2013年8月20日火曜日

数学と現実問題の狭間で: 応用数学や数理工学

このようなやり取りがあった.
うーん, だって論理は教えてませんからねぇ. RT @kagami_hr: Q ちゃんさんや嘉田さんのポストを読むと, 国立大学でも入学した学生さんの基本的な論理や日本語の使い方について, かなり深刻な状態になっているみたいだ. 少し認識が甘かったかも知れない. 
@kyon_math 先程の内容については, ある程度の学力がある人ならば特に教わらなくても分かるのではと思っていましたが, かなり認識が甘かったようです. 
@kagami_hr @kyon_math 3 流大学で数学をやっていると, マジで絶望しますよ. しかもその中から結構な数の教員が... 
@aoeui666 @kagami_hr 絶望してても始まらないので, 高校の先生のスキルアップの必要性を感じてます. 米国数学会などは意欲的な先生を集めて, 少し高度な数学や, おもしろい教材などを紹介する夏期講習会みたいなものをやってますね. 
@kyon_math @aoeui666 @kagami_hr 教育学部数学科の学生が, 高度な数学を学ぶことを嫌がるのを, どう教育するかという問題も出てくると思います. 教育実習とかやった後に「もっと数学やっておかなくちゃ」と感じる学生も多い. 
@Paul_Painleve @aoeui666 @kagami_hr 最近は, よく「ボクは現実に即したことをやりたいんです」という人がいます. 聞いてみると, パズルとか, ルービックキューブとか, 株価とかですね. 「抽象的な理論はやりたくない」の裏返しだろうなと思ってます. 
@kyon_math @aoeui666 @kagami_hr 現実を数学にするというのは, 抽象数学が必要になって, 本当はとても難しいのですけどね. 解析も幾何も嫌いだから, 高校数学程度のイメージで「整数論やりたい」という学生に通じるのかもしれません. 
『「抽象的な理論はやりたくない」の裏返しだろうなと思ってます』というのに対する真偽の程はともかく, 『「ボクは現実に即したことをやりたいんです」』というのは地獄としか思えない. Paul_Painleve さんも言っているが, 数学を現実問題に使っていくのはとても難しい.

他にもいくつか記録しておくべきやりとりがある. まずはこれ.
ルービックキューブにしても, 渋滞問題にしても, 株価にしても, 15 ゲームにさえその背後には深い数学があったりする. しかし, それらの数学は抽象的であり, 抽象的だからこそさまざまな問題に応用できる. ここを飛ばすと, 原因と結果を短絡させることしか残っていない. 
@kyon_math ≪卒論要旨≫ ルービックキューブや 15 パズルも, 群論使って最短経路とか解き明かすよりも, さっさと手を動かす方が速く完成するから, 数学なんて役に立たないとわかりました. このことを教えてくれた kyon 先生に感謝します. 
@Paul_Painleve それが自分で体得できたらもう卒論の単位なんて 10 倍位してあげます. #教わるだけじゃダメ 
@kyon_math わ~い, kyon 先生から 100 単位もらった~ ルービックキューブ流行時, トポロジーの T さん等が凄い研究ノートを作っていて森毅もこりゃかなわんと思っていたら, 野崎さんだか誰かが本書いて売れた. 「あんなしょうもない本が売れるんやったら, 俺が先出すんやった:」 
@Paul_Painleve 「もう君に教えることは残っていない. 君は自分の数学を追い求めてゆけばいい」なんてカッコいいセリフを一度言ってみたい. でも実際に言うときは限りなく悔しいだろな. 
@Paul_Painleve ルービックキューブは複雑だと言ってもしょせん有限群の一つにしかすぎませんからねー. ルービックキューブが ubiquitos だとかわかるとみんな飛びつくかもしれないが, そんなことありそうもない. 
@kyon_math 良いゲームは, 数学的には決して複雑ではないが, 数学として扱おうとすると煩雑で解法が簡単にはわからない, という性質を持っていると思います. 「わかりやすいけど, やってみると難しい」という意味ではフェルマー予想は, 究極かつ至高のゲームだったかも. 
@Paul_Painleve 師匠のゲームもありますね。 米国ではコンウェイの名前がついてるようですが。 あれは、単純でいながらある種の有限な決定的ゲームを包括するという意味でも驚きだったかも。 
@Paul_Painleve K先生の著書が待たれる。 
@kyon_math Kさんは、S.-WELTERのゲームと呼んでますが、WELTERの論文自体は有名でなくて、 Conway「On Numbers and Games」http://www.amazon.co.jp/dp/1568811276 で紹介されたものが知られているようですね。
@kyon_math 確かに、マヤ・ゲームは「単純だけど普遍性をもつ」という意味で凄いゲームですが、 ルービックキューブほど一般受けがしないのは、ゲームとしての面白さで及ばないからでしょう。 必要な数学もちょっと難しい。
あと, この kyon_math さんのツイートについている Paul_Painleve さんのリプライがとても大事.
だいたい数学科に入ってきて「現実の問題をやりたい」なんてやつはいなかった。 むしろそっちの方が問題だった。 数学とは本来抽象的なもの。 
@kyon_math 現実の問題を数理科学として取り組もうとしても、簡略化しすぎて現実と離れるか、複雑すぎて扱いきれないか、どちらかになることが多いですし。 後者だと、普遍化できずにその問題にしか使えない特殊計算になり、前者だと構造は見やすいが現実とは完全に別物な空論になる。
kyon_math さんが言及した学生がどこまで考えて言っているのか分からないが, 現実問題を議論するのはとても難しい. 第 4 回の関西すうがく徒のつどいでも少し話すが, 現実の問題を考えるのは死ぬ程つらい. 本当に現実的な設定でやろうとすると厳密な数理解析としてはまず手が出ないし, 手が出せるレベルにしたらしたで, 今度は現実とかけ離れているので, どういう風に意味づけするかという部分で非常に苦しくなる.

