2013年8月10日土曜日

筑波の竹山美宏先生によるセミナーについての注意書きページ

Twitter での元つぶやきを見つけられなくなってしまったが, 筑波の竹山美宏先生によるセミナーについての注意書きページ があった. いつも通りというか, 河東先生のページへのリンク も張られている.

セミナーの進め方については各自飛んでいって読んでもらうことにして, ここではメモがてら参考文献とその説明に関する記述を転記しておきたい.
卒業予備研究・卒業研究でのテキストの候補 (advanced なもの・竹山自身が読んでみたいものも含む) 以下に無いものでも, なるべく希望に沿うようにしますが, 竹山の専門と大きく離れたものについては対応できません. 以下には文献についての簡単な説明をしてありますが, 全部をきちんと読んだわけではないので, 鵜呑みにしないように. (内容の紹介として不適切なところがあったらご教示下さい)

ソリトン

ソリトンとはどのようなものかを感覚的に知りたければ, 高崎先生によるソリトン工房内の「ソリトンのさまざまな顔」 にあるアニメを見るとよい.
  1. 戸田盛和「波動と非線形問題 30 講」 (朝倉書店)
  2. 三輪哲二・神保道夫・ 伊達悦朗「ソリトンの数理」 (岩波書店)
  3. 広田良吾「直接法によるソリトンの数理」 (岩波書店)
  4. 戸田盛和「非線形格子力学」 (岩波書店)
  5. 高崎金久「可積分系の世界」 (共立出版)
戸田先生の「 30 講」の始めの方に, KdV/KP 方程式についての基本的な事項が解説されている. とりあえずこれを読んで, 広田先生の神業に酔いしれる (「直接法によるソリトンの数理」) か, 伊達-神保-柏原-三輪 (通称 DJKM) の一連の仕事をきちんと勉強する (「ソリトンの数理」). 「30 講」の中盤は, いわゆる戸田格子の話になっていて, これについては「非線形格子力学」にもっと詳しく書いてある. 戸田格子について, DJKM の仕事を踏まえて, その後の進展などなども含めて幅広く解説されているのが高崎先生の本.

量子可積分系

竹山の専門分野. 「量子可積分系」の数学的な定義があるわけではないので, 感覚的に分かりやすく説明するのは難しいが, 以下に挙げる本をパラパラ眺めて雰囲気を感じてほしい.
  1. 白石潤一「量子可積分系入門」 (サイエンス社)
  2. 神保道夫「ホロノミック量子場」 (岩波講座・現代数学の展開) (もしくは佐藤・三輪・神保による原論文 I--V )
  3. 土屋昭博 (述) ・桑原敏郎 (記) 「共形場理論入門」 (日本数学会メモアール)
  4. 山田泰彦「共形場理論入門」 (培風館)
  5. 鈴木淳史「現代物理数学への招待」 (サイエンス社)
白石さんの本は有限多体系 (Calogero-Sutherland model) を主たる対象として, 量子可積分系の研究に現われる様々な手法と考え方を紹介したもの. 解析力学のことから書いてあるから, とても親切で良い本 (のはず). 卒業研究ではこの本を読むことになるでしょう. 他のものは, その次に読むべき本として候補に挙げるもの. 神保先生の本は二次元の Ising 模型・ Ising 場の理論についての概説. 下に述べるパンルヴェ方程式の「復活」のきっかけともなったお仕事の話. せっかくだから, 時間と実力があれば, 原論文を読破してみたい. この話で構成される Ising 場の理論は有質量と呼ばれるクラスで, 共形場理論というのは質量ゼロの二次元の場の理論. 様々な無限次元リー代数の表現論や代数曲線なども関係してきて, 共形場理論から生まれ出た数学は, いまなお盛んに研究されている. 鈴木淳史さんの本は, ランダムウォークと量子可積分系の関係について解説したもの. まだきちんと勉強したことはないけど, 竹山が興味ある話の一つ.

