2013年4月2日火曜日

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 4 Cauchy-Schwarz の不等式


今回は Cauchy-Schwarz の不等式の証明をする. この段階でいきなり一般的にこの不等式の証明をつけるのはどうしようかと思ったのだが, それでもつけることに意味があると思ったのは次の理由による. これから Legendre 多項式や Laguarre 多項式といった直交多項式と Hilbert 空間の関係を紹介していくが, そのときに前回紹介したのとはまた少し違う内積を使う. 少し違う場合であっても, 内積の公理を満たすのであればいつでも成り立つということを伝えたいからだ. Cauchy-Schwarz の不等式は内積の公理から直接証明できることであって, 内積の具体的な取り方にはよらないということは, 証明を見ればはっきりするから.

あとで使うということもあって, Cauchy-Schwarz の不等式の証明の前にいくつか概念や予備定理を準備しよう. 有限次元と同じことだが, 念の為きちんと定義しておきたい.

以下, \(\mathcal{H}\) を Hilbert 空間とする.

定義:規格化.

零でない任意のベクトル \(\Psi \in \mathcal{H}\) に対して次の単位ベクトル \(\tilde{\Psi}\) を作る手続きを規格化という. \begin{align} \tilde{\Psi} := \frac{\Psi}{\Vert \Psi \Vert}. \end{align}

定義:ベクトルの直交.

ベクトル \(\Psi\), \(\Phi \in \mathcal{H}\) が \(\langle \Psi, \Phi \rangle = 0\) を満たすとき, \(\Psi\) と \(\Phi\) は直交するといい, \(\Psi \perp \Phi\) と書く.

定理. (Pythagoras の定理)

\(\Psi\), \(\Phi \in \mathcal{H}\) が直交するならば \begin{align} \Vert \Psi + \Phi \Vert^2 = \Vert \Psi \Vert^2 + \Vert \Phi \Vert^{2}. \end{align}

(証明) 定義に従って左辺を直接計算すればいい. \begin{align} \Vert \Psi + \Phi \Vert^2 = \Vert \Psi \Vert^2 + 2 \Re \langle \Psi, \Phi \rangle+ \Vert \Phi \Vert^2 = \Vert \Psi \Vert^2 + \Vert \Phi \Vert^{2}. \end{align} ここで \(\Re z\) は複素数 \(z\) の実部を表す. \(\blacksquare\)

もちろん, これはいわゆる「三平方の定理」だ. Pythagoras の定理も内積の公理から直接出てくることが分かる. こういう感じで Cauchy-Schwarz の不等式も証明できる.

定理. (Cauchy-Schwarz の不等式)

任意の \(\Psi\), \(\Phi \in \mathcal{H}\) に対して \begin{align} | \langle \Psi, \Phi \rangle | \leq \Vert \Psi \Vert \, \Vert \Phi \Vert. \end{align} 上式で等号が成り立つのは \(\Psi\) と \(\Phi\) が一次従属のときに限る.

(証明) 場合分けして考える. \(\Phi = 0\) のとき, 成立は自明. \(\Phi \neq 0\) のとき, \(\Phi' := \Phi / \Vert \Phi \Vert\) とすると, \begin{align} 0 \leq \Vert \Psi - \langle \Psi, \Phi' \rangle \Phi' \Vert ^2= \Vert \Psi \Vert^{2} - \left| \langle \Psi, \Phi' \rangle \right|^{2}. \end{align} したがって \(\left| \langle \Psi, \Phi' \rangle \right|^{2} \leq \Vert \Psi \Vert^{2}\) となり, \(\Phi'\) を \(\Phi\) に戻して Cauchy-Schwarz の不等式が成り立つ.

等号成立時の条件について考えよう. 等号が成り立つとき, 上の導出から \(\Psi - \langle \Psi, \Phi' \rangle \Phi' = 0\) だから一次従属性が分かる. 逆, つまり一次従属なら等号が成り立つことは明らか. \(\blacksquare\)

このとおり, Cauchy-Schwarz の不等式は内積の性質しか使っていない. ついでに Pythagoras の定理も内積の性質から導けることが分かった. 次回はこの認識に立って色々な \(L^2\) 空間, 内積とそこから出てくる直交多項式を紹介したい. 具体的には色々な線型の偏微分方程式の解法で出てくることを紹介して, それらの背後に Hilbert 空間があること, Hilbert 空間で統一的に数学的な部分を把握できることを紹介する.

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