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2014年3月22日土曜日

楕円型正則性と水素原子の量子力学

こんな下らないことを呟いていた.



地味で清楚系と思っていた楕円型非線型偏微分方程式の解が実は解析的にめちゃくちゃ特異的で騙された


よく知らないが, はてなの匿名ダイアリーとか何とかいうのでまた異常者が湧いていたらしく,
それに憤慨している方々がいた.
そこの流れを見てのことだ.


それについて こんなコメント がついたので.



いや, それ自明…


@world_fantasia http://en.wikipedia.org/wiki/Elliptic\_operator#Elliptic\_regularity\_theorem
楕円型正則性を背景にしたネタです.
私が知っているのは線型の方の楕円型正則性で非線型の方はよく知らないのですが


@phasetr なるほど, 分からん.
かいつまんで言えばある物理的条件のもとで連立非線形偏微分方程式を解くというのが私の修論だったんですが,
解析解が出そうででなくて苦しかった


@world_fantasia 簡単にいうと, 楕円型の方程式の解は 2 回微分可能であれば十分なわけですが,
実際に解の性質を調べてみると 2 回よりも多く微分出来て,
場合によっては無限回微分可能, さらには実・複素解析的になることすらあると言う話です


@world_fantasia 具体例としては複素解析関数です.
コーシー・リーマンの方程式からラプラス方程式 (一番単純な楕円型) の解になることが分かりますが,
コーシー・リーマンがバックにあるならこれが複素解析的 (実部・虚部だけならそれぞれ実解析的) なのでそんな感じの話です


@phasetr あ~, なるほど.
わざわざ具体例まで挙げていただいてどうもありがとうございました


@world_fantasia あと全くの別件ですが, 解析解というの, 多分物理ジャーゴンで数学の人には通じないです


@phasetr それは興味深い.
まさか解析解が物理語だったなんて今の今まで全く知りませんでした


@world_fantasia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A7%A3%E6%9E%90%E7%9A%84
【解析解: 問題が「解析的に解ける」とはその解が既知の函数や定数などを用いて閉じた形の式に表せることを言う】と言う感じの使い方と思いますが,
数学でこういう使い方見たこと聞いたことないですね


@world_fantasia 【解が (実・複素) 解析的である】とかいうのはもちろんしょっちゅう使いますが


@world_fantasia もう一つついでに楕円型正則性についていうと, 水素原子のシュレディンガーが特徴的です.
楕円型正則性を議論するのには係数関数 (今はポテンシャル) の正則性も効いてきます.


@phasetr 言われてみれば確かに物理数学の教科書でも解が解析的あるって表現はよく見かけますが「解析解を求める」なんて文章は読んだ覚えがないな…なるほどなるほど


@world_fantasia 水素原子は厳密解が出ますが, ポテンシャルの原点特異性を解も引き継いでいます.
一方でポテンシャルは原点以外で滑らかですが, 解も同じく滑らかになります.
もちろん一般にはラプラシアンの係数関数 (実際は定数) の滑らかさも当然効きます.
そういう話です


@phasetr うおー, 段々私の学力じゃついていけなくなってきたぞ.
水素原子のシュレーディンガー方程式とか厳密に解ける唯一の例っていう程度の認識しかなかった….
数物は難しいのう


@phasetr とりあえず貴方様が何故「楕円型」を連呼するのか何となく分かった気がします


ちなみに, 楕円楕円と言い出したのは宇宙賢者だ.

2014年1月29日水曜日

Navier-Stokes, 今回もやはり駄目だった?

Navier-Stokes の話, やはり間違っていた?
例のナビエ-ストークス論文は普通に間違ってたっぽいですね(修正可能かはともかく) http://math.stackexchange.com/questions/634890/has-prof-otelbaev-shown-existence-of-strong-solutions-for-navier-stokes-equatio
monae さん, 解析専攻というわけではなかったと思う. こういう情報を探しているのか知人から入ってくるのか分からないが, そういう環境はやはり羨ましい.

