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2014年6月8日日曜日

作用素環周辺の数学・物理・数理物理の話:表現論とか何とか

久々に物理に近いところの話をしたので.


\(p\) 進大好き bot と.



純粋状態って言うと, 「物理の純粋状態」と「物理の純粋状態 2 つの pairing で表される作用素環の純粋状態」のどっちのことか分からんな.
両者は違うものだよね?


@non_archimedean よくわかっていないのですが後者, 必ず作用素環的な純粋状態になるのでしょうか.
「物理の純粋状態」の定義も気になるところですが


@phasetr 物理の方は物理量を表現する作用素が作用しているヒルベルト空間の正規ケットベクトルのつもりでした.
それのコピーの (と書き忘れました) 2 つのブラケットで表される作用素環の純粋状態とどう対応するのか,
という話ですが, 冷静に考えて GNS 構成がありましたね.


@phasetr 暗に「物理のヒルベルト空間は可分である」ことを課して書きました.
非可分なときも純粋状態が正規ケットベクトルだと思っていいのかよく知りません.


@non_archimedean 適切な回答になっているかよくわからないのですが考えをブログにまとめておきました
http://phasetr.blogspot.jp/2014/05/p-bot.html


@phasetr どうもありがとうございます!
また言葉足らずだったのですが, 僕が作用素環論と比較したのは,
物理量が有界な領域でしか値を持たない状況のみを考えていたからでした.
つまりここで対応する作用素環は物理量が表現する有界作用素が生成する最小の C*環の意味でした.


@phasetr 量子論的には非有界な物理量のほうが自然だと思われますが,
非有界物理量を集めても作用素環にはならないため作用素環的な純粋状態が定義できるかよく分からなかったです.


@non_archimedean 代数的場の量子論の物理サイドの定式化からすると,
実際には有界な範囲でしか観測できないのでその現実を取り入れた理論, と言う言い方をします.
数学的実対応としては \(e^{itA}\) とかレゾルベントを考えることで非有界 (自己共役) 作用素を有界にします


@non_archimedean レゾルベントの方は数年前に Bucholz が少しやり始めましたがやっている人はほぼいません.
指数に載せる方を Weyl 代数といって, いわば代数解析にもある Weyl 代数の無限変数版です.
表現論的に微妙な問題があって同じとは言いづらいですが


@non_archimedean あまり多くはないですが,
定義域などを適当に制御した非有界作用素がなす環それ自体を研究している人もいます
http://kaken.nii.ac.jp/d/r/00161795.ja.html


@phasetr 定義域を制限する定式化もあるのですね!
レゾルベントで非有界作用素を見るのは古典的なボレル関数解析がそうなので結構歴史が深そうですね.
Weyl 代数というのは初めて聞きました.


@non_archimedean 定義域の制限は, 量子力学で言うなら \(C_c^{\infty}\) が大体の作用素の共通の定義域に取れることをイメージしつつ,
場の理論でもある程度そういう風にできる話はあるからそれを使ってやってみようという感じです


@phasetr 「大体の」というところがどことなく深いですね.
物理量はおおよそ可微分緩増加関数や微分作用素の組み合わせになるといった感じの経験則がありそうですね.
(フラクタルのように各点微分不可能な関数に対応するような物理量があっても面白そうですが)


@non_archimedean クーロンポテンシャル \(1/r\) とかレナード=ジョーンズ・ポテンシャル \(r^{-12}-r^{-6}\),
2 体系のクーロン相互作用 \(1/|r_1 - r_2|\) などがあるので微分可能性が必ずしも期待できず適当な特異性を持つことはよくあります


@phasetr あ, それくらいの特異性についてはあまり気にしていませんでした.
実は最近, スピン構造付きリーマン多様体 (≒重力場 + スピン場) を量子化して \(Z_p\) が得られる的な論文を読んでいて,
そこでは可微分関数に類するものがないので物理量が激しくガタガタ動く感じだったので.


@non_archimedean 私の分野だと非有界作用素のさらに無限和 (粒子が無限個あるのでクーロンだとしてもその無限和が出てくる)
とかそういう部分の制御で手一杯で, そこまで突っ込んだことができていません.
あまり面白い方向の話に乗れず申し訳ないのですが


@phasetr さらに無限和ですか・・かなりハードな解析ですね.
それでもとても参考になりました.
ありがとうございます.


あなちゃんと.



そういえば Entanglement Entropy って C^*環の言葉で定義されてるの


@anairetta 調べといて教えてね


@ad_s_c 数学的にも面白そうな気がしますよね. とうことでよろしくお願いします.


@anairetta @ad_s_c http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1859-05.pdf
量子スピン系くらいなら一応あるにはあるらしいですが,
物理で期待されるレベルの理論が展開できているかはかなり怪しいのではないでしょうか.
いつもの話ですが


あなちゃんその 2.



え, 難しいんですか. . .


@anairetta かなり雑ですが少し書いておきました
http://phasetr.blogspot.jp/2014/05/p-bot.html
難しいと言うより物理の定義をきちんとうまく吸い上げられる純粋状態の数学的な定義がよくわからないと言う感じなのではないかと


@anairetta 最近, 田崎さんも論文を書いていたりしますが,
量子統計で純粋な平衡状態とかあるのでそういうのもきちんと勉強しないとアレっぽいと思いつつ全く出来ていないのでうまく説明出来ないのですが


@phasetr 量子統計の方では, 考える環を「マクロ物理量のなす環」に制限すると熱平衡状態が純粋状態として表せる,
という話があると聞き及んでいますが, その時の純粋状態というのはヒルベルト空間の元に対応するもののことをいっているはずで, (つづく)


@phasetr このときは 環が小さすぎるせいで熱平衡状態と区別できない純粋状態を構成できてしまう, ということですね.


@phasetr 数学的にどうなっているのかよくわかりませんが,
たぶん環 \(A\) の \(B (H)\) への表現をとってきたときに,
等価なものの間で \(A\) の純粋状態が \(H\) のベクトル一つでかけたりかけなかったりする, ということだと思います.
たしかに一般の \(A\) にここらへん状況を調べるのは難しいでしょう.


@phasetr 僕が気にしていたのはたぶん環が \(B (H)\) そのものである場合なんだと思います.
その場合には by def な気がするのであのような発言をしてしまいました.


@anairetta ありがとうございます.
量子力学の場合だと環が \(B (H)\) 全体と思ってやってもある程度どうにかなる部分はあるらしいのですが,
場の理論だとそれがまずいとか言う話で, いまだに (私が) あまりきちんとわかっていないと言う状態です


@anairetta 私はあまり一般の環には興味なくて,
具体例に対する環というか表現と言うかもっと強く作用素論に興味があるのですが,
まず最低限必要な基底状態・平衡状態きちんとありますかレベルの研究なので,
そんな詳しい所まで研究進んでいないと言うイメージです


@phasetr 場の量子論だと赤外紫外の正則化がいるので, 簡単にいかないことは想像がつきます.
エンタングルメントエントロピーのほう, 資料ありがとうございます.
こちらは場の量子論の場合は物理レベルでも満足の行く定義がない状態なので数学としてはどうしようもないだろうと.


いろいろ思うところはあるが結局これなのだ.



数論方面と言うか他の分野の数学, 格好いい話がいろいろ出てくるようで羨ましい.
それでも一番知りたい, やりたいのはあくまでも今やっている死ぬほど地味なことだが.
一度気になってしまったらもう駄目なのだ.
そういうものらしいのだ

2014年3月30日日曜日

数理物理の魅力と相転移の魅力: 数学と物理と数理物理と

Ask.fm から.
まずは質問.



二つの質問になってしまいますが,
主観的なもので結構ですので,
数理物理の (特に物理や数学それ自身と比較しての) 魅力および相転移現象の魅力がどこにあると感じてらっしゃるのか教えていただけませんか.


今考えるとあまりきちんと回答していない気もするが
とりあえず回答.


数学と物理, 両方好きで両方やりたいという単純な所です.


もちろんどちらか一方でも死ぬほどきついので,
本当に「研究」しようというなら,
どちらも半端な出来損ないになる可能性を視野に入れつつ
それでも踏み込む決意と覚悟が必要ですが.
もうあまり詳しく覚えていませんが,
相転移は大体田崎さんの影響です.


数学的には「特異性の数理」が非常に好きです.
色々あって学部一年の頃から数学的には超関数だとか
ある意味でかなり特異性の強い数学とずっと戦っていて,
結局今でも「場の理論の超関数論」と銘打って研究しているので
三つ子の魂百まで感あります.


話がずれましたが, 興味だけなら代数幾何の特異点論とか,
ブラックホールだとか, 特異性が絡む話は大体何でも興味があります.
極限で特異性が出てくる現象がとても好きで,
熱力学的極限とそこからの相転移がとても気にいっています.
相転移をやるなら人類が最大精度で扱えるのが
磁性関係だから磁石を扱う方向に行ったと言う非常に単純な動機です.


もちろん水が凍るとかもやりたいですが, アレは即死レベルだし,
シュレディンガーで磁性も即死コンボです.


磁性だととりあえずイジングですが, イジングは
(相対論的) 場の量子論の繰り込み処理との関係もあり,
数学的に量子統計と場の理論の相性がいいこともあって,
手始めにやりやすいところから, と思って
場の理論方面の勉強をしていて, 相転移自体とは
大分離れた赤外発散を修士では主に勉強していたのですが,
修論の為のネタ探しで考えたら一応磁性もできるわ,
と言う感じで磁性 + 赤外発散みたいな
特異性に特異性が重なって死ぬほど面倒臭い代わりに
趣味ばっちりな所を見つけたのでそこで今も
色々やっています.


物理的には素直な拡張でも数学的には全く
別の話を絡ませたりしなくていけなかったり,
逆に数学的には共通部分が多いのに物理としては
ちょっと遠目の所にアプローチできたりするのが
今の分野の面白いところですが,
一旦話が難しくなりすぎて死んだ分野なので,
一般にはお勧めしていません.


ただその分やっている人も少ないので,
すぐに世界のトップ 10 くらいに入れますし,
実際に多少しぼるだけでいわゆる
オンリーワンでナンバーワンにもなれます.


大学のアカポスゲット的な意味でこのご時世に
いい結果がすぐに出る保証は全くできないので,
決しておすすめはしませんが.

2014年3月28日金曜日

量子力学の数学に関する文献など: あとセミナーもしよう

また Ask.fm.
質問はこれ.



量子力学の数学的な基礎を勉強したいのですが,
どのような分野を勉強すれば良いのか教えてください.
ご面倒でなければ参考になる本についても教えていただきたいです.


色々なところで言っていたりするのだから
それ見てよ, という気もするが, 一応回答.



量子力学の数学的基礎も超大雑把に言って,
作用素論系と偏微分方程式系に別れるような感じがあります.


私がやっているのは作用素論・作用素環系ですが,
それについては例えばニコ動に置いてある http://phasetr.com/services/niconico/
量子力学・量子統計周りの話を眺めてみて下さい.


参考文献ですが, 作用素論系では
http://phasetr.com/services/references/ にある
新井朝雄先生の本がベストです.


微分方程式関係だと Lieb がリーダーです.
Lieb-Loss の Analysis が基本的な文献と言っていいでしょう.
量子力学というより量子多体系, 量子統計の色彩が強いですが,
The Stability of Matter in Quantum Mechanics もお勧めです.
ちなみに両方とも新井先生の本ほど簡単ではありません.
とくに Analysis は関数解析くらい知っている, と思って
読んでいると痛い目を見ます.


色々な不等式の最良定数評価がかなり早い段階から出てきて,
前から順番にきちんと読もうと思うと 3 章が
最良定数含め, とてもきついです.
面白い本ではあります.


