ラベル 熱力学 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 熱力学 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2013年10月6日日曜日

久保記念シンポジウムに参加し, 沙川さんの初観測に成功した

10/5 に久保記念シンポジウムに行ってきた. 前日にピカチュウさんに教えてもらったので, 急遽参加を決めた. 何せ若きスーパースターとして活躍していると評判の沙川さんのトークが聞けるのだ. 市民として滅多にない機会なので超楽しみということで参加した.

沙川さんトーク, 面白かった. 小林さん (と呼んでいいのかどうかアレだが) も話がうまくて面白かった. 実験の人の話を滅茶苦茶久し振りに聞いたが, そんなことできるのか, と思って単純に楽しかった. 自分の研究に役立つ方向では, 勝本さんの話, spin-boson モデルの話が出てきたのが大変に興味深い. 廣川先生が spin-boson の役割みたいなことを言っていたのを聞いたことがあるが, 実験の人が実際に spin-boson を使って実験の説明をしているのを聞いて, spin-boson 結構使えるのか, というのが少し感覚として分かった. spin-boson, 実際に最近結構数学的にもきちんと研究できるようになってきていて これ とか これ とかあったりする. 適当に検索して見つけただけなので, この論文が非常に良い結果とかいうわけではない. 私が知る範囲では, 数学的には廣川先生が一番熱心に研究していると思う. 興味がある向きは廣川先生の仕事から色々調べていくといい.

実験トークはよく分からないので, 沙川さんトークだけ記録しておく. 上田先生ともやっている, 情報熱力学周りの話だった. 当人は「あまりガチガチなことをするとまずいからと思ってゆるふわな内容にしてしまったが申し訳ない」みたいなことを言っていたが, 感覚の全くないところだったので, 逆に私にはゆるふわでちょうどよかった. 何をやっているのか雰囲気は把握した. 確かに面白い. エントロピー生成に関して, 2 つの不等号を繋げて全体として非負, という話をしていて, 同時に等号が成立するような実験系などあるのか気になったので質問してみたが, やはりまだよく分かっていない, ということだった. 系のエントロピー生成とメモリ側のエントロピー生成で等号成立条件が全く違うので, ということらしい. 隣にいた宮下先生から「それは物理としては期待できないでしょう」みたいなコメントを頂いた. しかし, 何かできたら面白そう. 実験的に実現できるかはともかく, とにかく理論的に何か言えたら面白いとは思う. 物理に関してはほぼ素人なので, ピント外れの考えかもしれないが, こう色々と想像をかきたててくれる. トーク後, 田崎さんに「大分話すのうまくなったけれども基本的な設定の部分についての説明が全然ないし云々」という突っ込みを受けていた.

ここ最近, Summer School 数理物理など楽しいイベントがたくさんで非常に楽しい. それはそうと, 沙川さんに「どちらの方でしょうか」と聞かれたときに「Twitter の相転移P です」と言ったらそれで通じたことは記録しておきたい.

2013年8月18日日曜日

書評という名の感想: 大栗博司さんによる『大栗先生の超弦理論入門』講談社ブルーバックス

大栗博司さんによる『大栗先生の超弦理論入門』という本が 8/20 にブルーバックスから出版される.


これの早刷による書評募集があったので, 応募したら当選になったようで, 本が送られてきた. 送るべき書評は 400 字までなのだが, 備忘録も込め, ここでは詳しく書いておく. 自分の趣味に沿った, 普通の人は気にすることのない細かいいちゃもんのようなものもあるが, このブログ読んでいる人に普通の人はいない想定なのでよしとする.

まず一言でいうと面白かった. 今まで断片的に知っていた色々な超弦理論関係の言葉が繋がっていってすっきりした, というのもある. 特に後半, 何を言っているのかさっぱりだが大栗さんが実に楽しそうに研究し, 本を書いている姿が伺える. 所々自分の趣味を刺激してくるので, 研究 (勉強ではなく) したくなる気にさせてくる素敵な本であった.

とりあえず私の知る大栗さん像から書き始めることにしよう. 私の専攻はいわゆる数理物理で大栗さんも広義の数理物理だとは思うが, 研究の方向についてほぼ関係はない. 始めて大栗さんの名前を聞いたのは東大数理の名誉教授 (話を聞いたときは教授だったが) の桂利行先生からだ. 何かのときに IPMU の話になって「大栗さんも村山さんも数学めちゃくちゃできる」と言っていたので名前を知った. 東大数理の名誉教授になるくらいなので桂先生も大概だが, その人にこう言わせるとは凄まじいな, と. 超弦関係の物理の人, 鬼のように数学できるので恐ろしいが, その中でもトップクラスとか戦慄した.

では内容. 「はじめに」から順に思うところを徒然に書いていく.

はじめに

超弦理論は素粒子の理論であると同時に時空の理論でもあるということ, 空間の「次元」が決定できる理論であると紹介される. P.5 で次のように書かれているので, 「決定」と書いてしまうのはまずい気もするが, あとの方で「次元が決定できて嬉しい」という記述はあったので.
超弦理論の研究から, 空間の「次元」が変化してしまうという驚くべきプロセスが発見されました.
何にせよ, のっけから空間の次元の話を押し出してきていて, 心を掴みに来ているな, という感じ. ふと思ったが, 時間は何で 1 次元扱いなのだろう. 不公平感溢れる.
P.6 に次のような記述があるが, ちょっと思うところがあった.
P.6
温度とは分子の平均エネルギーの表れにすぎません.
超弦理論, ブラックホールの温度という話も出てきたし形式的には多体系の理論になると思っているのだが, 温度はどう扱っているのだろう. 形式的に「絶対零度」の世界の理論なのだろうか. 京都の小嶋先生あたりの相対論的場の理論での非平衡状態に関する研究あるし, 温度が入ると Lorenz 不変性が壊れるとかいう話というのを聞いたので, その辺気になる. Curved spacetime 上, 普段私が触っているフラットな時空での対称性の議論がどこまで使えるかがまず問題なので Lorenz 不変性の話はいいとして, 温度の扱いは気になった. 超弦レベルでの温度の定義とかまた修羅の世界っぽいが, そもそも意味があるのかどうかが気になる.