2014年1月18日土曜日

書評または感想: 数学セミナー 2014年 01月号 グラフ理論の新展開

数学セミナーを定期購読することにしたのだが, 時間が取れずにようやく 2014/1 月号を読んだ方の市民だった.
せっかくなので感想をまとめていきたい.
まず冒頭, 時枝正さんの「無理な数のこしらえかた」が恐しく面白かった. 素数定理, \(\pi(x) - \int_0^x \frac{d\xi}{\log \xi}\) は \(x \to \infty\) で無限回符号を変えることを 1914 に Littlewood が示したらしいのだが, その証明が面白い. 次の 2 ステップで証明しているそうなのだ.
  1. Riemann 予想を偽としてその仮定から結果を導く.
  2. Riemann 予想を真としてその仮定から結果を導く.
結果として Riemann 予想の真偽に関係なく結果を導いているという. これと \(\sqrt{2}^{\sqrt{2}}\) の無理性証明を比較してうんぬん, とやっていて面白いから是非読むべき. ここからさらに零知識証明と暗号理論への応用の話題になる.
今回の特集はグラフ理論だ. 4 色問題が有名なアレだ. ネットワークの問題や, 最近だと Nobel 経済学賞になった Gale-Shapley のマッチング理論などの話題もある. 東大教養の垣村尚徳さんの記事によれば理論計算機科学, トポロジー, 数学基礎論への影響もあるらしい. トポロジーと言えば, 情報技術者とかその辺の資格試験にもネットワークのトポロジーという話題は出てくる. 私の近いところだと, 作用素環でもグラフから作る作用素環という話題がある. 研究していた先輩もいたし, 慶應の勝良健史 さんもやっていたはずだ. (今やっているかは知らない. )
国立情報学研究所の小関健太さんの記事によると, 4 色問題のバリエーションも色々あって, 特に 3 色問題というのもあったり, 最近弱 3-flow 予想というのが解決されたというニュースがある. Thomassen の話題がちょろっと紹介されているが, 非常にスマートな証明を与える優れた数学者とのこと. 格好いい. 数学セミナーの執筆者の所属に「国立情報学研究所」が出てくるあたり, グラフ理論の展開の広さを伺わせるようで面白い.
琉球大の徳重典英さんの【セメレディとその周辺】という記事, 数学者のエピソード系記事とも言えるのでそれだけで特記する価値がある. Szemeredi は 2012 年に Abel 賞を取ったとのことだがそんな有名人も知らない無知無学無教養な市民だった.
東工大の松井知己さんの【安定マッチング問題の応用 嘘をつく人々】にはこう色々と興味がある. Nobel 経済学賞関連の 1962 年の Gale-Shapley 論文の安定結婚問題とかその辺の話. ところで次のような記述があった.
1962 年の Gale-Shapley 論文では, この話題が数学教育において優れた教材であると述べられている点でしょう. 複雑な数式や前提知識が不要なのに, 数学的に奥深い構造を持ち, 現実にも応用を持つ安定結婚問題は, 高校生にも初見から興味を持ってもらえそうです.
この観点はなかった. 今度きちんと勉強しよう. 何か良い本ないだろうか. この記事, 参考文献などは 2013/4 の安田さんの記事を参照しているが, 手元にないしすぐ見られる環境でもないので困る. 日本評論社に参考文献一覧みたいなのないだろうか. あと, (PDF で) 数学セミナーの電子書籍ないだろうか. 個人所有で本のままだと置くスペースとか困る. 日本評論社の方は是非検討されたい. 過去のものも是非電子書籍化してほしい.
Gale-Shapley はいわば【男性の選好を優先するアルゴリズム】を作ることで安定マッチングの存在とその具体的構成までやった. Gale-Shapley の問題では男女は対称なので, 【女性の選好を優先するアルゴリズム】と言ってもいい. ここで問題なのは, 男女が正しく自分の選好を申告することが肝要だった. 3 節の【安定マッチングの構造】で議論されている. ここでは「嘘の選好リスト」を出されたときの問題があり, Nobel 賞になったときに少し勉強したところによるとこれが現実への応用上とても大切になるという話が展開される. 何で嘘をつくかというと簡単で, 例えば受験で「本当の第一志望は東大だがそれは色々と無理なので第一志望は早稲田にした」みたいなケースを想定すればいい. 真の選好を出さない状況は色々あり, その中で安定マッチングを作るのが難しくかつ価値がある. 話のネタとしても面白いだろうから, やはりグラフ理論というかマッチングの話はきちんと勉強したい感ある.