あと, 作用素論との関係が強い (作用素論的性質の解析に使う) という
イメージがあるのですが, 確率論からのアプローチもあります.
これも新井先生の本をまず読むのがいいです.
その次は Simon の本あたりでしょうか.


場の理論に行くなら Betz-Lorinczi-Hiroshima を読まねばなりませんが,
これはかなりきついです.
確率弱者の私は読めません.


関東近郊の方なら適当にゼミやるのに誘って頂ければ,
話す方含め相談のります.


Twitter でもいいですが, メール phasetr@gmail.com にでも
適当にご連絡・ご相談頂ければ.


メルマガの方で時々触れることを考えているので,
ご興味ある向きは ここから 登録されたい.

2014年1月25日土曜日

ぞみさんのツイートから: 量子力学と作用素論, 特にスペクトル理論と自己共役性

ぞみさんのツイートを見たので.
ラプラシアン作用は座標に依存しないはずなのに, シュレーディンガー方程式を解くと 2p 軌道で軸が出てくる. これは求解過程で (特に変数分離?) 適当な回転変換を施しているということかな.
@zomi1202 どんなポテンシャルを仮定しているかによりますが, ハミルトニアンの対称性が解にも反映されます. http://www.amazon.co.jp/gp/product/4535784663/ref=as\_li\_qf\_sp\_asin\_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4535784663&linkCode=as2&tag=phasetr-22 が参考になるでしょう. 2/14 のセミナー自体ではあまり触れる余裕はなさそうですが, 何かあれば直接でも聞いて下さい
@phasetr 突然解に対称性が消えて驚いてしまったので, どこで置き忘れてしまったのか探してみます. ありがとうございます.
紹介した本はこれ.
追加の疑問があった. Twitter だと細切れになるので, ブログにまとめておこう.
ハミルトニアンって固有方程式解いてみたら固有空間同士が直交してる (よね?) けど, 何かユニタリーとかエルミートとか内積と相性の良い性質でもあるの?
@zomi1202 演算子は全部エルミート (じゃないと観測値で実数以外がでる)
@dream_taro それって固有値が実数だからということ? 関数空間の内積の定義である, 積分から直接示せるのかな?
@zomi1202 量子力学の公理で固有値が観測される, っていうのがあるので固有値実数じゃないとまずいよねということ.
どこを話の基点にするかという話がまずある. やりはじめると大変なことになるので, 適当に単純化したうえでうるさいことも書いていく.
ハミルトニアンって固有方程式解いてみたら固有空間同士が直交してる (よね?) けど, 何かユニタリーとかエルミートとか内積と相性の良い性質でもあるの?
今度の 2/14 Lieb-Loss の Analysis セミナーでも少し話すが, うるさいことをいうと固有値があるとは限らない. 例えば全空間 \(\mathbb{R}^n\) で考えたときの Laplacian は固有値がない. 固有値が複数あるときにそれぞれの固有関数自体は直交している. (固有空間が直交とはあまり言わない. ) Hamiltonian の Hermite 性についても面倒な話がある.
@zomi1202 演算子は全部エルミート (じゃないと観測値で実数以外がでる)
@dream_taro それって固有値が実数だからということ? 関数空間の内積の定義である, 積分から直接示せるのかな?
@zomi1202 量子力学の公理で固有値が観測される, っていうのがあるので固有値実数じゃないとまずいよねということ.
数学的には線型作用素には Hermite 性, 対称性, 自己共役性という分類がある. 線型代数だと対称作用素は「実係数のときの Hermite に対応する性質」という感じの定義だが, ここではそういう使い方はしていないことに注意してほしい. ちなみに関数解析 (作用素論) でも文献によって微妙に定義が変わる場合がある. 私の使い方は新井先生の本の定義を使っている.
その上で, 対称作用素ではなく自己共役作用素である必要がある. 固有値という言い方も不正確で, 実際には「スペクトル」という概念の中で話す. 固有値は固有値で当然大事なのだが, 「固有値に対応する固有関数で表わされる状態は安定」という物理的な解釈がある. 不安定な状態はともかく, その Hamiltonian に従う散乱状態をどう見るかというところで, 固有値以外のスペクトルに属する (言い方不正確) 状態を考える必要があり, その部分まで考えたいので固有値を一般化したスペクトルという概念を準備する必要があるのだ. この辺, 量子力学まで突っ込んだ話は無理にせよ, 3 月の Lebesgue ・関数解析・作用素論セミナー (予定) で少しは触れたい. 次の本を参考にしてほしい.
あと, (閉) 対称作用素と自己共役作用素はスペクトルに決定的な違いがある. 閉対称作用素のスペクトルは次の 4 つのどれかになる. (証明は新井先生の『量子現象の数理』を見よう. )
  1. 上半平面全体.
  2. 下半平面全体.
  3. \(\mathbb{C}\) 全体.
  4. 実数の閉部分集合 (自己共役).
最後のはともかく, 上の 3 つが凄まじい.
@dream_taro それって固有値が実数だからということ? 関数空間の内積の定義である, 積分から直接示せるのかな?
これが数学的には微妙で, 積分から示せる範囲の話ではいいところ対称性までしか言えない. 自己共役まで示したいとき, 論文レベルの対応が必要になると思ってほしい. 既に分かっている作用素, 有名な作用素については上記の本にも証明がある. 結構大変だ.
この辺もきちんとやるととても面倒.
\(\int \phi \phi^* dV\) が収束することから無限遠方で \(\phi\) は 0 で, これと部分積分を使えばハミルトニアンがエルミートなのは示せそうだな.
積分が収束しても無限遠で \(\phi \to 0\) は言えない. \(x = n\) のところで幅 \(1 / n^4\) で高さ \(n\) を考えると, これは 2 乗可積分だが \(x = n\) のところではどんどん高さが高くなる. 私が学生時代, 先輩に指摘された例だ. 頑張って反例を作ろう.
Hamiltonian が「Hermite」であることをいうのは大体できる. 物理の本ではふつうそういう議論をしている. 数学的には死ぬ程面倒だが.
需要があるなら今度セミナーしよう.

セミナー告知: Lieb-Loss Analysis を元に 2/14 15:00 から東工大で 3-4 時間程度

先日もアナウンスした Lieb-Loss Analysis のセミナーの日程が決まった. 2/14 15:00 から, 東工大で 3-4 時間程度話す予定. 話す予定の内容はここにおいておき, 順次更新していく.

数学科学部 4 年の学生がメインターゲット (はじめにやろうといった相手) なので, 本当にきっちり知りたいなら学部 4 年程度の数学の知識は必要になる. ただ, 参加者として学部 1-2 年が実際にいるので, その辺にも雰囲気が掴めるようにはする. 微分積分や線型代数の展開, 具体的には Lebesgue や関数解析の使い方を見せて, 今後の勉強のモチベーションアップに使ってもらいたいと思っている.

ご興味のある向きは是非参加されたい. こちらのコメントでもいいし, Twitter でリプライを飛ばしてくれてもいい. ブログにはメールアドレスも載せてあるので, そちらに投げて頂いても構わない.

2014年1月16日木曜日

Lieb-Loss Analysis の 11 章を読むセミナーを東京近郊の大学で 2 月頃にやるので興味がある向きは問い合わされたい

yuki_migo さんとセミナーをしようという話があるので, とりあえず告知的なことをしていきたい. 下記の本, Lieb-Loss の Analysis, 11 章の始めから 11.14 くらいまでをやる予定. 2 月のどこかで東京近郊のどこかの大学でやる予定なので, 興味がある向きは問い合わされたい.



Schrodinger 周辺の話だが, 量子力学の知識は特に仮定しない. 物理に関して必要なところは補足する.

解析系の数学科学部 4 年くらいなら十分理解できる内容で, 本来の想定としてはそこに向けて話す. ただ, 本質的に使うのは微積分の計算であってあと大事なスパイスとして関数解析の基本定理を酷使する. 参加者の学年次第だが, 学部 1-2 年の学生が Lebesgue 積分や関数解析の応用面を知り, そこへの学習のモチベーションになるようにもしたいと思っている. ちなみに Lebesgue と関数解析と作用素論のセミナーを 3 月にやる予定なので, その前哨戦と言ってもいい. こちらについても参加されたい方は問い合わされたい.

基本的には本に沿って話をするが, 私の専門が作用素論方面ということもあり, 量子力学に関する作用素論展開と実解析的展開の物理的な見方的なところも多少話す. イントロでは, 確率論との関係や, 量子力学の他の話題, 幾何との関係なども多少話して, 分野的にこの辺の宣伝もする予定だ. 本には書かれていない点でいくつか面白いところは適宜補足していくので, 量子力学周辺の数学に興味がある向きは是非参加してほしい.

2014年1月12日日曜日

Navier-Stokes 解決? 続報を期待

ミレニアム問題にもなっている Navier-Stokes 方程式問題の解決がアナウンスされたようだ.
カザフスタンの学者 数学における七大難問の一つを解明 http://japanese.ruvr.ru/2014\_01\_11/127091047/
この辺の有名問題の常として, 本当に解決されたかは今のところ不明だ. とりあえずこれについては解決それ自体よりも, これが解決されると何が嬉しいのかとかそういうことが知りたい. これの証明に使われた技術が凄い役に立つとかそういうロマンのある話が聞きたい.
FN365 さんが東北大の小園英雄先生による 2010 年時点での解説 PDF を紹介していた.
Navier-Stokes 方程式に関するクレイ研究所のミレニアム問題の解説 2010 年 (東北大学小薗先生) http://www.fluid.sci.waseda.ac.jp/crest/KozonoSeminar.pdf
URL が早稲田になっているが, 早稲田は流体力学の数理のスタッフが充実していて世界的な拠点を形成していると聞いている. 上記 PDF からいくつか引用しておこう. 興味がある向きは詳細を直接 PDF を参照されたい.
ミレニアム問題. 任意に与えられた初期値 \(a\) に対して, (N-S) は時間大域的な一意正則な解 \(\{u, p\}\) を有するか?
P2 最後に記述があるが, 弱解は Leray が示していたらしい.
弱解の一意性と正則性が成り立つことを保証するものとして次の定理がある. (中略) 関数空間 (2.3) はセリンのクラスと呼ばれている([22]). 残念ながら, (2.3) は弱解のクラス (2.2) よりは狭い.
弱解も一応一意性と正則性が示せているらしい. 弱解からのアプローチ, 問題は弱解が (2.3) に本当に入るかどうか, というところになっているのか.
(N-S) に限らず, 一般に非線形偏微分方程式が与えられたとき, その方程式に固有のスケール不変な関数空間で解を考察することの重要性が経験的に知られている. これを藤田・加藤の原理という.
このような \(X\) として,藤田–加藤 [8] は \(X = \dot{H}^{1/2}\) ととり, \(a \in \dot{H}^{1/2}\) であれば (N-S) に時間局所的な強解が一意的に存在することを示した. (中略) 藤田, 加藤両博士のナヴィエーストークス方程式に関する造詣の深さを物語っている. 実際, この論文 [8] が 20 世紀後半から今日に至るまでに非線形偏微分方程式の研究に与えた影響は計り知れない. ここではまず, その後に改良された以下の定理を紹介しておこう.
藤田・加藤, 凄まじい. 加藤先生は我らが加藤敏夫先生だろう. 物理出身の人らしい発想とも言える.
従って, 工学などの現場の要求に応えるためには, 境界のある領域の内部または外部でナヴィエーストークス方程式を考察することを余儀なくされる. たとえば, 多重連結領域における非斉次境界値条件下の定常ナヴィエーストークス方程式の可解性は未解決問題である. 領域の位相幾何的な条件と方程式の可解性の問題は, 非線形偏微分方程式の主要な研究テーマであるが, この方面においても課題が山積していると思われる. このことについては, 次回に述べることができれば幸いである.
領域の位相幾何的特徴とその上の方程式や作用素の特性というのは確かに面白く, 私も興味がある. 私が近いところに関していうなら, Aharonov-Bohm 関係の話がある.