のっけから私の話が脱線しまくっているのだが, 本ではストレートに空間とは何ぞ, 次元とは何ぞ, というところを考えるのだというのを強調している.
P.7
そして, この理論が数学的につじつまが合っているかどうか確認していく作業の過程で
超弦というか相対論的場の量子論を含む素粒子関係, 理論が異常なくらい綺麗なので時々驚く. 私は一応物性回りで, 綺麗になり過ぎないぎりぎりのところで, しかも現行人類に扱える範囲の対称性は持っているところを狙っているので, (不勉強で関連する物理がよく分かっていないこともあり) 綺麗すぎると物理として大丈夫なのか, というのが気になるが, 真っ向から逆を行っている感じ, 何ともいえず, 面白い. 数学的整合性を軸に議論するというの, AQFT では基本中の基本ではあるけれども.
P.8
第 4 章では, 超弦理論では「空間の次元が決まる」理由を明らかにします.
次元が決まるというの, 確かに面白いし魅力的. 普段好き好んで \(d\) 次元で考えている私が言うのもアレだが.

第 1 章 なぜ「点」ではいけないのか

量子統計というか非相対論的場の量子論というか, その辺で電子が点粒子なせいで, 基底状態の不安定性との戦いが必要になるので困っている方の市民だった. 私が扱っている範囲では原子核も点扱いが一次近似として正当なので, いつも困っている. もっというなら, つらくて手に負えないため普段は Hubbard で格子上に制限してその辺さばいているのだが. というようなことをタイトルを見た時点で色々思う.

章の冒頭の一文を引いておこう. 駄目な大人には困ったものだ.
P.12
私たち素粒子物理学者はこうした問いかけを心に抱き続けたまま, 大人になってしまいました.
超弦だと物質の基本は (昔ながらの) 粒子とするのではなく弦だと思うという話だが, 少なくとも何故「点」では困るのか, というところから始まる. ここまで書いて思ったが, 脱線が多過ぎて本の筋が何なのか見えなくなりつつある感想文になってしまっていて実にアレ.

Euclid あたりの数学的な点の扱いから Demokritos の原子論に流れて, というお決まりの話の流れが出てくる. この辺については我らが江沢洋先生の『だれが原子をみたか』がハイパー面白いのでお勧め. 江沢先生は日本の数理物理の草分けで素粒子・場の理論界隈の数理物理の人だ.


原子・原子核からさらに陽子・中性子, クォーク, 標準模型の話で, そこから標準模型の問題を議論して弦だ, となる.

単純に私が知らなかっただけだが, 暗黒物質は標準模型関係の話だというの, あまり認識していなかった. 宇宙論関係の話だとしか思っていなかったので「ほー」と思った.
重力と電磁気力の比較のところ, 物質の安定性関係で中性子星 (重力多体系) の扱いなどを思ったが今は別に関係ない (はず).

電子が自分で作った場との相互作用で無限大が出てきて困るから点は駄目なので, 繰り込みでどうにか対処したがある所まで行くと 繰り込みも駄目だからどうしようとなって弦に行きついた, というところで 1 章が終わる.

章末のコラムでひもと弦という言葉回りの小話が紹介される. ひもという言葉を使った方が一般にインパクトがあるらしいというのだが, 弦と言った方が格好いいのに, と思ったけれども, Twitter で「女性に寄生する男性としてのひも点意味での超ひも理論」とかいう地獄の底から這い上がってきたような, 何重もの意味で線型代数で殲滅すべき発言をよく見かけることを想起し, 納得せざるを得なかった.
次の話, 涙を禁じ得ない.
P.32
先日も著名な天文学者と話しているときに「大栗さん, 超弦理論と超ひも理論というのは, 同じものだったのですか」と聞かれて, びっくりしました.

第 2 章 もはや問題の先送りはできない

電子の話だが, 電磁場が出てくるので光の話も出てくる. くりこみの話がメインだが, 重力を考えるとくりこみができなくなって困った, というところで終わる.
P.37
光は「波」であり「粒」でもある
よくあるアレだが, 超弦くらいの無茶な話をするなら, もう「光は波やら粒子やらといった (古典的な) 存在ではなく量子という別の何かであって, 常識的な見方は捨てるように」と言い切った方がいいのではないか. 「物理学者は保守的」という記述もある中, 保守的な人間ですら常識を捨てざるを得ないほどよく分からないということ, もっと強調していいと思う. その上でさらにどうしようもなくなって弦のような何かというところまで行き着いた, という話ではないのか.
P.42
これをファインマン図で表すと, 図 2-3 の左のように, 電子が自ら発した光子を吸収する現象と表現することができます. これによって電子の質量が無限大になってしまうのです.
Feynman ダイアグラムがぽんと描かれていて爆笑した. この辺きちんとやったことがない方の市民なので, これ見ても何故無限大になるのかさっぱりだが, 無理矢理ぶっこんで来る気概, 尊い. あとで弦のダイアグラムも出てくる.
P.46
自然界の階層構造
この周辺でくりこみの話が議論される. 階層構造のおかげでくりこみが上手く働くのだが, 重力を考えないといけなくなるとここが難しくなるという話.
私は (超弦から見て) 階層構造の上の方, 特に 上の方が上の方で本当に閉じているのかを数学的にきちんと追跡しきる部分に興味がある のだが, あまり下の方をきちんと勉強していなかったので, この辺, 最下層に進撃している人の見解が見られて面白かった. 私は自然界の階層構造の数学的整合性それ自体を調べたい. その辺を改めて認識させられて, 私にはとても刺激的な部分だ.
P.53
先ほども述べたように, 自然界に階層構造があって, よりミクロな世界の理論のほうが基本的であるというときには, 空間的な距離がきちんと測れることを前提をしています. 距離が測れなければ, よりミクロな世界とは何を意味するのかさえわかりません.
中略
重力と量子力学が統一される世界までいくと, それよりもミクロな世界は存在しないと考えられているのです.
ここ, さらりと書かれているが凄まじい. 最後, ブラックホールの話が出て次章となる.
P.58 コラム 思考実験
街中を散歩していても, 食事中でも, 思考実験はいつでもどこでもすることができます.
数学だと「思考」が外れて本当に実験ができる. 理論と実験の区別, 特にないのが数学のいいところ, ということで牽強付会に数学につなげていきたい.

第 3 章 「弦理論」から「超弦理論」へ

弦と超弦, 何が違うのかよく知らなかった方の市民だったが, ここではじめて違いを知る. 違うのは把握したが, どう違うのか.