名大の伊藤由佳理さんの【第 16 回 ヨーロッパ女性数学会総会に参加して】は相転移プロダクションの活動的に非常に興味がある. 紋切り型に言えば「女性の就学・研究支援」のようなものだ. 詳しくは記事を参照されたいが, 来年の韓国での ICM の直前に 国際女性数学者会議 (ICWM) もあるとのこと. 「この記事を読まれた方は, ぜひ周りにいらっしゃる女性数学や女子学生にお知らせください」とのことなので, 私も宣伝協力していきたい.
名大の小澤正直先生の【量子測定の数理と不確定性原理 (10) 不確定性原理と相補性原理】, 不勉強なので知らなかったのだがびっくりした記述があった.
一般に二つの物理量の値に関する「同時測定可能性」と「同時定義可能性」, および二つの物理量の作用素としての「可換性」の三者の概念が互いに同値だと考えられてきたからである. ところが, 新しい不確定性関係の発見によって, 非可換な物理量の同時測定可能性が明らかにされ, 「二つの物理量の値の同時測定可能性」と「二つの物理量の作用素としての可換性」が同値な概念ではないことが明らかにされた.
ちょっと認識を改めないといけない. 勉強しないとまずそう. 量子集合論とか出てくるそうなのでつらい.
明治の阿原一志さんの【サーストンの描いた 8 つの宇宙の絵】冒頭部, とてもよい.
2010 年 3 月 5 日パリ, 三宅一生氏が立ち上げた世界的ブランドである ISSEY MIYAKE の 2010 年秋冬コレクションが, 当時クリエイティブディレクターだった藤原大さんの手によって華やかに行われました. コレクションのタイトルは「ポアンカレ・オデッセイ (Poincare Odyssey)」. ポアンカレ予想とサーストンの 8 つの幾何学 (幾何化予想) をテーマとしてこのコレクションはファッションと高等数学の幸福な出会いとして, 欧米でとても評判になりました. このことについて, 本誌 2010 年 6 月号「パリコレで数学を」と 2010 年 8 月号「宇宙の形と質感をめぐる冒険」で紹介されましたので, ご存知のかたも多いと思います.
JosephYoiko さんに教えてもらったアレか. こういうの, 私も私なりのやり方でやっていきたい. あとこの過去記事読みたい.
この記事によると, ジオメトリーセンターによって作られた「not Knot」とかいうビデオが Youtube で公開されているとのこと. あとでじっくり見たい.
  1. http://www.youtube.com/watch?v=AGLPbSMxSUM
  2. http://www.youtube.com/watch?v=MKwAS5omW\_w
インタビューの【実験を通して, 現象を数理的に考える】, 明治の矢崎成俊さんの話, 超面白い. 関西すうがく徒のつどいでも【偏微分方程式の逆問題–拡散方程式の数学と物理と工学】で関連する話題に触れたが, やはりこの辺結構好き. この記事では移動境界問題に触れている. ラーメンの汁の表面に浮いている油の玉がくっついて境界の形が変わる, というような現象を扱うのが移動境界問題だ. 以前【自分でつくる現象数理】という連載があったようだが, これ読みたい. 何かムック的なアレでまとまっていたりするのだろうか. 著作権も考えつつ出版社的にきちんとした形にまとめようとすると大変なのだろうというのは簡単に想像がつくが, 不完全な形でもいいから何かほしい.
【雪氷数学】というキーワードが出てきた. 是非頑張ってほしい. 話聞きたい.
本連載のインタビューの模様を, 2014 年 1 月より順次 web 配信する予定です. 放映日時など, 詳しくは『数学セミナー』web ページ (http://www.nippyo.co.jp/blog\_susemi) にあります『詳細情報』をご覧ください.
こういう取り組みすごい良い. 私もこの活動, 注視していこう.
山形大の脇克志さんの【数の拡大:直線の中の 3 次元空間】, SF チックで面白い. こういう発想大事にしたいし, 自分でもきちんとやっていきたい. あまりきちんと考えたことなかったが, \(\mathbb{Q}\) 係数のベクトル空間, もっとちゃんと考えたら楽しそう.
梅田享先生の【森毅の主題による変奏曲】, これが滅茶苦茶面白い. 全文引用したいレベル. これだけでも買う価値があるレベル. 位相と実関数論, コンパクト性を基軸にした位相空間論とかないの, という無茶ぶりとか書きはじめるときりがない. 全国紙上数学談話会 のリンクのメモだけしておこう.
数セミメディアガイドのページ, 何か告知にも使えるのだろうか. 今後利用を検討したい.