2014年1月10日金曜日

Thomas-Fermi 汎関数周りの量子力学と関数解析・変分原理的なセミナーをしよう

ゆきみさんとやりとりしたので記録.
「量子現象の数理」ぱらぱらながめてたらめちゃくちゃ高まったので勉強追いついたら買おうと思った
@yuki_migo セミナーしましょう
@phasetr 作用素論で死にそうになってるので量子現象まではまだちょっとかかりそうです. 二章は加藤 Rellich あたりまでちょっと眺めたんですが
@yuki_migo 作用素論は何をやっているのでしょうか. 量子力学系の作用素論, あまり数学的に標準的な作用素論ではないと思うので. (標準的な方は hypo normal な作用素とか行列不等式とかそういうのやっているイメージ)
@phasetr 最近変分法まわりしか勉強してないのでアレですが詳し目の関数解析の本に書いてあるような基本的なことですよ. 半群とかあんまりやってなかったので.
@yuki_migo 何するかによりますが, 新井先生の本関係の量子力学なら, ユニタリ群の話がメインです. 半群のかちっとした話はあまり使いません. 基底状態の解析関係で熱半群は少し使いますが, 一般論かちっとと言う感じではないので
@phasetr 数学的に興味が向いてるのが PDE 方面なので新井先生とはちょっとちがうかもしれないことは最近気づきはじめています
@yuki_migo PDE ならもっとシュレディンガーかっちりやった方がいいのではないか感. 散乱理論だともう少し作用素論っぽいこともあるとは思います. 実解析的な方向なら Lieb っぽい方向でしょう
@phasetr なるほど. Schrodinger かっちりやってる本ってどんなのでしょう. Lieb の Analysis だと触り程度な感じがしますが
@yuki_migo 数学でのシュレディンガーは時間依存の方程式を扱うので, Lieb の方向と全然違う印象があります. 数学方面のシュレディンガーは全然知りません. その方向だと東大の中村先生とか早稲田の小澤先生とかいるので, 本当に興味があるなら相談してみてはどうでしょう
@yuki_migo あと非線型シュレディンガーと線型シュレディンガーとで大分変わると思います. Ginzburg-Landau とか GP とか, 関係する方程式も色々ありますし, ランダム磁場付きシュレディンガーとか何とか色々
@yuki_migo 読んでないからよく分からないのですが, 中村先生の http://www.amazon.co.jp/dp/4320015789 とか? あとはその参考文献から調べてみるとか
@phasetr ふむふむ. とりあえずつぎ大学行ったとき図書館あさりますかね. ありがとうございます
@yuki_migo 思い出したのですが, シュレディンガーと言うか実際に研究がある量子力学関係の PDE として, BCS だとか Ginzburg-Landau, Gross-Pitaevski などあるので, その辺参照すればいいのでは説もあります
@yuki_migo GL は北大の神保先生などがやっています http://www.math.sci.hokudai.ac.jp/sympo/090113/program.html あと GP は http://arxiv.org/abs/cond-mat/0610117 にも記述があります
@yuki_migo PDE 的なことしたいなら, 何と言うか, 実解析的なことをやった方が多分良くて, 新井先生方面の作用素論をやっていてもあまり役に立たないのでは感. 雰囲気知りたいと言う話なら, 何かセミナー的なアレやってもよいです
@phasetr 実解析的なのっていまいちどういうことかわかってないのでセミナーしてもらいたいです
@yuki_migo それっぽい方向で知っていて簡単な文献もっているのは Lieb-Loss Analysis での TF functional まわりとか物質の安定性位なのですがその周囲でいいですか. 能力的に出来るの恐らく TF がギリで, あまり PDE っぽい話ではなくて申し訳ないのですが
@phasetr 実際そのあたり読んでておもしろいのでおねがいしたいにゃんです
@yuki_migo ならばひとまず TF で. この辺, 微分幾何とかでも出てくるようなアレで, 要は変分的にエネルギー汎関数の値が基底エネルギーだとか物理的に大事なアレになっていて, その停留点 (とそこでの値) を調べるのに (非線型の) 微分方程式を解く必要が, とかそんなやつです
@phasetr 微分幾何の知識がないほうのゆきみんでした. このごろ Lieb-Loss の Ch11 読んでてそのあたり変分変分してておもしろいですね. せいぜい教養レベルの量子の知識しかないので物理的なことがよくわかってないんですが. 場所どうしましょ
@yuki_migo 誰かを適当に巻き込んで適当な大学でやりましょう. 微分幾何関係は解析力学と変分と言ってもいいです. 幾何学的変分問題の 1 章見るといいです. 物理知らなくてもとりあえず数学できると思いますが, ある程度保補足する予定の市民
Thomas-Fermi, 一応やろうとは思っていたのをずっとサボっていたのでこの機会に勉強しよう. いつどこでセミナーするかとか全く決めていないが興味ある向きはご連絡頂きたい.

2013年11月8日金曜日

摂動論の数理物理: 小まとめ

以前からたびたび話題にしている原・田崎の『相転移と臨界現象の数理』 だが, 「摂動」という言葉の使い方に関してコメントした内容について田崎さんからコメントが返ってきた. その時に返信した内容について折角だから共有しておこう. 具体的には「摂動という言葉は数学と物理で微妙に使い方が違うことがある」という話だ.

私の業界 (数学的には作用素論) だと「必ずしも小さくない摂動」が出てくる. 新井先生の『量子現象の数理』 2.4 節が正に「必ずしも小さくない摂動」と言うタイトルで, こうした所を指して言っている.



詳しくは本を見てほしいが, 例えば多項式はラプラシアンに対して相対的に有界ではない. そしてこのとき, パラメータが小さくなくとも扱える範囲がある. 作用素 \(T\) に対して摂動した演算子が \(T_{\lambda}\) だとして, 「 \(T\) がよく分かっている場合に \(T_{\lambda}\) を \(T\) との関連を見ながら考える」 位の意味で使うことがある.
これは著しく狭い業界での語法だろうという自覚はあるが, 上でも書いたように, 初等的な量子力学の話題, 特に調和振動子が「小さくない摂動」の範囲に入るため, 念の為指摘しておいた.

ちなみに摂動に関する諸々は私の研究テーマでもある. 色々あるのだが, いくつか簡単に挙げておこう.

スペクトル解析

物理では作用素 (演算子) のスペクトル (固有値) と観測量が対応しているので, スペクトルを調べることは基本的な意味を持つ. このスペクトルが摂動でかなり非自明で不可解な振舞いをするのが非常に気持ち悪い. よく「摂動級数が収束するか」とかどうでもいいことを気にする人がいるが, そんな程度の話ではない.

学部 3 年の量子力学の演習で 4 次の非調和項を入れた非調和振動子に関する摂動の問題が出たのだが, そのとき演習を担当していた助手さんが「この例は固有値が厳密に分かるるからそれと比較してみよう. 一次までの摂動を計算してみるとこの厳密解とぴったりあう. 厳密に求めるのは大変だが摂動で簡単に値が出るのが嬉しい」とか言っていて衝撃を受けたことを覚えている. 1 次の摂動で合ってしまうということはそれ以降の計算ではただただずれていくということだ. (摂動が収束するとすれば) 高次項は minor correction のはずであって, つまり元の厳密な値へは絶対に復帰しない. 厳密解が分かっているから 1 次で止めればいいと分かっているが, 一般にはそれができないから摂動計算するのであって, 何をどうしたいのだ, と.

他にもある. 摂動前後で固有値はともかく, その固有関数まで適当な意味で近いと思ってやっているのだが, これが (物理として) 真っ当か, という問題だ. 例えば, Laplacian からみて調和振動子と水素原子の系は (結合定数が小さければ) それぞれ近いと思っているが, そうかといって Laplacian の基底状態 (\(L^2\) にはないが) と, 調和振動子および水素原子の解 (固有関数) が近いと思えるだろうか. 水素原子は Coulomb ポテンシャルの原点での特異性を反映して解にも特異性が出る. これは電荷の存在を表す物理的に大事な特異性だから意味があるが, 調和振動子や自由粒子にはもちろんない. これは近いと言っていいものか.

平衡状態と基底状態

物理でどう思っているのかはよく分からないが, 平衡状態と基底状態で摂動論の趣が大分違うことは, 少なくとも作用素環を使う数理物理業界ではよく知られている. 物理的な気分が大体そのまま反映されていると思っていい. 要はこういう感じ.
  1. 平衡状態にゴミを少し入れたくらいでそんなに大きく性質は変わらないだろう.
  2. 基底状態にゴミを少し入れると準粒子の雲がまとわりついて赤外発散を起こして, こう色々な面倒が起きる.
この辺をきちんと追求しようというのは私の研究テーマの 1 つでもある.

半導体の場合少しでもゴミが入ると問題だという話もあるが, これは, ナノデバイスにしたときに大きく見れば少しのゴミでもナノデバイスレベルでは巨大なゴミになりうる, という話でもあって少し話が面倒だという理解をしている. ただ少し他の物質をドープする (少しのゴミと思える?) ことはあって, そこをどう読むかというのはある. 半導体は学部 3 年でデバイスまわりでの基礎を少しやったきりほとんど勉強していないのでこれ以上踏み込んだことは言えないが.

「摂動」もそんなに単純な話ではないということで.

2013年11月1日金曜日

超準解析のプロである魔法少女に超準解析で超関数がどうなるかについて聞いてみた

超準解析のプロである魔法少女とのやりとりを記録していきたい.
大学入ってから運動量は酷使するものの力積使ったことないのだがアレはいったい何だったのだろう
@phasetr デルタ関数の近似ということにしておこう
@functional_yy ふと思ったのですが超準解析でδ関数はどういう扱いになるのでしょうか. 超準解析的には普通の関数と思えるのか的なアレです
@phasetr この辺り詳しくはないのでよく知りませんが, 例えば幅無限小高さ無限大で掛け合わすと 1 のパルスを考えれば望みの性質は得らます. http://planetmath.org/constructionofdiracdeltafunction
場の量子論で赤外発散という現象があるが, その数学的解決には「場の量子論版の超関数」が必要だと思っている. 作用素環上の状態の空間でとりあえず定義はできるのだが, それを確率論 (経路積分) でいうとどうなるか, 最近は特に表現論的にもう少し突っ込むとどうなるかというあたりをスピン-ボソンモデルで計算している. 代数解析的なアプローチではどうなるかというのは考えていたが, 超準解析的にどう見えるか考えてもいいかもしれない

2013年10月2日水曜日

Summer School 数理物理 2013 量子場の数理に参加してきたがスーパー楽しかった

Summer School 数理物理 に参加してきた. とりあえずスーパー楽しかった. 河東先生のは微妙なところだが, 大体全ての講演の内容にピントが合いまくっているので, 大分景色が広がった. 入門的な話を議論するということで面倒なところに触れていないからということもあるが, 人の話が これだけクリアに分かった経験もなく, 楽しかった. 順に感想を書いていこう.