超幾何関数

ガウスの超幾何関数, およびその多変数化.
  1. 犬井鉄郎「特殊関数」 (岩波全書)
  2. 原岡喜重「超幾何関数」 (朝倉書店)
  3. 木村弘信「超幾何関数入門」 (サイエンス社)
「特殊関数」は, 直交多項式などの様々な特殊関数を, ガウスの超幾何微分方程式を軸に統一的に論じたもの. 二階に限定しても, これだけの話があるのだから超幾何というのは深いのだ. 原岡先生の本は, ガウスの超幾何から出発して, 超幾何関数という対象に対する現代数学の見方を, 各方面から紹介するもの. twisted cohomology/cycle, グラスマン多様体, GKZ も登場する. 木村先生の本では, グラスマン多様体を中心に据えて, 多変数超幾何関数を統一的に論じている. 面白そう.

楕円関数

関数論の続きとしての楕円関数論.
  1. フルヴィッツ, クーラント「楕円関数論」 (シュプリンガー)
  2. 梅村浩「楕円関数論-楕円曲線の解析学」 (東京大学出版会)
フルヴィッツ・クーラントは楕円関数についてコンパクトにまとめられた本. 楕円関数は他の様々な数学と関係していて, そこが非常に面白いのだけれども, この本では敢えてストイックに楕円関数の基本事項を一直線にまとめている (のだと思う). 梅村先生の本では, フルヴィッツ・クーラントではあまり述べられていない, 楕円関数論の背後にある幾何についても言及している.
梅村先生の本, 前から読んでみたいと思っている.

パンルヴェ方程式

竹山はパンルヴェ方程式に関しては素人なのだけれども, ここ十数年でその世界が随分と広がったような印象と持っている. パンルヴェ方程式については, その歴史を紐解くだけでも結構面白い. これについては, やはり岡本和夫先生の「パンルヴェ方程式序説」をパラパラと見てもらいたい, のだけれど, 筑波の数学の資料室にはあるのだろうか・・・? 最近絶版になってしまったので購入はできませんが, どうしても見たければ, 竹山の部屋に一冊あります. (貴重な本を譲ってくれた O 君に感謝)
  1. 野海正俊「パンルヴェ方程式」 (朝倉書店)
  2. K. Iwasaki, H. Kimura, S. Shimomura and M. Yoshida, "From Gauss to Painleve" (Viewig)
野海先生の本は, パンルヴェ方程式についてその対称性を軸に論じたもの. 計算はそれなりの重量があるが, 行列式の計算ができれば読めてしまう. 野海先生の本が出るまでは, パンルヴェについて書かれた本で入手可能なものとしては, 「序説」と "From Gauss to Painleve" しかなかった. その名の通り, ガウスの超幾何の話から始まって, モノドロミー保存の方程式としてパンルヴェ (を一般化した Garnier 系) が出てくるまでを解説したもの. パンルヴェの専門家になるためには, 野海先生の本の話だけではなく, こっちの方の話も知っていなければならない (はず). ちなみに, 阪大の大山先生の本が出たら, すぐにでもこのリストに加えたいのだけれども, まだ出版されてない.
Painleve というと Twitter の Paul_Painleve さんを想起する.

常微分方程式

常微分方程式について基礎理論からきちんと学ぶ. 偏微分方程式をやりたい人は, 偏微分方程式を研究されている先生に指導を受けて下さい.
  1. 高橋陽一郎「力学と微分方程式」 (岩波書店)
  2. 高橋陽一郎「微分方程式入門」 (東京大学出版会)
  3. 高野恭一「常微分方程式」 (朝倉書店)
  4. E. Coddington and N. Levinson, "Theory of Ordinary Differential Equations" (Krieger, 和訳は吉岡書店)
高橋先生の「力学と微分方程式」は, 前半で定数係数線形常微分方程式の解き方がきちんと解説してあって, 後半は力学系の安定性の問題や変分法の入門的な内容となっている. 大学初年級向けとして書かれた本だけど, 扱っている例などはもう少し高級なところから取ってきてるので, 4 年生で読んでも十分かも知れない. 易しすぎるようであれば「微分方程式入門」の方を問題も解きながら読みましょう. こちらの方が数学の教科書としては硬派な感じがする. 高野先生の本は, 微分方程式の基礎理論から始まって, ガウスの超幾何のモノドロミーの計算, フックス型方程式, 不確定特異点とストークス現象の解説まであって, とても内容が豊富. 複素領域上の常微分方程式を学ぶための入門書としては最適なものだと思う. Coddington-Levinson は少し古い本だが, 有名な教科書. 自己共役作用素の固有値問題についても詳しく論じてある. こういう古典的かつ本格的な教科書をじっくり読むのも面白いのではないかと.