2014年1月12日日曜日

Navier-Stokes 解決? 続報を期待

ミレニアム問題にもなっている Navier-Stokes 方程式問題の解決がアナウンスされたようだ.
カザフスタンの学者 数学における七大難問の一つを解明 http://japanese.ruvr.ru/2014\_01\_11/127091047/
この辺の有名問題の常として, 本当に解決されたかは今のところ不明だ. とりあえずこれについては解決それ自体よりも, これが解決されると何が嬉しいのかとかそういうことが知りたい. これの証明に使われた技術が凄い役に立つとかそういうロマンのある話が聞きたい.
FN365 さんが東北大の小園英雄先生による 2010 年時点での解説 PDF を紹介していた.
Navier-Stokes 方程式に関するクレイ研究所のミレニアム問題の解説 2010 年 (東北大学小薗先生) http://www.fluid.sci.waseda.ac.jp/crest/KozonoSeminar.pdf
URL が早稲田になっているが, 早稲田は流体力学の数理のスタッフが充実していて世界的な拠点を形成していると聞いている. 上記 PDF からいくつか引用しておこう. 興味がある向きは詳細を直接 PDF を参照されたい.
ミレニアム問題. 任意に与えられた初期値 \(a\) に対して, (N-S) は時間大域的な一意正則な解 \(\{u, p\}\) を有するか?
P2 最後に記述があるが, 弱解は Leray が示していたらしい.
弱解の一意性と正則性が成り立つことを保証するものとして次の定理がある. (中略) 関数空間 (2.3) はセリンのクラスと呼ばれている([22]). 残念ながら, (2.3) は弱解のクラス (2.2) よりは狭い.
弱解も一応一意性と正則性が示せているらしい. 弱解からのアプローチ, 問題は弱解が (2.3) に本当に入るかどうか, というところになっているのか.
(N-S) に限らず, 一般に非線形偏微分方程式が与えられたとき, その方程式に固有のスケール不変な関数空間で解を考察することの重要性が経験的に知られている. これを藤田・加藤の原理という.
このような \(X\) として,藤田–加藤 [8] は \(X = \dot{H}^{1/2}\) ととり, \(a \in \dot{H}^{1/2}\) であれば (N-S) に時間局所的な強解が一意的に存在することを示した. (中略) 藤田, 加藤両博士のナヴィエーストークス方程式に関する造詣の深さを物語っている. 実際, この論文 [8] が 20 世紀後半から今日に至るまでに非線形偏微分方程式の研究に与えた影響は計り知れない. ここではまず, その後に改良された以下の定理を紹介しておこう.
藤田・加藤, 凄まじい. 加藤先生は我らが加藤敏夫先生だろう. 物理出身の人らしい発想とも言える.
従って, 工学などの現場の要求に応えるためには, 境界のある領域の内部または外部でナヴィエーストークス方程式を考察することを余儀なくされる. たとえば, 多重連結領域における非斉次境界値条件下の定常ナヴィエーストークス方程式の可解性は未解決問題である. 領域の位相幾何的な条件と方程式の可解性の問題は, 非線形偏微分方程式の主要な研究テーマであるが, この方面においても課題が山積していると思われる. このことについては, 次回に述べることができれば幸いである.
領域の位相幾何的特徴とその上の方程式や作用素の特性というのは確かに面白く, 私も興味がある. 私が近いところに関していうなら, Aharonov-Bohm 関係の話がある.