新井先生: 相対論的量子電気力学

新井先生の話は 2 日使って相対論的 QED の 発見法的な (数学的に厳密でない) 議論をした上で, 最終日にきちんと定義できる部分の話をした. Hamiltonian を定義してその詳しい性質を調べたいわけだが, 今のところ運動量・空間の切断をつけないとうまくいかないということで難しいが, それでも議論は進んできている, という夢のある話が展開された. 切断つきとはいえ, 思った以上に議論が進んでいたのでびっくりした. 最近の新井研は相対論の人が多いらしく, 会場内でも学生さん達がその辺の議論をしていて楽しそうだった.

最終日のお昼, たまたま新井先生と新井研の学生さん達と食事しながらお話したのだが, 散乱理論さえ構成できれば基底状態の存在などはとりあえず言えなくてもいい, とか「それはそうだ」という話を色々した. とにかく本当に物理的な, カットオフなしの理論は何も言えていないから, やるべきこと・知りたいことは色々ある. QCD やその格子正則化の議論もしたいが難しい, という話とか色々. 論文タイトルだけは QCD を示唆しているが, 実際にはヒッグスが起きたあとの massive theory であって, ある意味こけおどしのような論文もあるからそんなに難しいと思わずとりあえず目を通して比較してみたら, とかいうコメントもあったりして実に楽しそう. 活発に研究されているようで見ているだけでも楽しい.

あと, 学生の頃からずっと新井先生にはメール上で本の誤植を送ったり論文をお送りしたりと交流があったのだが, 今回ようやく始めてお話する機会を得た. きちんと覚えて頂けていたようで, 何よりであった. 非同値表現など CAR・CCR の表現論周りで, 簡単過ぎるかもしれないがやらなければいけないことなどを考えていて, それについても少しお話したところ, Derezinski がきちんとやらないといけないと言い始めているようで, 実際に大事だろうから是非やるといい, 的な話もした. 考えていることが無意味ということはないようなので, 少し安心した. その方面も基礎的なところをきちんと固めていきたい. 「やろうと思っているがなかなか時間が取れないところをやってくれているので嬉しい」的なことも言われたので, 地味な研究だが粛々と議論を進めていきたい. 今回有限温度の話は全くなかったが, その辺も絡めてやっていく必要がある.

河東先生: 代数的場の量子論における各種共形場理論

作用素環専攻で比較的近い分野であったにも関わらず, 河東先生の話は一度も聞いたことがなかったが今回はじめて聞いた. 物理的に何かあるのかは全く分からないが, 単純に数学として非常に面白い内容だった. パン耳パイセンとか Twitter 上の作用素環の人, この辺やって私にレクチャーしてほしい. 冨田-竹崎理論とか多変数関数論とか, その辺のサポートならとりあえずある程度はできるのだが.

「この辺やっているのは私と Longo と Longo の学生くらいしかいないので人が増えてほしいのですが」的な話をしていた. 本当に面白いのでここも人が増えてほしいのだが, 冨田-竹崎理論やら多変数関数論が必要やらで参入障壁が高く感じられてしまうようで, 全然人が増えません, とのこと. その辺の詳細をうまいこと回避していたためとはいえ, かなり良く分野の様子が見えてこれも本当に楽しかった. むしろ, その辺をうまく回避しつつ面白いところを的確に時間内に盛り込んでいった河東先生の力量が凄まじいとも言える. Twitter でも河東先生のトークが凄かったという呟きを見かけたが, 確かに圧巻だった.

初日のトークで「私は数学者なので演算子ではなく作用素といいます」という話があったのだが, これを受けてその後, 原さんは「僕は物理屋なので, 演算子, といいます」といい, その後さらに廣島先生が「僕は数学者なので作用素といいます」と言っていた. 原さんが物理学者に物理学者と認識されているのか非常に気になるところだがそれはともかく, 原さんが自分を物理「屋」といい, 河東・廣島先生が自分を数学「者」と言っていたのが面白かった.

講演自体だが, 初日は場の量子論と Wightman 場, 作用素値超関数が必要というところから非有界で鬱陶しいので有界作用素に移るという話から始まった. 物理としては 4 次元 Minkowski 時空で Poincare 対称性を考えるが, これだと例が作れないしよく分からないので,
  1. 数学としてきちんとできて面白い共形場に移ること,
  2. フルの共形場ではなくカイラルに移って議論しよう,
  3. 時空としては \(x=t\) の直線上, しかもコンパクト化して $S^1$で対称性としては \(\mathrm{Diff} (S^1)\) という巨大な群を考えよう,
  4. そしてその公理系を簡単に説明した,
というところで話が終わった. 設定に関する気持の部分なので特筆すべきことはない.

2 日目からが本番で, 数学的な話がはじまった. これが面白い. Haag duality やら Reeh-Schlieder やらあるが, 特に Haag duality は話の中で拡大の極大性や locality との兼ね合いで酷使されるととても大事なのだが, 結構難しいがそれは公理として認めてしまってとにかくやってしまえばいい, みたいな話をしていて笑った. さすがに自分の学生がこの辺したいと言い出したらきちんとやるようにはいうようだし, それはそうだと思うが, それも含めて笑った. Haag duality は単なる便利なコンベンションくらいに思っていたのだが, 実際の議論では本質的に効いてくるようだった.

例を作ることと合わせて, 共形場の定式化の 1 つである頂点作用素代数やそれが発展する契機になった Moonshine 予想の話を噛ませたあとに作用素環的な議論が進んだ. 頂点作用素代数の結果を使いつつ議論するのは 3 日目の最後までずっと出てきたので, 相当大事なようだ. 共形場の定式化として適当に対応があることを使って, 頂点作用素代数で議論されていることを作用素環でトレースすることやその逆についてもかなり活発に議論されている模様. 同じ理論を記述しているのだからお互いの対応があるはずだが, 頂点作用素代数も代数的場の量子論もそのままでは一般的過ぎるから, 適当に制限をしたところでないと完全対応はないだろうという話, そしてそれは作用素環では完全有理性という条件で良さそうだ, ということだった. 完全有理性は本質的に面白い結果を出すところでは大体仮定されるらしい. きちんと確認していないが, 完全有理性は河東先生達が定義した概念のようだ. この辺もかなり凄い.

頂点作用素代数というか, 物理的に同じ理論を研究しているのだから別の数学を使ってできたことは作用素環でもできるはずだしその逆だってできるはず, というのは構成的場の量子論でも同じで, 作用素論・作用素環でできたことは確率論 (汎関数積分) でもできるはず, というのは私も思っているし実際にやりたいことでもある. そういう意味でも河東トークはとても楽しかった. 頂点作用素代数と作用素環は一方は純代数, 一方は解析学と本当に本来の興味感心がかなり違うはずなのだが, そこに対応する議論が展開できるというのはひどく非自明で楽しい. 河東先生も「昔は考えることもできなかったような分野の数学者とも話が通じるようになってとても楽しい」的なことを言っていた. 何かの文章でもあったが「昔は operator algebra で検索すると vertex operator algebra も引っかかって鬱陶しいと思っていたが, 今ではきちんと関係があることが分かった」みたいな話をして笑いを誘っていた.

3 日目はカイラルから発展してフルの共形場, 境界共形場の話をして非可換幾何の話をして終わった. 公理の設定があること, 共形場を全く知らないのでどういう話が常識なのかも知らないこともあるが, カイラルから共形場が復元できるというのはなかなか凄い. 境界つき理論との関係もなかなか無茶で, 境界の追加・削除の議論というのも凄まじい. 最後, 非可換幾何の話をするときに非可換幾何の Dirac 作用素を見つけるのに, 頂点作用素代数の構成を媒介して見つけてくるというのがかなり心に響いた. 思いもしない異分野の相互作用として相当に格好いい. 何かさらっと話していたし発見者が誰なのか確認してこなかったが, 発見者, 相当興奮したのではなかろうか.

やや別件だが, 非可換多様体は実際には非可換スピン多様体であるという話がされた. 前から普通の多様体の話をしているはずなのに何故 Dirac 作用素が出てくるのか不思議だったが, 実際, 非可換多様体の定義として今使われている spectral triple は非可換 Riemann 多様体, 特にスピン多様体であると直接確認できたので, その辺の胸のつかえが取れた感もある.

立川さん (後で名前を把握したというか顔と名前を一致させた) が色々面白げな質問をしていて, 超弦周りの話と何か絡んでいくのかもしれない. そもそも AdS/CFT とかある. 物理がどうなのかは全く分からないが, 数学としてはとても楽しいのでどんどんやっていってほしい. よい話だった.

原さん: 構成的場の量子論, \(\phi^4\) の話

田崎さんからの影響で何となく「さん」づけで呼ぶのが自然な印象がある原さんであった. 田崎さんとの共著で出る予定の Ising 本の査読をしていることもあり, 一応構成的場の量子論にいる人間として先達でもあり, 名前はずっと前から認識していたが, 今回初観測に成功した. 何か凄いかわいいというか穏やかな感じの人だった. 3 日目, ホテルの隣の部屋の人が変なことをして鳴らして警報機で起こされるなど, 今回は散々だったらしい. 体調が万全であればもっと色々な話が聞けたかと思うと残念だ. これはこれで, 今までふんわりしたことを知っていただけでもう少しきちんと知りたいけれどもなかなか勉強の時間が取れず, 解析が死ぬ程つらい分野のため精神的負担も大きかった triviality に関してある程度具体的に状況を把握できたので, とても有意義で楽しかったのだが.

Ising 本を読んでいたこともあり, スピン系に関する議論にピントがあっていたので滅茶苦茶面白かった.

「どんな汚い手を使ってでも OS の公理系を満たす例を作ればこちらの勝ち」という台詞, 非常に気に入っているというか, 私も基本的にこのスタンスというか, こういう風に言っている人達の背中を見て育った結果というか, こう色々なものを想起して感慨深く楽しい.

Ising で古典スピン系の様子を一定以上把握できていたので, ハードアナリシス部分はともかく, 今まで以上に景色を見渡せるようになった感がある. もちろんハードアナリシスパートこそが命なので, 全然何も分かったことにはなっていないけれども.

Ising 本を読んだとはいえ, あまり真面目に 13 章を読んでいなかったので相転移・臨界現象と \(\phi^4\) がどう関係するのか全く理解していなかったのだが, スケール変換に関する繰り込みで使うこと, その使い方というのをようやく把握できたので, 胸のつかえが取れた感ある. あれは本当に格好いい. スペクトル表示や鏡映正値性の話をもっときちんと聞きたかったが, 仕方ない. Frohlich から Hubbard 強磁性の解析にも鏡映正値性が使える可能性があるからちょっとやっておけ的なことを言われているし, もう少し真面目に勉強したい. Ising 本の付録, あまりきちんと読んでいないので, もう一度読み直したい.
\(\phi^4\) の triviality について, 原さんは相当思い入れがあるようで, 小話をしていた. 学部から院にかけて素粒子をやろうとしていたから場の理論を頑張って勉強していて \(\phi^4\) ももちろん頑張って計算したが, 院に入ったくらいだかに triviality 周辺の結果が出てきて, 自分の 2 年間は何だったのかと思った, みたいな話をしていた.

折角相関不等式のプロに会ったので, Hubbard でそういう話がないか聞いてみた. 凄い便利だからあったら誰かやっているだろうけれどもあまり聞かないなら難しいのではないか, とか実に真っ当なコメントを頂いた. あったらいいな, くらいだし, あろうがなかろうが無限系 Hubbard はやるしかないので粛々と進めるだけの市民だった.

あと Ising 本を催促してきた. もう少しでできるとしか言えないとのことだったが. このブログなど見ているかはどうかというのは積極的に棚に上げ, とりあえずここでも催促していきたい.

