2013年3月23日土曜日

Twitter まとめ:病的な数学と美しく健全な数学と


あとでご自身でまとめるようだが, ゼルプスト殿下が次のような呟きをしていた. この辺 から始まる.
昨日盛り上っていた「パソい位相空間」の話だけど、 公的見解としては「本当はパソろじい位相空間」という言葉を提案する。いっぽう、 
私的には、俺は「病的」という表現が好きになれないし、例としての異常さを主眼とした研究プロジェクトには乗る気はない。 いわゆる「メンヘラ」流行りも好きではない。 「心身の不健康」を売りにするのは、「心身の健康」を売りにするのと同じくらいくだらない。 
その一方で俺はカントール集合をはじめとするフラクタル図形が大好きだ。 それらは最初はたしかに病的な異常な例として提案されたものだが、俺はそういうものとして愛好しているのではなく、 あくまで理論的に有意義でおまけに美しい対象として追求しているつもりだ。
「選択公理のない数学に含まれる意外な結果」や「選択公理から導かれる意外な結果」についても同様。 
カントール集合がカントールとスミスによって独立に発見されるまで、 いまの言葉でいう「至る所非稠密」と「外容量ゼロ」と「カントール・ベンディクソン階数が有限」という概念を デュボアレイモンやディリクレといった一流の数学者といえども区別できていなかった。 
つまり「どんな小さな区間においても稠密ではない」けれども「孤立点がない」ような点の配置は、 1870年代前半までは、数学者の「健康な数学的直観」の射程にはなかったし、論理的可能性としても検討されていなかった。 
そして、不連続点の配置が、これら曖昧に同一視された「点の小さい集まり」に含まれるような有界函数はリーマン積分可能と信じられていた。 (以上はT.Hawkinsの本「Lebesgue's Theory of Integrals」による) 
そこへスミスとカントールがカントール集合すなわち「至る所非稠密な完全集合」をもって登場した。 そういう背景を考えれば、当時、カントール集合が「病的な例」とされただろうことは容易に想像がつく。 
しかし、スミスはたしか「小数点下に4が出てこないように10進展開できる実数の全体」を考えたのだから、 後知恵で振り返ると、それに先立つ世代の「健康な数覚による実在する数学的現象の直観的把握」のほうが片手落ちだったと言わざるをえない。 
まとめれば、カントールの「単位閉区間上の1が出てこないように三進展開できる実数の全体」が病的な例であったのは、 それ以前の「健康な数学的直観」にとってのみであり、 その後発展をみた測度論や位相空間論や力学系理論においては、カントール集合にはいたるところで出会うことになる。 
これ、あとでまとめて「昨日のて日々」に書くだ。 
「病的な例」のホームラン王たるバナッハ=タルスキの定理にしても、測度問題の発展史という背景において見るべきだと思う。 たしかに驚くべき例なのだが。 
つどいで市民の話を聴けなかったのは残念だが、それにはやむを得ぬ事情があったのだ。 
@phasetr そのファインマンの「経路積分」もその当時の数学の文脈ではトンデモあつかいだった。 けどそれを言ったらニュートンやライプニッツだってそうだし、むしろそういうものこそ数学の発展をリードするわけですからね。 
ニュートンvsバークリとかライプニッツvsニイエンティイト(と読むのか?)とか、あるいはカントールvsクローネッカーだってそうだけど、 批判者のほうが論理的に首尾一貫した堂々たる理論を展開できるのは、新しい理論の創造性のいわば代償のようなものなんだろう。
これに対して私の方からも適当に呟いておいたのをまとめてきたい.
私が好きなのは、普通に数学をやっているとなかなか出くわさない、またはある種異常な振る舞いをしてくる(物理由来の)対象、 またはある時点での「美しい数学」では捉えることのできない物理由来の変な現象が好き。 病的な例というより適当な意味で特異性のある話が好き。つどいでも少し話したが 
@phasetr つどいで少し触れたし、多分そのうちどこかで詳しく話すが、殿下の話、物理関係だと時々出てくる。 フォンノイマンはデルタ関数が嫌で関数ではないことの証明を本の中でわざわざ付けたらしいし、III型フォンノイマン環の物理でも大雑把に言って似た話がある 
@phasetr デルタ関数からは超関数論が花開いたし、日本からはさらに代数解析という最高レベルに貴族的で美しい数学が生まれた。 三型環には冨田竹崎という作用素環の至宝が生まれ、非可換幾何やそこと数論の関係でも使われる。
@phasetr その辺の「病的」なところを「綺麗」な数学にするみたいなことが私の数学的な部分のモチベーションの大きな部分になっている 
@phasetr 三型環だと極端な話がある。存在自体は分類がされた当初から分かっていたようだが、具体例が作れなかった。 具体例は相対論的場の理論と量子統計への応用で出てくるほぼ全ての環が三型だ、という形ではじめて構成された。 こういう話がすごい好き 
@phasetr フォンノイマンの論文に本当に書いてあるが、作用素環自体が量子力学への応用を念頭に見つけた理論だ。 あと作用素環で重要な線型汎関数に状態(状態空間というのもきちんとある)というのがあるが、この名前の由来も物理だ。 荒木先生だとか有名な人で物理出身の人も多い
超関数の話については Fourier との関係でこんな動画を作ったことがある. また冨田-竹崎理論についてもこんな動画 を作った. そのうち何かのつどいで経路積分の話などもしたい.

追記

knyokoyama さんから次のような補足ツイートを頂いたので載せておく.
ご参考:http://bitly.com/11yeIBJ 数学会誌に、河東先生の「荒木不二洋先生のフンボルト研究賞受賞に寄せて」という作用素環の話が書かれてます. 引っ張り出しました.
実際に III 型環の具体例が相対論的場の理論を使ってはじめて作られたという話が書いてある.

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