南部・後藤の提唱, 開弦と閉弦, 粒子を弦にしたときの Feynman ダイアグラムと進んでいく. P.70-71 で弦にしたおかげで原理的に発散の困難を取り除けたということがダイアグラムを使って説明されるが, 私にはよく分からなかった. ダイアグラム自体よく分かっていないのも大きいのだろう. ひとまず何か大丈夫らしい, ということで先に進む.
P.72
光子は「開いた弦」の振動
閉じた弦は重力を伝える
弦の話に入って早々に光と重力が弦で統一的に理解できるという無茶がぶっこまれる. さらりと猛スピードでやってくるのでびっくりだ.
P.78
弦理論と超弦理論の違い
弦理論だと boson だけ, 超弦だと fermion も含む, ということらしい. 超空間とかグラスマン数の話が出てくる. 物理の人はよくグラスマン数というが, 数学だと普通は外積代数という. Lie 代数と Lie 環, 作用素代数と作用素環のように, この辺, どういうところから言葉の使い方の違いが出てきたのか前から不思議に思っている. 外積代数に関しては, はじめに見つけた人の名前を出す物理の人の言い方がいいとは思うし, Lie 代数についても環ではなく代数の方が正確だからこれも物理の言い方の方がいいと思うが, 物理の人の言葉遣い, 無茶苦茶な方が普通なので, こう色々なものを感じる. 数学は数学で, 量子化・量子何とか・エネルギーなど物理用語を魔解釈することはあるにはあるのだが.

最後, 超対称性と余剰次元の話が出てきて章が終わる. 外積代数の方の次元が「空間」の次元扱いになるの, 凄まじい. 自然やばい.

第 4 章 なぜ九次元なのか

タイトルからして既に危険領域に突入している.

章の冒頭に小川洋子『博士の愛した数式』の一節と Euler の公式が引用されている.


話の本筋と全く関係ないが, 数学会の会誌の「数学会報」だか何かに, 「博士の愛した数式を読んで, 改めて自分が日々触れている数学が素晴らしいものだということに気づかされた」という書評があったのを思い出した. この章では \(\zeta\) が出てくる.
P.95
なぜ三次元なのか
正面切って聞かれると答に窮する疑問だが, 超弦だとこれが出てくるという戦慄すべき話が語られる. 大栗さん自身次のように書いている.
P.95
次元の数が決まるというのは, 物理法則としては前代未聞のことです.
超弦理論という「理論」を「自然法則」と言っていいのかはよくわからないが, 次元を決めてしまう理論が凄まじいのは間違いない. これではじめて知ったのだが, これなら超弦理論に夢中になる人がいるのも道理だという認識に至った. この章では 25 次元の話なども出てくる. ここに興味がある向きは是非きちんと本を買って読んでみてほしい. あと, ここの特に超弦理論の計算のところ, 参考文献つけてほしい.

コラムで超弦理論の実験的検証という話があるが, 実験的に検証するための実験の提案などはあるのだろうか. 少なくとも現段階で高エネルギー領域での直接検証は無理だろうが, 最近物性への応用の国際会議があったとか聞いたし, そういう方向からの話は何かないのか. この本, 基本的に理論の話で実験の話はないので, そういう方向の参考文献とか知りたい.
P.111
超弦理論の研究で, 数学的な整合性が大きな導きの意図になっているのはそのためです.
散乱理論が作れない中で出てきた AQFT や GQFT の動き・目的は正にここだったのに, 物理の人から「公理的場の理論の物理への寄与は任意に与えられた正数よりも小さい」とか言われていた, というのをふと想起した.

第 5 章 力の統一原理

冒頭にヘレン・ケラーが引用されているあたりに大栗さんの感情の高ぶりを感じる. ここではゲージ原理の話が出てくる.

金融市場を例に説明されるのだが, これが私にはわかりづらい. これは一般向けの本であって, 私は厳密には対象の層ではないので全く参考にならない意見だろうが, 一般にはこの説明は分かりやすいものなのか, というは気になるところではある.

また, Yang-Mills の話が出てくる. これは Clay 研究所の 7 問題のアレだ. つまりこの辺 (の数学), 死ぬ程難しい.

第 6 章 第一次超弦理論革命

Schwarz の孤軍奮闘とその背景・歴史的経緯がまず語られる. I 型, II 型, アノマリーなど聞いたことのある言葉が乱舞しはじめて楽しい.
P.150
「三十二次元の回転対称性だ」
これ, 本当に \(SO(32)\) なのだろうか. 本当に「Infinity cancellations in SO(32) superstring theory」というタイトルで, Green-Schwarz だしこれだろうか. Yang-Mills にしろ, 本当に回転なのか. 何故球面上の話がそんなに大事なのだろう. そもそもゲージがよく分かっていないというところがあるから仕方ないのだが. ぎりぎり BCS と BEC を知っている (分かっているわけではない) が, そこでも「向き」が大事なようだし, 何か向きの話なのだろうな, という漠然とした感覚はあるが, それでいいのかよく知らない.

ヘテロティック弦理論がまた意味不明でやばい. 何だこれは.
P.158
カラビ-ヤウ空間によるコンパクト化
Calabi-Yau からの Witten が来た. Witten は「量子力学は 20 世紀の数学を彩ったが, 21 世紀の数学は場の量子論の数学になるだろう. 超弦理論は本来 22 世紀の数学なのに間違って今世紀に出てきてしまった. 私はこちらで頑張るが, 場の量子論界隈は 21 世紀の数学をきちんとやっておくように」のようなことを言ったと聞いている. それならほぼ死んだ状態の場の量子論界隈の数理物理に人を回すよう手配してほしいと思っているのだが, 全く実現しない. 困ったものだが, そのおかげで私も大学出てしばらく経つのに場の理論の数学界隈から取り残されずに済んでいるのでつらい.