廣島先生: 汎関数積分による Nelson モデルの話

廣島先生も一方的に名前だけ把握していたが今回初観測に成功した. ほぼ一環して経路積分と言っていたが, 要は確率論を使って場の理論を記述していこうという話だ. ずっと興味はあったがあまり真面目にやっておらず, というか粒子系の方で確率解析やら何やら色々必要でしんどくて全く手がついていない分野だったため, とても (おそらく一番) 楽しみにしていた. 先日ささくれパイセン向けセミナーとして場の方の経路積分は復習していたので, 大体はついていけた. もちろんありとあらゆる意味でハードアナリシスこそ本道でそこについては全くフォローできていないが, 以前よりも親しみは増したので大変に有意義であった.

赤外正則化の元での個数期待値の指数減衰や (confined potential の場合の) 位置の指数減衰に関する詳細な評価ができるというのは, やはり圧倒的に力強い.

非 Fock 表現での Nelson (正確には私が知りたいのは van Hove) の基底状態について, 汎関数積分で見るとどうなるかが知りたいのでちょっと時間を取って取り組みたい. 物理での赤外発散の位置づけを全く理解できていないのがつらいところだが, とりあえず数学というか数理物理として処理しきりたいと前から思っている.

Pauli-Fierz は 3 日に 1 回夢に見ると言っていた. うらやましい.

小嶋先生との話

廣島先生の 2 日目, 基底状態の非存在に関する議論が出たときに「数学者である廣島先生に聞くのは筋違いかもしれないが」との前置きのあと, 基底状態の非存在に関する物理について質問されていた. 鹿野さんとのやり取りなどほとんどフォローできていないのだが, そもそも赤外発散とは何か, 赤外正則化と実際の物理とは何か, 赤外発散があるときの基底状態とは何か, といったところの物理, 私はよく把握できていないことを改めて認識した. 物性や有限温度への応用で冨田-竹崎理論を使えばいい, という話もあったのだが, それはそれでまず数学として色々難しくてあまり進んでいないというコメントをした.

一応 BEC の存在を言えている系はあるので, その辺の話なども少ししたら, 興味を持って頂けたようで, とりあえずプレプリントを見てみたいというお話になったので, プレプリントをお送りしておいた. 以前の Summer School 数理物理の BEC 回のとき, 小嶋先生もスピーカーとして話していて, 色々考えないといけないことはあるということなので, 多少なりとも参考になれば嬉しい.

総評

超楽しかった.

2013年9月12日木曜日

千葉大の渚勝先生のコンパクト作用素に関する PDF, 非可換幾何の香りがして面白い

千葉大の渚勝先生によるコンパクト作用素に関する PDF を見つけた. 標準的な説明の中にちょっと面白い説明があったので取り上げたい.
もう少し一般化して, 有界線形作用素 \(T \colon H \to H\) がコンパクトであれば, 集合 \begin{align} \left\{ x \in H \colon \Vert Tx \Vert \geq \alpha \Vert x \Vert \right\} \quad (\alpha > 0) \end{align} に含まれる \(H\) の部分空間は有限次元である. 実際, もし無限次元であるとすると正規直交列 \(\left\{ x_n \right\}\) がとれて, \(\Vert Tx_n \Vert \geq \alpha\) となる. \(x_n\) は 0 に弱収束するから, \(T x_n\) は 0 に強収束することになり矛盾する.
言われてみれば当たり前だが, この集合が有限次元にあるというのは知らなかった. この直後にコンパクト作用素の代数的な性質が議論されているが, これはコンパクト作用素のなす \(*\)-代数が有界線型作用素全体が作る \(C^*\) 環の中で両側 *-イデアルになっていることを表している. ちなみにコンパクト作用素は非可換幾何の定式化の中で「無限小」に対応している.

書き写すのが面倒なので省略するが, P.2 後半からの極分解の話が面白い.
\(|T|\) は \(T^*T\) の平方根, つまり多項式近似
これを多項式近似とみなすのが面白い. \(C^*\)-環は非可換連続関数環とみなせるというのが非可換幾何の基本だが, それから考えれば確かにコンパクト作用素は多項式近似のような感じになる. これも非可換 Stone-Weisrstrass とかあるのだから当たり前のことではあったが, 改めて聞くととても新鮮で面白かった.

2013年5月30日木曜日

作用素環と作用素論:スペクトル解析への応用


Evabow さんとちょっとしたやりとりをしたのでせっかくなので記録しておく. 私のツイートは これ だ.
@Evabow1 @bread_crust http://arxiv.org/abs/0911.5126 など, Schrodingerのスペクトル解析に作用素環を使うというような話はあります. 微分方程式でも調和解析でもなく作用素論の方面なので大分ずれはしますけれども
はじまる部分はもっとあとの方だが, 面白い内容なので 元ツイート からはじめる.
本ゼミの前提知識に作用素環も増えた。 
@Evabow1 ヤバいのでは・・・ 
@Evabow1 !?!? 
@Manaka0501 理解を深めるには必要になった。まだ初歩的なとこしか使わないが 
@bread_crust Banach*環のいい本教えてください!! 
@Evabow1 頑張ってください! 
@Evabow1 何が知りたいの? 
@bread_crust Banach*環、C*環と表現論つながりのことが知りたいです。 
@Evabow1 それは群C*環の表現のことを言ってるの? 
@bread_crust そうです。 
@Evabow1 微分方程式でそんなん使うのか… 
@bread_crust 微分方程式←調和解析↔表現論↔作用素環 みたいな感じだと思っています。 
@Evabow1 ちなみに、それは一般論を知りたいの?有限群を知りたいの?Lie群を知りたいの?無限次元Lie群を知りたいの? 
@Evabow1 えーっと他にもあるのかな… 
@Evabow1 なんつーか群C*環で俺が知ってるのって、今読んでるDavidsonしかないんだけど(本当はもっとある)、 それって本当に今必要なのかなって感じはある。 もちろんC*のことをある程度知ってるなら十分に読める。 
@Evabow1 そして非有界作用素のことを言ってるなら竹崎でも読めばいいんじゃないかと思うんだけど、それこそ本当に必要なの? 
@Evabow1 というわけでDavidsonと竹崎を読んで俺に教えてください 
@bread_crust 3時前に寝てしまって返信が遅れました。 C*環まわりの表現論の一般論と非有界作用素が知りたいです。 作用素環が本当に必要なのかどうか現時点ではよく分かりませんが、 微分方程式を別の角度から見ようと思ったときにどこかで使うと思うので 
@bread_crust 何かと忙しい院はなく学部のうちに手がつけられる所はやっておきたいなと思っています。 いろいろ助言をしてくださってありがとうございました。 
@Evabow1 ごめん、C*環のまわりの表現論の一般論ってなにを指してるのかがわからないんだけど、 単に作用素解析とかGNSを指してるわけではなくて、群の(ユニタリとかの)表現のことでいいんだよね? 
@bread_crust 群の表現です、すみません。 
@Evabow1 @bread_crust http://arxiv.org/abs/0911.5126 など,Schrodingerのスペクトル解析に作用素環を使うというような話はあります. 微分方程式でも調和解析でもなく作用素論の方面なので大分ずれはしますけれども
@phasetr ありがとうございます!数理物理方面も少し興味があるので、挑戦してみたいと思います。
作用素環専攻だったのに普通の作用素環の常識的なところも知らない自分, かなりまずいという意識だけはある. 最近だとどんな本で勉強するのだろう. 最近も何も, 数理物理に特化した本しか読んだことないので, 昔の本もろくに知らないが.

2013年5月14日火曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 セミナー初回の内容をもう少し詳しくした


なかなか時間が取れなくて非常にアレなのだが, 大体話したいことはピックアップした. Twitter で この辺 から適当に呟いたのは下にまとめる.

その他, あとで動画にもする予定で, そこではさらに詳しく話す予定なので, それに合わせて今から詳しい内容も作っておきたい. 特に特殊関数周りの具体例を色々あげておきたいと思っている. 今すぐに見たいという向きもあろうから, 参考文献を軽くあげておこう.

全体的な話として, まだ買っていないのだが「直交多項式入門」がかなり気になっている.


とりあえず触れようと思っているのは, Legendre 多項式, Legendre 陪関数, Hermite 多項式, Laguerre 多項式, Fourier 級数のあたりだ. ちなみに今はじめて知ったのだが, Chebyshev 多項式は この PDF によると, 計算機の中での応用があるらしい.

Legendre や球 Bessel については この PDF が参考になるかと思う. 自分が知っている話, ということで物理への応用について話す予定で, 正にそういう話だ. Laguerre は例えば この PDF を検討している. 上記多項式もそうだが, Hermite についても手元にある本含め, まだ資料をあさっている.

今すぐ参考文献を知りたい向きは, 基本的には偏微分方程式を解くところで使うので, その辺で探すといい. 「物理数学 Legendre 多項式」などで探せば色々出てくる.

Fourier は熱方程式, 波動方程式, 電磁気学あたりで探すといいだろう, 数学の本ではあるが, 逆問題を通じた応用的な色彩が強い本として, 波動方程式への応用については下記の本の前者を, 熱方程式への応用については後者を参考にすると楽しいだろう.


物理への応用に関してよい参考書は今探しているところだ. 波動の本でもいいが, 電磁気 (電磁波) からの話が個人的に気に入っているというか感覚が掴みやすかったので, その辺で探すといい. もちろん, 自分の専門に近いところ, 自分にとって分かりやすいところで探すのが一番いい. いいのがあったら教えてほしい.

多項式から話題を変えるが, 例えば変分というのがある. 変分原理として物理の各所で現われるが, 量子力学で基底エネルギーを出すのに使うこともある. 実係数の微分方程式への数学的応用ということでは Brezis の本が定評がある. もちろんかっちりとした数学の本だ. Hilbert 空間を中心に議論されている. 最近演習問題も追加された英語版も出版されたので, 買うならそちらを買った方がいいかもしれない. 東大の微分方程式系の研究室での学部 4 年のセミナーでも使われることがあるようなので, そのくらいきちんとした本だ.


また, 何度も紹介しているが, 解析力学というか幾何学での変分ということで次の本が比較的分かりやすく, しかも面白い.


読んだことはないのだが, 物理での変分原理については次のような本もある.


これまでの微分方程式の話とは大分変わるが, 作用素論につなげるので, 量子力学とスペクトルの話もしたいと思っている. これについては日合-柳本はもちろんのこと, 数理物理としては新井先生の本がいい.

   
量子力学での変分に関する数学的に精密な話も書いてある. 他には, 作用素の関数やユニタリ表現に関する話も大事だ. 作用素の関数については先日ワヘイヘイオフで詳しい話を聞かせろ, という要望を受けたので, 別途早めにまとめようと思っている.

