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2014年1月25日土曜日

ぞみさんのツイートから: 量子力学と作用素論, 特にスペクトル理論と自己共役性

ぞみさんのツイートを見たので.
ラプラシアン作用は座標に依存しないはずなのに, シュレーディンガー方程式を解くと 2p 軌道で軸が出てくる. これは求解過程で (特に変数分離?) 適当な回転変換を施しているということかな.
@zomi1202 どんなポテンシャルを仮定しているかによりますが, ハミルトニアンの対称性が解にも反映されます. http://www.amazon.co.jp/gp/product/4535784663/ref=as\_li\_qf\_sp\_asin\_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4535784663&linkCode=as2&tag=phasetr-22 が参考になるでしょう. 2/14 のセミナー自体ではあまり触れる余裕はなさそうですが, 何かあれば直接でも聞いて下さい
@phasetr 突然解に対称性が消えて驚いてしまったので, どこで置き忘れてしまったのか探してみます. ありがとうございます.
紹介した本はこれ.
追加の疑問があった. Twitter だと細切れになるので, ブログにまとめておこう.
ハミルトニアンって固有方程式解いてみたら固有空間同士が直交してる (よね?) けど, 何かユニタリーとかエルミートとか内積と相性の良い性質でもあるの?
@zomi1202 演算子は全部エルミート (じゃないと観測値で実数以外がでる)
@dream_taro それって固有値が実数だからということ? 関数空間の内積の定義である, 積分から直接示せるのかな?
@zomi1202 量子力学の公理で固有値が観測される, っていうのがあるので固有値実数じゃないとまずいよねということ.
どこを話の基点にするかという話がまずある. やりはじめると大変なことになるので, 適当に単純化したうえでうるさいことも書いていく.
ハミルトニアンって固有方程式解いてみたら固有空間同士が直交してる (よね?) けど, 何かユニタリーとかエルミートとか内積と相性の良い性質でもあるの?
今度の 2/14 Lieb-Loss の Analysis セミナーでも少し話すが, うるさいことをいうと固有値があるとは限らない. 例えば全空間 \(\mathbb{R}^n\) で考えたときの Laplacian は固有値がない. 固有値が複数あるときにそれぞれの固有関数自体は直交している. (固有空間が直交とはあまり言わない. ) Hamiltonian の Hermite 性についても面倒な話がある.
@zomi1202 演算子は全部エルミート (じゃないと観測値で実数以外がでる)
@dream_taro それって固有値が実数だからということ? 関数空間の内積の定義である, 積分から直接示せるのかな?
@zomi1202 量子力学の公理で固有値が観測される, っていうのがあるので固有値実数じゃないとまずいよねということ.
数学的には線型作用素には Hermite 性, 対称性, 自己共役性という分類がある. 線型代数だと対称作用素は「実係数のときの Hermite に対応する性質」という感じの定義だが, ここではそういう使い方はしていないことに注意してほしい. ちなみに関数解析 (作用素論) でも文献によって微妙に定義が変わる場合がある. 私の使い方は新井先生の本の定義を使っている.
その上で, 対称作用素ではなく自己共役作用素である必要がある. 固有値という言い方も不正確で, 実際には「スペクトル」という概念の中で話す. 固有値は固有値で当然大事なのだが, 「固有値に対応する固有関数で表わされる状態は安定」という物理的な解釈がある. 不安定な状態はともかく, その Hamiltonian に従う散乱状態をどう見るかというところで, 固有値以外のスペクトルに属する (言い方不正確) 状態を考える必要があり, その部分まで考えたいので固有値を一般化したスペクトルという概念を準備する必要があるのだ. この辺, 量子力学まで突っ込んだ話は無理にせよ, 3 月の Lebesgue ・関数解析・作用素論セミナー (予定) で少しは触れたい. 次の本を参考にしてほしい.
あと, (閉) 対称作用素と自己共役作用素はスペクトルに決定的な違いがある. 閉対称作用素のスペクトルは次の 4 つのどれかになる. (証明は新井先生の『量子現象の数理』を見よう. )
  1. 上半平面全体.
  2. 下半平面全体.
  3. \(\mathbb{C}\) 全体.
  4. 実数の閉部分集合 (自己共役).
最後のはともかく, 上の 3 つが凄まじい.
@dream_taro それって固有値が実数だからということ? 関数空間の内積の定義である, 積分から直接示せるのかな?
これが数学的には微妙で, 積分から示せる範囲の話ではいいところ対称性までしか言えない. 自己共役まで示したいとき, 論文レベルの対応が必要になると思ってほしい. 既に分かっている作用素, 有名な作用素については上記の本にも証明がある. 結構大変だ.
この辺もきちんとやるととても面倒.
\(\int \phi \phi^* dV\) が収束することから無限遠方で \(\phi\) は 0 で, これと部分積分を使えばハミルトニアンがエルミートなのは示せそうだな.
積分が収束しても無限遠で \(\phi \to 0\) は言えない. \(x = n\) のところで幅 \(1 / n^4\) で高さ \(n\) を考えると, これは 2 乗可積分だが \(x = n\) のところではどんどん高さが高くなる. 私が学生時代, 先輩に指摘された例だ. 頑張って反例を作ろう.
Hamiltonian が「Hermite」であることをいうのは大体できる. 物理の本ではふつうそういう議論をしている. 数学的には死ぬ程面倒だが.
需要があるなら今度セミナーしよう.