それはそうと, ここでのコンパクト化, 数学的には何をやっているのかずっと前から気になっているのだが結局よく分からない. こちらも全然知らないが, Riemann 多様体の崩壊みたいな話が関係あったりする? この辺まで来ると, 正直物理よりも数学的な内容の方が気になってくるあたり, 物理学科出身ではなかったのかと自らの業の深さを感じる.
P.160
コンパクト化したときにその条件をぴったり満たす六次元空間が, 六年前の一九七八年に数学者によって見つかっていたことを知りました.
この条件とか凄く気になる. あと Calabi-Yau, 問題自体は大分前 (20 世紀初等くらい) から出ていたと思っていたが, かなり最近だというのを確認してちょっとびっくりした. 解決自体は Yau だからそれ相応の年代というのは知っていたが. 数学的な発見の時代と物理的な利用の時代が時期的にかなり近いというかほぼ同時進行なのも奇跡的で面白い.
P.162
カラビ-ヤウ空間の幾何学で, 素粒子模型が決まる
トポロジーからクォークの世代数が決まるという話, 意味不明で凄まじい. トポロジーというか幾何から物理が決まるというの, P.130 あたりの Aharonov-Bohm でもあるにはあるのだが, 結局この辺触ったことほとんどないからぴんと来ないというか戦慄する感じはある. Aharonov-Bohm も物理というより数学関係, CCR の表現論として触ったところが強いので, そういうのもいけないのだろうけれども.
P.169
カラビ-ヤウ空間が与えられることで答えの出る問題は, 実は素粒子の世代数だけではありません. 後略
あまり書いてしまうとよくないかと思って省略した. これは凄まじい. それは超弦理論に, Calabi-Yau に夢中になると理解.
P.170
距離の測り方すらわからない
この記述の意味は以前 Twitter で大栗さんに直接聞いたことがある. ここで周辺の話についてちょっと書いておいたので興味がある向きはご確認頂きたい. 大栗さんから Twitter で頂いたお返事は別途引用しておこう. よくある存在だけは分かっているが性質がよく分からないというアレだ.
@phasetr コンパクトなカラビ‐ヤウ多様対については、 計量テンソルが存在することは証明されているが、その具体的な形がわかっていないということを噛み砕いて述べたものです。
P.172
ゲルマンはのちに, 「超弦理論のような絶滅に瀕している分野のために, 保護区を設けたのだ」と語っています.
中略
ゲルマンのような目利きが見守っていたからこそ, シュワルツも自由な心と集中力を持って研究ができ, 真のイノベーションを起こすことができたのです.
言いたいことは分かるが, 何というか, 結果的にゲルマンが目利きだったという部分が強調されているような感じでちょっと嫌. 結果的に超弦が駄目な結果になっていたとしても, それに賭けて心血注いだ Schwarz とそれをサポートした Gell-man の志は尊い. いいたいことが上手くまとまらないが, 言いがかりに近いアレだ.

第 7 章 トポロジカルな弦理論

名前だけは知っていた topological string, 大栗さんの業績だったのかというのを始めて知る夏だった. 量子効果を計算するというがそれが何なのかさっぱり分からないというか, そもそも書いていないという認識. 気になる. 定義自体はやはり計量に依存する量の計算なのだろうか. そうでないと話に意味がないので多分そうなのだとは思うのだが. あと P.179 の式, Word みたいな表示で嫌: TeX の感じで載せてほしかった. 難しいのだろうか.
P.184
大事件が起きたのは, その数ヶ月後でした. 第一次超弦理論革命と同時に研究者人生をスタートした私は, バークレイで研究室を立ち上げようとしていたときに, 第二次超弦理論革命に直面することになったのです.
大栗さん, 超弦理論の発展の生き証人という感じで実に羨ましい. 研究者になりたかったと改めて思わされる.

第 8 章 第二次超弦理論革命

Witten が再登場した: 双対性や M 理論の話.
P.196
空間の次元を高くすると, 二種類の粒子の数を合わせることができなくなるからです.
これ, どういうことなのだろう. 参考文献知りたい. 数学的・物理的に読めるかどうか, 読む時間が取れるかはともかく.
P.203
当時はまだこの研究に使える数学的な道具が限られていたことも, 理由の一つでしょう.
数学的に何が足りなかったのだろう. それが無性に気になる. 超弦ではなく場の理論だが, こういう「物理に必要な数学を見つける・作る」という問題, 自分の専門ということもあるから.
P.204
円の半径が, 力の大きさになる
P.207
結合定数が大きければ大きいほど複雑化し, 計算が困難になると思われていた超弦理論が, その極限では一〇次元空間の超重力理論になるという, きわめてシンプルで美しい理論になっていたわけです.
円の半径が変わるというはともかく, 結合定数が変わるというのはどういうことなのだろう. ある物質というか場の結合定数が大きいときの問題というにしても, 結合定数変わるのだろうか. 裸の結合定数とかその辺の話? それは超弦理論でもまだ何かあるということか. 光学格子上の BEC のように, 結合定数を変化させられるのだろうか.
P.214 column
そもそも, 素粒子論や超弦理論の新しい発展が, 既存の数学ですべて理解できるとはかぎりません. 研究をしながら, 新しい数学を作っていくことも必要になるでしょう. そして, このような研究から新しい数学分野が開けていくこともあります.
超弦界隈は現在進行形で色々あるようだが, 私の専門の量子統計・場の量子論でも色々あるし今もある. 特に作用素環への影響は顕著だ. 熱力学・統計力学で一番基本になる概念である平衡状態の定義そのもので新しい数学が生まれたことがある. 正確にいうと数学での発展と物理での発展が同時に起こって一体になって進んだ経緯がある. 有名な話でバトンルージュでの国際会議で, 後に冨田のモジュラー理論 (冨田-竹崎理論) と呼ばれる理論に関する冨田稔のプレプリントが出ていたのだが, Haag-Hugenholz-Winnink による平衡状態の定式化に関する話もあった. プレプリントを見ると出てくる式がやたら似ていて不思議なこともあるものだ, と思っていたら, 実は数学的には同じ話だった, という荒木先生の話があった. 最近量子統計界隈でそういう動きはないように思うが, 相対論的場の量子論, AQFT ではまだまだ動きがある. 非相対論的場の量子論 (構成的場の量子論) だと新しい数学と言えるのかは分からないが, 数学的研究は進んでいる. 超弦は人がたくさんいるので, 興味がある向きは是非こちらにも来てほしい.

2.10 第 9 章 空間は幻想である

その辺の適当に何かかじっただけの人間がいっていたら苦笑いするしかないような発言だが, まともな物理学者が言っていることに戦慄する方の市民だった.
ブレーンの話が出てくるのだが, 破滅的に意味不明で戦慄する. もう, どうなっているのだ, としかいいようがない.