では以下, Twitter での発言を抜き出しておく.
Hilbert 空間から始めるよく分からない数学のセミナー的なアレの原稿, いい加減作ろう. イントロでずっと固まっているが, そろそろ具体化したい. イントロだけはもう少し線型代数全般について話をしたい 
まず超大雑把に言って教養でやる線型代数らしい線型代数と, 微分方程式方面と関わる方面の話と, 関数解析または作用素論的な抽象論みたいな感じの話がある的な話をする 
加群への展開とか, Lie 群への展開とか数学として取り逃すところは色々出てくるが, この辺は私の数学力的に手に負えないところが出てくるので色々ある, とだけ言って逃げる. ただ表現論とFourierと, みたいなところと量子力学とかは少し触れたい 
Hilbert 空間の抽象論と作用素論的な展開と量子力学との関係的なアレはあとで詳しくやるから, 軽くこなす. まずは有限次元の方か 
有限次元と言ったところで専門に近い所で見ても色々あるし困る. とりあえずハバードだとか, 直接的に研究に結び付くくらいやばい, という話はしよう 
あとは数値計算でも使う的な話は入れよう. 微積分との絡みで平衡点近傍の安定性とかそんな話もしよう 
脱線するが, 平衡点近傍の話, 多分力学系とかそういうところでも使う. あまりきちんと勉強していないが, 山本義隆の解析力学にも解説あるし, ゆきみさんいわく常微分方程式と解析力学にも解説あるらしい 
これは適当な線型化から系の性質を調べるとかいう話で, 微分積分や力学とも深い関係がある. 機械工学とかその辺でも確か出てくるはずとかそんな話をしたい
あと標準的なコースの重要性はきちんと言わないといけない. 行列式と固有値, 固有ベクトルあたりは何をネタにしよう. 物理の各所で出てくるが. 固体物理というか連成振動とかその辺か. あと統計学での主成分分析とかそういう話か. この辺, 具体例を仕入れる必要がある 
固有値, 固有ベクトルは量子力学とかその他物理でも色々展開があるという話はしよう. 物理の話ばかりしているのもどうかという気はするが, 応用はそれしか知らない無学な市民だった 
Googleのページランクみたいな話もしよう. 確率との関係とかエルゴードとか言っておくと響く向きには響くだろう. これ, 数値計算とも関係するかなりクールな話なので盛り込みたい 
とりあえず有限次元はこんなものか. 無限次元というか微分積分への接続として平衡点近傍の話をもってくる方がいいか. あとは微分作用素と積分作用素の線型性は必ず触れる. 我が魂 
@aki_room 毎回2時間くらいのを4回くらいの予定です. ヒルベルト空間とその上の作用素論を3回でスペクトル分解までやろうという無茶な企画. まともに回るか分かりませんが,とにかく一度やってみようという無茶企画です 
http://tinyurl.com/d6ggdkr 【phasetr 【参考】 http://www.ulis.ac.jp/~hiraga.yuzurugf/LA/matlab/gallery.shtml】 
@JosephYoiko ありがとうございます. 例を作って図示まで自分でやるのは結構手間なので助かります 
関数解析的な意味での無限次元の線型代数, 何を話そう. 時間があるから適当に抜粋するが, ネタとしては色々書いてためておこう. まずはブログの方にも書いたTaylorと微分作用素の関数と並進とかその辺か 
あと微分作用素の固有値展開からのFourierか. Fourierは高校でやった三角の積分が直交関係を表す的な話は入れないといけないだろう 
今回, 個別の話をやっている余裕はなかろうがLegendreやらBesselやら, 量子力学とか電磁気周りでの微分方程式を解くときにも出てくるという話も盛り込みたい 
これは個別の関数の相手もそれはそれで大事なのだが, 理屈としては線型空間論で一括処理できるのだ, という認識を持つことで数学的, 精神的な負担を減らすことを目的に, 必ず触れるようにしたい 
あとアレだ, モノによっては多重極展開とか応用上の意味があったりもするから, 単なる数学ではない部分もある的なアレ. 変分とか無限次元の微分とかいう話はすると楽しいかよくわからないが, ネタとして書いておこう 
イントロはこんなものか. ネタ多すぎるので確実に削るが, 他にもどこかで話すなり, 最終的に動画にするときには盛り込むからいいか. あとスペクトルの話はきちんと触れ直そう 
関係ないが, 今日の math-phys の arXiv に非可換調和振動子に関する廣島先生と佐々木さんの論文が出ていた. これはこの間の埼玉大のセミナーでも少し話したが, 若山先生が最近やっているやつで数論というかゼータと関係があるやつ
考えてみれば, Hubbard や Google のページランクについては動画を作ったのだった. それも紹介しておこう.

2013年4月19日金曜日

数論と相転移に付随する自発的対称性の破れ:Connes 論文と新井論文の紹介

この辺 からの mr_konn さんとブルブルエンジン兄貴のやり取りで, 数論 (代数的整数論) での両側剰余類の話が出てきた. 私自身は使ったことないが, Connes の数論での相転移論文にも出てきたことを思い出した. Hecke algebras, type III factors and phase transitions with spontaneous symmetry breaking in number theory という論文だが, 学生時代は学生時代できちんと読もうとして訳が分からず挫折した経緯があり, 結局あまり内容を把握していない. 時々 Twitter でネタにするので, この機会に軽く眺めてみようと思い, 自分用メモとして残しておく.

あと, 関係する話として新井先生の Infinite dimensional analysis and analytic number theory という話もある. 両方とも量子統計と数論の関係がテーマで, 分配関数が Riemann の \(\zeta\) になる, という話. 新井先生の論文の方は直接的に Fock 空間と第 2 量子化作用素の話をしていて, 数学的にはこちらの方が簡単で読みやすい. ただ, 基本的には全く違う話なので両方読み比べた方が楽しいだろう.

では Bost-Connes 論文のメモに入る. 念の為, 先に書いておくと, (量子) 統計や相転移の物理については田崎さんの本がいいだろう.

  
作用素環で相転移を扱うという場合, とりあえず量子統計のセッティングで話をする. 特に \(C^*\) (または \(W^*\)) 力学系の話になる. そこで分配関数が \(\zeta\) になる, という方向に持っていく. イントロで相転移や自発的対称性の破れについても直観的な説明が書いてあるので, 興味がある向きはそれも参考にされたい. この論文では素数の分布と自発的対称性の破れの関係を論じている.

\(C^*\) (\(W^*\) でもいいが) 力学系は, \(C^*\) 環 \(A\) と \(A\) 上の強連続な自己同型群 \((\sigma_t)\) の組のことをいう. Hilbert 空間上の連続なユニタリ群は (半群理論からでもいい) Stone の定理 によって, 自己共役作用素 \(H\) を使って \(U_t = e^{itH}\) と書ける. GNS 表現にして考えてもいいが, \(C^*\) 環上でも (半群理論から) 直接 \(\sigma_t = \mathrm{Ad} \, e^{itH}\) のように書ける. この Hamiltonian \(H\) のスペクトルが色々大事な情報を持っている. 新井論文では実際に適当な Hamiltonian を構成して, Riemann の \(\zeta\) を作っている. von Neumann 環でいうと, KMS 状態が意味を持つのは III 型環だけだ, というのもメモしておこう.

KMS 状態とその端点分解の一般論が出てくる. まず状態の空間が定義から凸集合になり, さらに KMS 状態の集合自体も凸集合になる. そうすると KMS 状態による端点分解ができてそれ自体が熱力学的な純粋相を表す, という話があるが, この論文ではそれが数論の数学としても大事なようだ.

P413 あたりから今回のターゲットの \(C^*\) 環が Hecke 環だという話になってくる. \(\mathbb{C}\) の格子の Hecke 対応とか何とか出てくるがよく知らない. ここで double coset \(GL(2, \mathbb{Z}) \setminus GL(2, \mathbb{Q}) / GL(2, \mathbb{Z})\) が出てくる.

適当な条件下で離散群 \(\Gamma\) とその部分群 \(\Gamma_0\) から convolution algebra として Hecke 環ができるらしく, \(\ell^2 (\Gamma_0 \setminus \Gamma)\) への Hecke 環の正則表現の閉包として \(C^*\) 環を作る. また脱線するが, 群のユニタリ表現から作用素環を作るというのは標準的な方法だ. 一般に \(C^*\) 環内での functional calculus から \(C^*\) 環の全ての元はユニタリ作用素で書ける. したがってユニタリを指定すれば作用素環が決まると言っていい. von Neumann 環だと射影でもいい.

Prop 4. では自己同型群を作っている. 記号からしても KMS のモジュラー自己同型群だろう.

P415 で力学系の相転移に付随する自発的対称性の破れの記述がはじまる. \(\mathbb{Q} / \mathbb{Z}\) 上の関数 \(\psi_{\beta}\) を, 適当な素因数分解を使いつつ定義する. 面倒なので \(P\) の定義は論文を見てもらうことにして, \(\Gamma = P_{\mathbb{Q}}^+\), \(\Gamma_0 = P_{\mathbb{Z}}^+\) とすると, \(\mathbb{Q} / \mathbb{Z} \subset \Gamma_0 \setminus \Gamma / \Gamma_0\) になり, ここから Hecke 環や \(C^*\) 環の包含も出る. この辺をうまく解析すると主定理の Theorem 5. になって, Riemann の \(\zeta\) が出てくる. \(\mathbb{Q}^{\mathrm{cycl}}\) とか数論っぽいのが色々出てくる. また Galois 群 \(G = \mathrm{Gal} (\mathbb{Q}^{\mathbb{cycl}} / \mathbb{Q})\) が自己同型群として作用して, しかも時間発展 (KMS のモジュラー自己同型) と可換になり, これが自発的対称性の破れを記述する, とのこと. Theorem 5. の証明の前に力学系と素数の分布の関係の説明をしよう, といって節が変わり, 2 節になる.

2 節の冒頭で E. Nelson の「第二量子化は functor である」という言葉が引用される. この Nelson は 2011 年に The Inconsistency of Arithmetic で話題になった Nelson だ. 今は基礎論あたりにいるが, 元々構成的場の量子論にいた人だ, という小ネタをはさんでおこう. 第二量子化周辺の話が簡単に説明される.

今はじめて知ったのだが, P417 の Lemma 6. がハイパー強烈だった. 冷静になって考えて見れば当然という感はあるのだが. \(\mathcal{P}\) を素数の集合としよう. \(T\) が Hilbert 空間 \(H\) 上の自己共役作用素として, \(T\) の第 2 量子化作用素を \(\mathbf{S} T\) としよう. このとき, \(\sigma (T) = \mathcal{P}\) と \(\sigma (\mathbf{S} T) = \mathbb{N}^*\) が同値, という命題だ. ここで \(\sigma(T)\) は \(T\) のスペクトルを表す. 第 2 量子化作用素の定義を省いているのでアレだが, 単なる素因数分解だ. 証明は論文に書いてあるので, 興味がある向きは参考にされたい. というか, どこかで話してもいいかもしれない.

それで上の \(T\) を使って, 次のように Riemann の \(\zeta\) が定義できる: \begin{align} \mathrm{Tr} \left[ (\mathbf{S} T)^s \right] = \frac{1}{ \det (1 - T^s)}. \end{align} ここまで来て分かったが, 上記の新井先生はこの命題を基礎にして, Fock 空間上で直接色々やっている. 以前はここまですら読んでいなかった, という個人的衝撃の事実が発覚した. もう少し読んでおけばよかった. 要はボソンの場の量子論と数論に関係があるという話だ. 一応書いておくと, 当然フェルミオンとも関係があって, 双対性だとか超対称性うんぬん, という話が新井先生の論文に書いてある. 2 節, 単独で読んでも面白そうだ. 今度どこかで話してみたい.

3 節では 2 節で作った \(C^*\) 力学系と数論の概念を関係づけ, Theorem 5. の Hecke 力学系を作っている. 局所コンパクト群とか Haar 測度だとかも出てくるので, 色々な数学が交錯する姿を見てみたい学部生が読んでも面白いだろう. 当然ながら \(p\) -進数や付値なども出てくる. アデールだとか, 学生時代, 非可換幾何をやっていた先輩の話で出てきたな, という程度の知識しかないので適当に読み飛ばした.

派手に飛ばして, 6 節で \(\beta > 1\) KMS の分類をし, 7 節で \(\beta \in (0, 1]\) での KMS 状態の一意性を議論している. III 型環とかがちゃがちゃ出てくるので面白そうだが手に負えない.

