2013年1月27日日曜日

書評:幾何学的変分問題


kazz_281さんによる簡単な書評 があったので,Twitter でも少しつぶやいたのだが私も以前読んだ感想をまとめておこう.


調和写像に向けて丁寧に書かれた本でのんびりしていて非常によい本だったことは強調したい. この本で扱っているのは幾何と解析にまたがる分野だが,双方ともにそれ程予備知識は仮定されず, しかも内容的にもそれぞれについて深い知識は必要にしないにも関わらず かなり突っ込んだ内容まで書かれているのは率直に凄いと思う.

あとで内容に触れるときにも少し書くが,変分は物理でも大事な教養で本の内容自体も解析力学に直結している. 解析力学関係の数学,特に変分を真面目に勉強してみたいと思う物理の人向けには丁度いいと思う. 当然この周辺に興味がある数学の初学者にもいい.

まず変分について. 微分法の一般化にあたる. 微分では関数の極値を取る数値を求めるのが大事な仕事になるが,「関数の関数」を考えてその「関数」の極値を与える 関数を求めるのが変分の基本的な考え方になる. これは力学だと粒子の経路を求めるのに,エネルギーが最小になる経路(関数)を求める問題にあたる. エネルギーが経路(これ自体関数)の関数になるからだ. 実際歴史的に見てもこの力学の問題が変分のはじまりだ.

第1章では実際にこの力学の問題を扱う形になっている. 本には物理的なモチベーションについては特に書かれていないが,物理の方は式を見ただけで大体分かると思う. 適宜物理の本で復習しながら読み進めると楽しいだろう. 曲線に関する話を軸に接続や共変微分が定義される. 微分幾何の基本的な重要な概念なのでここできっちり勉強しておくととても役に立つはずだ. 接続の幾何は今の超弦関係でもとても大事な話のはずだ. そちらでも大事な概念だと思うが,複素幾何を学ぶときに Chern 類の微分幾何的定義でも 曲率が出てくるので,とても大事な箇所なので丁寧に読みたい.


第2章では曲率を議論する. Riemann 多様体の基本的な対象なので,当然とても大事なところだ. 定理 2.19,Hopf-Rinow の定理など,Riemann 幾何の基本的な概念や定理も紹介されているので, Riemann 幾何入門としても使える. 2.5節で具体的に Riemann 幾何への応用が議論されるが,定理 2.24,Myers の定理はやはり強烈だ. Ricci テンソルに関する条件から多様体のコンパクト性や基本群に関する位相的な情報が出てくる. 詳しくないので大分アレだが,Ricci テンソルは曲率に関係する概念であって, 曲がり具合から位相構造が制限されるというのはなかなか意味不明で凄まじい.

第3章ではとうとう写像のエネルギーの話から調和写像に入る. 色々なベクトルバンドルとそこでの接続が出てくるのでかなり大変な章だが, 本格的な議論が始まってくるので楽しくなってくる所でもある. トポロジーなどでベクトルバンドルの一般論を学ぶ前に具体例に親しむという目的に使ってもいいだろう. 私は実際にかなり参考になった. 調和写像はこれまでの議論を具体例として含むこと,他の興味深い話題も含んでいる大事な概念であることが具体的に説明される.

最後に第4章で調和写像の存在が議論される. ここで関数解析というか解析的な議論が出てくる. 多様体上の非線型偏微分方程式に興味がある人が読むと参考になるのではないかとも思う. Holder(oにはウムラウトが付く)空間が出てくるのだが,これは楕円型正則性(elliptic regularity)でも大事になる空間で, 関係する人はきちんと勉強しておく必要がある. ごりごりの解析になるので,初読時にはさらりと流してもいいと思う.
付録も簡潔にまとまっているので他書を読むときに参考になる. 現代数学への展望も読むだけで楽しいので是非読まれたい.

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