2013年9月28日土曜日

RIMS の岡本久先生による『流体力学と数学』

RIMS の岡本久先生による『流体力学と数学』という文章を読んだ. 岡本先生自身にもお会いしたことはなく色々な意味であまり詳しくはないが, 専門は非圧縮性流体とのこと.
連続体であるという仮定のもとに, 温度, 質量密度, 圧力, 速度, といったマクロな量が定義可能になる. そして, それらを支配する微分方程式が導かれる. こうした事実に最初に気づいたのはオイラーであろう. ニュートンは流体力学を粒子の力学に還元できると信じきっており, 連続体を使うことはなかった. かれのプリンキピアの Book II には流体現象の様々な理論が展開されているが, ほとんどすべてが間違いである. 「流体の運動を極微の粒子の運動に厳密な意味で帰着させるということは諦めて, 連続体であるという近似から出発する」と, いわゆる流体力学になる. 言い換えれば, 本稿では「粒子の力学原理主義」は放棄するのである. ニュートンが考えたように, 基本粒子に関する最小限の仮定のみから出発してすべての流れ現象を演繹する, というプログラムは数学者には魅力的であろうし, 未完であるわけだから数学者にはひとつの重要な挑戦である. 筆者はこれを重々承知しているけれども, 流体力学の具体的な問題を解くためには, これはあまり生産的ではないので, 本稿では関知しない. 逆に言えば, 連続体の仮定はそれだけで十分に実り多いものであり, 未解決問題は多いのである.
ニュートンが連続体関連のことを議論していたというのはそうだろうが, プリンキピアで議論してしかもほぼ全て間違いというのは知らなかった. また, 後半部の「基本粒子に関する最小限の仮定のみから出発してすべての流れ現象を演繹する」は, 今でいうなら東大数理の舟木先生あたりがやっている流体力学極限のあたりだろうと思う.
さて,ナヴィエの理論はどのようなものであるのか? ナヴィエはニュートンやラプラスと同じく,最小単位の粒子を多数(しかし離散的に)考える. そしてその相互作用を適当に仮定してナヴィエ-ストークス方程式を導く. 分子動力学原理主義者にはたまらない論文であろうが,読んでみても何も納得できないというのが筆者の感想である. 実際,彼の論法だと,液体も固体も区別が付きそうにない. 固体の弾性体に対するナヴィエの理論は問題なかろうが, 全く同じ論法で流れの基礎方程式を出したとしても,結果が正しいだけであって,そのプロセスは正当化できない.
4.ストークス
ナヴィエの論文を読んだ後でストークスを読むと爽やかな気分になるのは筆者だけではあるまい. ストークスは何を仮定し,何を導くべきかがわかっている.ナヴィエと違って, 連続体を使うことに何のためらいもないから,論旨は極めて明快である. こうして,非圧縮粘性流体の基礎方程式が由緒あるものとして定まったのが 1849 年である. というふうに考えるのは現代人である. 実際にはナヴィエ-ストークス方程式がどの程度正確に物理現象を再現できるのか,疑問に思う人は多かった. ラムの流体力学の教科書である Hydrodynamics はこの道の定番ということになっているが, この教科書の初版(1879 年)では,ナヴィエ-ストークス方程式に全幅の信頼を置いているようには見えない. 実験と比較できるようなデータがまだ出ていなかったのであろう. 流れの安定性に関するレイノルズの有名な実験の報告が公表されたのは 1883 年である.
このへんの経緯, 知らなかった.
ストークスは物理学者であるとみなされており,それはそれで間違いではないのだが, 数学的な才能もふんだんに持っていた(文献1). 名だたる数学者に先駆けて関数列の一様収束の概念にほぼ到達していたのは有名な話であるし, 水面波に 120度の角がおき得ることを示した論文など,実にエレガントである.
Stokes, ベクトル解析というか多様体論の Stokes の定理の Stokes だろうか. そんなことまでやっていたのか感ある.

最後, 物理と数学の交錯するところに関する記述もある. あまり引用し過ぎると今度は全文引用という酷いことになるのでやめておくが, 興味がある向きは是非読んでみてほしい.

2013年8月16日金曜日

数学徒と物理アレルギー

チャーハニスト鈴木による次のような呟きがあった.
PDE の話が書かれた pdf を読んでいたのだけど, どうしても物理っぽい話が出てきてしまって, その辺りから急激に興味が薄れて読むのをやめてしまう. 物理アレルギーが今日も勉強をジャマしている.
数学の人, そもそも物理が嫌いという場合があるのだが, そういう人にどう話をすればいいかというのはいつも気になっている. 私の場合, やっていることの数学的意義の存在がかなり微妙なところにあり, 物理的なモチベーションを抜いたらほぼ何の意味もない話になったり, さらに各種定義の意味が全く分からなくなるということもあってかなり困ることがある.

あと, 物理絡みの話に興味はあるが読んでいる文献で仮定されている素養とのギャップがあってつらい, という状況もあるかと思うが, そういう場合はどう処理するのだろうか. 私は平衡統計・場の理論関連の話がメインだが, モデルが被っているために非平衡の人も参入していたり, 非平衡の論文が参照されていて, 実際に困ることがある. 今まで触った範囲では非平衡といえどもあまり大きく意識を変えずに済んではいるが, はじめは何を言っているか分からずつらかったことなどを想起した.