最後, 参考文献に Araki-Woods や Connes-Takesaki, Bratteli-Robinson, Haag, Pedersen の有名な論文や教科書がある中, Dirac, Serre, Shimura, Tate, Weil があるのに爆笑した. 色々な数学が交錯する姿が見られる論文なので, 興味がある向きはアタックされたい.

追記

ご興味を持って頂けそうだったので, knyokoyama さんにこの記事を読むように強要した. その辺のやりとりが ここ からはじまる.
@knyokoyama あまり細かいところには触れていませんが,ご興味があるかと思ったので, 自分で書いたものですが,ご興味があれば. 数論と相転移に付随する自発的対称性の破れ:Connes 論文と新井論文の紹介 http://goo.gl/fb/XEsEh よく分からない数学 
.@phasetr BostConnesと新井先生の論文を読み比べるに同意 
@phasetr 読み比べようとするも、BostConnesと新井先生の論文は、全く別の話です(phasetrさんのブログに別ものと記載あり). ***比べられない.*** 
@knyokoyama もちろん全く違うのですが,ゼータと量子統計という大きなくくりで見て色々な展開が想像できるので, それを考えると楽しいだろうという話です. 解析数論と数論的関数,超対称性や双対性の数論的反映と,数論での相転移など,量子統計・場の理論の多彩な展開がみられるので 
@phasetr おっしゃるとおりです.ご紹介,感謝いたします. 
@knyokoyama 比べる、という言い方がまずかったか、という気はします 
@phasetr ありがとうございます.結構、楽しく読ませていただきました. リーマンゼータの導出や、驚きのlemma6、(素因数分解定理の言い換え)?!、時間発展までは、 共通、、、その後は、全く別モン.かたやKMS条件から円分体、かたや数論的函数とSUSY.双方素晴らしい 
@knyokoyama 書こうと思って忘れていたのであとで追記しようと思いますが, あの補題(とそのあとの分配関数)がゼータの零点が自己共役作用素の固有値問題に結びつくというHilbert-Polyaの話なのでしょう. 最近は若山先生の非可換調和振動子などもあるようですが
Hilbert-Polya 予想については ここ などを見てほしい:英語版の Wikipedia だ.

2013年4月9日火曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学のリアルセミナーをやりたいので東大数理各位にご協力頂きたい

この間 TL で新入生が線型代数何ぞ的なこと言っていたのもあるので, 新入生向けに線型代数の世界を見せたい. 私が話せるのは解析学周辺しかないが, ないよりはましだろう, ということで. 大体, Hilbert 空間と線型作用素を基本に話す予定. モチベーションを高めることを目的に概論的な話で 4-5 回くらいに収めたい. というわけで, 東大数理の学生で, 話すための部屋確保に協力して頂ける方を募集している.

  
やる予定の内容を書いておきたい. 基本的には抽象論をやる. 作用素論方面の話に行ってスペクトル定理くらいまでやりたい. 作用素環などで大事になる方向だ. 非可換幾何への展開でまた \(L^2\) などとの関係が返ってくる. あと, \(L^2\) のような話は具体的な話はもちろん大事だが, これはイントロで少し触れるだけにする.

まずイントロでする予定の話. 線型代数は (数学内部または少なくとも物理と物理に近い工学で) 役に立つという話はされるだろうが, あまり具体的な話はされない (時間がない) だろうから, その辺の話から入る. 新入生向けなので, まず Hilbert 空間は何ぞというところを話す. 高校でもやった三角関数の積分が実は Hilbert 空間で意味を持つというところ, 微分積分と線型代数の交点というか親玉みたいな話としての関数解析で大事な空間という話をする. また, 物理でそれなりに色々な数学が出てくるが, 線型代数という視点でクリアで統一的な理解ができるから大事だよ, 的な話をする. 微分作用素, 積分作用素の線型性とかも話す必要がある.

物理または工学上大事な数学的道具立てとして大事な微分方程式があるが, 初等的な方程式なら具体的に解ける. 「線型の微分方程式」という中で既に線型性が出ているので, そういうところで解析と線型代数の関わりみたいな話がしたい. これを解く中で現われる直交多項式の話の「直交」も線型代数由来の話で, これが Hilbert 空間の話という感じで. 量子力学の数学的構造 I の 1 章の演習問題にいくつか書いてあるので, 一応参考文献として挙げておこう.
  
また, Taylor 展開と作用素論ということで \(e^{ipx}\) の話もしよう. 簡単に説明しておくとこんな感じ. \(f(x)\) を原点周りで Taylor 展開するとこうなる: \begin{align} f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \left( \frac{d}{dx} \right)^n f(0). \end{align} どうでもいいが, 量子力学っぽく \(p = -i d/dx\) と書こう: \begin{align} f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} \left( i p \right)^n f(0). \end{align} ここで指数関数の Taylor 展開は \begin{align} e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} x^n \end{align} となる. ここで Taylor 展開の \(\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} \left( i p \right)^n\) は \(x\) に \(ip\) を代入したものと同じ形をしていることに注意して次のように書き換えてみる. \begin{align} f(x) = \left( e^{ipx}f \right) (0). \end{align} 指数関数に微分作用素を叩き込むという荒技を披露したが, 作用素論を使ってこれが正当化できます, みたいなことも言いたい. また, 作用素の指数関数 \(e^{ipx}\) は Taylor 展開で定義してしまうと解析関数に対してしか定義できないが, \(x\) だけずらす作用素と思えば一般の関数に対して定義できる. ここでユニタリ作用素とかそういう話になる. あと \(x\) だけずらす作用素 \(e^{ipx}\) の無限小生成子としての運動量という所から, 解析力学と量子力学の関係がどうの, みたいな話もちょろっと触れたい.

以上大体イントロで話す予定のこと. 2 回目から実際にもう少し踏み込んだ話をしていく. まずは Hilbert 空間自体の話をする. 「ヒルベルト空間と線型作用素」には Banach 空間の話もあるが, 時間的に多分カットだろう. 演習問題になっている定理にも少し触れたい. 完備性の話などもあるので, 証明もポイントをおさえて触れていきたい.

引き続き 2, 3 章を力づくでやっていく. 非有界作用素はゴツ過ぎて触れられないが, スペクトル定理はやりたい. スペクトル定理は無限次元版の対角化だ. スペクトル測度や解析関数カルキュラスとか出てきてやばいのだが, むしろ色々な数学との関係を話す機会として採り上げたい. Stone の定理と量子力学の話とかも一応入れる予定.

参考文献をまとめておこう. 1 つの展開としての作用素環方面, 特に (非可換) 幾何方面ということで, 数学会で PDF が公開されている 夏目-森吉 の「作用素環と幾何学」も紹介しておこう.

   

触れる予定はないが, 微分方程式関係と共に関数解析をやろうという感じの本も紹介だけはしておこう. こういう具体的な方から学ぶのが好きな人は頑張ってアタックしてみてほしい. また, こちらに興味があるという人は声をかけてほしい. トークしろと言われると困る部分はあるが, 一緒に勉強しようというなら時間さえ合えば付き合いたい. そしてプロデュースしたい.

  

2013年4月6日土曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 5 やや番外編 何で線型代数で連立一次方程式扱うの?

先日, 数学科 (志望の) 大学新入生が線型代数で連立一次方程式扱うの, あれ何なの, 何の意味あるの, という風なことを呟いていた. 究極的には「数学を学んでいくうちに分かる. むしろある程度やらないとどうしても大事だ, という感覚は掴めない」と言わざるを得ない部分がある. ただ, そう言って初学者が持つ当然の疑問に (できる範囲で) 答えないのも問題だ. それも数学科の学生ともなれば尚更. というわけでできる範囲の返答をしてみよう.

次の二本立てとしよう.
  1. 連立一次方程式.
  2. 線型性という視点の獲得.
私の知る範囲ということでだが, 前者は応用向き, 後者は数学としても大事だが, 数学以外にとっても決定的に大事だ. 少なくとも数学科としては 2 を学ぶために取っ付きがいい題材として連立一次方程式を選んでいるというのが一番ではないか, という気がする. Hilbert 空間から始めるよく分からない数学に組み込んだのは, この 2 の部分の役割の説明にもなるからだ.

まずは当初の疑問に対して, ということで連立一次方程式についてだが, これについて私が直接知っているのは例えば微分方程式の数値解法との関係だ. コンピュータはダイレクトに連続量を扱えない (らしい) ので, 微分方程式という連続的な対象を適当に離散化して数値計算に落とし込むようだ. 全てかどうかまでは勉強不足で知らないのだが, 少なくとも線型の方程式なら連立一次方程式に帰着する. 応用上, シミュレーションなどは大事なので, そこで微分方程式を解く必要があり, そういうところで基本的な役割を担う.

あと, 数学的なところでいうなら, 取っ付きの良さが挙げられるだろうか. 連立一次方程式という「簡単な」対象を題材に線型代数の基本的なところを学ぶというのは, 1 つの見識と言えないことはない. 抽象論に行く前に具体的なところで感覚を掴むことは大事だから. 連立一次方程式を解く中で色々な代数的特徴の幾何的な解釈も交じえながらやると, またもう少し視野も広がる. ただ, これだとあまり何の意味があるの, というところに答えられている気はしない.

少し話は変わるが, この辺, 私が半端に物理から数学に行ったためにあまり数学科の教育事情を知らないので困るのだが, 実際のところ数学科での数値計算やシミュレーションの教育はどうなっているのだろうか. 組み合わせ論や計算代数などコンピュータ上でも厳密な計算ができる対象については, 実際に研究でも使われることはあるようだが, 微分方程式などの近似計算としての利用の場合はどうか. 元京大で早稲田に移った西田先生 (衝撃波の専門家と聞いている) は数値計算援用証明の開拓という部分もこめて, 数年前に解析学賞をもらっていたので, この辺の教育も充実しつつあるのかもしれない. ちなみに私はといえば, 学生時代全くプログラミングはやっていなかった.

2 の線型性という視点の獲得というところについて考えよう. 上で「線型の」微分方程式という話をしたが, 微分方程式という「代数」とは一見全く関係ないところにその名前が出ているところからして既にやばい. 解析学の話題の中にも線型性という視点が自然に入り込んでいる. このように数学を学ぶ上で線型性というのは基本的な見方, 言葉として決定的に重要なのだ. 例えば私の数学上の専門だが, 微分作用素 \(d/dx\) は線型写像 (普通線型作用素という. 物理だと線型演算子という) だし, 積分も線型写像と思える. この辺を徹底的にやろうというのが作用素論だ. 量子力学との深い関係もあり, 正にそこが私の専門になっている.

色々あって簡単に話しきれることではないのだが, 他にもいくつか例を挙げておこう. 線型代数の対象は線型空間とその上の線型写像だが, 群の表現論では群を線型写像に写し取って研究する. 群という別の代数的対象を線型代数を使って調べるということがある. 線型代数をフックにしているので, 線型代数の理解は前提としてある. また, 群が特に Lie 群になっているとき, この Lie 群を線型化した対象としての Lie 環という対象がある. 「線型化」という手法があると言ってもいい.

触れていると大変なことになるが, 群の表現論も物理への応用がある. 無限次元ユニタリ表現論は量子力学の基本と言ってもいい. これ自体は知らなくても物理は余裕でできるが, 一応使ってはいるので言葉くらいは紹介しておこう.
また, 線型代数の発展として加群というのもある. 加群も色々なところで出てくる. 大学 1 年には無茶な要求だが, 線型代数は係数が体になっているのだが, 加群は係数を環にしている. これのおかげで (数学内部での) 応用の幅が大きく広がる. 第 3 回の関西すうがく徒のつどいで聞いたが, ホモロジー代数への応用ということでいうなら, 最近は画像処理などへの工学的な応用もあるようだ.