表現論

表現論とは何か? については, 京大の西山先生による 表現論 WEB を見てもらいたい.
  1. 平井武「線形代数と群の表現 I ・ II 」 (朝倉書店)
  2. 神保道夫「量子群とヤン・バクスター方程式」 (シュプリンガー)
  3. 谷崎俊之「リー代数と量子群」 (共立出版)
  4. 草場公邦「行列特論」 (裳華房)
表現論はいろんなアプローチの仕方があって, 抽象代数的な表現論を学ぶのであれば, そういう感じの本から入るのが良いと思う (セールの教科書とか). 表現論の入門書はいろいろあるので, ゼミで実際に何を読むのかは相談して決めます. ここでは, 解析っぽい表現論の入門書ということで, 平井先生の教科書を挙げておく. 易しいところから出発して, かつとても教養に溢れた楽しそうな本. ちなみに竹山は, 学生時代に平井先生の函数解析の講義に出ていたが, その試験の問題 1 は, 「数列空間 l^{2} は完備であることを示せ. ただし鶏肉を切るに牛刀を用いるが如き証明は不可」. だった. これ以上にカッコいい試験の問題文というのを見たことがない. 神保先生の本は量子群とその表現の入門書. 最後に Face 模型が出てくるところが嬉しい. 谷崎先生の本は無限次元のリー代数である Kac-Moody 代数の入門書. Kac-Moody の日本語の入門書としては, 他に脇本先生の岩波講座があるのだが, こっちはまだ (日本語では) 単行本化されていない. (追記:2008 年 7 月に単行本化されました) 「行列特論」を表現論の本だというのは少しズレてるような気がしないでもないけど, 第二部は quiver の表現論だ, ということで許して下さい. 線形代数だけを使って三つの面白い問題を論じている名著. ここで紹介するにあたって, パラパラと眺め直してみたのだけれども, やはりとても面白そうなので, 誰か読みませんか?
平井先生のこれ, 格好いい.
ちなみに竹山は, 学生時代に平井先生の函数解析の講義に出ていたが, その試験の問題 1 は, 「数列空間 l^{2} は完備であることを示せ. ただし鶏肉を切るに牛刀を用いるが如き証明は不可」.

母関数~組み合わせ論・整数論

もしくは「組み合わせ論や整数論と関係する q-解析」.
  1. アンドリュース, エリクソン「整数の分割」 (数学書房)
  2. G. Andrews, "The Theory of Partitions" (Cambridge Univ. Press)
  3. D. M. Bressoud, "Proofs and Confirmations" (Cambridge Univ. Press)
  4. B. Berndt, "Number Theory in the Spirit of Ramanujan" (AMS)
最初の二冊は整数の分割 (partition) についての本. partition というのは, 非負整数を非負整数の和で書くことで, 例えば 6 の分割は, 6=5+1=4+2=4+1+1=3+3=3+2+1=3+1+1+1=2+2+2=2+2+1+1=2+1+1+1+1=1+1+1+1+1+1 となる. このような分割が何通りあるか, というのが partition number と呼ばれるもので, その性質についていろいろと論じられているのが最初の二冊. "The Theory of Partitions" は関数論の続きとしても読める (たぶん). "Proofs and Confirmations" は, alternating sign matrix の数え上げという組合せ論の問題が, 二次元の可解格子模型の話 (物理の問題!) を使って解けてしまった, という話の解説. "Number Theory in the Spirit of Ramanujan" は, ラマヌジャンの数学の易しい入門書. ラマヌジャンはインドの天才数学者. 詳しいことはネットで調べればいくらでも出てくるだろう.