この辺も何か考えよう.

2013年3月7日木曜日

数学科および物理学科での数学教育についての雑感:数学者 Hans Freudenthal (1905 - 1990) の紹介文を見て


Twitter を色々見ていたらこんなの を見つけた.
@yujitach やはり「線形」には違和感が(違う)。 ちなみにFreudenthalは1990年に普段散歩してる公園のベンチで死んでいるのを子どもに発見されたそうです。 http://www.fisme.science.uu.nl/en/freudenthal.html
Freudenthal, 名前だけは聞いたことがあるので Wikipedia で少し調べてみたが何をやっていたのか正直なところよく分からなかった. 20 世紀前半の仕事だというのに今一つよく分からないというの, 何となく衝撃的だったが, 例えば量子力学も一応成立は 1925 年と 20 世紀前半の話なので, 20 世紀前半の話が既に破滅的に難しいというのを再認識した. 最近『数学まなびはじめ』を読んで時代的に数学者に落ちる戦争の影を見たので, 上記 URL にはその点からも感慨深い文がある.
面白かったのはむしろ教育に関わる部分だ.
As a teacher he acquired international fame and significance as the founder of realistic mathematics education, which is based on problems taken from day-to-day experiences rather than on abstract math rules. Single-handedly Freudenthal saved Dutch education from the American teaching method of New Math, which was introduced in many countries from 1960 onwards. This formal, logic-based method turned out to be unsuitable for most students.
Freudenthal preferred to send his students on a tour of discovery. His motto was that you learn mathematics best by re-inventing it. His students were not given abstract bare problems to do but well chosen practical problems from daily life, and in solving these they gradually developed mathematical understanding. In addition, Freudenthal thought the recognizability of the problems would lead to the students automatically becoming more interested in mathematics.
独力でアメリカの New Math 運動からオランダの教育を救ったという猛烈に格好いい話に目が向く. 何の本だったか忘れたが, 小平先生は娘さんが New Math に巻き込まれて酷い目にあったとかで批判的な文章を書かれていた覚えがある.
学部は物理学科であって正規の数学教育 (?) を受けたのは修士からであり, 修士ではある程度具体的な問題を念頭に置いて勉強していたので, 学部レベルの数学科の数学についてはよく分からないこともあるが, 物理学科で数学を学ぶときの苦労ぐらいは書いておきたい.
物理学科はあくまで物理をやるところなので, カリキュラムに組み込まれた数学も物理のための数学に集中する. (歴史的な経緯もあり私の大学の物理学科では実数論, 集合論, 位相空間が必修だったが, とりあえずこれは抜かす.) 物理のための数学とはいうが, 正直, 具体的にどういう数学をどこでどう使うという話はあまりされず, 結構雑だった気がする. 私が単純に聞き落としていた, 聞いてはいたが全く実感が持てなかった, 本当に話されていなかった, 物理で出てくる数学的問題を解決するための数学なのでその元の数学の話が分かっていないといけないためそもそも物理・数学ともにある程度まで進まないと話すのは不可能, などいくつか原因はあろうが, 今になって考えるとかなりつらい思いをした学生もいたのではないかと思う. 私に関していうなら, 数学を数学として楽しめたという理由以上に毎日訳が分からず目の前の勉強を必死になってやっていて, そんなことを考える余裕もなかった, というのが実情という感じがある.