加群の話はありとあらゆる意味で全く知らないのだが, 聞いたところによると射影加群はベクトルバンドルと言った幾何の話とも深い関係があったり, \(D\) 加群という代数解析での大事な対象が正に加群だったりする.

うまく答えられている気は全くしないのだが, まとめると, 線型代数は線型性という視点の獲得が一番大事なことで, 連立一次方程式という慣れ親しんだ題材でそれを学ぶことができるということだ.

2013年3月13日水曜日

Twitter まとめ:数学の作用素論と数理物理の作用素論


数学の人がいう作用素論と数理物理というか量子力学周辺の作用素論は少し違う. 知っていることについて少しまとめておこう. 私は数理物理というか量子力学, 場の量子論周辺の作用素論の人間であり, 数学側の動きを完全に知っているわけではない. 実際にはもっと色々あるだろうから, 参考程度に思ってほしい. このあたり からはじまる.
作用素論っておもしろそうなにおいするけどいまいちどんなのかわからんぽん 
@yuki_migo 数学の人がいうところの作用素論は有界作用素の話のようですね. 正規作用素というのがありますが, それを一般化したhyponormalとかそんなのを議論したりする模様. 日合-柳の本に多少書いてあります. その他には行列不等式とかその辺も多分作用素論 
@yuki_migo 物理系というか私の周辺の作用素論だと, 量子力学とかその辺の具体的なハミルトニアンの解析をします. 坊ゼミではその辺の話をします
上に引用した日合-柳の本はこれだ.

4 章までしか真面目に読んでいないのだが, 非常にいい本でそこまででも十分に価値がある本だ. 証明も丁寧に書いてあり, とても良い本なので紹介しておきたい.

前書きにもある通り, 作用素環関係の話題はほとんどないがその方面にいくとしても役に立つことはあるだろう. 日合先生の方は実際に作用素環もやっている. Hilbert 空間中心なのだが, 1 章では Banach 空間のこともきちんと書いてある. 関数解析の基本的な定理は全ておさえてあるので, これで関数解析の勉強もできる. その場合は付録もきちんと読む必要があるけれども. あとで書くが, この付録がまた良くできているので付録も絶対に読んでほしい.

2 章から作用素の話に入る. ここからは特に『量子力学の数学的構造』の 1 と重なる部分が増える.

上掲書よりも議論がすっきりしているので, 読みやすいと感じる人もいるだろう. ただポイントとなるスペクトル定理が『量子力学の数学的構造』と『ヒルベルト空間と線型作用素』で違う証明になっている. どちらとも味があるが, 私は『ヒルベルト空間と線型作用素』の, Riesz-Markov-Kakutani の定理を使う証明方が気に入っている. 『量子力学の数学的構造』の方は余計な道具を持ち出さないストイックな感じで, それはそれで良い. 両方勉強しておくとなおいい. あと『ヒルベルト空間と線型作用素』の方は有界作用素の functional calculus に関する議論が役に立つ. これは作用素環でも非常に役に立つ議論なので, これで慣れておくと便利だ.

3 章はスペクトル定理だ. 作用素論の至宝であり, 量子力学への応用上も決定的に重要なのできちんとやってほしい. 『量子力学の数学的構造』では 2 巻にまわっている Stone の定理も一緒に証明されているところがまたいい.

4 章はコンパクト作用素の話だ. 量子統計などで形式的に使うことはあるが, 実際にはあまり使えない. ただ, 一度はきちんとやっておくべき内容ではある. Fredholm 理論は応用上色々なところで出てくるようだが, そういうところでも使える. 超対称性とかそういうところで出てくると聞いている.

5, 6 章は作用素論の進んだ話になる. あまり真面目に読んでいないので書けることはない. ただ, 今, 作用素論で研究されていることの基礎的なところに触れているようなので, そこに興味がある人は学んでおくときっと役に立つのだろう.

そして付録だが, これが恐ろしくいい. Hahn-Banach, Riesz-Markov-Kakutani, Krein-Milman, Stone-Weierstass, Gelfand-Naimark の定理という, 関数解析の至宝とも言える定理が非常に丁寧に議論されている. Riesz-Markov-Kakutani の定理は汎関数が積分で書けるという一連の定理の基礎となる話であり, 証明も込めてきちんと学んでおくべきだ. 「正値超関数は測度である」という超関数論の有名な定理もこれとほぼ同じ証明だ. 他にも確率論で Brown 運動を構成するときにも使える. Krein-Milman は端点集合に関する話で, 作用素環で純粋状態の議論をするときに魂となる.

話がずれまくって『ヒルベルト空間と線型作用素』の書評になってしまったが, よい本なので関数解析の初学者にも最適なので, 興味がある人は是非参考にしてほしい本だ.

それで作用素論だが, 微分方程式関係でも多少「作用素論の結果」として出てくることがある話がある. Sobolev 空間の埋め込み関係で埋め込み写像がコンパクト作用素になるという話があるが, それは上でも少し書いたコンパクト作用素の話になる. 微分方程式で定評のある本, Brezis の本でも Fredholm の択一定理が載っていたので, 使うことはあるのだろう. 微分方程式は不勉強なのであまり言えることはないのだが.

数学の作用素論で行列不等式がある, と書いたが, これは専門書がいくつかある. 和書だと最近出た本で面白そうなのがあったので紹介したい. 買うだけ買ってまだきちんと読んでいないのだが.

行列不等式は量子統計, エントロピー関係でも時々出てくる. 作用素環レベルで無限次元版があったりするのであなどれない.

数理物理というか量子力学の作用素論だが, こちらは具体的な非有界作用素の解析をするのが中心になる. これはやはり新井先生の本を勧めるしかない.
  
議論は恐ろしい程丁寧で内容もしっかりしているのだが, 正直, Hilbert 空間論や関数解析の数学としての入門には向かない. 少なくとも上記 3 冊全部読めば基礎はカバーできるのだが, 関数解析として体系だった紹介はされていないので, 要領が悪い. あくまで量子力学用に特化した内容で, 量子力学のために必要なことをある程度具体的な問題を通して学ぶ本と言った方がいい.

はじめに書こうと思っていたことと大分違ってしまったが, まあいいだろう. 量子力学関係の話については, 3/24 の埼玉大でのゼミ で話す予定なので興味がある方は参加されたい.

2013年2月6日水曜日

書評:佐藤幹夫の数学


自己紹介のところにも書いているように,最近代数解析を勉強している. その一環として,今回奮発して「佐藤幹夫の数学」を買って読んだ.


ちなみに概要をさらっと頭に入れようと思い,ぱらぱらと眺めている文献は 佐藤幹夫自身による Theory of Hyperfunctions, ITheory of Hyperfunctions, IIと小松彦三郎による佐藤超函数論入門 だ. あと楔の刃の定理の代数解析的な見方に興味があったので「佐藤超関数入門」を買ったのだが 「代数解析学の基礎」にすれば良かったかとやや後悔している.

  
内容を大雑把に言うと, 正に部別の通りで, 佐藤幹夫の半生を語る第 1 部, 佐藤幹夫の数学を語る第 2 部, 他者が語る佐藤幹夫の数学の第 3 部に別れる.

第 2-3 部は佐藤-Tate 予想で有名で数論や概均質ベクトル空間の話もあるが, やはりメインは代数解析の話だ. 私が興味があるのが代数解析なので, そこに集中して話をしたい. 興味があるのは佐藤超関数の定義それ自体だったのだが, それ以外にも「本地垂迹」として 解説がある微分方程式の表現論的考察が面白かった. 私自身の興味があるところは後で書くとして, 本の内容についてもう少し詳しく触れたい.

本を読んでいて, 佐藤幹夫は究極的には関数が好きなのだろうという印象を受けた. どういうことかというと, 超関数自体が関数として自然な形で導入したいという強烈なモチベーションがあること, さらに特殊関数の特徴付けで有名なように, 微分方程式は関数の特徴付けとして重要視している, という感じだった. D 加群の話にしても解を自然に特徴付けるための手法という感じの説明がされていたという印象がある.





D
 加群に関連した話として本地垂迹が出ていたのだが, これが面白かった. 微分作用素の表現論といった趣がある. 表現論への応用があるし, 実際そうなのだろう. まだあまり良く分かっていないのだが. 私の研究では作用素環の表現論が決定的に重要だし, それが元で表現論も好きなのでなかなか楽しい.

また Schwartz の超関数 (distribution) だと「微分のことも積分でやろう」という感じだったので, 佐藤超関数でも同じ感じだと勝手に思っていたのだが, どうやら違うらしい. 該当箇所が見つけられないのだが「昔は微分が簡単で積分が簡単だと言っていたが, Lebesgue 積分以降は 積分は簡単だが微分は難しいとなっていておかしい」みたいな一文があった. 佐藤超関数の文脈で超関数の積分があるが, これは超関数微分方程式を考えて, その解を不定積分と呼んでいる. 興味がある向きは Theory of Hyperfunctions, I の P148 を見てほしい. 正則な関数だと Cauchy の積分定理なり Morela の定理なりで微分可能性と積分可能性が大体同じ感じになる. これもどこに書いてあったか見つけられないのだが, それを上手く使えば (実関数の?) 積分可能性がどうの, というあたりの事情も簡単になるしその方が嬉しい, という記述があったはずだ.

Diagram chasing による議論を見ていて面白かったので, ホモロジー代数の動画を作ると楽しいのでは, と思ったのでその兼ね合いから (ホモロジー) 代数を勉強したくなり, それで改めて勉強していて, 自分は結構代数が好きだということが分かりつつある. それでホモロジー代数の応用としてやはり解析方面から何かあるとより楽しくなりそうなので 代数解析, と単純に思ったということもあるが, もう一つ目的がある.

研究の方で場の量子論での超関数という大テーマがあるのだが, 関数解析的というか, distribution 方面からの超関数という方向で作用素環とその表現論を使った処理をしている. これを確率論 (経路積分) を使って見てみるというのは標準的な別アプローチでそちらも検討しているが, 一方で代数解析的なアプローチは全くないのが現状だ. Curved spacetime 上での相対論的場の量子論でスペクトル条件の代替に超局所解析を使うという議論があり, 代数解析的な話があるので, 非相対論の方でも何か使えないかと思って, そこを少し調べてみたいというのがある. 今のところその方向では話を持ち上げづらそうな感じだが, プロの研究者というわけでもないし のんびりやろうと思っている.

ちなみに作用素環による「場の量子論での超関数」というのは汎関数を上手く使った収束の議論を指している. 手法自体は構成的場の量子論で確立しているが, これを「超関数」と呼んでいる人はみかけない. 何をやっているか分野外の人に伝えるのに便利だから作った, 私独自の呼び方なので, 他の人にいっても通じないので注意されたい.

別件だが, 代数解析は代数的な, 等号の話というか厳密解というか, そんな感じの話が得意なようなので, それを使ってハミルトニアンの固有値の詳細な解析とかできたら嬉しいのだが, そのへんはどうだろうか, とも思っている. 物質の安定性での基底エネルギーの評価だとかに使いたい. 一応, Schrodinger については河合先生の特異摂動の研究があるので全く関係ないということもないはずではある. ただ, 物質の安定性で出てくるハミルトニアンは Coulomb ポテンシャルが出てきて, これが有理型ですらないので, 使うのは難しいのだろうかとも思う.

私の興味ある部分に使える数学は, 微分作用素の解析学としては作用素論が, ある程度代数らしい話があるとすればむしろ作用素環になりそうだ. 研究の方でも何か面白い展開あれば嬉しい, と思いつつ代数解析を学んでいる.

    
Date: 2013-02-01 09:47:49 JST