有名な話らしいのだが, 1 つ確率論・数理ファイナンス周辺で次のような話がある. 高橋陽一郎さんが「数理ファイナンスというのは物理でいうと理想気体を扱っているようなもので, 現実離れしたとても綺麗なところしか扱えない. 」と評していた覚えがある. あと小ネタとして, サルコジが「数学 (数理ファイナンス) がリーマンショックを生み出した元凶だ」みたいなことを言ったそうなのだが, そのときにフランスの数学者達が連名で「数学が悪いのではない. 数学的な仮定があてはまらないところにまで無理にあてはめようとした人間達の問題だ」という抗議声明を出したと聞いている.

応用数学・数理工学的に現実問題を考えるとき, 色々な意味で普通の数学の感覚からは離れてものを考えないといけないし, 数学外の現実問題も考えている必要がある. 色々あるが, 例えば あの人検索 Spysee のソーシャルグラフとか. Spysee でどうやっているのかは知らないが, この手のことをしている人(具体的にはチームラボの猪子寿之さん) に聞いたところによると, 次のようにして計算して表示するらしい.
  1. グラフの中の人数に対応する高次元の空間で, 人と人の間に仮想的なバネをつける.
  2. バネの「バネ定数」は色々なデータから適宜設定する. (Spysee の場合は web 上から色々調べて設定しているはず. )
  3. これを 2 次元に落とす.
  4. バネのエネルギーが最小になるような配置をする.
関係性が強い人の間ではバネ定数を大きく設定すれば, 距離が近い方がエネルギーは低くなる. そうしてソーシャルグラフの遠近に意味付けをしていると聞いた.

ここで現実を考えたときにいくつか問題がある. まず最小値が存在するかだ. 最小値があったとしても問題がある: その解を現実的な時間で計算できるかだ. 「現実問題」として, いつまで経ってもグラフが表示されなければ, ユーザはページ遷移して離れてしまうだろう. 短時間で計算できるアルゴリズムが求められる.

短時間で計算できなかったり, 最小値がない場合, いくつかの対応方法がある. Spysee のようなサイトでは厳密な結果がいらないだろうから, そういう設定で考えよう. もちろん, このとき「厳密な結果がいらない」という判断をすること自体, 数学の意識の枠外であることに注意してほしい. 何となくそれっぽい結果が得られればいいので, 適当に近似計算をすればいい. 「適当に近似計算する」といってもそれをどうするか, という問題はあるがそこまで深いところには触れないことにする. ちなみに適当に近似計算していることは実際の結果を見てみると分かる. アイドルマスターの秋月律子が出ているからだ. これはアイドルマスターのアイドル, 菊地真 (女の子だ) と何かよく分からないが混同されていることから来ているのだろう. ただ, 計算結果というより, その前段の Web から情報を取ってくる段階での問題かもしれないのだが. ちなみに, 以前は菊地さんの画像自体, まこまこりんだったことを付け加えておきたい.

他の方法についても書いておこう. 今の場合, そんなに頻繁にソーシャルグラフが変わらないことが予想できる. (もちろん数学以外の知識を使わなければこの判断はできない. ) だから時々計算してその結果をデータベースに入れておき, リクエストがあったときだけ結果を呼び出すようにすれば, ユーザの待ち時間が短縮できる. 場合によっては計算機資源の節約にもなる. また, アクセス解析をした結果, ページのリクエストは早朝 3-6 にはほとんどないことが分かっているとしよう. 定期的な再計算をこの時間帯にすることで計算機資源の有効活用することができる. このとき, 近似計算の精度を上げた計算を回すことができるかもしれない. こういう話は Google のページランクの話とも色々関係する. ほとんど数学的な面だけしか議論していないが, 興味がある向きは 私が前に作った動画 などを参照してほしい.

面倒なのでこのくらいにしておくが, 現実に即した役に立つことをしようと思うと色々なことを考える必要がある. 軽々しく「現実問題をやりたい」「役に立つことを」などと口にしてはいけない. そのためには知らなければいけないことがたくさんあるし, 他の人との協力プレーだって必要になる. 解きたい問題が自分の知っている数学で解ける保証もない. 必要なら勉強するなり新しい数学を作る必要すらある. 第 3 回のつどいでのーてぃさんが発展途上のパーシステントホモロジーと画像処理の話をしていたが, そういうことだ.
自分の無能さに歯を食いしばりながらアタックする覚悟があるのか. 私は色々な面でそうした能力がなかった悲しみに打ちひしがれている.

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