P.225 の IIA 型の話, 何を言っているのか全然分からない.
P.229
ブラックホールの温度が説明できるようになったのです.
ブラックホールの温度, どう定義しているのだろう. ブラックホールの熱力学というのを聞いたことはあるが, 実際に何をやっているのかは知らない. 「p-ブレーンも温度を持つ」という記述があるが, p-ブレーンの温度もどう定義しているのか気になって仕方がない. P.230 で「開いた弦の運動によって説明できた」との記述があるが, 平衡系の計算みたいなことをしているのだろうか. ブラックホールに平衡系の理論は適用できるのだろうか. とりあえず適用してみて一致することが分かった, という話? 素人がすぐに思うことを専門家が突っ込まないはずがないので, きちんと議論はあるのだろうし, それを知りたい.
P.234
重力のホログラフィー
また名前だけは知っている重力ホログラフィーと AdS/CFT が出てきた. AdS/CFT, この辺の話だったのか.
P.239
温度も, 空間も, その中に働く重力も, 本質的なものではない.
何だか知らないが「温度が本質的なものではない」というのにイラっと来た. 自分の熱力学・統計力学への過剰な思い入れを感じる出来事だった.
P.242
この現象は, 重力のホログラフィー原理を使って予言されていました.
理論で予言できた現象が実験で再現されるという話, 無条件に胸が高鳴る.

2.11 第 10 章 時間は幻想か

理解が置いつかなくなっていることもあり, もはや「ほー」「へー」くらいしか書くことがなくなっている方の市民だった.
P.252
私「空間とは, どのような種類の集合なのですか」
数学者「近いものと遠いものの区別がつくような集合です」
数論幾何をやっている nolimbre さんの「位相空間は甘え」という言葉を想起した.
P.261
超弦理論のこれまでの研究は, 九次元空間のコンパクト化のような, 時間的に変化しない現象に集中してきました. しかし, 宇宙の始まりの問題に超弦理論を応用しようとすると, 超弦理論において時間がどのように扱われるべきかについて, 深く考える必要があります.
これまでの記述は時間変化のない現象ばかりだったということ, 意識していなかったので「ほー」という印象.
P.269
学生が大学院に入学してから超弦理論の論文を書けるようになるまでの年数が, 私が大学院生だった三〇年前も現在も, 変わっていないことです.
難しくなりすぎて研究者が離れて, 今では滅亡の危機に瀕している構成的場の量子論とは大違いだ. 非相対論的場の量子論の方ならもう少し何とかなる気はする. 4 次元 \(\phi^4\) の自明性ですら手が負えず, QED は Dyson が 50 年も前に存在しないだろうという兆候を見つけたきり多分何も動いておらず, かといって QCD もどうにもならない. (量子) 統計方面でも, Heisenberg や Hubbard ならもう少し何とかなる気はするが, Ising だと大体悪魔のような問題しか殘っていなくて, 革命的な展開が 2-3 は必要という印象がある. 超弦理論, 羨ましい.
P.270
超弦理論はまだまだ発展途上の理論です. それは研究者にとっては, 挑戦すべき問題がたくさんあるということでもあります. この分野のさらなる発展にご注目下さい.
もちろん注目はするが, 少し研究者をこちらに分けてほしい.

2.12 まとめ

この本の感想だか何だかよく分からないことになってしまったが, 刺激的な本だった. 2 年くらい書きかけで放置していた論文をいい加減まとめようという気持が湧いてきた. 頑張ろう.

2013年6月28日金曜日

非平衡相転移について少し調べてみようと思ったのだが全く分からなかった

先日思い立って非平衡相転移について少し調べてみようと思い, 適当にググって PDF を読んだ. 京都の小貫さんによる『非平衡相転移現象: 熱流による非線形効果』という記事 だ. いいものなのかどうかは全く判断できないが, とにかく読んでみた.
相転移現象は実に多岐にわたっており, 殆どの研究者に はそれぞれになじみのある相転移現象があるであろう. 相転移を平衡現象として捕らえるのは理解の第一歩であり, その先に多くの非平衡効果がある。 二次転移点近くのダイナミクス研究はその流れの初めの一歩である.
私でいうと強磁性が馴染み深いというか, ほぼそれしか知らない. それですら物理としては怪しいところばかりで悲しい.
一見して平衡に見えるがそうではなく, ガラス状態や構造相転移の中間状態のように準安定性が本質の物質状態もある. また高分子・液晶・ゲルなどのソフトマターは, その柔構造・多層構造のため, 多彩な非線形非平衡効果を示す. 濡れ現象や界面運動に着目した斬新な本もある.
学部の頃の固体物理か何かだと思ったが, ガラスがかなり難しい対象だと聞いてびっくりした覚えがある. あと濡れ転移だとか界面の話は東大数理の舟木先生が数学として研究していたような気がする. 読んだことないが, 多分これ.



これら潜熱の関与する現象はありきたりだが, 物理として理解するのは実は至難である. それには熱流下での液体・気体界面における一次相転移を正しく理解しないといけない. ここに相転移物理学と流体力学の融合された基本問題がある.
やたら格好いい. 1-2 ページにかけて van del Waals や Korteweg の仕事が紹介されているが, Korteweg は Korteweg-de Vries (ソリトン) で有名な Korteweg とのこと.
通常の自由エネルギーを用いる理論では一様な温度を想定するが, 温度が非一様な場合の相転移はどの様に記述できるかは自明でない.
非平衡は全然知らないので, そもそも非平衡での自由エネルギーとは何者か, 考える意味があるのか, 平衡状態で果たすような重要性は変わらずあるのか, というところが気になる. すぐ下でエントロピーも出てくるが, この辺, 非平衡でどこまで意味を持つのだろう.
潜熱流は熱伝導に比べ圧倒的に熱移送効率がよいのがわかる. ガスに僅かに液体を封入するだけで効率よく作動するヒートパイプの原理が納得されるであろう.
ヒートパイプ なるものを初めて知る夏.
大分飛ぶが次のような記述があった.
身近で体験する現象ですら非線形非平衡効果に満ちており実はよく理解できなていない 3,6). 熱力学で論じられる現象 (例えば断熱変化・カルノー過程) は公理的な記述がされるが 実際の物理過程は複雑で誰も理解していない側面もある.
こういうの凄い好き. 現象自体は良く知られているが, きちんと考えると理屈が全く分からないとか最高に楽しい.

非平衡相転移については何も分からなかったが, 非平衡の熱力学・統計力学はやばい, ということだけ了解した.