通じづらいと思うので「物理で出てくる数学的問題を解決するための数学~」という部分について簡単に触れておこう. いくらでもあるのだが, 一つは私の専門でもある線型代数だ. 大雑把過ぎるので, さらに具体的なものとして線型空間論を挙げておこう. 少なくとも初等物理では線型の微分方程式がたくさん出てくる. 「線型の」と言っているくらいなのだから当然線型代数が関係しているのだが, これに気付いたのは学部 3 年くらいだった気がする. 量子力学でも重要なので講義でも多少触れたのではないかと思うが, 全く記憶にない. 量子力学は学部 3 年のとき本当にやばいくらいに何も分からず, 学部 4 年で新井先生の本で数学的に復習しつつ整理してやり直したという感じであって, 講義で何かを身に付けたという覚えすらない.
話がずれたが, 線型代数だ. 力学の講義でも出てくる方程式 (運動方程式) は大体線型で重ね合わせが成り立つことを使っているので, その時点で死ぬ程線型代数を使っているのだが, これも気付いたのは大分あとのはずだ. 無論線型代数の講義で学んだ記憶はない. ちなみに多体系の安定性みたいな話をするときにポテンシャルを Taylor 展開して Jacobian の行列の正値性に帰着させる話も線型代数だが, これも学部 1 年当時に本当に線型代数だと認識できていた自信はない.
話がずれっぱなしなのでさらに戻して「物理で出てくる数学的問題を解決するための数学~」のところだ. 上記の例では (偏) 微分方程式の線型性という話をしている. 微分方程式自体あまり馴染みがないので, 微分方程式と言われてもあまりピンと来ない. 運動方程式は学部 1 年の力学でも嫌でも出てくるのでまだいいが, 偏微分方程式となるとつらい. 物理で偏微分方程式を使うというと当然色々あるが, 電磁気学を例に, と言ってもその電磁気 (の数学的取り扱い) が分からない. 電磁気となるとベクトル解析も必要だが, こうやって線型代数の必要性を感じるために他の数学, さらには物理 (の数学的取り扱い) まで知っていないといけない (ご利益が感じられない) ので, 結局学び始めの段階で具体的な応用の話がしづらくて困る, という話がしたかった.
他の大学は知らないが, 私の大学では学部 1 年次に物理学演習だか何か (講義名を忘れた) という名の数学の演習の講義が必修であり, そこで通年の (教養の) 線型代数や微分積分の講義とは別に必要な数学をトピックごとにやっていた. そこでも実際の応用はあまり話された覚えはない. ただ「とにかく使うことだけははっきりしているから, 泣こうが喚こうがやれ」という雰囲気はあった覚えがある.
色々書いていたら何が書きたかったのか分からなくなってきたのだが, 数学を学ぶことに具体的なモチベーションがあるはずの物理学科ですら, 「必要だからやりなさい」という感じで学習段階であまり具体的な応用の仕方を伝えられることはなく, 結構つらかったという感じのことが言いたかった. Twitter で言ったのだかブログにも書いたのか忘れたが, 物理ですら道具とする工学部だともっとつらいのだろうな, と思っている.
そして更に元に戻ると, 学部の数学科ではどういう問題意識で進めていくのかよく分からないという話になる. Freudenthal は抽象的な問題よりも日々出くわす実際的な問題を出題し, それを解くことで数学に慣れ親しませたとあるが, これはどういうことなのだろう. この辺, 数学者は数学的自然の中に生きている感があって何となく羨しく感じた.
もちろん今となっては「日々出くわす実際的な問題」みたいな感じはある程度分かる気はするのだが, 必ずしも大学の数学に親しんでいない, 特に学部 1 年生をどう励ましていくのかというところに興味がある. ある程度慣れた学部 3 年とか, 研究を目指す修士の学生にそういう感じで学ばせていくところにはイメージが湧くのだが. 数学科の修士を出たにも関わらず, (学部の) 数学科は不思議なところだという感覚がいまだにある.
あとこれも前から思っているのだが, 微積分やベクトル解析に関し, 純粋な数学の人の物理抜きの理解の仕方というのがとても気になる. ベクトル解析だと多様体上の解析というか, Stokes の定理とそこからの展開というイメージの仕方はあると思うが, 私は 2-3 次元でのベクトル解析は物理というか電磁気のイメージなしには最早理解できない. 理解できないというか, 真っ先に電磁気的なイメージが広がってしまうので, 何というか「純粋な数学」として感知できない. こういうの, 数学の人はどう思っているのだろう.
それはそうと, 3/16-17 の関西すうがく徒のつどいでは正にこの辺の「具体的な問題を通した数学学習」というイメージで, 色々な (反) 例を紹介する講演をする. それで Freudenthal の話が気になった次第であった.
ついでにいえば, 数学科に限らず, 物理でも結構「具体的な数学」というのが結構穴になっている感じがあるので, その間隙を縫うことがしたいなとはずっと思っている. ニコニコでの動画での目的の一つはそこにあるのだが, 数学的に極端過ぎるので, もう少しクッションになれるのを作りたい.