2013年11月21日木曜日

場の量子論と解析数論: p進大好きbotからの質問に答える方の市民

我らが p 進大好き bot から質問を受けた方の市民だ. 私は Fock 空間上, 非相対論的場の量子論や量子統計をやっているので物理として相対論が絡む話はあまりよく知らないし, 数論方面もさっぱりなのだが, 多少知っていることはあるのでまとめてみた.
@phasetr なるほど. ボゾンとフェルミオンに対応する Fock 空間の有界作用素のスペクトルに強い離散性を課しているのは量子論からくる妥当な制約なのでしょうか? 固有値の整列性から総和的概念と相性がよくなって数論につながっているように見えるので少しその仮定の意味が気になりました.
まず強い離散性 (トレースクラスの仮定) だが, 物理的には不十分なことこの上ない. 「物理はともかく (今の数学の水準で) 数学的に面白い話ができるのはこの場合」という割り切りと思ってもいい. 物理としてスペクトルが離散的になるのは 2 つの場合がある.
  1. \(\mathbb{R}^d\) 上, 調和振動子などの特別な場合 (confined system).
  2. 有界領域上での Hamiltonian.
前者だが, 調和振動子など大事な系はあるものの物理としては本当に特殊な場合だ. 場の理論でも調和振動子が一番の基本だし, 調和振動子は決定的に重要な系ではあるけれども. 若山先生の非可換調和振動子など, 「調和振動子」は数学的に数論との関係がかなり深いようなので面白い. ただし, 物理的には散乱がないという決定的な欠点がある. すごく大雑把にいって, 散乱は Hamiltonian の連続スペクトルの部分に対応する. 非破壊検査など散乱を基礎にした応用はたくさんあるし, ミクロな系, 特に素粒子を実験で見るときは散乱で見るため, 散乱がないのは物理としては困ると言ってもいい.

ちなみに調和振動子のように (原点から) 距離が離れるとポテンシャルが大きくなる (ので粒子があまり遠くに行かない) 系を confined system と言う. 数学的な一般論として, 「Laplacian + 最高次が偶数の多項式ポテンシャルが入った Hamiltonian」のスペクトルは離散的になる. (新井先生の『量子現象の数理』にも証明がある. ) Confined system を「Hamiltonian のレゾルベントがコンパクト作用素になる」と定義している文献もある.