2013年5月21日火曜日

Lieb-Yngvason による The entropy concept for non-equilibrium states が arXiv に出たので読んでみた


Lieb-Yngvason のプレプリントが出たのだが, 普通の理論物理の人が「ちょっと衝撃的?」と言っていたので眺めてみた. The entropy concept for non-equilibrium states だ. Lieb-Yngvason がまた何か面白いことをしたようだ.

余計な話もいくつか書くが, 論文紹介というよりも私がこれを読んで思ったことの読書メモみたいな感じで読んで頂ければ, と思う. それなりに専門的に勉強した人間が何を考えながらどう読む (反応する) のか, というのを見てみたい向きには面白いのではないかと期待して.

まずアブストラクトを見る. 引用部の訳は意訳の上に適当なので, きちんと原論文にあたってほしい.
P1. 
以前の Lieb-Yngvason が論じてきた枠組みで非平衡のエントロピーが特徴付けられた. 今回, 同じ枠組みで, 物理的に望むべき性質を持つ一意的なエントロピーの存在が言えないことが示された. ただし, 一意性がないだけでそれらしき関数が 2 つ定義できる.
平衡系の熱力学の論文は, 例えば The Physics and Mathematics of the Second Law of Thermodynamics だ. 一意性がないだけで, とりあえずエントロピーは定義できるらしい. とりあえず本文に入っていこう.
P1. 
エントロピーは時間とともに増えていくとされている. エントロピーは平衡状態では何の問題もなく定義できているが, 宇宙の中にある物質の状態の多くは平衡状態にはない. 非平衡状態に対するエントロピーが何なのか分からければ, その増大というのもきちんと定量化できない. 非平衡状態のエントロピーの定義もあるが, 色々な問題がある.
当たり前の現状認識から入る. 別件だが, Jaksic-Pillet あたりが非平衡定常状態に対して, エントロピー生成を証明したという話があった覚えがあるが, あれは具体的にどういう設定下で何をしたのかよく知らない. あれと今回の結果, どういう関係にあるのだろう.
P2. 
状態の比較時, 化学的な組成は同じ状態を考える. 今回の議論では状態の断熱比較性 (以下比較性という) が大事. 一般には非平衡状態のエントロピーは一意に決まらないが, \(S_{\pm}\) という 2 つの両極端なエントロピー関数がある. 比較性が成り立つときにはこの 2 つは一致する. 当然非平衡状態での比較性が成立することは極めて非自明であって, しかも一般には期待できない.
\(S_{\pm}\) が恐ろしく非自明で凄まじい. あと, 化学的な組成が同じ状態に対する比較性を考えるというの, ここではさらりとしか書いていないがかなり重要だろう. 化学反応が起きる場合, さらに修羅のような状況になるのは簡単に想像がつくし, そのときは \(S_{\pm}\) のような量が consistent に定義できるのかすら怪しいという印象. あくまでただの印象だが. そもそもエントロピーを定義する意味があるか, という問題もあるけれども.

とりあえず 2 章に進む. これは以前の論文の復習なのでとりあえずさらりと. 興味がある向きで自分できちんと上記平衡系の論文を読もう.

全然関係ないが, 非平衡状態での多体系のエネルギーは相加性を見たすのだろうか. 基底状態に関する相加性については, やはり Lieb が主導している物質の安定性の数理物理でのメイントピックだし, 恐ろしく非自明. 物質の安定性, 関西ぶつりがく徒のつどいとかで話したいがまず勉強が必要な人生だった. 数学の人に話すには量子力学と熱力学の上に物理に興味があるかという部分まで要求することになるので無理っぽい. 基底状態に関する限り, 物質の安定性は (量子) 統計力学というより量子多体系の話なので, 統計力学に頼るという話ではない. ただ, ミクロなモデルには頼るので今回の話とは別途切り分けるべき話ではある.

また, 相転移を考えなければいけないために起きる, 熱力学の数学的な処理の面倒さと, 面倒さそれ自身が持つ物理的な意味と重要性 (要は相転移) についても書いた方がいい気がしている.

3 章に進む.
P9. 
平衡状態と違い, エントロピーで全てが決まるわけではないので非平衡状態のエントロピーを考えても平衡状態ほどの意味はない. ただし, 平衡状態のエントロピーが持つよい性質を保ちながら, 非平衡状態に対してどのくらいよいエントロピーが定義できるかを考えるのには意味がある.
非平衡状態の空間は, 全ての非平衡状態を含む必要はないことを強調しておく. これは, 爆弾の爆発のような状況を考えるときにそもそも状態の関数としてエントロピーを考える意味があるか, といった物理的な設定を反映させている.
非平衡状態は時間依存, または環境と完全に切り離せないことにも注意する.
状態空間に reproducible という条件をつけるようだが, 後で出てくるのだろうか.
3.1 節に進む.
P10. 
拡大状態空間でも順序の物理的意味は平衡状態と同じとする.
これは物理的に妥当なのかよく分からない. 純粋に数学として議論を進める上では関係ないが, 最後きちんと物理にするためには決定的に重要なところ. とりあえず先に進む.

N1 で A6 (Stability) を仮定しているが, 非平衡でも成り立つと思っていいのだろうか. 他はとりあえず仮定しておいていいとは思うのだが. 平衡状態に近いところ (非平衡状態の空間をそのくらいに小さめに取る) なら仮定してもよさそうな気はするが, 遠平衡状態 (と私が仮に名付ける) ではどうなのか.

どうでもいいことだが, 数論幾何で遠 Abel 幾何というのがある. 名前しか知らないが Grothendieck が提唱したということだけ知っている.

ふと思ったのでメモしておくと, 公理的場の量子論や代数的場の量子論での「公理」はここで言う「仮定」の意味だ. 「ある仮定のもとで何がどこまで言えるのか」を確かめようという取り組みが公理的場の量子論と言える.

何故こんなことをするかというと, 少なくとも 1950 年代は特に場の理論の散乱がうまく扱えず, 何をどうしたらいいのか全く分かっていなかったという背景がある. しかも場当たり的な仮定をつけて, その場ではうまくいくが, 別の場合には全く使えないというひどい状況だった. まずは「この程度は成り立つと思っていいだろう」というラインを決めておいて, そこから導かれる結果を吟味し, どんな仮定ならば適切かを判断する材料にしようという試みなのだ.