2013年1月29日火曜日

大栗さんの講演「科学者の矜持」での疑問について Twitter で大栗さんに質問して回答を頂いた

昨日大栗さんの講演「科学者の矜持」が Youtube に上がっていたので見たで次のように書いたが, Twitter に大栗さんがいるので,ちょっと聞いてみたら教えて頂いたのでこちらにも転記しておこう.疑問自体は次の通りだ.
まず 26 分くらいで「超弦理論の余計な 6 次元は素粒子模型の構造の起源. 6 次元空間は複雑で距離さえ測れない.数学者でも無理」という発言があった. これで何を言っているのかが気になる. 
「数学者でも無理」ということは物理的な測定法という話ではないと思うのだが, そうなると何の話をしているのだろう. 6 次元というのは複素 3 次元の Calabi-Yau 多様体の話をしているのだと思っているのだが, これは Kahler (a にはウムラウトがつく) なので一応は計量がある. 現象を説明するのに適切な計量の存在または選択みたいな問題かと思ったが,その辺は良く分からない.
大栗さんからは次のようなお返事を頂いた.
@phasetr コンパクトなカラビ‐ヤウ多様対については、 計量テンソルが存在することは証明されているが、 その具体的な形がわかっていないということを噛み砕いて述べたものです。
Calabi-Yau 多様体はWikipedia をご覧頂きたい. どうでもいいといえばどうでもいいが,「しかし、他にも同値ではない多くの同様な定義がある」という記述にびっくりした. 同値な定義ならもちろん色々あるのは普通だが,非同値なのを挙げるというのも凄い. 「コンパクトなケーラー多様体が単連結であれば、上記の弱い定義と強い定義は一致する」ということなので, それでもいいと思う気持は分からないでもないが.

それはそれとして,いくつか説明を追記しておく. Calabi-Yau の定義は省略するが,まずコンパクトと計量テンソルを説明する.

コンパクトというのは「有界閉集合」のことだ. 有界というのは「無限には大きくない」または「必ず有限な大きさの球体に含まれる」という意味だ. Calabi-Yau が超弦理論で出てくる文脈では「小さい」と言っていいのかもしれないが, コンパクトだからといって「小さい」と言っていいわけではない. 「無限には大きくない」と言っておけば(今の文脈で)間違いはない. ちなみにここ「有界閉集合」といったのは Riemann 幾何の基本定理,Hopf-Rinow の定理を前提にしている. 本当は多様体の連結性を仮定しなければいけないはずだが,細かくなりすぎるのでやめておこう.

計量テンソルというのは多様体の曲がり具合を表す. 講演でも話があったし,一般相対論なりなんなりで「時空が曲がっている」という話があるが, この曲がり具合を指定するのが計量テンソルになる.

ここで大栗さんから「存在は証明されている」というコメントがついているが, その存在証明をしたのが Calabi-Yau の名前にある Yau だ. この業績で Fields 賞を受賞している. その元の問題であるCalabi 予想についてはここを参考にしてほしい. 大栗さんのコメントは,懸案だった大事な計量の存在自体は示されたが(一般に)具体的にどんな形かが分かっていないということだろう. 具体的な Calabi-Yau 多様体に対しては分かっているものはあるはずだが, 物理で出てくる全ての Calabi-Yau に対して分かっているというわけではないのだろう.

【追記】 n 次方程式で例えるとこうなる:「代数学の基本定理から n 次方程式に n 個の解があることは分かっているが, 具体的に解の値が何かというのはこの定理だけでは分からない」. こういう感じで適切な曲がり具合が何かあることは分かっているが, 具体的な曲がり具合が分かっていない.

ちなみに Yau の証明そのままかは知らないのだが,予想の証明自体は下記の本に書いてあると思う. 詳しくないので間違っているかもしれないが,それはご容赦願いたい.



また,この辺の問題は Einstein-Kahler (Kahler の a にはウムラウトがつく)計量の問題として今でもまだ色々な議論があるようだ. 中島啓さんの次の本にある程度まとまっている(と思う).



そういえば,中島啓さんも Twitter にいる. 最近は上記の本で議論されているような問題からは離れて代数的な表現論関連の話を研究されているようだが, 詳しくは知らない. 興味がある向きは詳しい人は Twitter 上にも色々いるので,そういった方々を掴まえて聞いて頂きたい.