後者だが, 証明や条件を忘れたものの, 有限系ならそれなりに一般的に言えたはずだ. コンパクトな Riemann 多様体の Laplacian は離散的という一般論があるが, 大体そういう感じ. もちろん, 一般には Laplacian に適当な摂動を入れるので離散性が保たれるかは自明ではないが, 頑張るとそれなりに一般に言える. 量子統計や場の理論でも, いったん有界系でトレースを使いながら理論を作っておいて, 最後に物理として標準的な \(\mathbb{R}^d\) への極限 (熱力学的極限) を取る, ということをする.

後者についてはもう 1 つ決定的な事実がある. 前者とも関係するが, 一般に無限系の Hamiltonian には連続スペクトルがあるのでトレースは取れない. 物理だと平衡状態は \(\mathrm{Tr} (A e^{- \beta H}) / \mathrm{Tr} (e^{- \beta H})\) で定義するが, これは無限系では意味をもたない. つまり数理物理としては無限系の平衡状態を定義するところから始める必要があるが, これがなかなか大変だった. ここをきちんと議論するために Haag-Hugenholtz-Winninkの有名な仕事 が出たのであって, 量子統計の数理物理に対する冨田-竹崎理論の重要性が出てくる. 冨田-竹崎理論というか平衡状態周りでも 数論における相転移とかいう Bost-Connes の結果 があるので, それはそれで数論的にも大事なようだが, こちらは難しくて読めなかった. p 新大好き bot はセミナーで読んだらしいので, 興味がある向きは p 進大好き bot に聞こう.

もう一個.
@phasetr ついでに 4 章で \(L_S\) と \(Q_{S,+}\) に対する指数定理のようなものが示されているのも興味深く感じました. フレドホルム作用素 \(S\) に対して \(L_S\) や \(Q_{S,+}\) (そして \(d_S\)) に何らかの物理的意味付けがあるのでしょうか?
こちらについてはあまり知らない. \(L_S\) は (自由場の) 超対称的 Hamiltonian, \(Q_{S,+}\) は超対称荷 \(Q_S\) の分解ということくらいは知っているが, この辺の物理自体には詳しくない. 超対称荷自体何なのかあまりよく分かっていないが, 「荷」とつくのは大体保存量であって, 物理的には普通とても大事な量に対してその名前をつける. だから大事なのだろう, くらいにしか分からない. \(d_S\) については, Proposition 4.1-4.2 にあるように「ボソンを消してフェルミオンを作る」というそのままの意味があるが, これ以上の詳しいことは知らない. 超対称性はボソンとフェルミオンの対称性なので, 正に超対称性を司る作用素が \(d_S\) という話ではある. それが幾何学的にも大切な外微分になっているというのは確かに面白い.

これ とか これ とか これ とか これ とか, 量子力学のレベルでは超対称性と指数定理というのは大きなテーマになっている. その場の理論版としてこの辺の話があり, さらに数論的な要素すら持っていたという感じなのだと思っている. 量子力学での話からすれば多様体上で何か議論したいところだが, 無限次元多様体の議論をいきなりやるのはつらいので, まっすぐなところで下調べしよう, というのが新井先生のこの辺の研究の動機の 1 つでもある. 『Fock 空間と量子場 上』の 6 章のまとめのところにその辺の話が書いてある.



物理としてはむしろ, この辺の兼ね合いから超対称的な理論が数学として幾何学的な拘束を受ける (はずな) ので, 数学 (幾何学) 的に意味が明快なところから逆に物理を見つけていくときの指針として使うのだろう. とくに素粒子では数学的な制約からあるべき物理 (モデル) をしぼっていくというのはよくある. 例えば「理論は Lorenz 対称性を持たねばならない」とか「繰り込み可能でなければならない」とか「漸近的自由でなければならない」とか. 素粒子物理として数学的指針は決定的に重要らしいのだが, 数学的にはそこを逆に使って物理的な洞察から衝撃的な数学的関係を見つけてくるのが楽しいということで色々な交流があるという認識だ. ミラー対称性とか何とかそのあたりもそう.

知っているのは大体このくらい.