なので, とりあえず仮定しておいて何が出るかを調べよう, という姿勢なら (数学的には) 条件をつけておいても構わない.
P10. 
N2:全ての (考察下の) 非平衡状態 \(X\) に対し, 2 つの平衡状態 \(X'\), \(X''\) があって, \(X' \prec X \prec X''\) が成り立つ.
N2 の意味の説明:訳は省略.
初見では適当に読み飛ばしてしまったが, これはかなり強い意味を持っていた. 物理としては自然な仮定かとは思う. 詳しくは P10 の N2 直下の文参照.
P10. 
非平衡状態の空間上で定義される関数で, 平衡状態の空間上, 平衡状態のエントロピーと一致する関数を探そう, というのが基本的な問題となる.
(14), (15) で定義される関数 \(S_{\pm}\) がこう色々と大事. 物理的な意味もある.
P11 の命題 1 に基本的な性質がまとまっている. あまりきちんと落っていないが, 証明もそれほど難しくなく追えるレベル.

P12 の定理 4 では非平衡エントロピーの一意性に関する同値条件がまとまっている.
3.2 節では温度 \(T_0\) の熱浴を仮定して最大仕事と, 最大仕事からのエントロピーの定義について考えている.

3.3 節に進む.
P15. 
定理 4 と非平衡状態空間上の比較原理, つまりエントロピーの一意性は, 全ての非平衡状態はある平衡状態と断熱的同値性と同値になる. 平衡状態に近いところであってもまず期待できない性質であることを見ていく.
P16, 4 章でまとめに入る.

あまり証明をまじめに追っていないが, 数学的には問題ないだろう. 問題は物理への適用だ. 設定した公理 (仮定) がどこまで物理的に真っ当かという議論もある. 統計力学の設定で「追試」するというのも面白そう.

2013年4月14日日曜日

純粋状態と熱力学第 2 法則に関する論文の続報:勉強のための参考文献情報つき


以前, 田崎さんと池田, 作道さんらの純粋状態と熱力学第 2 法則に関する論文に関する田崎さんの日記を紹介した. そのあと Twitter でも教えてもらったのだが, この日の日記 で田崎さんのが改訂されたことがアナウンスされた. というわけで早速読んでみた.

物理としては正直, いまだにさっぱり分かっていない. 数学としては非常に簡単なので, 多分学部 2 年 でも読めるだろう. ここで学部 2 年というのはこの 4 月時点での, という意味で書いている. 1 年生と書くとこの春からの新入生と思われてしまう可能性があるので, 2 年生とした.

数学としてはおそらくこれ以上ないほど簡単になってしまっているので特にいうことはなく, 物理としては全くピントが合っていないのでこちらも何も言えることはないが, 1 つタイポを見つけたので, それは田崎さんに報告した. タイポが見つけられる方の市民であった.

この辺, 興味があり折角なので, メールしたときに勉強用の参考文献を教えてもらった. 出しても問題ないと思うのでここでも紹介しておきたい. 田崎さんのThe approach to thermal equilibrium and "thermodynamic normality" — An observation based on the works by Goldstein, Lebowitz, Mastrodonato, Tumulka, and Zanghi in 2009, and by von Neumann in 1929 と Goldstein, Lebowitz, Tumulka, Zanghi らの On the Approach to Thermal Equilibrium of Macroscopic Quantum Systems, Canonical Typicality だ.

微妙に畑違いなので Goldstein は知らなかったのだが, 同じく微妙に畑違いといえども Lebowitz おじさんは知っている. 「おじさん」と書いたが, もう 70 とか行っていた気はする. とりあえず物理寄り数理物理の Ising 界隈では人類最強クラスの人間なので, この辺に興味がある人は名前くらいは覚えておこう.

ちなみに「物理寄り数理物理」と書いたのは, 数学の人が Ising というとき, 可積分系だとかその辺の数学的に格好いい話を想起するかと思うのだが, そういう格好いい綺麗な話ではなく, 死ぬ程泥臭い不等式証明とかそういう話, くらいの意味で使った.

2013年4月3日水曜日

純粋状態と熱力学第 2 法則に関する論文 2 本:田崎さんのと池田さん, 作道さん, 上田先生の共著の論文


田崎さんの日記 で表題に関する文献が紹介されていた. 非常に面白そうなのでシェアしておこう. 何より自分が読みたい. この 2 本だ. 田崎さんのは The second law of thermodynamics for pure quantum states で, 池田さんや作道さん達のが Emergent Second Law in Pure Quantum States. 池田さんや作道さんは一応知り合いなので聞けばいいという説もある.

まだ中身を全く見ていないが, 忘れないうちに読みたい. 田崎さんの日記からこれだけ引用して今回は終わる. 早く読みたい.

タイトルのとおりだが、「量子力学の純粋状態から出発し、量子力学の時間発展だけを用い、熱力学の第二法則を導く」という大胆不敵な論文である。 (普通のエネルギースケールでは)もっともミクロな量子力学を、中間の統計力学の形式をすっ飛ばして、 もっともマクロな熱力学と直結させようとしているといえば、大胆さが伝わるだろうか?

2013年4月1日月曜日

書評:田崎晴明 熱力学, 清水明 熱力学の基礎


Twitter で何度も紹介しているので, いい加減きちんと書評をまとめておこう. 佐々さんの本は読んだことがないので省略する. 一度話したことはあるが, 講義も受けたことはない. 非常に面白い講義だと聞いているので受けてみたかったとは思う.



それはそれとして書評である. いつも言っているが, 初学者にはまず田崎さんの本を勧める. 清水さんの本は組み上がった理論を整理されきった形で提供するという意味で極めて数学的だ. 物理的な議論は非常に丁寧なのだが, いきなりエントロピーを持ってくる構成からしてもかなりしんどい. 学部上級生から院生の知識の整理には非常によいのだが.

両方の本に共通している良い点は熱力学の位置付け, 重要さをはっきり言ってくれているところだ. その上でそれぞれのアプローチでそれぞれが最良と思う形で熱力学を論じている. 2 冊の間で違うアプローチなのが良い.

端的に言うと, 田崎本は手作りで熱力学を作り上げているという感じだ. 操作的 (力学的) にやっているので, 初学者の取っ付きもよい. 清水本は完成された体系としての熱力学を紹介するという形だ. 一番最初に最も重要な量としてエントロピーを導入し, その様々な姿を明らかにしていく. とても数学書に近いスタイルになっている. 数学書だと一番議論したい部分 (定理や定義) に向けて進んでいくが, 逆にエントロピーという一番重要な量をはじめに出す (ことができる) のが違うが, 瑣末なことだ. その意味で, 田崎さんの本よりもよほど数学的と言える.

