


Twitter で何度も紹介しているので, いい加減きちんと書評をまとめておこう. 佐々さんの本は読んだことがないので省略する. 一度話したことはあるが, 講義も受けたことはない. 非常に面白い講義だと聞いているので受けてみたかったとは思う.



それはそれとして書評である. いつも言っているが, 初学者にはまず田崎さんの本を勧める. 清水さんの本は組み上がった理論を整理されきった形で提供するという意味で極めて数学的だ. 物理的な議論は非常に丁寧なのだが, いきなりエントロピーを持ってくる構成からしてもかなりしんどい. 学部上級生から院生の知識の整理には非常によいのだが.

両方の本に共通している良い点は熱力学の位置付け, 重要さをはっきり言ってくれているところだ. その上でそれぞれのアプローチでそれぞれが最良と思う形で熱力学を論じている. 2 冊の間で違うアプローチなのが良い.

端的に言うと, 田崎本は手作りで熱力学を作り上げているという感じだ. 操作的 (力学的) にやっているので, 初学者の取っ付きもよい. 清水本は完成された体系としての熱力学を紹介するという形だ. 一番最初に最も重要な量としてエントロピーを導入し, その様々な姿を明らかにしていく. とても数学書に近いスタイルになっている. 数学書だと一番議論したい部分 (定理や定義) に向けて進んでいくが, 逆にエントロピーという一番重要な量をはじめに出す (ことができる) のが違うが, 瑣末なことだ. その意味で, 田崎さんの本よりもよほど数学的と言える.

田崎本

詳しい内容に入ろう. まず田崎さんの方から. この本と田崎さんは私が自分の専門を決める上でも決定的な影響を及ぼしている. 実際, 修論では田崎さんの集中講義で紹介された Hubbard モデルの強磁性の結果を使って書いた程度である. それはそれとして, この本のよい所は図をたくさん使いながら熱力学を操作的に議論しているところだ. おそらく一番とっつきがいい力学的なイメージを大事にしながら進んでいく. もう 1 つ大事な (しかし突っ込んで考えると難しい量である) 温度を取っているところも大事なポイント. ここで清水本は理論的な完全性をはじめから意識してエントロピーを取っているのだが, やはり温度を使った方が分かりやすい. 温度一定や温度変化がある場合というのがイメージしやすいからだ.

また付録含め, 数学的に議論がクリアなのもいい. (物理的にクリアなのは当然だ.) ときどき学部の低学年で「数学的にいい加減な議論が気にくわない」という学生がいるが, そういう下らない話ではなく, 熱力学では数学的にある程度精密な議論が必要になるからだ. 具体的にいうと相転移だ. 相転移はこの間 Nobel 賞も取った南部さんの業績 (つまり素粒子) でも出てくる話で, 物理学全体で非常に大事な現象といえる. この相転移は熱力学関数の特異性, もっと具体的にいえば不連続性や微分不可能性を使って定義される. 物理だと関数の連続性や微分可能性などはあまり真剣に議論されないが, まさにそこが問題になる. そこをきちんと議論しようと思うと必然的に数学的に精密な議論が要求される場面が出てくる. そうした部分が丁寧に議論されていて, 安心できる. 特に強磁性体の相転移については, 著者の専門どストレートでその経験が十分に反映された出来になっていて, 読んでいて非常に面白い.

清水本との違いとして, 多成分系の熱力学, 特に化学への応用が議論されていることもある. 清水本を読んだ人も, ここだけは別途田崎さんの本を読んでもよいと思う. 高校化学で学んだ内容が大学の物理学科の熱力学でどう料理されるか見てみるという楽しみ方もある.

清水本

田崎さんの本はこのくらいにして清水さんの本の紹介に入ろう. この本ははじめからエントロピーを前面に出して, 理論的な完全性を強く意識している. 田崎さんの本も Legendre 変換を使うことで温度を示量変数 (エントロピー) に変えれば同じく (相転移まで含めた) 完全な議論ができるが, Legendre 変換をかまさないといけないところは難といえば難. しかし清水本はその代償として難易度が高い. 跳ね上がっているといってもいいだろう. Twitter で物理志望の東大の学部 1 年などとも話したが, やはり難しいと言っている. 決して彼が愚かなどというわけではなく, 本当にこの本は難しいが, それだけの内容を扱っているので読破できれば物理の非常の深いところまで見えるようになっているだろう.

この本の特色として物理で理論を作るときの数学的理想化に関する議論がきちんとしているところがある. 例えば熱力学がどのオーダーで成立している理論か, 本来離散的であるはずの物質量で微分するというのはどういうことか, といった疑問にもきちんと答えている. その他にも物理としての熱力学を恐ろしいほど詳しく議論している. 示量変数で議論しないと物理的に不完全なところがあると再三言っているが, それが実際どこでどう問題になるか, ということは例えば相転移の章で詳しく議論されているので興味がある方はそこだけ優先しても見てもいい.

最後に, 終わりの 2 章は圧巻. 相転移については田崎本も十分に詳しくあの本のスタイルで十分に議論されているが, この本はこの本のスタイルで徹底的に議論している. 最終章は修士くらいの学生でないと本当に分からないだろう. 何しろ統計力学や場の量子論との関係を論じている. 場の理論でも相転移が大事ということはここでも議論されている. ちなみにここで出てくる代数的場の量子論はSummer School 数理物理 2013で河東先生が話す内容だ. 河東先生はあくまで数学の人だが, この物理部分に触れられている. ちなみに Summer School 数理物理 2013 の主催者の小嶋先生が脚注で触れられている「小嶋泉氏」だ.

まず田崎さんの本で肩ならし (というと何だか失礼だが) してから清水本にアタックするのがいい. あと, できるなら両方読んだ方がいい. この 2 冊を読めば熱力学については研究者レベルと言っていいだろう. そのくらいしっかりした本なので覚悟を決めて読んでほしい.

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2013年3月17日日曜日

高圧物理学の聖杯, 金属水素


どこだか忘れてしまったが, Twitter で金属水素なるものがあることを知る. とりあえず Wikipediaの該当記事 を貼っておこう.
金属水素(Metallic hydrogen)は、水素 が圧縮され、相転移 を経た状態であり、縮退物質 の一例である。 固体状態では、水素原子核 (つまり陽子 )の結晶格子 の間隔は、ボーア半径 よりもかなり小さく、 電子 のド・ブロイ波 長と同程度と予測されている。 電子は束縛されず、金属における伝導電子のように振る舞う。 液体状態では、陽子は格子に並ばず、陽子と電子の液相系となっている。
水素は、周期表 上でアルカリ金属 の列の最上段にあるが、通常の状態では金属ではない。 しかし1935年、ユージン・ウィグナー とHillard Bell Huntingtonは、 25Gpa程度の超高圧で、水素原子は電子を保持できなくなり、金属的な性質を示すことを予測した^{1}。 それ以降、金属水素は、「高圧物理学の聖杯」と呼ばれるようになった^{2}。
高圧物理学の聖杯とか格好良すぎるだろう. 何だこれは. 「聖杯」と言いたいためだけにでも研究する価値がある.