古典的な数理物理

大学院数理物質科学研究科数学専攻に進学希望の学生さんは対象外. 大学で学ぶ数学が, 物理でどのように使われているかを学ぶ. もしくは, 物理に出てくる数学を, きちんと扱うとどうなるかを学ぶ. 一年生の微積分の内容を仮定する.
  1. アーノルド「古典力学における数学的方法」 (岩波書店)
  2. 深谷賢治「電磁場とベクトル解析」 (岩波書店)
  3. 深谷賢治「解析力学と微分形式」 (岩波書店)
こういう本を紹介するときにアーノルドの本は外せないのだけど, 学生さんにとっては本格的すぎで手が出しづらいかも知れない. 実は竹山は未読なのだけど, とても面白そうで, いつか時間をとって読んでみたいと思っている. ちなみにロシアの数学科の学生はみんなこの本を読んでいるという噂がある. (あくまでも噂) 最近の本では, 深谷先生の上の二冊が挙げられる. 深谷先生の「電磁場と電磁気学」では, 二次元・三次元のベクトル解析の話がまずあって, これを踏まえて最後の三分の一で電磁気学の理論が展開される. 「解析力学と微分形式」は, ハミルトン系の幾何学的な理論を紹介したもの. ここで紹介する文献は, 内容が古典力学と電磁気学に偏ってしまっているけど, 流体力学や量子力学の解析学的アプローチに興味がある人は, 偏微分方程式を研究している解析の先生に指導を受ける方が良いでしょう.

大学の解析をきちんと勉強して卒業する

大学院数理物質科学研究科数学専攻に進学希望の学生さんは対象外. 大学を卒業するまでに, 一度は本気で自力で数学と格闘するためのコース. 必要が生じたら面倒がらずに微積分の復習をする覚悟を持っていて, かつ自分が理解できるまでしつこく考える意欲があって, かつ十分たくさんの時間を卒業研究の勉強のために費す決意のあることが必要条件. テキストの練習問題もきちんと解きながら読み進める.
  1. 斎藤正彦「微分積分学」 (東京図書)
  2. ケッヒャー「数論的古典解析」 (シュプリンガー)
  3. ポントリャーギン「常微分方程式 新版」 (共立出版)
  4. スピヴァック「多変数の解析学」 (東京図書)
  5. 原岡喜重「多変数の微分積分」 (日本評論社)
斎藤先生の本は微積の教科書. 一年生の微積の知識が不十分な場合には, このレベルから (相当のスパルタで) 勉強してもらう. 高校の微積の復習から出発して, ベクトル解析の概説まで. これはブルバキスタイルを身につける練習として使う. ただし, この本の内容で卒業研究発表をするわけにはいかないので, 発表用に何かしら古典的な題材について学んでもらうことになるでしょう. 「数論的古典解析」は, 一変数の微積分が, 解析数論に現われる問題にどのように応用されるのかを紹介したもの. ポントリャーギン「常微分方程式」は, 常微分方程式の有名な教科書. 工学の問題への応用など, ポントリャーギン先生の教育的配慮に満ちている本. それだけでも十分感動的である. 内容はそれなりに本格的. 頑張ってきちんと読んでみましょう. 「多変数の解析学」は, 竹山が学生時代に多変数の微積分を勉強した本. 最近復刊された. 多変数の微分の概念から始まって, 一般次元のストークスの定理の証明まで, 無駄なくスッキリと話が進んでいく. 薄い本ではあるが読みごたえがある. スピヴァックが難しすぎるようであれば, 微積分の復習をしながら原岡先生の本をきちんと読む.
数論的古典解析, 前から読んでみたいと思っているが手を出せていない.

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