2013年1月29日火曜日

微分と積分は逆の演算という説明は(応用上)よろしくないし教育上不適切

全く関係ない事を調べていて,微分積分に関する地獄のような回答 を見つけた. 質問については,知恵袋に書くなら普通にググればいいのでは,と思うのだが質問と回答(ベストアンサー)は次の通り.
微分積分の定義を教えて下さい! あとその内容が載っているサイトなどもありましたら教えて下さい!お願いします!
微分の定義は、 dy/dx=lim[Δx→0]{y(x+Δx)-y(x)}/Δx 積分の定義は、 int (dy/dx)dx=y(微分の積分は元の関数) となっています。 微分と積分は互いに逆のことを行っているので、ここさえわかれば簡単になると思います。
「教科書を読もう」という他の方の回答があったが,質問者がどういう背景を持っているか分からないので微妙なところとはいえ, 確かにまずはそこをおさえてほしいとは思うが,それ以上に回答者がやばすぎる.

専門的な問題はさておき「高校での数学」として一番の問題は「微分と積分が逆」と言ってしまうと 「微分が分からないと積分が分からない」という誤解を招きかねない点だ. よく数学は積み上げ型みたいなことが言われるので「微分が分からなくても積分は独立にカバーできる」と 強調することは大事だろう. また,全くもって嬉しい話ではないが,最近は放射線関連で積分を使った量が出てくることがある. 積分単体での意義がここで問われるし,そこと関係が深い積分と面積の結び付きが弱くなりかねないことも大きな問題だ.

その他,良く「微分は接線を求めること」「積分は面積を求めること」という感じで出てくるが, この二つが逆というのは(私には)感覚的に受け入れがたい. そこで余計な混乱を招くのではないか,というところもある. これについてはいわゆる文系の方や数学で挫折した方などにご意見を伺いたい.

Twitter での関連する kyon_math さんのコメントも引用しておこう. これ と これ だ.
@phasetr 「微分と積分が(ある理想的な状態で)ほとんど逆」っていうのは「微積分学の基本定理」の 内容なので,やっぱり,微分と積分には独自路線を行っていただくのが正しいのでは?
積分の方が何となく primitive な概念であるような印象はある. 実際,積分の方はギリシャ数学の時代から,面積や体積というフレーズで論じられて来た. 微分は Newton & Leibniz で相当新しい.
ここからは数学的にある程度専門的な部分について考える.
微分と積分は互いに逆のことを行っているので、ここさえわかれば簡単になると思います.
これは高次元に行くとかなり面倒になる問題なので,いい説明だと思えない. もちろん Stokes の定理という大事な高次元版があるので,高次元でも適当な条件下ではこれ以上ないほど 適切で大事な指摘ではあるが,まず上に書いた問題がある.

その他,f:RnRm の微分の逆が「積分」と思っていいか, それで理解できるかというと,相当苦しい.

多変数の扱いは(工学的)応用上決定的に大事だが,こういうところで変な尾を引く説明という気もする. むしろこのあたりの応用を見越した話ということでいえば,微分と積分を別個に教えた方がいいくらい.

また完全に数学的な話なので(高校水準の話としては)どうでもいいのだが,こういう形で微分と積分を学んだとき, 微積分学の基本定理の意義が全く感じられないのはどうしたらいいのだろう,ということも考えた.

あまり程よい初等解析学の本を知らないのでいつも苦慮するのだが,私が良く参照するのは 杉浦光夫の解析入門だ. 証明が尋常ではないほど丁寧なので,困ったときにはとても助かる. 逆に詳しすぎるので,通読には向かない. 辞書として分からないことがあったときにあたるととても便利なので,そういう用途には積極的に勧めている.

教科書として通読するのに良い本があれば是非教えてほしい.

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