田崎本

詳しい内容に入ろう. まず田崎さんの方から. この本と田崎さんは私が自分の専門を決める上でも決定的な影響を及ぼしている. 実際, 修論では田崎さんの集中講義で紹介された Hubbard モデルの強磁性の結果を使って書いた程度である. それはそれとして, この本のよい所は図をたくさん使いながら熱力学を操作的に議論しているところだ. おそらく一番とっつきがいい力学的なイメージを大事にしながら進んでいく. もう 1 つ大事な (しかし突っ込んで考えると難しい量である) 温度を取っているところも大事なポイント. ここで清水本は理論的な完全性をはじめから意識してエントロピーを取っているのだが, やはり温度を使った方が分かりやすい. 温度一定や温度変化がある場合というのがイメージしやすいからだ.

また付録含め, 数学的に議論がクリアなのもいい. (物理的にクリアなのは当然だ.) ときどき学部の低学年で「数学的にいい加減な議論が気にくわない」という学生がいるが, そういう下らない話ではなく, 熱力学では数学的にある程度精密な議論が必要になるからだ. 具体的にいうと相転移だ. 相転移はこの間 Nobel 賞も取った南部さんの業績 (つまり素粒子) でも出てくる話で, 物理学全体で非常に大事な現象といえる. この相転移は熱力学関数の特異性, もっと具体的にいえば不連続性や微分不可能性を使って定義される. 物理だと関数の連続性や微分可能性などはあまり真剣に議論されないが, まさにそこが問題になる. そこをきちんと議論しようと思うと必然的に数学的に精密な議論が要求される場面が出てくる. そうした部分が丁寧に議論されていて, 安心できる. 特に強磁性体の相転移については, 著者の専門どストレートでその経験が十分に反映された出来になっていて, 読んでいて非常に面白い.

清水本との違いとして, 多成分系の熱力学, 特に化学への応用が議論されていることもある. 清水本を読んだ人も, ここだけは別途田崎さんの本を読んでもよいと思う. 高校化学で学んだ内容が大学の物理学科の熱力学でどう料理されるか見てみるという楽しみ方もある.

清水本

田崎さんの本はこのくらいにして清水さんの本の紹介に入ろう. この本ははじめからエントロピーを前面に出して, 理論的な完全性を強く意識している. 田崎さんの本も Legendre 変換を使うことで温度を示量変数 (エントロピー) に変えれば同じく (相転移まで含めた) 完全な議論ができるが, Legendre 変換をかまさないといけないところは難といえば難. しかし清水本はその代償として難易度が高い. 跳ね上がっているといってもいいだろう. Twitter で物理志望の東大の学部 1 年などとも話したが, やはり難しいと言っている. 決して彼が愚かなどというわけではなく, 本当にこの本は難しいが, それだけの内容を扱っているので読破できれば物理の非常の深いところまで見えるようになっているだろう.

この本の特色として物理で理論を作るときの数学的理想化に関する議論がきちんとしているところがある. 例えば熱力学がどのオーダーで成立している理論か, 本来離散的であるはずの物質量で微分するというのはどういうことか, といった疑問にもきちんと答えている. その他にも物理としての熱力学を恐ろしいほど詳しく議論している. 示量変数で議論しないと物理的に不完全なところがあると再三言っているが, それが実際どこでどう問題になるか, ということは例えば相転移の章で詳しく議論されているので興味がある方はそこだけ優先しても見てもいい.

最後に, 終わりの 2 章は圧巻. 相転移については田崎本も十分に詳しくあの本のスタイルで十分に議論されているが, この本はこの本のスタイルで徹底的に議論している. 最終章は修士くらいの学生でないと本当に分からないだろう. 何しろ統計力学や場の量子論との関係を論じている. 場の理論でも相転移が大事ということはここでも議論されている. ちなみにここで出てくる代数的場の量子論はSummer School 数理物理 2013で河東先生が話す内容だ. 河東先生はあくまで数学の人だが, この物理部分に触れられている. ちなみに Summer School 数理物理 2013 の主催者の小嶋先生が脚注で触れられている「小嶋泉氏」だ.

まず田崎さんの本で肩ならし (というと何だか失礼だが) してから清水本にアタックするのがいい. あと, できるなら両方読んだ方がいい. この 2 冊を読めば熱力学については研究者レベルと言っていいだろう. そのくらいしっかりした本なので覚悟を決めて読んでほしい.

: 16px;">

2013年3月16日土曜日

統計力学は相転移を記述できるか:佐々さんの日記から


いつの間にか佐々さんが京都に移っていた, というくらいその辺の事情に疎い市民の私である. Twitter 上で回ってきて見かけて面白かった記述があったのでメモ代わりに記事を書いておく. 元記事は これ だ.
昼食後の長い話の中で、でた話題はちょっと書ききれないくらい。 僕が知らない話もあった。「「1937年の会議で、「統計力学が相転移を記述するかどうかを 公に議論した。 挙手で決めれば、半々くらいだった。 チェアーのくらーまーすは、熱力学極限の重要性をその時点で指摘していた」とそこに参加したうーれんべっくが言っていた。。」」とこーえんが言った。 他に、非平衡熱力学をめぐる話、流体方程式をめぐる話、非平衡統計の話。。 基本的には、「最近の研究に期待はするけれど、警鐘をならしたい」というので一貫していた。
1937 年の時点でまだ統計力学が相転移を記述できるかが話題になっていたとのこと. (古典) 統計力学自体は 19 世紀最後の 4 半世紀にはあったわけだが, 統計力学と相転移の議論がこんなに最近 (!) まで議論の対象になるほどだったことに単純に驚いた. 南部さんの素粒子での相転移の議論が 60 年代にあったことを考えると, 30 年の時の経過を思う.

つどいでも少し関連する話をするつもりだが, 統計力学 (特にスピン系) でははじめ有界系で諸量を定義して, そのあと熱力学的極限とも呼ばれる無限体積極限を取る. 「連続関数の極限が連続であるとは限らない」という数学的事情を使って, 相転移をつかまえにいく. また相転移の熱力学的な定義は熱力学関数の特異性 (不連続性や微分不可能性) であったことを注意しておこう.